2-3 輪郭のない危険
「それにしても、今日はスライムやウーズが少ないな」
全体の景色を見渡しながらアフタレアがぽつりと言う。
「そういえば……いつもなら泥の中に不自然な液体の流れがあるのに今日は全然見ないね」
先頭に立って躊躇なく進んでいたシャラムが立ち止まって足元を見る。
「あのー、スライムは分かるんだけどウーズって?」
「スライムに似た生き物だよ……生き物なのかな?」
「どっちでもいいだろ、スライムが透明度の高い液体の体なのに対してウーズは色々混ざったような濁った色をしているんだ、それ以外の危険性とか習性とかは種類によって全然ちげぇな」
「ウーズという言葉自体が軟泥という意味だけあって泥水や苔混じりのヘドロみたいな色をしている。まあ沼地の泥に紛れられたら見分けはつかないな」
「ええ!?そんな危険なものがいるのここ!?」
「安心して、だからこのメンバーで一番表皮が硬い私が先頭に立ってるんだよ?私は襲われても溶けるような柔な身体じゃないからね」
「む、アタシたちルナルドネスだって簡単には溶けねえっての」
「だからってわざわざ軽装のあんたを前に出す意味はないし、というか簡単には溶けないって……結局溶けるんじゃない」
相変わらずシャラムとアフタレアは種族間の対抗心から言い合いを続けている。
「あのー……溶ける溶けないってすっごい怖いこと言ってるんだけど」
「まあドラゴンメイドの肌は溶岩も硫酸も平気だとあいつが言っていたから大丈夫だろう、どっちしろ先陣を切ってくれるのはありがいしな」
イサオがミエリを守るようにパーティの最後尾に付き、ミエリの言葉を拾う。
「でも危険なスライムやウーズのことくらいは教えとくべきじゃねえか?ブラッディスライムやリビドースライム、死霊のウーズはここにも生息しているんだしよ」
「そうだねー、という訳でミエリ、ブラッディスライムっていう真っ赤なスライムは捕まったら一瞬で消化されるから気をつけてね」
「ひっ!」
「ピンク色で気泡が混じったスライムはリビドースライムって言うぜ、捕まえた奴に快楽成分を与えて快楽責めにする生物だ、ちなみにショック死するまで続くから楽しむために使うのはオススメ出来ねえな」
「うええ……」
「死霊のウーズは死体に潜り込んで操り、生きているように振る舞って油断させてくる。知らない人間が喋らずに手を振ってきたら絶対に近づくな」
「……はい」
先輩たちのアドバイスにミエリは完全に意気消沈してしまう。そのような他愛もない話をしているせいか、周囲に霧が立ち込め始めていることにその場の全員が気づくのに遅れてしまっていた。
「あの、なんか霧がさっきより濃くなってない?」
ミエリが自分の足元すら見えなくなるほどの霧が深くなっていることに気づき、皆に伝えるが……
「あれ?イサオさんどこ?シャラム!アフタレア!」
気がつくとミエリは一人で霧の中に取り残されていた。
「みんな……どこ行ったの?」
真っ白な景色の中、新米ポーターはひとり呟いた。