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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
2章 実戦と濡れた人形
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2-2 弱いなりの役割

イファス区域の荒野を歩くミエリ一行の周りにはこの区域を石と木の文明にした元凶ギラッツが徘徊している。


「絶対に武器は必要になるまで取り出したら駄目だよ、連中は隙を見て盗んで食べちゃうからね。ほら、こんなふうに」


そう言うとシャラムは自分の盾に食いついているギラッツを引き剥がして遠くに放り投げる。


「力の弱そうな奴だったら強引に奪おうとするし、しまえないデカイ金属製品だと死角から食いついてくるからなぁ、まあ無駄に持ち歩かないことに越したことはねえな」


アフタレアが尻尾で器用に大型の斧をブンブンと回しながら喋る。


「それ、危ないからやめてよ」


シャラムが眉をひそめる。そして、続けて口を開く。


「というか随分と軽装だよね、それで大丈夫なの?」


アフタレアの格好は常にデニムのパンツに黒のキャミソールで、それに緑のジャケットを羽織っているだけのラフなスタイルだ。とても戦闘を行う服装には見えない。


「アタシは前衛でもウォリアーだ、攻撃全てを受けるわけじゃない、むしろ動きやすくて身軽な方が有利な場面が多いんだぜ?それにこのパーティにはガードナーが二人もいるしな」


「はぁ……よくそんなデタラメでやってこれたわね」


シャラムが呆れるようにため息をついた。


「ずっと独りでガードナーをやってきたお前がそれを言うのか」


二人の会話を黙って聞いていたイサオが小さくツッコミを入れる。そんな様子をミエリが楽しそうに眺めていた。


(なんだか、こういうのっていいな……)


メンバーの和やかさはここがやばい世界だということをミエリに忘れさせていた。


「着いたよ、ここが一番近いダンジョン「クルルメウの沼地」だね」


目的の場所は荒野のど真ん中に不自然にあった。


「うわ……いかにもな場所だね」


クルルメウの沼地と呼ばれたその土地は荒野との間に明らかに境界線のようなものが存在しており、乾いた大地からいきなり水気の多い泥に変わっていた。ぬめりのある土から突き出た岩は苔むしており、遠くの景色を遮るように発生している霧の中には倒木や痩せた木々がポツポツと見えている。


「ここから先は視界が悪い、他のダンジョンとは違って急な崖やトラップ、神話クラスの野生生物や接触禁止級のグロブスタなどは存在しないがそれでも足元は絶対気をつけろ」


そういうとイサオが先陣を切って沼地に入っていく。


「そういえば、今回の調査ってノルマとか目標ってあるのか?」


沼地に入ろうとしたアフタレアがふと足を止めて頭に浮かんだ疑問を口にする。


「そういえばそうだね、イサオさんとシャラムは何か考えてるの?」


そんなウォリアーとポーターの言葉を聞いたガードナーの二人が顔を見合わせる。


「そういえば何も決めてなかったな」


「言ったでしょ、私は適当にやってきたからそんなの決めたこと一度もないよ」


それを聞いたアフタレアがため息混じりに自分の荷物を漁りだす。


「それならアタシが今回のノルマを決める。ズバリ、この袋がいっぱいになるまでだ」


そう言うと、何も入っていない袋を取り出した。


「この袋が丸く膨らむまでグロブスタや構成物を回収する、目標を達成したらすぐに撤収するぞ」


それだけ言うとアフタレアが沼地に足を踏み入れる。


(初っ端からグダグダだなぁ……)


先輩たちのざっくりとしたノリに呆れながらミエリが沼地に足を入れた。


沼地の泥は予想に反しない冷たくて柔らかいもので、ギルドで支給された解明者用のブーツを深く飲み込む。


「足を取られないようになるべく水気の少ない場所を踏め、とりあえず回収可能な構築物を採取しながら奥に向かうぞ」


そう言いながらイサオが近くの倒木に生えているキノコを採って袋に入れる。


「そういえば構築物とか野生動物ってなんですか?まだ説明されてませんけど」


「ん?そうなのか、ははっ!相変わらず大事なことを教えねえ先輩達だな!代わりにアタシが教えてやるよ」


アフタレアが笑いながら前を行く二人を見る。


「構築物ってのはダンジョンの生態系や地質、内部で発見される文明なんかを指す言葉だ、これをギルドが解析してそのダンジョンがどこの世界からきた流されモノか解明するらしい」


まだこの世界に来たばかりの時、イサオが様々な世界から人や物が流れてくると言っていたのを思い出す。


「な、なるほど……流されモノってこういった土地そのものだったりもするんだね」


「この世界じゃ何が起きてもおかしくないからな、だから誰も行ったことねえ場所にはとんでもないものがあるんじゃねえかって旅に出る奴もチラホラいる」


「それじゃあ野生生物って?グロブスタとは違うの?」


「野生生物は色々な世界で見つかる普遍的な生物や会話できる知能はあるがコロニーの種族には敵対的な生物の事を指すんだ、ざっくり言うとある程度どんな連中でどこの世界から来たのか分かってる生き物の事を指すらしいぜ」


「え、じゃあグロブスタって……」


「由来の通り正体不明だ、どこから来た生物なのか分かってない連中をグロブスタって呼んでる。会話できる種族がいない世界から来たのか、それともストレンジフィールド由来の生き物なのか、それすら分かってねえ化け物をグロブスタって呼んでる」


「へぇ〜よく分かったよ、ありがとうアフタレア」


「説明ありがとねトカゲ女、という訳で静かにして、獲物がいたよ」


シャラムが二人に伏せるように合図をする。先を見ると何が大きなものが蠢いている。


それは自動車ほどの大きさの猪だった。どうやら地面を掘って何かを貪っており、こちらには気づいていないようだった。


「私が素早く距離を詰めて盾で殴るから、それで怯んでる間に二人で仕留めて」


「一人でやってた割に作戦決めるのは早いんだな、まあなんでもいいぜ」


「合図はお前がしてくれ。ミエリはここから動くな、まずは実戦がどんなものか見て感じろ」


そう言うと三人は得物を構える。


(あれ?これって……)


「3、2、1、行くよ!」


シャラムが翼を広げて素早く飛んで猪に突進する。


猪が反応するが、それより先にシャラムが盾で頭部を殴りつける。


「今だよ!」


殴られて眩暈を起こしている猪にイサオが剣を突き立てる、ダメージはあったようで猪が雄叫びを上げて暴れた。


「これで……終わりだァ!!」


アフタレアが猪の脳天に斧を振り下ろす。斧は命中し、生々しい音を立てて対象の頭に突き刺さった。


それがトドメになったようで、猪はそのまま倒れてその衝撃で地面が揺れる。


「ふぅ、終わったね、ミエリー!もう来ていいよー!」


それを聞いて、倒木の裏から見ていたミエリがメンバーの元に駆け寄る。


「お疲れ様、それにしてもなんかかわいそうだね……何もしてないのに」


「甘いなぁミエリは、外の世界じゃこんなの当たり前だぜ?」


「それにこの猪みたいな野生動物は元の世界ではジャイアントボアと呼ばれる災厄扱いだったみたいでな、町や村を襲って人を喰らっていたらしく、こいつがいた世界から来た連中は目の敵にしているそうだ」


「…………マジですか」


「そ、マジ」


「とりあえずコイツはここに置いておこう、入り口付近だし帰りに回収しときゃあいいだろ」


そんなことを言いながらアフタレアが斧を引き抜き、刃先についた体液を袖で拭った。


「そういえば、さっきの戦いってあれで良かったのかな?」


唐突にミエリが先の戦闘について不満を感じていたかのような発言をする。


「え?」


「よかったもなにも、倒せたんだからいいに決まってるだろ」


「怪我もなかったからな、あの作戦に不備はなかっただろう」


「それはそうなんだけど……みんなで前面からしか攻撃しなかったから、もし猪が下がったらそのまま逃げられちゃうんじゃないかなーって思ったの」


「もしそうだとしても、じゃあどうすれば良かったんだ?」


アフタレアが一歩前に出てミエリに少し意地悪な反論をする、まだ駆け出しの彼女にするには酷な問いかけだ。


「えーと……さっきアフタレアって身軽さをアピールしてたじゃん?だからあなたに一番奥に回ってもらって、重い鎧をつけたイサオさんには側面からシャラムのサポートと追い込みの両方をやってもらう……的な?」


それを聞いた三人がポカンとした表情でミエリを見る。その時初めてミエリは自分が出過ぎた事を言ったことに気がついた。


「あ、ああ!ごめんなさい!私何にも知らないのに余計なこと言って!」


「ふふ……アハハッ!ミエリ、お前やっぱり良いな!」


アフタレアが楽しそうに笑い出す。


「つまりアレか?あんなこと言ってたんだからお前しっかり走れよって言いたいのか!」


「そ、そんなつもりでは言ってないよ!」


「いや、いいんだよ!そういうことはバンバン言ってくれよ!」


「そうだな、付け焼き刃の戦術だがそちらの方が確実だ。それに気がついたことをはっきり言ってくれるのはありがたい、それが生存に繋がるからな」


「私って戦闘になると周りが見えなくなるから、そうやってちゃんと言ってくれるのは嬉しいな」


「え?でも、私何も知らない初心者ですよ……?」


「でも『近くに敵がいる』とか『後ろが危ない』くらいなら言えるでしょ?全体を見渡して教えてくれるならそれでも十分だよ」


「確かに!全体の指示役みたい事をしてくれると助かるよな!」


「だがまずは自分の身を守る事だ、それを第一に考えろ」


「……はい!」


(パーティの役に立てる!)そう実感したミエリは口角が上がるのを抑えられず、ニヤニヤとしながら三人を後をついていった。

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