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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 英雄の受難
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小さな宿泊先

 寝起き1日目の作業は滞りなく終了。ってことで、ワンコとの初対面も終えた俺はアルフさん達と広場に戻ってきていた。もう日が沈み始めている。あと少しすれば辺りは真っ暗になるだろう。


 作業していた獣人達の姿もまばらだ。どうやら皆も皆で作業を終えてそれぞれの住処へ帰ったらしい。


 「あ! イヴくーん!」


 ふと元気な声が木霊した。歩みを止めて横を向けば、こっちに向かって元気よく手を振るコアちゃんの姿。横にはガラルさんの姿もある。

 手を振り返していると、コアちゃんが不意に駆け出し、そのまま俺の両手を握り込んできた。


 「お仕事終わった!?」


 「ああ、問題なく。そっちは? 午後も食料調達に行って来たんだろ?」


 「いっぱい採ってきたよ! 果物とか!」


 なるほど確かに、コアちゃんが背負っている簡素なカゴの中には、たくさんの果物が詰まっている。集落から何往復かしているだろうし、ガラルさんの分も含めればかなり集めてきたんじゃなかろうか。


 「凄いな。偉い偉い」


 「あっ……にへへ〜」


 現状だと俺よりもコアちゃんの方が背が高いので、少しだけ背伸びをしてコアちゃんの頭を撫で撫で。ふにゃっと笑みを浮かべるのを見て俺も満足気に頷いた。

 牢屋に居た頃にも思ったけど、やっぱりコアちゃんは誰かに撫でられるのを特別嬉しがる傾向にあるみたいだな。


 「ふぅん? 母さんが言ってたけど、コアに春が来たってそういうことね。確かに初めて見る顔だわ」


 「んに? どういうこと? ワンコ様」


 「イヴニアとコアは凄ーく仲が良いなぁってこと」


 「うん! ボクとイヴくんは仲良しだよ! ねー?」


 「うぶっ……まぁ、ね」


 仲良しなのは喜ばしい事ではあるが、クロエ然り今みたいにいきなり抱き着いてくるのは勘弁してほしいところではある。とは言えコアちゃんのはかなり優しめだけどさ。


 「こりゃトウレンは絶望的だわ」


 「トーくん?」


 「んーん、何でもない。それよりイヴニア、あなた泊まる所はどうするの?」


 「え、俺が寝てた建物に戻ろうかと思ってたけど」


 「あそこは普段なら資材倉庫として使われている場所よ。英雄様をいつまでもそこに押し込んでおく訳にはいかないじゃない」


 倉庫だったのか、あの建物。にしては何も無かったような……あいや、たぶん復興作業に当てる為に引っ張り出したとかそんな所だろう。


 「……? でも3ヶ月ずっとあそこに寝かされてたんだろ? 今更じゃないか」


 「それはあの怪しげな女がどうしてもと言ったからだ。よほど治療行為を見せたくなかったらしいな」


 「怪しげな……あ、ヤァムか」


 「うむ。貴様が目覚めた以上、もう奴の言葉に従う義理も無い。それに、俺達の近くに居た方が貴様としても何かと都合が良いのではないか?」


 「そりゃまぁ。わざわざ離れた場所で寝泊まりするよりかはね」


 「でしょ? 暗くなる前にその辺りも決めちゃいましょ。何なら私の家に来る? もれなく母さんも一緒だけど」


 ヴェロニカさんと一緒か。気を遣わなくてもよさそうだから楽そうではあるが、からかわれる未来しか見えないんだよな。主に恋愛関連で。


 「遠慮する。他に候補は?」


 「そう? ならアルフのとこは?」


 「えっ、い、いやぁ〜、アルフさんかぁ……どうだろ」


 「ハッキリ言えばいいだろう。和解したのもついさっきだからな。気を遣わせるのがオチだ」


 「は、ははは……」


 ごめん。それもあるけどアルフさんってめちゃくちゃ固いイメージがあるから単純に心休まらない可能性が高いんだ。

 何をするにも過剰に家主のご機嫌を気にする必要があるのは胃がキリキリして耐えられそうにない。


 「んー、じゃあウルズ?」


 「あ、いいかも。まだそこまで話してないけど、ウルズさんならそんなに気を張る必要も無さそうだし」


 こんなことで時間をかけてもあれなので、その案で行こうとしたら、不意にアルフさんが頭の上にポンと手を置いてきた。


 「やめておけ。ウルズの寝相の悪さは壊滅的だ。奴は今までに幾度となく寝ながら支柱を破壊して生き埋めにされてる」


 「そういえばそうだったわ……最悪イヴニアが蹴り殺されかねないわね」


 「えぇ……?」


 いくら獣人達の建築技術が高くないとはいえ、寝相が悪いだけで倒壊するもん? でも2人がこうまで言うってことは真実なのだろう。

 ならウルズさんもダメだ。せっかく生き延びたのに寝相に殺されるのは嫌過ぎる。


 「じゃあクロエ――」


 「却下で」


 「否定早っ。でもクロエも一人暮らしよ? そこまで気を遣わなくてもいいし、何なら眠ってるイヴニアのお世話もしてたし」


 「尚更却下だろ!」


 「何で!?」


 当たり前だろ! ワンコは見てないからそう言えるんだろうけど、こっちは皆の前で襲われかけたんだ! 一つ屋根の下でクロエと2人きりなんて恐ろしいこと出来るか! 仮にルナが一緒でも絶対強行してくるからなあの子!

 勘違いしないでもらいたいのは決してクロエを嫌っているわけじゃないってこと! ここ大事!


 「ワンコ様、クロエの所だけはやめておいた方がよろしいでしょう。翌朝イヴニアが枯れ果てた姿で発見される恐れもあります」


 「そうですね。アルフさんの言う通りかと。私としても恩人であるイヴニアくんが搾り取られて死ぬ様は見たくない」


 「そういうことだ。俺そんな死に方したくない」


 「え? ええ? ええぇ?」


 3人分の否定意見にワンコは困惑気味だ。分からなくてもいい。ここで生活していくうちに分かる時が来るから。


 「そこまで言うなら無理強いはしないけどさ。んー、他に顔見知りは居ないの?」


 「あとは最近知り合った……て言っても3ヶ月前だけど、ミャーコちゃんとトウレンくん。あと昼間に会ったばかりのレナイエさん。それと今ここに居るコアちゃんとガラルさんくらいだな」


 「なら、私達の家で寝泊まりするといい。コアもその方が喜ぶ」


 「いいのお父さん!?」


 「もちろん。おそらくイヴニアくんも、我々獣人の中ではコアとの交流が最も長いだろうしな。ヴェロニカ様からも牢に居た頃からの仲だと聞いている」


 「んに!? えっと、えと……あのね? お父さん。こっそり会いに行ってたのはその……」


 「ははは、分かってるよコア。それだけイヴニアくんが心配だったんだろう? 責めるつもりは無い」


 どうやら俺とコアちゃんが密会してたことは眠っている間にバラされたらしい。


 しかしなるほど、確かにコアちゃん達と一緒の方が一番安全かつ心の平穏も保たれそうだ。何よりガラルさんは常識人であり、コアちゃんもこの歳にしてはしっかり者の良い子。うん、うってつけだな。


 「泊まる所はこれで決まりね。ガラル、イヴニアを頼んだわよ。私達の恩人なんだから丁重にね」


 「はい、もちろんですワンコ様」


 「泊まる前に言っとくけど、変に畏まらないでくれ。丁重過ぎる扱いも無しで。そっちの方が気を遣っちゃうからさ」


 「ああ、分かった。コアも普段通りでイヴニアくんに接してあげなさい」


 「はーい! イヴくんとおっ泊り〜♪ 何しよっかな〜♪」


 「ふふ。ホント、嬉しそうにしちゃって」


 うん、横から引っ付いてるコアちゃんの尻尾が激しく振り回されて体に当たってるから、どれだけ喜んでいるのか文字通り体感してるよ。










 しばらく経ち、採取してきた果物や山菜などを食糧庫へ預けた後、俺はガラルさんに案内される形で目的地である自宅へと到着した。

 周りの建物同様、お世辞にも立派とは言えない外観ではあったものの、中に入れば生活感あふれる空間が出迎えてくれて少しだけ驚いた。ルミリスのエリザさん宅とはまた違った雰囲気だ。


 何というか……この素朴な感じ、昔を思い出す。忘れたい過去に刻まれた自分の家と少しだけ似ていて、僅かながらチクリと心が痛むのを感じた。


 でもあの頃とは違う。ここは、あの家には無かった温もりが確かにある。


 「さ、遠慮することはない。ようこそ我が家へ」


 「イヴくんこっちこっち! 見せたい物いっぱいあるから! ルーちゃん(・・・・・)も一緒に!」


 「ではお言葉に甘えましょう。いったい何を見せて頂けるのか、楽しみですね? イヴニア様」


 今は、俺を歓迎してくれる人が居る。それだけで、あの地獄よりずっといい。



 ……どうでもいいけど、ルーちゃんってルナのことか?


 似合わないなー、なんて思いながらコアちゃんの後を追っていくと、何やら大きな木箱を引っ張り出しているコアちゃんの姿が。

 この木箱も手作り感満載で凄い。もちろん直ぐ壊れそうって意味で。今度手を加えて補強してみるか。


 「んしょ、んしょ……!」


 「ほほう、これはまた興味深い物が出てきましたね」


 「なにこれ」


 木箱の中を覗いてみれば、中には大小様々な見慣れない物体達が所狭しと詰め込まれていた。宝石のような物もあれば小さな箱状の物もあり、仮面、指輪、何かの破片? と、その種類は多岐に渡る。


 コレクションにしては統一性が無いというか何というか。共通点があるとすれば、もれなくボロボロって所だ。


 「それは食料調達に行った際、度々コアが地面から掘り起こして持って帰ってくる物だな」


 「えっへん!」


 何故か誇らしげだった。


 「いやはや何とも、見る人が見ればヨダレを垂らしそうな逸品ばかりではないですか」


 「ん? これが何か知ってるのか? ルナ」


 「どういう物か程度ではありますが。これらは全て魔導具です」


 「へ〜魔導具…………はっ!? これ全部!!?」


 「えぇ。見たところ既に魔導具としての機能は失われてしまっているようですが、魔力回路の痕跡があることからまず間違いないでしょう」


 「うっそだろ……。仮にこれが全て魔導具だとしても、そんなポンポン掘り起こされるもんか?」


 「普通ならばありえないですね。私の調べによると、かつてリィベレーナには魔術の扱いに長けた獣人の一族が居たそうです。

 もしかしたらそれに関連しているのかもしれません」


 魔術だって? でも獣人は魔力を持たない筈だろ?


 「その情報の出処は?」


 「ヤァム様のゴミ部屋……もとい、私室にあった資料を掃除ついでに読み漁って得ました」


 そう言って胸を張るルナに苦笑を禁じえない。ホントに躊躇いなく主人のことベラベラ話すね君。


 でも何でヤァムがリィベレーナについての情報を持ってたんだろう。タイミング良く俺を助けてくれたことといい、ひょっとして前から此処に滞在してて調査か何か行っていたのかな。


 「信じていいのか微妙な所だなー。ガラルさんはどう思う? 獣人の視点から見てさ」


 「うぅん……魔術に長けた一族か。古い文献にもそういった物は記されていなかったし、信憑性は薄いと私は考えるが」


 「だよねー」


 「まぁヤァム様が持っていた情報ですので、信じるだけ無駄かと。あくまでも可能性の話ですからね」


 酷い言われようだった。


 ……魔力を使える獣人、ね。ガラルさんとルナはああ言ってるけど、実際これだけの数の魔導具がコアちゃんの手によって掘り起こされたのは事実だ。ありえないと切り捨てるのは早計かもしれない。


 「ねー、お父さん。まだ難しい話する?」


 「あ、ああすまないコア。こんな話ばかりじゃ退屈か」


 俺達がうんうんと悩んでいると、横から遠慮がちにコアちゃんが話しかけてきた。不満気な顔をしてるな、子供からしてみれば当たり前の反応だけどさ。


 ま、今そんなことを悩んでても仕方ないよな。


 「イヴニアくん。悪いんだがもうしばらくコアの相手をしてあげてくれ。私は食事の準備をして来よう」


 「手伝うぞ?」


 「それには及ばない。今日くらいは私に任せてくれないか? せめてものもてなしだ」


 良い機会だし食事の準備をするなら味付けの改善をと思ったんだけどな。こう言われちゃ頷くしかない。

 まぁ、どうせしばらくは厄介になるんだ。貢献できる時は今日以外にもあるだろう。


 「じゃあ任せるよ」


 「ああ。……そうだ、食事まで時間もかかることだし、今のうちにコアと風呂へ行ってきたらどうだ?」


 「風呂まであるの!?」


 本日何度目かの驚きに、俺は目を見開いたのだった。

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