2-17 蒼雷の狼
「『セレー』」
白いローブの少女の治癒魔法がミエリにかかり彼女の指の傷が綺麗に治る。
「う〜ん、確かに治癒魔法が機能してますね、間違いなく蘇生されてます」
「でしょ?だからナイフで傷創ってまで確かめる必要なかったって言ったじゃない」
訝しげな表情で指をしげしげと見るローブの少女に、ミエリが不機嫌な口調で言う。ナイフで指を切るのは流石に気分が悪かったようで、それがありありと態度に出ている。
「だったら尚のことなんで今蘇生したのか不思議すぎるんだが、普通自然に人が生き返るなんてありえないぞ」
「私たちはあなたのことなんてよく知らないんだから疑うのは当然でしょ、名前すら知らないのに」
そんなミエリにジェインズとフラブランが詰め寄る、流石に高身長な二人に圧をかけられているからか、ミエリが二人を見ながらおののく。
「うっ、言われてみればそうですね、私の名前はハスハマ ミエリって言います、ええっと……」
「そういや私たちも名乗ってなかったねー、私はフラブラン・チャイユーっていうよ、覚えといてね」
「ちなみに俺のフルネームはジェインズ・マクドフィアだ、まあそれはそれとしてこの現象はギルドに報告させてもらうぞ、少なくとも俺たちは始めて見たからな」
「え!?そ、それはちょっと……」
「何がちょっとだ、どう考えてもおかしいことが目の前で起きたんだから当然だろ」
「というかその反応は自分が蘇生した理由を知ってるでしょ、ちゃんと話してくれるなら内容によっては秘密にしてあげるけど?」
「…………」
ミエリは悩んだ、ある程度事情を把握しているイサオにすら『グリザイユの貴婦人』のことは話していないのだから。
(だけどギルドに報告されてもっと多くの人に根掘り葉掘り聞かれるよりはマシ、上手く大事なことを隠して話すしかない)
「……皆さんは、ここに来る人たちの中には死んだ直後に夢を見る人がいることは知ってますか?」
「……それを知ってるってことはお前もそうなんだな」
「意外な話をするねー、私たちは皆ここに来た時その夢を見てるよ」
「え゛ぇ!?そうなんですか!?」
「フラブランさんの言ってる通りです、だから私たちはイサオさんと交流しているんですよ?この話は夢を見てない人には何故か通じないので」
「で、その夢が今回のこれとどう関係ある?」
「夢」の話が出てくるとは思わなかったのか黙って聞いていた四人が口々に話しはじめる、パーティ全員が夢を見ているという予想外の展開にミエリは面食らった。
「そ、そうですか……では皆さんも「声」を聞いたんですね?」
「ああ、もちろんだ、何やら話が見えてきたぞ」
「どうせその声に面白がられて何かされたんでしょ?「声」を聞いた人の話をまとめても私たちを玩具みたいに扱ってる感じだし、特に気に入った玩具だから直してもらったって感じなんじゃないの?」
ズバリな推測を言われ、ミエリが一瞬言葉を失う。
「……皆さん、見かけによらず鋭いですね」
「見かけによらずは余計だっての」
「あなたも意外とズカズカ言うねー、友達出来ないよ?」
「ほっといてください、大体皆さんの推測通りです、もうわたしから言えることはないので後の判断はお任せします」
「……イサオから聞いてるなら知ってるだろうが、この「夢」の話はギルドどころかどこに話しても無視されてしまうんだ、俺たちから話すようなことはしない」
「こんな特異なケース、連中に話しても良いことなんて一つもないよ、身の安全を考えるなら黙っておくのが吉だと思うなー」
「そうですか……秘密にしてもらえるならすごくありがたいです」
「とりあえず口裏は合わせておく、イサオに話すかどうかはお前で判断しろ」
「事情は分かったから何か困ったことがあったら話を聞くよー、特にお金になる話なら絶対してね」
「それじゃ帰るぞ」
そう言ってジェインズとフラブランが定位置に戻り荷車を引き始める。
その荷車の後ろをついて行こうとした時、白ローブの少女がミエリに声をかけてきた。
「さ、先ほどは失礼しました……自己紹介まだでしたね、私はエルー・ミチュリアスと言います」
「俺は金剛 堂侍だ、よろしくな、疲れたならまた荷車に乗ってもいいぞ」
「いえ、遠慮しときます……」
そんな会話をしながら死体を載せた荷車は霧の中を抜けて帰路についた。
………………
「クソ!どこにもいやしねえ!本当に救援要請が入ってたのかぁ!?」
「もう帰ろうぜ、ここはやべえバケモンがうじゃうじゃいやがる、見つからないなら時間の無駄だ」
二つのパーティが撤退する中、沼地の別の地点では四人の男たちが躍起になって捜索している、その装備からミエリとぶつかり暴行を加えた悪漢たちだという事が伺えた。
「全く、コロニー内での当たり屋の次は追い剥ぎか、懲りない連中だな」
撤退を考えている悪漢のパーティに聞き覚えのある声が掛かる、鈴の鳴るような凛としたそれでいて艶のある声はミエリといざこざを起こした時に割り込んできたあの軍服の女の声だった、コロニー内で悪漢たちを打ちのめした時と同様の微笑を浮かべて男たちの前にいつのまにか立っていた。
「なっ!?て、てめえは!」
「お前たちは本当に救えないな、コロニーで少女を襲った時も彼女がよそ見をしているのを確認して前に出てきたのを私は見ていたぞ、あの手慣れた動きは常習犯だな」
「だからなんだ!この場所じゃ武器が使える、あの時みたいになると思うなよ!」
「痛めつけて身ぐるみ剥いでやる……散々可愛がってからスライムの餌だ!」
「可愛がってやる……か、それくらいの地獄は慣れたもんさ」
そう言いながら女が右手をポケットから抜く、外に表れた右手は獣のような、それとも悪魔のような、刺々しい甲殻と鉄線のような毛で覆われた禍々しい姿をしていた。
「ひ、ひぃ!?」
「な、なんだその手は!?」
「お前たちは言ったな『あの時みたいになるとは思うな』と、残念だがそれはこちらのセリフだ……こんなところに来るべきじゃなかったな」
女の右手を前に出すと激しい電気を帯びて蒼く輝いた。
「「「「う、うわぁぁぁぁぁ!!!」」」」
悪漢たちが恐れを感じて逃げ出すが進行方向を稲妻が遮る。
「もうお前たちを生かしておく理由はない……消えろ」
そう言って女が右手を掲げる。すると、天から蒼く光が右手を中心に広範囲に降り注ぎ、凄まじい爆裂音が沼地に鳴り響いた。
………………
その音と波動は撤退中のイサオたちのところまで伝わり、四人が光の降り注いだ方向を見る。
「なんだ?」
「くそっ、この波動……さっきの奴か!」
「やっぱり碌な奴じゃなかったね、結構距離あるはずなのにこの圧力……早く逃げよう」
シャラムの言葉に皆が首を縦に振る。
そんな中、ビルセティが音の鳴った方を見て不安そうな面持ちを浮かべる。
(この力どこかで……でも何故かはっきり思い出せない……)
「ビルセティ!早く行くぞ!」
「!?はい!」
アフタレアの声で我に帰ったビルセティが三人の後を追う。
………………
沼地全体に影響を与えた光の雨は近い距離にいたミエリたちのところにも余波が伝わってきた。
「な、なんだこの音と衝撃は!?」
「魔法とは違う、ヤバイ何かだよ!イサオの言ってたとおりこのダンジョンは今本当にヤバイかもしれない!」
「わわっ、すごい波動が!」
「エルー!俺にしがみつけ!」
ジェインズのパーティが波動の衝撃を受け体勢を崩して荷車や堂侍に寄りかかる、そんな中ミエリは尻餅をつきながらこの波動に何かを感じていた。
(なんだろう……この感じどこかで……)
「ミエリ!なにぼさっとしてるんだ!」
「とりあえずお前たちは荷車に乗れ!俺と堂侍で走らせる!」
ジェインズがそういうと堂侍がミエリとエルーを掴んで荷車に放り込み、フラブランが飛び乗る。
「いくぞ!」
その瞬間、荷車とそれを押し引くジェインズたちが猛烈なスピードを出して沼地を走り出す、しかしその激しい動きに反応してかスライムが地面から飛び出して襲い掛かってきた。
「フラブラン!」
「了解、『氷剣』《スタリミカ》!」
フラブランが呪文を唱えると杖から氷柱のようなものが飛び出しスライムに突き刺さったかと思うと一瞬で凍ってしまった。
「これが……魔法」
初めて見る魔法にミエリが感動している間にも荷車は猛スピードで沼地を駆け抜けて行った。
………………
「ふう、ちょっと加減を間違えてしまったな」
右手を軽く払いながら女が周りを見渡す、悪漢たちは立ったまま黒焦げになり、直撃した地面は木や岩と共に熱で変質し、潜んでいたスライムもまとめて蒸発させ死の大地となっていた。
「これで目障りな奴らは消えたな、それじゃ今から解明者のやるべき仕事……ダンジョン調査を始める」
そう言う女の表情は先ほどの微笑から一転、冷たい無表情になっていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
大体こんなノリなので性に合ったら星やいいねをしてください、投稿頻度が1.5倍(前年比)になります。
しかし、濡れた人形はビルセティのことを指してましたが、読み直してみるとあんまり濡れているという印象はないですね……




