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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
3章 ストレンジャー・サークルとコロニーの悪意
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3-6 朝、それぞれの始まり

「あれ……もう朝……?」


窓から差し込む光と喧騒でミエリが目を覚ます、昨日のアトラクションで気を失ってしまったようで次に起きた時にはベッドの上だった。


「おはようございます、昨日は散々でしたね」


上体を起こしてぼーっとしているミエリに、ビルセティが相変わらず起伏のない口調で挨拶をする、一見するとメイド服のような格好をしているため使用人としての教養でもあるように見えるが、実際は別にそういった教育を受けている訳ではなかったようでただミエリの横に腕を遊ばせて立っているだけだった。


「おはよう……なにしてるのビルセティ?」


「はい、私たちの種族は基本的に「眠る」という行動をしないため夜の間はずっとミエリの寝顔を見ていました」


「……次からは許可とってね」


眠ることがない種族というのは仕方のないことだがそうだとしても自分の寝顔をずっと見られるのいうのも気持ちの良いことではないため、やんわりとミエリが釘を刺した。


「ん?あれ、ビルセティそんなチョーカーしてたっけ?」


見るとビルセティの首にチョーカーが取り付けてあった、ぱっと見では分からないほど細いシロモノで陽の落ちた街の中では気づけずにスルーしてたのだ。


「あ、これは……」


少し動揺したビルセティがそっとチョーカーを隠す、よく見ると腕にも同じようなものがついており、ミエリにはそれが何か発信機の類いだということが僅かに確認できるセンサーの明かりで分かった。


「あの少年に何かされたの?」


「いえ、そういうわけではありません、これは私の意思です」


「……本当に?何か交換条件を出されたとかじゃないの?」


「…………」


「話したくないなら話さなくてもいい、でもお願いだから黙って自分を危険に晒すのだけはやめてね」


「それをあんたが言いますか、黙って死ににいくようなリーダーはまず自分の身を考えてよね」


と二人の会話に突如別の声が割り込む、振り向くとシャラムが毛布に包まりながらこちら見ていた。


「シャラム……」


「別に私はビルセティのこと信頼しても疑ってもないけどさ、ミエリはあんたのことを信頼してるんだからもっと素直になってもいいと思うんだけどなぁ〜」


「……そうですか……そうですよね」


ビルセティがミエリの目を真剣にみる。


「ミエリ、今はまだ何も言えませんが必ず全てをお話しいたします、ですから今は私を信じてください」


「わたしはもうビルセティのことをずっと信頼してるよ、だから危険は冒さないって約束して」


そう言って小指だけを伸ばした手をビルセティに差し出す。


「……?これは……?」


「なんて言うのかな、約束の儀式ってやつ?小指同士を絡めてお互い誓い合うの、はいビルセティも」


ビルセティは恐る恐る小指を出しミエリの小指と絡めあう、そしてミエリが上下に軽く振りはじめた。


「はい、約束だよ、これでわたしもビルセティも黙って危ないことをしないって誓いあったんだよ」


「これが約束……」


少し不思議な顔をしたビルセティだったが離れた小指を見てクスッと笑った。


「なに笑ってるの」


そんなことを言うミエリも微笑んでおり、互いの顔を見て笑いあっている。


「よし!話も済んだことだし、早く準備してお出かけしよう!」


シャラムがベッドから飛び出し二人に抱きつく、いきなりのことに対応できない二人がそのまま体勢を崩して()()()()()()の騒ぎになった。


「おい、お前たちうるさいぞ」


「な、なんだ!?おい!朝から騒ぐんじゃねえ!」


両隣の部屋からイサオとアフタレアの声が響く、休日の朝のひとときは外の露店の客引きに負けない騒がしさと共に始まった。


「全く、ちょっと大物倒したからってはしゃぎ過ぎだっつーの」


宿屋の食堂で同じテーブルに座り和気藹々と朝食を楽しんでいる最中にアフタレアが呆れたようにこぼす。


ちなみにビルセティだけは椅子に座らずミエリの食事を摂っている姿を棒立ちのままジッと見つめていた。


「しかしまぁ、その大物を倒したのは昨日なのだろう?よくこれだけ騒げるな、私だったらまだ寝ているぞ」


エンロニゼも呆れたような、感心するようなどちらとも取れる発言をアフタレアに続けて言う。


「私はドラゴンなんだよ?確かにコロニーに帰ってきた時は疲れてフラフラだったけど、しっかり食べて寝たから完全回復だよ」


「俺は流石に疲れた……今日は一日部屋にいる、用があったら連絡し……おっとそうだ、ミエリ頼みがある」


「はい、頼みごとって?」


「ちょっと端末の専門職別のチャットを見て、ヒューマンの男で話題に上がってるポーターがいないかどうか調べてくれないか?」


「え?チャットって……そんなのあるの?」


「登録してる専門職特有の話をしたいヤツらなんてごまんといるからな、他の専門職に公開されてない専用のチャットコミュニティというものがそれぞれ存在するんだ、もちろん全体に公開されているギルドの総合コミュニティもあるぜ」


アフタレアの説明を聞いてミエリがイサオの指示通り端末を開きコミュニティのところをタッチすると、総合や区域別や専門職専用のチャットコミュニティがずらっと並んだページが表示された。


「うわ、SNSかネットの掲示板みたい」


「んでイサオは気になるポーターがいるから仲間内で話題の子なんじゃないかってのが知りてえんだと」


「そんなところだ、まあお前たちが詳しい話を知る必要はない、ただ面倒な奴が絡んできただけだからな」


「ふーん、確かに大した話じゃなさそうだな、アタシも今日は調べもんがあるから一人で行動させてもらうぜ」


「あんたが調べ物?想像つかないね、どんな内容よ」


「ん?そりゃ男をその気にさせるにはどんな下着がいいのかってリサーチに決まってんだろ」


「……聞いた私が馬鹿だった、さっさと目の前から消えてくれない?じゃないと絞め殺すよ」


「おいおい、ドラゴン如きがルナルドネスに力で勝てると思ってるのかぁ?」


「おい二人とも、馬鹿な喧嘩はやめろ」


「そうだ、お前らが本気でやり合ったら流石の俺でも止められん」


エンロニゼとイサオが二人の間に入り仲裁をする。


「うーん……」


そんな様子を首を傾げながらミエリが見ており、アフタレアの方を注視して小さく唸る。


「アタシを見てどうしたんだミエリ?」


「いやさ、アフタレアって体が大きくて確かにその……ちょっと太いけどそんなイサオさんより力があるように見えないんだよね、確かに大きな斧とか持ってはいたけど……そんなに力が強いの?」


「こいつらルナルドネスは凄まじい筋肉密度を誇るが、それを脂肪と分厚い皮膚で覆ってるからちょっと肉付きの良い女性くらいにしか見えないんだ、だが力は相当強いぞ、鎧を着ている奴も上から殴り殺せるらしい」


「えぇ……」


「まあ力じゃ大概の奴には勝てるみたいだね、昔野蛮で会話のできない種類のオークがルナルドネスの集団を襲ったみたいなんだけど、逆に蹂躙されて子種採取用に手足を切り落とされて保管されていたって話を聞いたことあるよ」


「アタシたちを蛮族みたいに言うな、ただ単に図体だけの身の程知らずをわからせたってだけの話だろ、友好的に接する連中だったらそんなことはしねえ、必要ならちゃんと金払ってからみんな搾り取ってるよ」


「恐ろしい……ずっと同じ部屋で寝ようねシャラム」


「もちろん、このトカゲが変なことしたら叩っ斬るから安心して」


「ビルセティよりよっぽど信頼されてねえな、まあいいやそれじゃ先に失礼するぜ、ごっそうさん」


アフタレアは大量の皿を重ねてそれを片手に持ち、そして立てかけていた斧を背負うと、さっさと席を立って宿の出入り口に向かった。


「エンロニゼはどうするの?暇ならわたしたちと一緒に来てもいいけど……」


「すまないが今日はギルドの訓練所で腕慣らしをしたいんだ、流石に蘇生して練習もなしに実戦では共に戦うお前たちも不安だろう?」


「そっか、じゃあ食事も済んだし出かけよっか」


「……相変わらずアフタレアもシャラムも食べるの早いね、わたしもあとはキニャルだけだから歩きながら食べるよ」


ミエリはそう言って空になったスープカップを置き、キニャルを手に立ち上がった。


「じゃあ二人とも、何かあったら連絡してね」


「おうわかってる、お前たちも気をつけてな」


「私はギルドにいるから気が向いたら顔を出してくれ」


イサオとエンロニゼの返事を聞くと手を振って三人が出ていく。


「そういえばお前の専門職はなんだ?蘇生院で他の連中は聞いているんだろう?」


「そうか、お前は勝手に出ていったから聞いていないのだな、私の専門職はドルイドだ」


「ドルイド……そうか……」


エンロニゼの専門職がドルイドだと知り、イサオがなんとも言えない表情で元気のない返事をする。


「そういう反応には慣れている、あの三人は何も知らないのか珍しい専門職としか言ってなかったが」


「いや、俺たちが昨日倒したグロブスタは昔マスターたちが倒したグロブスタの死骸を利用していたんだが、そのマスター連中が戦った化け物もマフマンの森の民がいなければ勝てなかったと拳斗さんが昔言っていた」


「マフマンの森の民、ドルイドのマスターか……しかしプロレスラーのマスターもリングネームではなくて本名で呼ぶとは、お前はプロレスラーのマスターと知り合いなのか?」


「まあそんなところだ、そんなわけで俺はドルイドという専門職には敬意を払っている、安心してくれ」


「別にドルイドだからといって石を投げられるようなことにはなっていない、何も気にするな、さてと私もそろそろ行くか」


「無理はするなよ」


「安心しろ、自分の管理くらいはできるさ」


エンロニゼは一息つくと立ち上がり、イサオに軽く挨拶すると宿を出ていった。


「さてと……まずは総合であの奇妙なポーターの情報が出てないか確認するか」


そう言ってイサオは端末を取り出しながら立ち上がり自分の部屋へと戻っていった。

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