2-14 命果てる死闘
わかってたよ……おまえがわたしを狙うのは
わたしが時間稼ぎをしていた時、地面を揺らしてスライムにみんなを襲わせたのはわたしに思いの外苦戦していたからなんでしょ?合流されたらヤバイからね
傷を癒すために獲物を捕食する時も、わたしを不意打ちで襲うようなことせずにわざわざ遠くの獲物を狙ったのはみんなが周りにいて捕食できないリスクがあったから……おまえは必ず安パイを選ぶクセがある
だから……この状況なら必ず選ぶと思ってたよ、この中で一番弱くて捕まえやすいのはどう見てもわたしだから
でもそれでいい、おまえの奥の手を警戒してみんなから孤立していたのは正解だった
「だから……さっさと死んじゃいなさいよ!!!」
ミエリが銃を構え本体に向かって引き金を引く、弾が切れるまで撃ち込まれたそれは本体の柔らかい皮膚を抉り青い血を噴き出させる。
「ミエリ!きゃっ!」
「クソ!足に!」
地上にいた三人は、ミエリを助けようと駆け出していたため自分達の足が触手に取られていることに気づけなかった。
不意をつかれたビルセティは天高く、そして遠くに振り飛ばされシャラムは転倒して尻餅をついた。イサオだけが耐えるも直ぐに複数の触手に全体を拘束される。
「ぐおっ!?クソっ、シャラム!ミエリ!今助ける!」
「言ってる場合かよおっさん!自分のこと考えろ!」
混乱する状況の中でミエリは弾倉の空になった銃を捨て、ナイフを触手に突き立てた。
「おまえは状況を有利に運べる選択しか選ばない!だからわたしを狙ったんだ!でもそれが命取りだよ!」
ナイフで切り裂かれた触手から力が抜け、ある程度体の自由がきくようになると迫るフェイクラムの眼球にナイフを突き刺して全力で押し込んだ。
凄まじい雄叫びを上げるも、それでも口を開き喰らおうとするフェイクラムの口をミエリは足と手でつっかえさせる。
「最悪の場合はこうするって決めてたの!」
鋭い牙が踏ん張る手足に刺さり深く食い込む、しかも彼女の力では口も完全に開き続けることはできずに少しずつ閉じようとしていた。
しかしそれすら意に介さず、ナイフを握り直し思いっきり引き切った、流れ出る青い血がミエリにかかり彼女の視界が青く染まる。
フェイクラムは発音不可能な叫びを上げると触手をミエリに巻きつけて彼女の胴体を締め上げた。
「ごぷっ……!がはっ!げほっ!……………う、ぐ、がああああああ!!」
華奢な彼女の体がねじれながら潰されていく、目鼻口から大量に血を吐き出し生きているのも不思議な状態だがそれでも止まらず叫びながらナイフを何度も突き刺して攻撃する。
「ミエリのやつ、最初からこうするつもりだったのか!?」
「ミエリィィィィィ!クソォォォ!」
「騒ぐなおっさん!今助けてやる!」
そういうとアフタレアが大斧を振り上げて触手を断ち切った、拘束から解放されたイサオは足を掴まれ動けないアフタレアを置いて一人でミエリの方へ駆け出す。
「おい!ちょっと待てよ!アタシを置いてくなぁ!」
そんな後方の騒ぎをミエリが意識の隅で聴きながら決死の覚悟で攻撃を続けるも、致命傷のダメージによって手足の感覚はなくなっていき意識も朦朧としていた。
(このままじゃ……こいつを倒せない……あと、あともう一度だけ……力を…….)
その時ミエリの半開きになった口から何かが飛び出し彼女の手足に絡みついた。
「これ……ビルセティの触手……?」
ビルセティが口移しで喉につけた触手が伸びてミエリの手足を補助している、もしものことがあったらミエリを助けるためにこんな形で触手を忍ばせていたのだろう。
「これで……なんとか……なって……!」
しかし、あくまで噛み砕かれなくなったというだけで状況はジリ貧のままだ。
「ミエリ!!このぉ……!!」
と、その時イサオが駆けつけて代わりに口を開き彼女を救出しようとする。
「イサオさん……?」
「ミエリ!早く退け!こいつは俺たちがなんとかする!」
イサオがそうやって強引にミエリを退かそうとするが二人に触手が絡みつき思うようにいかない。
「イサオさん……お願いがあるの……そのままこいつを抑えていて……わたしが……とどめをさすから……」
「なんだと!そんな状態じゃ無理だ!」
「大丈夫……ビルセティが力を……貸してくれた……わたしはどっちしても助からない……だから……お願い……!」
ミエリの真剣な眼を見たイサオは一瞬黙るが、すぐに舌打ちして全身全霊をかけて口をこじ開ける。
「チッ!言ったからにはちゃんと決めてくれ!」
「ありがとう……」
それだけ言うと触手をナイフを持っている手に絡める、そして触手の補助を受けて出せる力を全開に出して突き刺した。
「くそぉぉぉぉ!はやくやれぇぇぇ!」
「はあぁぁぁぁ!!」
イサオが口をこじ開け自由になったミエリは最期の力を振り絞り、ナイフを抉りながら上に向かって盛大に切り裂いた。
「キシュゥゥゥ……」
ミエリの宣言通りそれがとどめとなり、血を滝のように流しながらフェイクラムが息絶える。
「やっ……た……!」
それと同時に地上のメンバーに巻きついていた触手やシャラムを咥えていた頭蓋骨が力無く崩れ落ちた。触手が解けて解放されたアフタレアが急いで二人の元へ向かう。
「くっ!大丈夫か!?」
イサオがミエリを寝かせて様子を見ているが、アフタレアの問いかけに対し静かに首を振る。
そして、それから数秒後にビルセティが三人のそばに着地し、急いでミエリの顔を覗き込んだ。
「ミエリ……申し訳ありません、お守りしますと言っていながらこのようなことになって……」
瀕死のミエリを見てビルセティが深く謝る、その顔は今にも泣き出しそうだ。
「いいんだよ……あなたのお陰で……あいつを倒せたんだか……ごほっ……けほっ……」
「ミエリ!もう話すな!」
「もう……大袈裟だなぁ……どうせ……蘇生できるんでしょ……?」
その時、シャラムがふらつく体でミエリのそばに立つ、ずっと喰らいつかれていただけあって相当なダメージを負っていることがイサオたちからも窺えた。
「ごめん……私のせいだ、私があんな迂闊なことしなければ……!」
シャラムの目から大粒の涙が溢れて流れる、いつもの気楽でそっけない彼女からは想像つかない姿がそこにはあった。
「もう……いいって……勝てたんだし……みんな無事で良かった……わたし……役に立てた……ん………………」
その言葉を最期に彼女の目から光が無くなった。




