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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
2章 実戦と濡れた人形
31/79

2-16 その後のトラブル

「おーい!誰かいるかー!」


時はミエリが死亡した直後にまで遡る、茫然と立ち尽くすメンバーの耳に人の呼び声が入って来た。


「なんだ?別のパーティか?」


イサオが警戒し剣を構える、アフタレアも大斧を構えてシャラムの背後を守るように立った。


「警戒しなくても大丈夫、多分私が呼んだ救援部隊だよ」


シャラムが俯いたまま口だけを動かしてイサオたちに説明する。


「そうかも知れねえけど一応警戒はしとかねえと」


「なに?シャラム、お前が救援を呼んでくれたのか、俺の端末は壊れてて使えなかったんだ」


アフタレアは未だ警戒を解かず、イサオだけが安心したように武器を下ろして振り返る。


「やっぱり……実は救援を呼んだ時、あんたとミエリにも連絡したんだけど通じなかったんだよね」


シャラムが振り向きもせず、淡々と言葉を発する。


そんな会話をしていると霧の中から荷車を引いたパーティが姿を現す、そのメンバーは昨日アフタレアを回収したジェインズたちだった。


「なんだよ!お前たちいたのかよ!いるならいるって言えよ!」


「戦闘する音が聞こえたからこっちに来たのにさー、誰も返事しないからやられたのかもって心配したんだよー?」


ジェインズと帽子の女は返事もなく武器を構えているアフタレアたちに文句を垂れた。


「すまないな、今このダンジョンは異常事態に見舞われているんだ、警戒を怠るわけにはいかなかった」


そう言いながらイサオが剣を収めた。


「そうは言っても返事をするくらいは出来ただろ、武器構えて待ち構えていたから不意打ちでもされるんじゃないかと思ったぞ」


「ほんとほんと、というかまた一人犠牲になってんじゃん」


そう言ってジェインズのパーティは既に息絶えたミエリの死体をみる。


「また?他にもいたのか?」


「いたも何もここに来る途中で死体が山のように集められた場所があってな、お前らを回収するために持ってきた荷車に全部載せたんだよ」


「傷一つ無かったのは気になるけどお金になるからねー、あんた達まで死んでたら運ぶのめんどくさかったから生きてて助かったわー」


「そうなのか、俺が通った場所にはそんなものなかったが……一箇所に死体が集まるというのは聞いたことがないぞ」


そのやり取りでビルセティは自分がスライムから抽出した遺体を放置していたのを思い出した。


(そうでした、私が出した遺体はそのままになっていましたね、ですがミエリがこの状態ではそれを言っても疑われるだけ……黙っておくのが賢明ですね)


そう考え、素知らぬ顔を貫く彼女を無視して周囲はやり取りを続けている。


「というか、お前らの後ろの……それなんだ?」


「え、めちゃくちゃデカいじゃん、そんなのこの沼地にいたの?」


「うわぁ……これみなさんが退治したんですか……?」


「見事だな、これほどの相手は俺たちでも厳しかっただろう」


死に際にフェイクラムが吹き出した霧で視界が遮られていたのを、ビルセティが払った事でジェインズたちからも怪物の死体見えてきたようで時間差で救援部隊の面々が驚く。


「コイツのせいでうちのパーティはボロボロになっちまったんだ、今もかかっている濃霧もこいつが原因みてえなんだよ」


「それのせいで分断されてこの様だ……おまけに俺の端末は何故か故障してしまって連絡も取れなかったからな」


「端末が故障してたのか?でも救援要請は来たぞ?」


「それはシャラムがやったんだよ、アタシとコイツは一緒にいて端末も無事だった」


「連絡がつかなかったのはイサオとミエリだけ……ほらね、ミエリの端末も壊れてるよ」


シャラムがミエリの懐から端末を取り出して確認している。


「何!?ミエリのやつも端末が壊れていたのか!?」


「え?おっさん、ミエリと一緒だったのに知らなかったのか?」


「俺はお前たちを見つける寸前まで一人でいたんだ、ミエリと一緒だったのはこのビルセティだけだ」


そう言ってイサオがビルセティを指す。


「そういやそのメイドはなんだ?」


「へー、なんか人形みたいだねー」


「はじめまして、私の名はビルセティです。以後お見知りおきを」


ジェインズと帽子女の言葉に対しビルセティが軽く会釈をし、簡単な自己紹介をする。


「まあその話は置いておこう、それより二人とも別行動してたのに端末が壊れてるのは摩訶不思議だな、かなり頑丈なシロモノなのに」


「ミエリのそれはフェイクラムに握りつぶされたからだろう?連絡が来なかったのも、あいつが忘れてただけの可能性がある」


「いや、幸か不幸か端末は無事だよ、多分壊れたのはもっと前だね」


「はぁ〜全くどうなってんだよ、いきなり大型のグロブスタは出るし、一部の連中の端末は故障するし、謎の死体の山はあるしで色々分かんねえ事ばっかり起こってて頭の中整理出来ねえよ」


アフタレアが頭に手を当て眉間に皺を寄せながら誰かに言うでもない愚痴を呟く。


「まあ私たち的には楽に稼げたからどうでもいいけどねー、この数なら良い額になるよ」


「とりあえず退散するに越した事はないな、俺たちの荷車は定員オーバーだからお前らには歩いてもらうぞ」


そう言ってジェインズが荷車の中を指差す、話の通り死体が山のように折り重なっており、その人数を帽子の女が楽しそうに数えている。


「それに関しては大丈夫だ、それよりミエリを連れ帰ってくれないか?この傷だからこいつを運ぶのは難しいんだ、それに野暮用もある」


「野暮用?おっさん、もうこいつらと一緒に行動した方が良くないか?何もないだろ」


「私はイサオに賛成、しばらくここにいたい」


「おいおいシャラム、いつまで落ち込んでるんだよ」


「ほっといて……」


「こんな風にちょっといざこざがあってな、落ち着くまで移動できないんだ、すまないが救援報酬はまた今度払う」


イサオが他のメンバーを指差しながらジェインズにそう言った。


「連れ帰れないならお前らからは報酬は貰えない、代わりにこの荷車に積んである連中から頂くから気にすんな、それよりそんな状態で大丈夫か?」


「ほんとだよー、そんなバランス悪いパーティじゃ危ないよー?」


「少なくともお前らに戦力じゃ負けてねえから心配すんな、帽子女」


「む、私の名前はフラブランって言うのよ、ちゃんと覚えておいてよね」


アフタレアの売り言葉に対し、帽子の女が頬を膨らませながらフラブランと名乗る。


「とにかく俺たちのことは心配するな、それよりミエリのことを頼む」


そう言ってイサオはミエリを抱えると荷車にそっと乗せ、目を閉じさせた。


「頼むぞ」


「ま、待ってください、やっぱりその傷は見逃せません」


突然後ろで大人しくしていた、白いローブの少女が前に出る。


「急にどうしたんだよエルー、こいつらの傷を治したいのか?」


「だったらさっさと言えばいいのに間が悪いなー、もっと積極性を持ちなよ」


そう言いながら二人がエルーと呼ばれた少女を前に出す、後ろの武道家のような男がそれを黙って見ている。


「いきます、『セレー・ピレ』!」


そう唱えると皆の傷がみるみる癒えて活力が戻る。


「へぇ、広域で治療できる魔法が使えるなんてやるじゃん」


シャラムが全身を確認しながら呟く、実際先程のボロボロの状態から傷が消え去り、足取りのしっかりとした姿になった。


「ふぅ、これで大丈夫です」


それだけ言うと少女は元の定位置に通り、ジェインズのパーティが踵を返す。


「んじゃさっさと退散するか、どちらにせよこんなところでお話し会を開いてもしょうがないからな」


「そだね、あんたたちも死ぬ前に帰って来てよね」


「せ、せっかく治したんですから、無駄にさせないでくださいね!」


「失礼する」


各々挨拶をし、ミエリとその他の死体を載せた荷車が霧の中に消えていく……そして姿が完全に見えなくなってしばらく後に突如イサオが剣を抜きビルセティに剣先を向けた。


「これで……あとはお前が何者か判断するだけになったな」


「……まだ、信用してもらえませんか」


「ん?おっさんコイツって知り合いじゃないのか?」


「残念ながらこいつはミエリが連れてきた化け物だ、あいつは何故か信用していたが俺はまだこの陶器人形が信じられん」


「でもこの子のおかげで私たちは助かった、それにミエリが信頼してたなら私も信じるよ」


「シャラム……そうか、お前は優しいな」


「アタシも敵意を感じねえし良いと思うけどなぁ、おっさんはソイツになんかされたのか?」


「…………いや、俺も助けられた」


「底なし沼の時ですか?あれはお互い様です、それに元々そういう作戦でした」


「俺がブラッディスライムに足をやられた時も助けてくれただろう?例えミエリの指示でも二度も命を助けられたのだから正直な話、俺もお前を疑いたくない……だからこそ今から俺の出す質問に素直に答えてくれ、それでお前を信じるか判断する」


「分かりました、何なりとお聞きください」


「お前はミエリが見ていない時かすかに笑っていただろう?あれはなんだ、どういう意味があった」


イサオの語気が強くなる、シャラムとアフタレアは彼なりにミエリを心配していることが窺えたようで黙ってやり取りを見守っている。


「それは……その……」


先程までの淡々とした口調から一転、ビルセティは戸惑いを感じるしどろもどろな口調になり言葉に詰まる。


「どうした?何か後ろめたい事でもあるのか?」


「その……言わないと駄目ですか……?」


「当たり前だ、さっさと言え」


「そ、その……私、ミエリを見ていると頬が緩んでしまうのです……」


そう言ってビルセティは顔に手を当てて恥ずかしそうにする。


「……ん?」


「あっ」


「ふ〜ん……」


予想外の返答に困惑するイサオの後ろでは何かを察したアフタレアが思わず声を上げ、シャラムは一人納得して僅かに口角が上がった。


「不思議な事に彼女を見ていると胸が熱くなるんです、なんでか私にもよくわからないのですが……それに顔も緩んでしまって……これを説明するのは何故かすごく恥ずかしいのでこれ以上は……」


「おっさん、あんまり恋する乙女をいぢめるのはよそうぜ、おっさんだって話を聞いて悪い気はしなかっただろ?」


「まあ確かに、低身長お姉さんとクールメイドの組み合わせは悪くない……だがこいつが俺たちを騙すために演技をしている可能性を完全には否定できん」


「確かにこの子が知性の高いグロブスタかもしれないって疑うのはわかるよ、でも恋心を恥ずかしがるなんて芸当は演技じゃできないと思うんだけどな」


「恋……?これが恋なんですか……?」


「なんだ?変なところだけお前鈍いな、アタシから見たアンタはどう見ても恋に戸惑う乙女だぜ」


「これが恋……」


ビルセティが優しい顔で胸に手を当てる。


「イサオ、もういいじゃん、私ももう動けるからこのダンジョンから出よう、どちらにせよこの子がいないとスライムが厳しいんだし」


「……まだあったばかりなのに恋に発展しているのはあまりにも展開が早い、こういうのはもっと少しずつ距離は縮めていくのが王道だが……まあ今は恋愛がお前の協力理由だということに納得しよう」


「めんどくせーおっさんだな、どうでもいいじゃねえか」


「とりあえず早く行こう、そういえばこの子って名前なんていうの?」


「あの、一応先程名乗ったのですが……」


「あれ、そうだっけ?ごめん聞いてなかった」


「ビルセティというらしい、ミエリが名付けたようだ」


「ミエリがねぇ……確かに気になることは山ほどあるけど、ここじゃ調べられねえからな、早くギルドに戻るか」


「このフェイクラムの死骸も早く回収依頼出さないと、放置してたらグロブスタや野生生物に食べられちゃうかもしれないしね」


「この死骸を運べばいいのですか?それなら私がやります」


そういうとビルセティが触手を伸ばしてフェイクラムの本体を引っ張り出し、自身の背中に掲げるように巻き付けた。


「うわ、やるじゃん」


「触手は切り落として何本か持って行くぞ、外殻も少し……驚いたほんとに貝殻みたいだな」


「じゃあアタシがミエリの置いて行った荷物を持って行くよ、というかミエリのやつ死体までちゃっかり回収してるじゃねえか」


ビルセティがフェイクラムの本体を、イサオとシャラムが触手や外殻を、そしてアフタレアが残った荷物を背負って歩き出す、既に霧は薄くなって視界が開けていたがそれでも奇襲を警戒し慎重に歩を進める。


「もし液体生物が襲ってきても私が吸収しますのでご安心を」


「さっきのヤツだろ?あれすげえな、どうやってんだ?」


「あれは……」


「お前たち、荷を下ろせ」


「いるね、ヤバいのが」


前を歩いていたイサオとシャラムが突然立ち止まり、進行方向の先を睨む。


「うわ、確かにいるじゃねえか」


「迂闊でした……何者です!?」


それを聞いたアフタレアとビルセティも進行方向に向き直る、確かにそこには存在感を放つ何かがいた。


「こんにちは、君たちの救援に来たものだ」


そういいながら、薄まりつつも未だ遠くの景色を遮る霧の中から出てきたのは、藍色の髪を腰まで伸ばして軍服に似た服を着た、獣耳のついている中性的な女性だった。


何故か右はハンドポケットに入れており、口調の丁寧さとは裏腹に非常にフランクな振る舞いをしている。


「救援?それにしては仲良くしたい奴が出す気配じゃないね、何が目的?」


シャラムがずっとハンドポケットのままの右手を睨みながら問いかける、女の放つ気配はどこか敵意を感じるもので、助けに来たような雰囲気ではなかった。


「まあ救援はオマケだ、本当は別の事を調査しに来ただけで君たちを見つけたのも偶然だよ、まあその様子じゃ私の助けは必要なかったみたいだけどね」


「てめえ……その手の中どうなってやがる、変な波動出しやがって……お前ただのヴォラルフじゃねえな」


唸るような声で問い詰めるアフタレア、それを聞いた女が驚いて目を丸くする。


「へぇ……こんなに隠蔽してても気づくなんて、やっぱりルナルドネスは油断できないね」


「どうせあんたα性なんでしょ?その体格と偉そうな態度でわかるよ」


「そこのドラゴンも洞察力に優れてるね、その通り私はヴォラルフでセカンドセクシャルがαの女性だ、珍しい種に会えて嬉しいだろう?」


「そんなことはどうでもいい、お前が危害を加えないというのなら俺たちはこのまま去る、ここで無意味な戦闘をしたくないのでな」


「そうだね、これがお互いの為になりそうだ、それじゃさようなら」


そう言って女が踵を返すが、急に立ち止まり振り返ってビルセティを見た。


「あ、そこのお人形ちゃん」


「私ですか……?」


「君のことは知らないけどどう見てもシルクレンビスだよね?それならギルドに向かうといい、お友達がいるよ」


そう言い残すと、女は今度こそ底の高いブーツで足元の悪い沼地を軽快に蹴って去って行った。


「ったく、なんだありゃ」


「少なくとも、あんまりお近づきになるべき相手じゃないのは確かだね」


「行くぞ、あんなのにこれ以上絡まれてもかなわん」


そう言いながら沼地の出口を目指して歩くメンバーを後ろから眺めながらビルセティは先ほどの発言を反芻していた。


(なぜ、あの人は私たちの種族を知っていたのでしょう……何か嫌な予感がします)


不安を胸に抱いて彼女をパーティの後を追った。

作中でも説明しますがヴォラルフの説明を

ヴォルフ(狼)とナチュラルを合わせた造語でオメガバースという共有設定の世界観がモデルの種族です。

詳しい説明は省きますがα、β、Ωという第二の性を持ち、αは男女問わず優位な立ち位置でΩや女性を孕ませることができる性で

逆にΩは定期的にくるヒートに悩まられ、男女問わずαや男性に孕まされる性となっています。

ストレンジフィールド内では珍しい種族な上、その特異性から他の種族との相性は悪く扱いは良くありません。

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