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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
2章 実戦と濡れた人形
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2-13 騙し合いの勝負

大蛇の力がビルセティの拘束力を徐々に上回り、彼女の触手がミチミチと鳴り出した。


「そんな……これほどの力がどこから出ているんですか……!?」


「ビルセティ!もう拘束を解いて!じゃないとあなたが!」


「分かりました……ですがこのまま解くわけにはいきません、ミエリ作戦を!」


ビルセティが渾身の力で押さえつけているがそれも限界が近い、その姿を見たミエリに一つの疑問が浮かぶ。


(こいつ……あんなに使っていた触手をなんで今は使わないの……?)


大蛇の全身を観察するがそれらしきものは見つからず、敵の予想外の挙動にミエリは次の指示を出せずにいた。


「おいミエリ!なに動揺してんだ!」


先ほどの威勢から急停止を受けたアフタレアが痺れを切らして叫ぶ。


「ちょっと待ってよ!こいつは触手を出して不意打ちしてくるの!それが今は使ってない、行動の理由がわからないからまだ攻められないの!」


「なに……?ミエリ、その触手はどこから出ていた」


「さっき言ってた空気孔からだよ、多分本体から直接出てるんだと思う」


「なにぃ!?そんな大事なこと先に言えよ!」


「あっ、ご、ごめん……」


「本体の一部が攻撃してこない……?ミエリ、それ多分何かやってるよ」


一連の会話を聞いていたシャラムがぽつりと言う。


「え……?あ!シャラム飛んで!周囲を確認して!」


「よし、分かった」


シャラムが翼を広げて舞い上がる、ある程度の高度で周りを見渡すと目的のものが見つかったようでそちらを指差す。


「ほら見つかった、どうやら食事中みたいだよ」


言われた方向を見ると、ミエリにとってはもう見慣れたビジュアルの触手がマーダーバットに巻きついて尖端を突き刺していた。


不運にも捕まった獲物は抵抗しているが、徐々に弱っていき最終的にはカラカラの乾物になってしまった。


「おいおい、アタシたちを無視して力をつけてたのかよ……というかそれならアイツは隙だらけなんだから今攻めればよかったじゃねえか!」


アフタレアが騒ぎながらミエリの方を見る。


「うっ、ごめんなさい……でもこれであいつの行動はほとんど把握できた、あとは討ち取るだけ!」


そう言ってミエリが声を上げて全員に指示を出す。


「ビルセティ!拘束を解いていいよ!そしたらすぐに離れて!そして離れたのを確認したらシャラムはそのまま上からあいつの胴体を炙って!」


「かしこまりました」


「りょーかい!」


二人が早速行動を開始する、ビルセティは触手に込めてた力を抜き、大きく揺れる大蛇から跳躍して離れる。そして指示通り高度を上げて大蛇の真上を取ったシャラムがブレスを胴体に遠慮なく放出する。


シャラムのドラゴンブレスが大蛇の外皮を焼き、その色が赤く変色していく……どうやら中身に効いたようで大蛇が転がりながら沼地の水分で冷却する。


その際に水分が蒸発し、大蛇から出ている霧と合わせて周囲の視界が一気に狭まる。


「隙が出来た!ビルセティ!周囲の霧を吸い取って!そしたらアフタレアとイサオは二人であいつの側面から挟み撃ちであいつの胴体を攻撃して!アフタレアが奥からだよ!シャラムは上空から二人の補助!」


「了解した!」


「よっしゃあ!行くか!」


二人が大蛇に向かって突進する、怪物が上空にいるシャラムや霧払いのために触手を広げるビルセティなども同時に警戒しなければいけない状況にすることでどこかに綻びが出来るようにミエリは仕向けたのだ。


(足を怪我しているイサオさんを走らせるのは心苦しいけど、これ以外に良い作戦が思いつかない……みんなごめん)


心の中で一人反省しながらもミエリが戦況を見守る、すると大蛇は一番動きの遅いイサオに狙いをつけ、一気に襲いかかる。


「今!ビルセティはイサオさんの救助!シャラムはさっきと同じところを焼いて!焼いた場所をアフタレアが攻撃!」


その指示を聞いたビルセティはすぐに行動を開始し、イサオに触手を巻きつけて自身も一緒に飛び上がり攻撃を回避した。


空振りの攻撃で大きく隙が出来た大蛇にシャラムは再びドラゴンブレスをお見舞いし、一度焼かれて白くなっていた表面をもう一度真っ赤に染め上げる。


「キシャァァァァ!!」


「土手っ腹にぶち込んでやるよ!食いやがれぇ!」


怯む大蛇の胴体にアフタレアが斧を振り下ろし本体がいるであろう部分を叩き割る、高温によって脆くなっていたその硬質の外皮は斧の打撃によって広い範囲が砕け散り、その奥に隠れた本体が姿を表した。


「コイツが……!」


「なんだ!この生物は!?」


「へー……ちょっと美味しそう」


その正体は……硬い外殻ありきの柔らかい膜で覆われただけの姿で一見すると臓器の集まりのようにも見える、一番近いものを挙げるなら二枚貝の中身だろうか。


そして、貝の中身で例えるならエラと内臓の境目に当たる部分に肉食生物のような短く鋭い牙の生えている口が殆ど体を割るかのようについており、その貝類の内臓のような部位の中心には魚眼を思わせる大きな一つ目が収まっていた。さらに、出水管と入水管を思わせる部位からは元凶の霧が際限なく出ている。


体長自体は2mくらいだが体からは何本もの触手が伸びており、それが大蛇の形をした殻を操っていたようだ。


「……聞いたことがある、東洋の妖怪に幻覚を見せる『蜃』というやつがいるって」


「え!?」


「そんなのいるのか?俺は聞いたことないぞ」


そう言いながら飛んでくる触手をイサオが盾で弾く。


「ミエリはご存じなのですか?」


ミエリに質問しながらも、ビルセティは腕から出した触手で正体を表した化け物が飛ばす無数の触手を束ねてそのまま引きちぎった。


「私もよくは知らないけど……蜃は大きな蛤か大蛇や龍の妖怪であるミズチの一種ともされている妖怪で、気を吐いて幻の楼閣を見せるからそこからとって蜃気楼って言葉が出来たくらい幻覚を見せるのが得意らしいよ」


「いや、よく知ってるじゃないか……俺はそういうの興味ないから関心するぞ」


「幻覚とハリボテで騙くらかす蛇と蛤の化け物……ミエリの話との共通点は多いね」


考察しながらもシャラムは向かってくる触手を剣で叩っ斬り、口から炎を吐いてさらに蛇の部分の外殻を攻撃する。


「と言っても同じものかは分からないけどね、でも似ているしこいつに名前をつけるなら『蜃擬態(しんぎたい)』ってとこかな、英名は偽物(フェイク)(クラム)で『フェイクラム』」


「……壊滅的なネーミングセンスだな」


心技体(しんぎたい)とか幻惑で誘き寄せずに堂々と戦いそう」


悠長に名前をつけるミエリにイサオとシャラムが少しズレたツッコミを入れる。


「そんなことはどうでもいいんだよ!それよりもコイツ、だいぶ弱ってるぜ!」


動きの速いアフタレアはフェイクラムを撹乱させるように走り回り、尻尾の部分を切り落とす。


「そうだね、まあ流石に殻の割れた貝には負けないから当然かな」


「みなさん、もう少し緊張感を持ってください」


そんな悠長を会話しながらもフェイクラムの出す複数の触手の攻撃をビルセティが払い、それをシャラムが焼き、怯んだところをアフタレアとイサオが切り落とした。


追い込まれた怪物のやぶれかぶれな攻撃では四人を本気にさせることはできなかったようだ。


「これで……終わり!」


シャラムが他のメンバーが切り払った触手を掻き分け本体に剣を突き立てようとしたその時、大蛇の頭部にヒビが入り外殻が割れて骨が露わになる。


骨格だけになった大蛇の頭蓋骨には触手が絡みついており、先ほどまでの拙い動きとは正反対の素早く滑らかな動きでシャラムに喰らいつき拘束する。


「これは……!」


「うぇ!?骨は本物だったのかよ!」


「シャラム!」


動揺し、隙だらけになった三人をフェイクラムは見逃さなかった。素早く触手を伸ばすと三人の間を抜けてミエリを拘束する。


「……!しまった!」


「狙ったのは、アタシたちじゃない!?」


「くそっ!シャラム!ミエリ!」


足と胴体に巻き付いた触手が本体の方へ素早く引き寄せていく、しかしミエリはそんな状況でも押し黙ったままフェイクラムの方を見据えていた。


そして……その両手にはいつのまにかナイフと銃が握られており、それをゆっくりとミエリは構えた。

蜃に関しては「幻惑を見せる蛤の妖怪」という認識しかなかったので大蛇の妖怪とセットというのは今回調べて初めて知りました。

大蛇に擬態する設定は全くの偶然ですが、なぜかピースが綺麗にはまって良かったです。

あとクラムという名称も今回の話を書く上で調べて初めて知りました、クラムチャウダーってそういうことなんですねー。

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