表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストレンジフィールド  作者: 大犬座
1章 おぞましき世界
2/79

1-1 白い世界

……


……………


………………………


(あれ、何が起こったの?)


蓮浜はすはま 深慧莉みえりは自身の置かれている現状に困惑した。最後に聞いた水気のある何かが砕ける音、あれは間違いなく自分の頭部から出たものだったはず。


にも関わらず頭は思考を続けており、不思議なほど意識はハッキリしている。


「ん……あれ?体もなんともないや」


手をついて半身を起こし外傷を確認するが、手足は折れておらず痛みを感じる部位もない。


「どうして?奇跡的に生き残ったとか……って、どこ!?ここ!?」


先程から周囲が無音なことが多少気になっていた深慧莉が自身の確認を終わらせてから顔を上げて周りを見渡すと、そこは人工的に加工されたと思しき白い壁に囲まれた通路だった。


「ど、ど、ど、どういうこと……?わたし変なところに落ちちゃったのかな」


深慧莉が立ち上がり壁に触れる、どうやら石材のようなもので作られているようで少しざらついた触り心地だ。


「なんだろうこれ?石?でもなんか変な感じ、それに天井も……」


深慧莉は次に天井を見る。通路の天井も壁と同じ色の材料が使われているようだが、不思議なことに天井全体が光源かのように光を発しており、屋内とは思えない明るさだった。


「もしかしたらどこかの病院に運ばれたのかも」


不自然な状況を自身に納得させるために、無理矢理なこじつけを口に出す。


「おーい!!誰かいませんかぁ!!」


周囲に人がいることを期待して大声を出すが、自分の声が反響するだけでなにも返ってくることは無かった。


「なんで誰もいないの……?やっぱり死ぬ必要なんてなかったんだ……」


この状況は自分が作り出したものだという自覚が、深慧莉の中に後悔を広げさせる。


とその時、通路の突き当たりの曲がり角から何か音が聞こえてきた。


「え!?そこに誰かいるんですか!」


深慧莉は誰かに会える喜びから声を張り上げた。声に反応したのか音がだんだんと近づいてくるのがわかる。


「よかったぁ〜すみません、ここど……」


遂に姿を現した「それ」を見て深慧莉が停止する。


それは、少なくとも人間ではなかった。


黒に近い紫色の皮膚に覆われた体躯は巨大で四足には巨大な爪を持ち、頭部には目が無く、大きすぎる牙が揃った口だけが顔面に備わっていた。


有り体に言えばそれは、怪物だった。


「…………え?」


深慧莉は理解出来ないまま、その怪物が持ち得ないはずの目と視線が合った気がした。


「ギグァァァァ!!」


そして、どうやらその感覚は当たっていたようで怪物は雄叫びを上げるとこちらに走って来た。


「ひ、ひぃああああ!!」


深慧莉は情けない悲鳴を上げるとすぐに反対方向に走り出した、もつれそうになる足を必死に踏ん張り地面を蹴る。


(なにあれ!なにあれ!なにあれ!こんなの聞いてない!)


パニックになりながらも逃げるための最善は何かと思考をフル回転させる、すると突き当たりが見えてきた。


左右に分かれた道、深慧莉は突き当たりの壁に勢いのままぶつかると素早く左右を見る、右は暗闇で左は明るい……それだけは判断できた。


「左!」


素早く壁を蹴って左に突っ込む、そして走り出そうとした時、始めて遅すぎる事実に気がついた。


「あ……ああ!」


左は行き止まりだった、照らされた壁が錯覚で一瞬通路のように見えただけだったのだ。すぐさま後ろを振り向くがちょうど怪物が追いつき、壁に激突しながら深慧莉の前に立ち塞がる。


「嘘でしょ……わたし、こんな死に方したくない!」


深慧莉が後退りしながら怪物と対面する、ゆっくりと近づく怪物の口からは生暖かい空気と涎が溢れ出る。


遂に背中が壁とくっつく、深慧莉はその壁にすがるように崩れ落ち小さく縮こまった。


「ひぃっ……嫌!嫌ぁ!」


怪物の姿がもう眼前にある、絶望が深慧莉の心を支配しその表情は顔から出るあらゆる液体でぐちゃぐちゃになっていた。


怪物の大きく口を開けて深慧莉に迫る、その時


「ちょっと、何やってるのかなぁ?」


急に聞こえる何者かの声、と同時に怪物の背中に何かが刺さり、その痛みからか怪物が悶え始めた。


一瞬何が起きたのか分からなかった深慧莉だったが、のたうち回る怪物の隙間から声の主が見えた。


その姿は人間(?)の女性のようだった、しかしその背中には鱗で覆われた翼が生えており、よく見ると同じく鱗に覆われた尻尾も持っている。


しかし何より不思議なのはその格好で、いわゆるファンタジー作品にでも出てきそうな鎧を纏っており、大型の盾を携えている。


(え!?何この人!?)


呆気にとられる深慧莉をよそに怪物が女性の方を向く。


「おっ、やる気なの?言っとくけどそこの女性と違って私は甘くないよ?」


「ガリャァァァァ!!」


通じない挑発を女性が言っている間に怪物が前足の爪で襲いかかる。が、女性はそれを難なく受け止めるとそのまま掴んで真後ろに放り投げた。


「わざわざ組み合ってくれて嬉しいよ、これで遠慮はいらないからね!」


女性は盾を捨て、素早く近づくと回し蹴りの要領で自身の尻尾を大きく振りかぶる。尻尾は怪物の頭部に見事に命中し、そのまま壁にめり込みその衝撃で粉砕された壁材がつぶてとなって飛び散る。


「これで仕上げ、しっかり火を通してあげるよ!」


そういうと女性は口から灼熱の炎を放つ、その猛火は怪物を通路ごと呑み込み朱色に染め上げる。全身を焼かれた怪物は一際大きな雄叫びを上げると、力尽きて火だるまのまま倒れた。


「ふぅ〜、一仕事おわり!やっぱり大したことなかったね」


女性が怪物の死体から剣を引き抜き深慧莉を見るとニコニコとしながら近づいていく。


「おや?もしかして流されモノかな?それなら間一髪だったね」


女性が盾を拾いながら口を開く、先程の非現実すぎる戦いの衝撃で硬直したままの深慧莉は何も返せない。


「おーい!シャラム、大丈夫かー?」


すると暗い通路から男性の声の呼ぶ声が聞こえ、仄かな灯りと共に金属のぶつかるような足音が近づいてくる、そして暗闇の中から黒を基調とした鎧を来た大男が松明を片手に現れた。


「おい、勝手に飛んでいくなと何度も言ってるだろう、倒せたみたいでなによりだが、ケガとかないだろうな?」


「私は大丈夫だよー、でもって、たまたま襲われてた流されモノも無事みたい」


「そうか、そいつは良かったな。いくら蘇生できるといっても来たばかりの人間にそんな思いさせたくないからな」


大男は松明を消しながらシャラムと呼ばれた女性と会話をすると今度は深慧莉に近づきながらに話しかける。


「大丈夫か?何が何やらって顔してるが心配はいらない、順を追って説明するからとりあえず外に出るぞ」


大男はそういうと腰を抜かして動けない深慧莉を起こす。立ち上がった時に初めて深慧莉は気がついたが、どうやら失禁していたようでスカートはびしょ濡れになっていた。


助かった安心感と人前で漏らしたことへの羞恥心、それ以外にも困惑や動揺など様々な感情で気が動転していた深慧莉は思わず無意味にスカートを抑える。


「……まあ気にするな、戦場に出たら殆どの奴が経験することだ」


大男はなるべく見ないようにしながら微妙にフォローになってないセリフを放ち、深慧莉を抱える。


「俺の名前は神崎かんざき いさお、でこの翼の生えてる奴がシャラムだ」


「お、紹介してくれてありがとねイサオ、ちなみにフルネームはシャラム・ドヌガ・ヴィーダっていうよ、それであなたは?」


シャラムは怪物の焦げた体から牙や爪、まだ生の部分が残っている皮膚や内蔵を解体して袋に詰めながら深慧莉に問いかける。


「わたしは……蓮浜 深慧莉って言います……」


イサオたちの簡単な自己紹介に対して深慧莉は初めて口を開いた。その口調からはまだ二人に対して警戒していることが分かる。


「そうビビるな、少なくとも俺たちがいるなら安全だからコロニーに着いたら全部説明しよう」


「といってもさ、ここはストレンジダンジョンだけど滅多にグロブスタも出ないし、出たとしても雑魚しかいないような場所なんだから歩きながら適当に説明すればいいでしょ」


シャラムはそういうと袋を担いで歩き出し、イサオもそのあとに続く。


イサオに抱えられながら深慧莉は後ろを見ると、解体された怪物の残骸が残されていた。


そして進行方向に向き直り、一言つぶやいた。


「わたし、どうなっちゃうの……?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ