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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 英雄の受難
89/105

運が良いのか悪いのか

 目覚めて早々の大騒ぎも何とか落ち着き、俺達は改めて食事を再開する事になった。騒ぎの中心だったクロエは現在、ルナが発動した拘束魔法によりグルグル巻きにされている。魔力で作られた紐がみっちり食い込んで凄い事になってるけど、今回ばかりは同情しない。


 それに日頃の寝不足が祟ったようで、拘束されてしばらくすると寝息を立て始める始末。


 ルナが魔法を使える事実に驚くよりも、しばらくは引っつかれる心配が無くなった事に安堵した。俺もう疲れたよ……。


 そう、クロエにくっつかれる心配は無くなったのだが。


 「わぁ〜」


 「……」


 「へぇ〜」


 「あの、コアちゃん」


 「んに? どしたの?」


 「そろそろ落ち着いて食事させてほしいんだけど」


 クロエを投げ飛ばした際、ちょうど食料調達から帰ってきたコアちゃんと合流し、そのまま一緒に食事をする流れになったまではいい。

 再会を果たして感極まった様子のコアちゃんに泣きつかれ、本当に救えたんだと実感して俺も嬉しくなった。


 問題はその後だ。

 再び身体創造で人間の姿になった俺を、コアちゃんがずっと物珍しそうにペタペタさわさわと触ってきて止まらない。クロエやレティシアみたいにずっと引っ付かれるより遥かにマシではあるものの、これはこれで気になって食事に集中できないのだ。


 「んー……もちょっとだけ」


 「えぇ……」


 散々触っただろうに何がそんなに気になるんだよ。ヴェロニカさん達も止めようとしないで生暖かい視線を送るばかりだし、一緒に帰ってきたガラルさんすら口元を綻ばせるだけで何も言わない。

 トウレンくんに至っては今にも俺を殺しそうな勢いで睨んできてる。嫉妬かっこ悪いぞ。


 「はー……ね、ホントにイヴくん? ホントにホント?」


 これまた何回も問われた質問だ。既に同じ問答を何度も繰り返してるってのに、飽きないもんかね。


 「本当に本当。正真正銘、牢屋にぶち込まれてたドラゴンくんだよ」


 「はえ〜、すっごぉい。これも魔法なの?」


 「これはスキル」


 「そんなスキルもあるんだ」


 「コア、嬉しいのも分かるが、そろそろ食べなさい。イヴニアくんも困っているだろう」


 助けに入るのが遅いよガラルさん。


 恨みがましくジト目を送ってみるが、苦笑を返されて終わった。当のコアちゃんは流石に父の言葉に逆らう気もないらしく「はーい」と素直に返事を返してガラルさんの方へ戻っていく。


 「んしょっ」


 そのまま自分用に用意された食事に手を付けるのかと思いきや、料理が乗せられたトレーごと持ち上げて小走りにこちらへ戻ってきた。

 さも当然の如く俺の隣に腰を下ろし、何事もなかったように食べ始める。


 まぁ、隣でおとなしく食べる分には一向に構わない。それよりも気になるのは、相変わらず痛いほど俺を睨みつけてきてるトウレンくんだ。まるで親の仇と言わんばかりの形相……怖っ。


 「にへへ、美味しいね?」


 「ん、そう……だな」


 やめよう。極力トウレンくんの方は気にしないようにして、今は食事に集中するのだ。


 既に何口か料理を食べてはいる。肉、魚、果物、野菜と、それぞれ満遍なく手を付けたのだが……うーん、物足りない。

 量という意味では全て食べても腹八分目ほど。満足とはいかないものの、そこに関しての不満は無い。気になるのはやはり、味だ。


 なるほど確かに加熱調理した肉や魚の旨味は感じられる。しかしそれだけだ。本当にただ焼かれてるだけで味付けも何もあったものではない。

 作ってもらっておいて贅沢を言える立場かよとは思うが、気になるものは気になるのである。牢屋に居た時は空腹が最高のスパイスとして働いてくれていたからこそ非常に美味く感じられた。


 でも今は、あの時とは違う。


 「浮かない顔だなイヴニア」


 「んえ? 顔に出てた?」


 「ありありとな。口に合わんか?」


 どうやら無意識にしかめっ面をしていたらしい。俺って結構顔に出るのかな……気を付けないと。


 「いや、美味しいは美味しいんだけど……んー」


 「んは、遠慮はいらん。お前はもうオレ達の家族も同然なのだ。下手な気遣いは無用と知るがよい」


 英雄の次は家族ときたか。ドラゴンと獣人が家族って無理があり過ぎるだろ。なんてツッコむのは無粋かな。


 「……獣人って味付けはしないのか?」


 「味付け?」


 「ああ、主に人間達が料理の際に行う調理行程の事ですよヴェロニカ様。私も詳しくは知りませんが、同じ食材でも色々な味を楽しめるようになるとか」


 「ふむ、例えば?」


 「えーっとですね……」チラッ


 補足説明をしてくれたガラルさん自身もよく分かっていないらしく、助けを求めるように俺を見てきた。


 2人の反応を見る限り、もしかして獣人には味付けの文化自体が無いのかもしれない。


 「例えば、この肉の味が甘くなったりとかだな。事細かな説明をしだすとキリが無いから省くけど、基本的にはどんな食材でも味を変える事が出来る調味料って物がある。

 辛味、甘味、苦味、他にも色々。全て把握するのは無理ってくらいたくさんあるよ」


 「すごーい! 魔法みたいだね!」


 言い得て妙だなコアちゃん。確かに料理ってのは極めれば魔法と言われてもおかしくない。


 「ドラゴンの割に随分と人間の文化に詳しいのだな」


 「えっ」


 不意にぶつけられたアルフさんの言葉に息が詰まる。表情から察するに疑ってる感じはしないな。どちらかと言えば純粋に疑問をぶつけられたって感じだ。


 んー……これは別に言ってもいいのかな。流石に前世の事は伏せて、ルミリスで過ごしてた時期の事なら構わないだろう。


 「まぁ、実際に人間と過ごしてたからな。その時に色々と料理を食べてたから知ってるだけ」


 「ドラゴンが人と共存しておったのか?」


 「ああ」


 「……にわかには信じられんな」


 あれ? 意外な反応。いや待て、別に意外でも何でもないだろ。前の世界ではドラゴンとの共存などまず考えられない事だし、それが当たり前だった。

 ヴェロニカさんの反応然り、やはりドラゴンを王として崇め共存しているルミリスの現状こそがあり得ない事なのかもしれない。


 「そういえば、前にコアちゃんが言ってたけどさ」


 「ボクが?」


 「ああ。ドラゴンは危険な存在だって話。まぁそれは間違っちゃいないし、問答無用で牢屋にぶち込む程度には危ない存在だという自覚もある。何せスキル一つで森を焼き払っちゃうくらいだからな。

 ヴェロニカさん達が俺を捕らえてたのも、そういう意味で警戒してたからなんだろ?」


 「いや、少し違うな。イヴニアが危険かもしれんという意味はもちろんあったが、オレが本当に警戒しておるものは他にある」


 「それは、ドラゴン以上に?」


 「うむ。と言うのも、今は世界的にドラゴンが狙われておる状況になっていてな。誰が何の目的でそんな事をしておるのかはまったく分からんが、ドラゴンを狙って来た者達の凶刃が、その国に住む者達にも及ぶ事態が多発しておるのだ」


 「実際、海を渡った先にあるドワーフの国が、ドラゴンを庇ったせいで多くの死者を出したと聞く。

 そういう事があったからこそ、私達はイヴニアくんを人目のつかない場所へ捕らえておく他なかったんだ。ドラゴンが居るとその何者かに知られれば、私達にも被害が出かねなかったからな」


 「んはっ、まぁガラルはイヴニアを見つけた当初、災いを避けるためにトドメを刺そうとしておったらしいがな」


 「そ、それは言わないでくださいっ。あの時は本当にコアの行動に救われました……。

 もしあのままイヴニアくんを見殺しにしていたら、今頃私達は喰らう者に全滅させられていたでしょうから」


 「にへへ〜、よく分かんないけど褒められてる気がする!」


 そうか……俺を捕らえていた裏にはそういう事情もあったんだな。そしてどうやら、そこでも俺はコアちゃんに救われていたらしい。

 頭が上がらないというか何というか、本当にいい子だよこの娘は。


 にしてもドラゴンが狙われている、か。心当たりがあり過ぎる。そのドラゴンを狙っている連中と俺を襲ってきた2人組、偶然と呼ぶにはあまりに出来過ぎた話だよな。

 確証は無いが、無関係と切り捨てるには共通点が多い。


 「そのドラゴンを狙ってる奴等について他に情報は?」


 「無い。何分(なにぶん)他国の事だからな、稀にリィベレーナへ来る商人から大まかな襲撃内容を聞いた程度だ」


 詳しい情報は無し。でもドラゴンが狙われてるのは紛れもない事実だ。

 こうなってくると、復興の手伝いどうこうなんて言ってる場合じゃないかもしれない。こうしている今もルミリスが襲われていないとも限らないのだから、一刻も早く母様達の元へ帰るべきだ。


 「……あぐっ!」


 少々行儀が悪いとは思いつつも、残りの料理を豪快に食べていき、禄に咀嚼もしないで胃袋の中へ押し込める。

 突然の行動に皆が目を丸くしていてもお構いなし。最後に残った果物をかじり終え、再び視線をヴェロニカさんへと向けた。


 「ヴェロニカさん、リィベレーナから船は出てる?」


 「船? どうしたのだ突然」


 「そのドラゴンを襲撃した連中には心当たりがある。というか、そいつらのせいで俺は自分の国からここへ飛ばされてきたんだ。

 可能なら今日中にでもリィベレーナを出発したい」


 ここを出て行く。ハッキリと告げた言葉に、視界の端で寂しそうにするコアちゃんの顔が見えて何とも言えない気持ちになった。

 後ろ髪を引かれる思いではあるけど、心を鬼にしなければ。俺にもコアちゃん達と同じように家族が居るのだ。


 自分の子を殺すようなクズではなく、偽りの無い愛情を注いでくれる家族が。


 「オレ達には技術力が無い。見ての通り家屋の出来も酷いものだ。当然、船などといった大層な物は作れん」


 っ、そうか。確かに家を満足に建築できないのだから、船を作れる道理もない。仮にその技術力で作れたとしても、無事に辿り着けるか怪しいものだ。


 船がダメとなれば……やはりスキルか。

 未だ一度たりとも発動してくれていないが、空を飛べる飛翔のスキルで海を渡る手も――。


 「(いや、不確定要素が多い。たとえ飛翔を使えるようになったとしても、辿り着く前に魔力が切れてしまえば海に真っ逆さまだ)」


 であればやはり船が必要になってくる。困ったな……前世では任務先で資源やら何やらが底をついた時、現地調達で下手くそなりに様々な物を作ってきたものの、流石に船を作った事はない。


 「んはっ、そう残念そうな顔をするなイヴニア。船が無いとは言うておらんだろう?」


 「え、でも船は作れないんだろ?」


 「先ほど言うた通り、稀にリィベレーナへ訪れる商人が居る。顔見知り故、オレから頼めば快く乗せてくれる筈だ」


 なるほど商人か! しかも王であるヴェロニカさんと顔見知りならば、まず乗船は確定的! いいぞいいぞ、ツイてる!


 「その商人はいつ頃来るんだ!?」


 「分からん!!!」ドヤッ


 その一言で盛大にズッコケた俺はきっと悪くない。

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