始まりの終わり
────なんとなく死のうと思った
理由なんて簡単だ、「希死念慮に駆られた」っていうそれだけのこと、だからなんとなくなのだ
もっと言うなら、日常の中で自分が自分である理由……アイデンティティとでもいうのだろうか?それが私の中で消え去ってしまったのだ
私は今、近所の雑居ビルに侵入し屋上に向かって階段をゆっくりと昇っていく
月一でクビになるたびに新しいバイトを探して働いては怒られて、そのストレスを動画やSNSで発散して気がついたら歳も26になっていた
大学でちょっと話す程度だった人たちはみんな仲良く籍を入れて身を固めているというのに、私は未だに地雷系に分類されるファッションを身に纏ってチヤホヤされたがっている
ふいに、そんな自分が無意味で無価値に感じたのだ
そんな私は階段を登り切って屋上への扉のノブを捻った、鍵は壊れており軽く押すだけでアッサリと開く
「あ〜あ、ちゃんと修理しとかないからこうなっちゃうんだよ?」
昔このビルに入っているテナントでバイトした時に、屋上は鍵が壊れて扉が開いてしまうが絶対に入るなとご丁寧に説明されていた
「次からは余計なことは言わない方がいいんじゃない?佐藤さん」
扉を抜けて外に出る、気持ちいい夜風が私の旅立ちを祝っているようだった
私は街の喧騒をBGMに星々を眺めながら終点まで歩く、フェンスの前に着き下を眺めると街を行き交う人や車が見えた
私は黙ってフェンスの金網を登り始める、こう見えて
も運動神経には自信がある方だ
私は金網を越えて屋上の縁に着地すると街の景色を見渡した、これが最後に見る美しい景色だと思うと一際輝いて見える
そして最後に下を確認する、人とぶつかるとかいう迷惑を最期にやりたくない
「ま、結局色々な人に迷惑をかけちゃうんだけどね」
少しだけ親の顔がよぎる、でもそれは止める理由になるほど感情の動くものではなかった
「私ってほんと碌でもないよねー……あっ」
ふと、私は無意識のうちに屋上の外へと飛び出していた
自分の体が勝手にやったのか、それとも何かに押されたのか、どちらにしても私の体は真っ逆さまに落ちていく
(あ、もう決まっちゃったな)
妙に冷静な頭で私は達観した感想を浮かべる
少しずつ迫る地上を見つめ、走馬灯が瞬く中で最後に思ったのは
(これって死ぬ必要なかったかも)
だった。
そして、最後に聞こえたのは私自身の頭が砕ける音だった。