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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 英雄の受難
91/105

獣人の姫

 食事も済み、現状の確認も出来た俺は、その後ヴェロニカさんに申し出て集落の復興に参加させてもらった。何もしなくていいとは言われたが、それでは納得できないので押し切った。

 コアちゃん達ともその場で解散だ。それぞれ任された仕事がある以上、話があるからと引き止める訳にもいかないからな。お礼はお預けである。


 獣人達の食事休憩も終わり、作業が再開されるだろう現場へ案内され、改めて周りを見て小さくをため息を吐く。

 ルナに連れてこられた時は復興の進捗に驚いたものだけど、3ヶ月経ってると聞かされた後に見ると全然進んでないように見えるから不思議なものだ。


 案の定、再び姿を見せた俺に殺到しようとする獣人達をヴェロニカさんが一喝して鎮め、アルフさん同伴の元で俺も作業に加わった。


 今回俺が手伝ったのは武器の修繕作業と、集落の外壁修繕。どちらも前世の知識を活かして難なく手伝えたのはいいが、獣人達の手捌きというか作業工程は……まぁ、正直に言うと酷いの一言に尽きる。


 まず武器だが、石の剣と槍。

 刃が欠けた物は削り直し再び活用。そこまでは分かる。でも肝心の削り方が雑にも程があったのだ。石と石を叩き合わせて良い感じに鋭くなった物をそのまま使用。柄が折れた物はそこら辺に転がっている枝をテキトーにツタで巻いて修繕と、武器造りに精通していない俺ですら頭を抱えるほどの雑さだ。

 こんなの下手をすれば一振りで壊れるし、逆に怪我の元だ。修繕と呼ぶには烏滸がまし過ぎるだろう。


 聞けば唯一武器の修繕を行える獣人がバジリスクの犠牲になってしまったらしく、現在修繕を行っているのは素人ばかりだそうだ。技術力が無い事に加えてド素人がやればそりゃ直せるもんも直せないわな。


 子供の工作並みの武器が山のように積み重ねられている光景を見た瞬間に目眩がしたのをよく覚えている。

 3ヶ月分の努力の成果を否定するのは非常に心苦しいものであったが、これでは武器ですらない。心を鬼にして作り直しの旨を皆に伝えた俺の心境たるや……。


 口だけ出すなら子供にもできる事である為、より説得力を持たせる為に手本を一つ見せてみた。兵士時代は装備の破損等は日常茶飯事であり支給品も限られていた。そんな中、限られた資源を有効活用し幾度となく装備の応急処置をしてきた俺にとって、石の武器を修繕する程度は容易だ。


 まずは槍。石の削り方から始まり、柄はなるべく強度の高い木を選んで新しく削り出し、バジリスク戦で学んだツタによる補強。


 次に剣。応急処置故に削った刀身はかなり簡素な物になってしまったが、こちらは柄が無事な物だけを修繕した。折れている物は潔く廃棄だ。


 一から丁寧に説明したつもりでも、獣人達の学習能力……と言うより手先の器用さと言うべきか。とにかくその辺りは人間よりも大きく劣っており、何度も何度もやり方を見せて何とか形になる程度には教え込めた。

 もちろん雑さや粗さは完全に拭いきれないものの、初めに比べれば雲泥の差。これで最低限の修繕は獣人達だけでも可能になるだろう。



 さて、次に俺が向かったのは集落の外壁。

 外壁……と呼んでいいものか怪しい隙間だらけの柵。いつだったか食料を求めて一時脱獄した夜、下調べもしていない俺があっさりと侵入できてしまう程度にはお粗末な出来とだけ言っておこうか。


 壊れていない部分がその有り様なのだから、バジリスクによって破壊され、獣人の手で修繕されているであろう外壁の出来は言うまでもないだろう。


 今にも折れそうなほっそい枝を簡単に組み合わせただけのそれは、家畜すら閉じ込めておけないと一目で分かる酷さだ。聞けば先程と同じく、こういった事に慣れている獣人はバジリスクの被害に遭い不在。仕方なく素人が作業しているらしいが、それにしたって酷い。酷過ぎる。


 素人なりに頑張ったのは痛いほど伝わってくる。でもこれじゃ絶対ダメだ。どうぞ通ってくださいと言わんばかりではないか。


 武器の時だって教えるのにかなり時間を取られたため、一から教える選択はせず、今回は別の手段を取ることにした。

 名付けて、技術は見て学び、見て盗め大作戦。ちなみに自分でもバカっぽいと思ったから声には出してない。


 アルフさんの許可を貰い、手頃な木を魔爪を使用して伐採。身体能力を最大限活かして枝と皮を取っ払い、再び魔爪で木を適当な長さに斬り分ける。

 簡易的な木材をこれでもかと量産し、跳躍を駆使して至る所に垂れ下がっているツタを回収しまくり、その勢いのまま一気に柵を組み立てていく。


 背中に獣人達の熱い視線を感じながら、只管に体を動かし続けてわずか数時間。全てではないが、かなりの距離の柵を修繕ないしは新しく作り直してみせた。この体だからこそ成せる技だ。前世ではこうはいかない。


 単純に壁を築いたのではなく、外側に向けて尖らせた木材も配置して外敵を寄せ付けないような造りに。ダメ押しに等間隔で壁に穴を開け、そこから槍を突き出せるようにもした。

 木材は全て力任せに深々と地面に突き刺したから、クロエ並みの怪力でない限りまず抜ける事はないだろう。完璧だ。




 以上が本日俺が手伝った内容である。

 身体的な疲労はほとんど無いが、やはり獣人達の技術力の低さが精神的に堪えたな。正直、人間の子供でももっとマシな物を造れるよ……。


 「へあぁぁ……疲れた」


 「お疲れ様ですイヴニア様。よろしければこちらをどうぞ、魔力を回復させるポーションです」


 集落から少し離れた森の中で腰を下ろし、ため息を漏らしていた俺へどこからともなく取り出したポーションを勧めてくるルナ。器用に足で掴んでいる小瓶の中には、真っ赤な色をした液体が入っていた。


 何処かで見たような気もするが……はて?


 「いいのか? 貴重な物なんじゃ」


 「お気になさらずに。ヤァム様は同じ物を腐るほど持っていますので、またくすねればいいだけの話です」


 そんな良い声でサラッとこそ泥発言しないでもらえないかな。まぁ気にしないでいいならありがたく貰うけども。


 「見たことの無いポーションだな」


 ずっと俺についてきていたアルフさんが興味深そうに小瓶を見つめている。普通のポーションは青か緑だから物珍しいのだろう。かく言う俺も同じであるが。


 「言ってみれば特別性ですのでね。効果の程は保証いたしますよ? ささっ、グイッと」


 「お、おう」


 怪しい怪しいと言われてるヤァムからならともかく、ルナが言うのであればとポーションを受け取り一気に仰ぎ飲む。

 味はお世辞にも美味いとは言えないが、それは他のポーションだって同じだから仕方ない。


 変化は飲んで直ぐに現れた。手伝いで動きっぱなしだった俺の魔力は、身体創造による消費で残り700程にまで減っていたが、ポーションを飲んだ直後に限界値まで回復。更に疲労感まで綺麗さっぱり無くなった。


 これには流石に驚かされた。元の世界で流通していたポーションでもここまで即効性がある物はお目にかかれないぞ。相当に高級品だ。

 こんな物を腐るほど持ってるヤァムっていったい……。


 「凄いな、あっという間に元通りだ。助かったよルナ」


 「勿体なきお言葉。イヴニア様のお役に立てる事こそが私の至上の喜び」


 もうこの態度にはツッコむまい。


 「んんっ、皆の手伝いも済んだところでだが。貴様――いや、イヴニアよ」


 不意にわざとらしく咳払いをしたアルフさんが、何やら俺の前に移動してきた。しかも何気に初めて名前呼ばれたんですけど。

 どこか気味の悪さを感じている俺を尻目にアルフさんはそのまま両膝をつき、いったい何を思ったのかいきなり頭を深々と下げてきた。


 「ちょっ、アルフさん!?」


 「止めてくれるな。これは俺なりのケジメなのだ」


 「ケジメって……」


 「貴様を人間だと早合点し酷い態度を取ってしまった事を謝りたい。すまなかった。

 それに、ガラルの言葉通り貴様が居なければ俺達が生き残る事もなかっただろう。前族長として、最大限の感謝を贈りたい。俺達を救ってくれて、ありがとう」


 酷い態度……あー、もしかしなくても初めて会った時の事を言ってるのか。確かに協力的な態度ではなかったな。ヴェロニカさんが居なければ問答無用で斬りかかってきそうな感じだったし。


 俺はもう気にしてないんだけどなぁ。アルフさん本人はそうもいかないのだろう。……って待った、今アルフさんなんて言った?


 「前族長!? それってつまり、アルフさんは元王様ってこと!?」


 「ああ」


 ひええぇ、知らなかったとは言え心の中でオッチャンとかジジイって言っちゃってたんだけど……! 声に出さなくてよかった! 元王様相手にそれは失礼過ぎる!


 「今更畏まる必要は無いぞ。これまで通り接してくれて構わん」


 「ど、努力はする」


 ヤァムの件、3ヶ月の経過、そしてアルフさんの暴露。1日でいろいろ起こり過ぎてそろそろ限界が近い。精神的な疲れはポーションでもどうにもならないし……いやぁ、しかしアルフさんがねぇ。


 「ふふ。……おや?」


 「どうした、カラス」


 小さく笑っていたルナがピクリと何かに反応する。視線は森の奥へ注がれており、俺もそっちを見てみるが当然何も無い。


 「奇妙な音が聞こえたような……いえ、私の気のせいですね。失礼いたしました」


 「いや、気のせいではない。俺の耳にはずっと聞こえている」


 確かにアルフさんの耳がピクピクと反応を示している。獣人だからこそ聞き取れているのだろうが、結局何の音がしてるんだ? 俺にも分かるように説明してくれ。


 「この先は鍛錬場だ。おそらくワンコ様が鍛錬をしているのだろう。あれ以来毎日のように通っていらっしゃるからな」


 「ワンコ? どっかで聞いた名前だな」


 「ワンコ・オージャ様。族長の娘だ」


 「へー、ヴェロニカさんの娘――って子供居たの!?」


 た、確かに9つで籍を入れたとか言ってたし、子供が居ても別に不思議じゃないけどさ。そういえば、俺が牢屋に入れられてた時に娘がどうのと話していた気が……うーむ、ヴェロニカさんの娘さんか。どんな人だろう。

 やっぱりヴェロニカさんに似て筋骨隆々な体をしているのかな。


 うっ、思い出したら男としての自信を無くしてきた。大体、獣人達はガタイが良すぎるんだよ。男性はほぼ全員見事に腹筋割れてるし、女性でも男性に負けず劣らずな人も居る。

 よく考えたらクロエだってヴェロニカさん程とは言わないまでも、しっかり割れてるしな。って考えると、やはりこの貧相な肉体には不釣り合い過ぎる。


 いやいや、俺はまだ成長期。レベルさえ上がれば立派な肉体を手に入れられる筈だ。悲観する必要なんて無いじゃないか。


 「会っていくか?」


 「えっ、いやいや、ヴェロニカさんの娘さんって事はお姫様だろ? そんな気軽に会っていいもんじゃ」


 「その王と気軽に話していて何を今更な事を言っている」


 わー、ド正論。でもさ、お姫様って王様に会うのとは別の意味でドキドキしない? 俺の考え過ぎかなぁ。


 「ワンコ様も貴様の目覚めを待っていた1人でもあるのだ。良い機会だから顔を出していけ」


 言うが早いかアルフさんが歩き始める。どうやら俺に拒否権は無いらしい。まぁいいけどさ、遅かれ早かれ顔を合わせる事にはなるだろうし。

 どの道しばらくこの国を離れられないのだ。早いうちに挨拶をしておくに越したことはないか。


 「はぁ……行こうか、ルナ」


 「どこまでもお供いたします」


 「ははは。あ、そうだ、飛んだり止まったりして面倒くさいだろ? 俺の頭に乗っててもいいんだぞ?」


 「滅相もありません! そのような畏れ多い事が出来ましょうか! むしろ私の背に乗っていただきたいくらいです! ささっ、遠慮なくっ」


 「遠慮するー」


 「ああ! ご無体な!」


 なんだろう……薄々思ってはいたけど、ルナはちょっと変なのかもしれない。本人がしないと言うなら無理強いは良くないので、そのままアルフさんの後を追う事にした。







 歩き続けること数分。随分と拓けた場所に到着した。木々を伐採して作ったであろうその空間には、何故か足の踏み場に困る程の木くずが散乱している。


 そしてその中心に、地面に突き立てた丸太相手に一心不乱に拳を殴り付ける栗毛の少女が1人。察するに彼女がワンコか……いや、さん? お姫様だから様の方がいいかな。

 もしかしなくてもこの木くず、全部丸太が砕けて積もった物だろう。相当の量だ、一体いつからやってるんだこれ。


 「はぁっ……はぁっ……っ、ぜぇぇいっ!!」


 気合い一撃。拳が丸太の中心を捉え、半ばから真っ二つに割れて吹き飛んだ。残ったのは半分になってしまった丸太だけ。見ればワンコ様の周りに似たような状態の丸太が山ほどある。察するに、全て今みたいにかち割られたんだろうな。


 年齢はコアちゃんよりも少しだけ歳上っぽい。ヴェロニカさん譲りの綺麗な栗毛が汗に濡れていた。鍛え込まれた薄褐色の肉体美、いい加減本当に自信が無くなってきたよ。

 にしても俺が想像してたお姫様のイメージとあまりに剥離してるんだけど。ゴリゴリの肉体派じゃないか。


 「鍛錬中のところ失礼します、ワンコ様」


 「はぁ……はぁ……アルフじゃない。どうしたの?」


 アルフさんが話しかけた事で鍛錬に夢中だったワンコ様がこちらを見る。チラリと俺を見て首を傾げた後、その視線は直ぐにアルフさんへと移った。


 「この者が少しばかり挨拶をと。邪魔でなければ少々時間を貰えますかな?」


 「別に邪魔じゃないけど、その子は? 獣人じゃないわよね。あのヤァムって人の知り合い?」


 「いえ、この者は――」


 「いいよアルフさん。自分で言うから」


 自己紹介くらい自分でせねば。人任せにしてお姫様に悪印象を抱かれるのもマズイしな。相手は一国の姫、立ち振る舞いや話し方にも細心の注意を払うべし。侮らないでもらおう、これでも兵士時代は口だけで窮地を脱した事くらいあるのだ。


 「お目にかかれて光栄です、ワンコ・オージャ姫。私の名はイヴニア。縁あって今はヴェロニカ陛下のお世話になっております、しがないドラゴンです。

 この度はワンコ様に謁見願えた事、誠に嬉しく思っております。今後しばらくリィベレーナにて腰を落ち着かせる事となった故、その挨拶をと思い馳せ参じた次第でございます」


 これでもかと丁寧な口調と所作で最大限の対応をしてみせた。その手の人達から見れば粗だらけかもしれないけどな。ちなみに所作はルナのお辞儀を参考にした。我ながら良く再現できてるとは思うが、果たしてワンコ様の反応や如何に。


 「えぅ……あ、えぇ……?」


 あれ? 思ってた反応と違う。何故か後退りしてるワンコ様の表情はとても硬い。耳と尻尾も元気無さ気に垂れてしまっているし……ひょっとして俺やらかした?


 「ちょ、ちょっとアルフ……! こういう時どう反応すればいいの!? 私こんな丁寧な挨拶慣れてない!」


 あ、違うわこれ、未経験故に戸惑ってるだけだ。


 「はぁ……」


 「おあ? なに?」


 ため息を一つ溢したアルフさんが、いきなり俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で回してきた。あんまり乱暴にしないでくれ、ただでさえ髪が長いのだから絡まったら面倒なんだよ。


 「貴様が居た国ではどうか知らぬが、ワンコ様相手にそこまで畏まる必要はない。最低限の礼儀さえ欠かさなければそれでいい」


 「え、そうなの?」


 「うむ」


 しまった、気合い入れた挨拶はむしろ逆効果だったか。むーん、その辺りの距離感とか見極めるの意外と難しいんだよなぁ。距離感おばけなクロエが少し羨ましく思えてきた。……いや、あれを例にするのは極端過ぎるな。


 「しかしながら、素晴らしい対応だったと私は思いますよ。特にお辞儀など、思わず感嘆の息を漏らしてしまいそうでした」


 「ありがとな、ルナ。お辞儀に関してはルナを参考にしたんだ」


 「なんと! 私を!? 嗚呼、感動のあまり天にも昇る気持ちです……!」


 ルナが感動に打ち震えているのは一先ず放っておいて、改めてワンコ様に向き直る。


 「じゃあもう一回。はじめまして、ドラゴンのイヴニアです。よろしくお願いしますワンコ様」


 「え、えぇ、よろしく。ワンコ・オージャよ」


 少しだけ戸惑いながらも、ワンコ様は笑顔を浮かべてくれた。


 「出来れば敬語はやめてちょうだい。呼び方もワンコで構わないから。私もあなたの事はイヴニアって呼ぶわね」


 「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 「よろしく。……ふぅん?」


 お互い挨拶も終えたところで、ふとワンコが興味深そうに俺の顔を覗き込んできた。いや、顔ってより目か。ジィっと俺の目を見つめて動かない。


 至近距離でここまで見つめられると流石に照れるのだが。


 「綺麗な紅い瞳。ねぇイヴニア、喰らう者が現れる数日前に私達は夜に会議をしてたんだけど、あなたもそこに居たでしょ?」


 ギックゥゥゥゥゥ!!! な、何故それを知ってるんだこの娘!? あの場にワンコは居なかっ……いや待て、よく思い出せ。確かあの時ヴェロニカさんの近くにもう1人座ってたような……そうだ、確かに居た! そんでその娘にバレて慌てて逃げ出したんだよ! ワンコだったのか!


 「図星ね。私こう見えても目は良い方なのよ。建物の隙間から見えた紅い瞳、しっかり覚えてるわ」


 「す、凄いなぁ、あははは。でも俺、別にやましい事をしてた訳じゃ――」


 「ウルズが夜食として取っておいた干し肉が何者かに盗まれ激昂していたが、それも知らんと?」


 「……な、何言ってるんだよアルフさん。こんな人畜無害な子供がそんな悪行するとでも?」


 「ふふ、イヴニアは嘘が下手ね? アルフ」


 「ええ、ウルズ並みかと」


 ちょっ! それはやめてくれよ! ウルズさんには悪いけど、同列に扱われるのは何か嫌だぞ!


 「凄く屈辱的なんだけど」


 「そ? じゃ、その干し肉泥棒の件はこれで手打ちにしましょ。それでいい?」


 「うっ……まぁ、盗みを働いたのは事実なので、異議なし」


 「決まりね。それにしても驚きだわ、あのドラゴンが本当に人間そっくりになってるんだもの。それって魔法?」


 「これはスキルだよ。身体創造っていう、あいや、ボディクリエイトの方が馴染み深いのかな?」


 「へぇ〜、スキルなの。それなら私もいつか使えるようになれるかしら」


 「どうだろ。俺もスキルに関しちゃ素人同然だし、他の人がどういう経緯でスキルを習得するのかも分かんないからな」


 「私達は基本的に他人から習って覚えるのよ。私は主に母さんとアルフから攻撃スキルを中心に学ばせてもらってるわ。まだまだ未熟だけどね」


 へぇ、教えてもらってスキルを覚えるのか。基本的に任意でスキルを習得する俺とはかなり違うんだな。ま、俺の場合は間違いなく呪いが関係してるからこその仕様だろうけど。


 「もしかして、今まさにそのスキルを鍛えてたりしてた?」


 「え? ああ、これ?」


 足元に散らばる木くずを何処か虚しそうに見つめるワンコ。俺の言葉を否定するように小さくを頭を振って、苦笑を浮かべる。


 「単なる憂さ晴らし、かしら」


 「何のとは聞かないけど、見た感じ相当溜め込んでるっぽいな」


 「そうね……自分への戒めもあるわ」


 「戒め?」


 俺の返答に対して答えづらそうに口元を歪めるワンコ。だが直ぐに、ポツリポツリと語り始めた。


 「……母さんが喰らう者に殺されそうになってる時、私、無我夢中で飛び出したのよ。後先なんて何も考えないで、とにかく母さんから注意を逸らさなきゃって。

 その目的自体は達成できた。でも、結果的に自分が殺されそうになって、しかも私を庇ったコアにまで大怪我を負わせてしまった」


 「……!」


 そうか、コアちゃんの怪我はワンコを庇って受けたものだったのか。


 「不甲斐なさ過ぎて自分に嫌気が差しちゃってさ。鍛えるって意味も込めて、あれ以来ここで鍛錬してるのよ」


 「……その気持ち少し分かるな。俺も自分の無力さに嘆いてた時期があった。あの頃は誰も居ない練兵場で夜な夜な訓練してたっけ。凡人だったからその努力も実を結ぶ事なく終わったけど」


 「そういえば貴様、剣を扱えると言っていたか。ドラゴンが練兵場で訓練とは、貴様が居た国の文化は不思議なものだな」


 「あっ、いやごめん。今の忘れて」


 「む?」


 思いっ切り前世の頃の話だったわ、うっかり。


 「私は凡人のままで終わるつもりはないわよ? いずれアルフさえ従える獣戦士隊長になるのが目標だもの」


 えらく自信満々に言い放つもんだ。でもアルフさんも強く頷いてるし、その才能は十二分にあるって事なのかもな。


 「気になってたんだけど、その獣戦士って結局なんなんだ?」


 「このルナーシャめがご説明いたしましょう。獣戦士とは読んで字の如く獣の戦士。つまり、獣人達の中でも特に戦闘能力に特化した者達の総称です。獣人は戦いとは切っても切れぬ縁であるからして、獣戦士になるという事は、彼ら彼女らにとっても大きな意味を持つのですよ。

 言い方を変えれば、国を守る精鋭部隊と言ったところでしょうか。ちなみに現在の獣戦士隊長はアルフ様となっています」


 おー、なるほど。確かに人間の世界でもそういう役割を持ってる人達は居るし、形は違えど同じ感じの立場って事なのかもな。兵士もそれに近い。とても精鋭部隊とは呼べないもんだったけど。

 というかアルフさん何気に上の立場じゃないか。流石は前族長ってか。


 「何でそこまで詳しいのよアンタ」


 「ふふん、イヴニア様からの質問には何でも答えられるよう、リィベレーナについての情報は全て頭の中に叩き込んであります。

 この国の歴史、獣人についてはもちろん個人情報に至るまで。例えばそう……ワンコ様が8つの頃までおねしょをしていた事も把握済みです!」


 「なっ!!? そんなの覚えなくていいわよっ! 誰から聞いたのよそれ!?」


 「もちろん、貴女のお母様からです」


 「よ、余計な事をぉぉ……!」


 個人情報ダダ漏れじゃないか。もしかしてヴェロニカさん、意外と口が軽い? だとしたらあんまりあの人の前でポロッと発言し過ぎない方がいいかも。何者かにドラゴンが狙われてる現状で情報の漏洩は極力避けねば。


 「族長もあれで親バカな面がある故な。ワンコ様の事を他の者にもよく自慢気に話している」


 「おねしょは自慢話に含まれないでしょうが!」


 まったくだ。至極当然の意見だし俺からは何も言えん。


 「あーもうあったまきた! こうなったら、喧嘩祭りで優勝して嫌でも私を獣戦士として認めさせてやろうじゃない! 子供扱いできないようにしてやるわ!」


 「え、喧嘩祭り?」


 「ああ。毎年恒例の祭りだ」


 「あー、それは知ってる。コアちゃんから大体の説明は受けてるし。でもその話を聞いた限りじゃ、喧嘩祭りって男がやるものだろ? ワンコには関係なくないか?」


 「例年通りならな。しかし今回は喰らう者によって多くの獣人が犠牲となってしまった。元々祭りに参加予定だった者も含めてな。それは他の集落も同じ事。

 数が減ったなら増やさねばならん。少しでもペアが成立するように、今回は特別に女も参加可能としたのだ。強い者に惹かれるのは何も女だけではないからな」


 「それってつまり、祭りで男と女が殴り合う可能性もあるってこと?」


 「いいえ。母さんが言うには男性の部と女性の部で分ける予定らしいわ。子供の参加者も同様にね。参加人数も大幅に増やすそうよ」


 なるほど、確かに一応は理に適ってる。バジリスクとの戦闘で獣人達の数が減らされたから、祭りで出会いの場を広げて補填しようって訳だ。

 男性の部では女性が惹かれ、女性の部では男性が惹かれ。ふむ、効率は良さそう。


 「理解した。でもヴェロニカさんも思い切ったな。あんな事があった後に例年通りに祭りを開催なんてさ」


 「だからこそだろう。実際、それのおかげもあって皆も前を向く事が出来ている。いつまでも失った者達へ哀しみを募らせ続けるより遥かに良いことだ」


 そっか……あんなに皆が明るかったのも、そういう理由があったからなんだな。


 「……あのさ、犠牲になった人達のお墓とかあるのか?」


 「無論だ。生き残った者達総出で丁重に弔った」


 「じゃあ、後で案内してくれ。せめて一言くらいは俺も伝えたい」


 「イヴニア様……」


 死んでしまった人達からすれば、お前誰だよって感じだけどさ。安らかに眠ってほしい気持ちは皆と同じだし、俺に出来るせめてもの贈り物だ。




 その後、俺はアルフさん案内の元、皆が眠るお墓へと足を運んだ。技術力に乏しい獣人達が頑張って作ったであろう墓の前で、ただ一言。


 お疲れ様、おやすみ。


 こんなに短い言葉でも、どうか届きますように。

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