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ストレンジフィールド  作者: 大犬座
1章 おぞましき世界
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1-9 蘇生院

蘇生院の中は下の治療院とは違い、厳かな雰囲気だった。


入るとそのまま待合室兼蘇生術を行う儀式部屋のようになっており、手前には石造りの椅子や台の用なものが据え付けられている。


最奥には祭壇のようなものがあり、その前には陣のようなものが彫られた大きめの平らな岩が鎮座していた。そして、その前には何やら十分な装備を付けた解明者の一団がいた。


「ん?おお、イサオじゃないか、あんたも何か回収したのか?」


その中の一人、長身で青を基調とした軽装鎧の男がイサオに気づき話しかけてきた。金髪碧眼のいかにも西洋人といった見た目で、その整った顔立ちは(モテそうだな…)と深慧莉に思わせた。


「俺じゃなくて相方が見つけたんだ、ところでお前たちが蘇生しようとしてるそれはルナルドネスか?」


深慧莉がパーティの間から顔を覗かせ、担架に乗せられている人を見る。


それは大柄な女性だった、身長190センチはあるだろう高身長に肉付きがいいのか体躯も太く、前をはだけさせたジャケットから覗く豊満な胸など大人の女性の魅力が溢れている。


だが肌に生気はなく、その焦点の合ってない目と呆けたような顔が彼女の死を周囲に伝えていた。


自分から覗き込んだにも関わらず、深慧莉は顔を顰めて、「うっ……」っと声を漏らした。


「外傷がないね、死因は分かる?」


「見つけたダンジョンが『本能の洞窟』だったからな、恐らくリビドースライムと夢魔どもに搾り取られて心臓が止まったんだろ」


「近くにリビドースライムもたくさんいたしねー、なぜか私たちを見た途端みんな逃げていったけど」


金髪の男が適当に答えると、その後ろから宝石が埋め込まれている大きな帽子を被った女が補足をする。帽子の女は黒いローブで全身を隠しており、そこから覗かせる杖で魔術師だと言うことが察せた。


「ヤりすぎて死ぬとか流石ルナルドネスだね、地を這う下等生物にふさわしいよ」


シャラムが悪態をつく、このルナルドネスの女を見てから明らかに態度が違う。


「シャラム、種族間のいざこざをこんな時まで持ち出すな」


「シャラムさんどうしちゃったんですか?」


「こいつらドラゴンマンやドラゴンメイドは同じ強靭な肉体とトカゲからの派生種族って共通点のせいかライバル意識が強くてな、ちょっとしたことで喧嘩をしてしまうんだ」


「私はド・ラ・ゴ・ン!トカゲはこいつらだけだよ!」


シャラムが声を荒げる。


「皆さんお静かに」


急に厳格な声が響く。


その場の全員が声の方を向くと、いかにも司祭を名乗りそうな厳格な男が出てきた。傍にはシスターと思しき女性が連れ添っている。


「ここは神聖な場所です。死者には最大の敬意を表し、厳かに努めなさい」


「イサオさん、なんですかあの種族は」


司祭のような男もヒューマンではなかった。真っ青な肌を持ち、顔には額から目を通過して首元まで流れている白い線のような模様が2本あり、目に白目や黒目は無く、青白く光っていた。


「おや?新入りの方がいますね、身構えなくても結構、私はブドン=ジュナ族のトユナエィンと言います。以後、お見知りおきを」


すると、今度は後ろのシスターが前に出てきた、よく見ると彼女の背中には立派な白い翼が生えており、頭にも髪飾りのように小さな翼が付いている。


「私はセラフィモ族のユーエインと言います、よろしくお願いします」


二人は自己紹介をすると、丁寧にお辞儀をする。


「は、はぁ……私は蓮浜 深慧莉と言います、よろしくお願いします。あの、なんで私が新入りだと分かったんですか?」


「私たちブドン=ジュナ族はこの大地と繋がっています。そしてその気を読むことで大地からの祝福をこの身に取り込むことが出来、その取り込んだ力を使って暮らしているのです。ですからまだこの地に降り立ったばかりのあなたのような新参者の気は読み分けることが出来るのですよ」


「……」


「言いたいことはわかるよ、こいつら怪しいことしか言わないからね」


無言の深慧莉にシャラムがフォローを入れる。


「でも彼らしか蘇生の術は使えない、ブドン=ジュナの連中が来る前の蘇生術はあまり使いたくないからな」


「あのようなおぞましい魔術は蘇らせてはなりません!」


イサオの言葉に対し、急にトユナエィンが声を張り上げた。


「あれは禁忌の(すべ)です。あのようなものに人々が頼るくらいならば、私はこの身朽ちるまで人々の為、尽力しましょう」


何が彼の琴線に触れたのか分からないが、気合を入れ直す動作をすると、すぐに蘇生の準備を始めた。


(な、なにこれ?どういう状況?)


一人状況を飲み込めない深慧莉が目を泳がせていると、シスターであるユーエインと目があった。彼女は優しく微笑みを返してきたが、どこか表情に暗さがあった。


台座の上に遺体が載せられる、トユナエィンはその前に立つと手を前に突き出して組み、何やら聞き取り不可能な未知の言葉で何か呪文のようなものを呟いている。


すると、台座に刻まれた陣が青く輝き遺体を包み込んだ。青い光は輝きを増していき、深慧莉の視界を完全に青く染め上げた。


……青い光が落ち着いていく、光が完全に収まり静寂が場を支配する。


「成功したみたいだねー」


シャラムが誰に言うわけでもなく呟く。


遺体の指が微かに動く。そして目には徐々に光が戻っていき、完全に戻った瞬間、遺体が跳ね起きた。


「うわぁ!!」


「んはあ!!?」


深慧莉が驚きの声を上げる、すると遺体だった女性がその声に驚き、さらに声を上げた。

本編でも説明しますがルナルドネスの簡単な解説を。


ルナ:月


ル:語感が良いので入れただけ


(リザー)ド:トカゲ


(アマゾ)ネス:月の女神アルテミスを信仰する女系民族


の単語を組み合わせたオリジナルの種族です。


筋肉密度が高く、非常に強靭な肉体を持っている他、長くて太い尻尾を器用に扱い第三の手として使います。


個体全てが雌で、若い個体を被孕個体、成熟した個体を施孕個体と呼びます。


若いうちは施孕個体と番いとなって子を産み、成熟すると他の生物の雄から精液を取り込こんで作り替え、発達した生殖針を使って別の個体を孕ませるという変わった種族です。


創作の題材によく使われるアマゾネスと、雌だけで個体を増やせる一部のトカゲの習性を掛け合わせた空想の種族となってます。


この世界では翼を持つドラゴンマン/ドラゴンメイドからは自分たちだけで繁殖できず、地を這うだけだと見下されている上、他の種族から同一視されることもあるためか嫌われており。


対するルナルドネスも反骨精神の高さ故に、尻尾の扱いが下手なドラゴンマン/ドラゴンメイドを同様に見下している為、争いが絶えません。

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