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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 英雄の受難
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思惑通りにはいかない

 ハッキリと死んでしまった感覚はあったのに、こうして誰かと話せているのが本当に不思議だ。夢ではないだろう。こんなにも現実だと感じれる夢があってたまるものか。


 ヤァムには本当に感謝だな。あれだけの深手を治療できるとなれば、彼女は相当に腕の立つ魔術師って事だ。そんな存在がたまたま居合わせてくれるなんて、俺ってば悪運強過ぎる。


 ……あ、魔術師って事は。


 「なぁヤァムさん」


 「呼び捨てにしろ。さん付けは気持ちが悪い」


 「そう? ならヤァム、ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」


 「あん?」


 ルミリスに居た頃は身体創造も覚えていなかったし、ここに来てからもバタバタしてて誰かに聞く暇がなかった。

 何を? と問われれば、俺の胸に刻まれた紋様についてと答えよう。この呪いについて、一流の魔術師ならば何か知っているんじゃないかという淡い希望を抱いて、俺は服を捲り上げてヤァムに見せた。


 「この紋様に見覚えとかある? 呪いの類らしいんだけどさ、情報が無いんだよな」


 「紋様? ……んー? どこに?」


 「えっ、どこって、胸のど真ん中にデカデカとあるだろ?」


 「ウチにはお前の乳首くらいしか見えないぞ」ツンツン


 「うひゃん!? 突っつくなよ……!」


 お礼は遠慮するくせに、こういう所は積極的なのな。俺が捲ってるとは言え人の乳首を軽々しく触るなよまったく。


 「可愛い声出すんだなお前。まぁ女なら当たり前か」


 「俺は男だ!」


 「いやいやそれは無理があるだろ。そもそも身体創造(ボディクリエイト)は性別を越えるような大きな変化は出来ないもんだ。

 人間に姿を変える場合、男は男の見た目、女は女の見た目に必ずなる。人外なら話は別だがな」


 また知らない仕様が……奥が深いな身体創造。ってそうじゃない! これだけはしっかり否定しとかないと、今後俺は女としてヤァムに扱われる事になる! そんなの他ならぬ俺が嫌だ!


 「だから! 本当に男だってば! というか、男だと思ってたからこういう服を渡してきたんじゃないのか!?」


 「いいや? 女の服は何かとヒラヒラだったりスケスケだったり手の込んだ物が多くて創るの面倒くさいし、余計に魔力使うから男物にしたまでだよ」


 なんてこったっ!!! なら面倒じゃなかったら俺は女物の服を渡されてたって事かよ! 冗談ではない!


 「あっ、胸――」


 「胸が無いからは理由にならないぞ。ウチだってペッタンコだし」


 「お、おう……なんかごめん」


 「うるせー謝んな」


 不機嫌そうに眉を顰めてる辺り割と本気で気にしてそうだな。女性の身体的特徴をあれこれ詮索するのはマナー違反だし、この話題はやめよう。


 「……で、本当に見えないのか?」


 「男には見えないな」


 「だー! 違うってば! わざとだろ!?」


 「キヒヒッ、面白い奴」


 その笑いは確信犯だなチクショー。ふん、まぁいいさ、何とかしてレベルアップを果たし、男らしく成長してやるからな。俺が女だと言ってられるのも今のうちだ。


 「言っとくが、その紋様とやらについては本気の本気でからかってない。ウチの目には何にも映ってやしないぞ?」


 「えぇ? そんな馬鹿な」


 白い肌に赤い紋様。これだけ目立つのに見えませんはいくらなんでも嘘が過ぎるだろ。でもヤァムが嘘を吐いてるようには見えないし……うーん?


 「お前の妄想ってオチじゃないよな?」


 「俺がそんなに痛い奴に見えるか?」


 「どう考えても女なのに男と言い張るヤベー奴には見えてるが」


 だぁぁぁぁもうっ!! まだ引っ張る気かコンニャロウ!! そのニヤニヤ顔引っ込めろ! 恩人とはいえ張っ倒すぞ!?


 「怒っていいか?」


 「はいはい悪かったよ。参考までに聞いてやるから落ち着け。で、その紋様ってのはどんなのだ?」


 「ったく……こう、爪痕みたいな3本線で、赤く光ってる感じなんだけど」


 謎空間については流石に黙っておこう。それを言ったらさっき以上に弄られる可能性が高いからな。はぁ……俺は本当のこと言ってるのに、解せん。


 「3本線の爪痕……そんな刻印が刻まれる呪いなんかあったか? それが本当だとしてもどうしてウチには見えない?

 ……ちなみに、その呪いはどんな効力を発揮してるんだ?」


 「えっ、あぁ〜……身体的な成長が著しく遅くなる呪い、かな?」


 まさか真実を言える訳もなく、俺はそれらしい事を言って誤魔化す事にした。デーモン様について話したら、それこそ本格的に俺は可哀想な者を見る目を向けられるだろう。

 でも成長が遅いってのは間違っちゃいないからな、嘘は吐いてない、うん。


 「ふぅん……ウチも呪いに関しちゃ、そこそこ知識のある方だと自覚してる。が、そんな呪いは初めて聞いたな。

 かと言って単純にお前の戯れ言だとも思えない。実際、本当に成長が遅くなってるならお前の大人びた言動にも納得だからな。その歳のガキがこんなにも流暢に喋るものかよ」


 お、意外にもすんなり信じてくれたっぽい。大人びてるのは俺が実際に大人だからなのだが……まぁこれも言わなくていいだろう。


 「ウチの知らない呪いか。唆られるな、試しに解剖してみていい?」


 「ダメに決まってんだろ!?」


 「はっ、冗談だ。真に受けんなよ」


 いや、今の完全に冗談の声音じゃなかっただろ。この娘見た目に反してかなり危ないんじゃ……?


 などと俺が戦慄しているのを尻目に、ヤァムが徐に立ち上がる。そしてパチンと指を鳴らしたかと思えば、ヤァムの手に何処からともなく現れた1本の赤い杖。

 素人目に見ても立派な物だと分かる。細かな装飾が施された美しい杖だ。


 「それは?」


 「こいつは魔導の御手(みて)。何を隠そうウチが作った魔導具だ」


 「作った!?」


 本当に何者なんだこの娘! 魔導具ってそんな簡単に作れる物じゃない筈だろ!?

 確か、複雑な魔力回路がうんたらかんたらと前世で聞いた事があるし、よっぽど魔力の扱いに長けた使い手じゃないとまず作れないとも聞いた。


 「ヤァムってもしかしなくても凄い人……?」


 「おお、ウチは凄いぞ。魔力操作、量共にそこいらの奴にはまず負けない」


 へぇ〜、そこまで言うほどなのか。世間は狭いというかなんというか、そんな凄い存在に巡り会えるなんてな。魔力やら魔法やらについてはからっきしの身だからこそ、その凄さは分かる。


 「……まぁ同じ魔女の中じゃかなり底辺だけどな」ボソッ


 「んあ? なんだって?」


 「ウチ最強って言っただけ」


 お、おう……そーなのか。いや、案外本当かもしれない。

 俺が知る限りだと、この世界で一番の魔法の使い手はおそらくサヤさんだろう。ルドルフさんとの小競り合いで起きた巨大な火柱はまず間違いなく魔法によるものだろうし。あの時は衝撃波で吹っ飛ばされて頭をぶつけたっけ、懐かしい話だ。


 いや、待てよ? 俺の皇雷然り、スキルでも馬鹿みたいに高威力な物もある訳だから、一概に魔法によるものとは限らないのか。だとしたら、あの火柱はルドルフさんのスキルが起こしたものとも考えられるし、そもそもルドルフさんの魔法って線も……うぅむ、判断に困るところだ。


 「こほん。で、ウチがこれを取り出した理由についての質問は?」


 「……自慢か、手品?」


 「それもある」


 あるんかい。


 「イヴニア、察するにお前、魔力の消費で悩んでたりしてるだろ」


 「ん、大いに悩んでるな。特に身体創造による魔力消費で」


 「ドンピシャ。まぁその歳にしちゃ魔力保有量はやたら高いが、身体創造(ボディクリエイト)を常用していくにはハッキリ言って心許ないにも程がある」


 「うんうん。……ん? 俺の魔力量がどれくらいか分かるのか?」


 当然の疑問をぶつけてみれば、何やらヤァムが指で輪っかを作り右目の前へ。そうして不敵な笑みを浮かべた瞬間、ボウっとヤァムの右目が淡く光った。


 「魔力鑑定(マナライズ)。こいつはウチのスキルでな、相手の魔力がどれ程のものか看破する事ができる」


 へぇ、目を使ったスキルか。そういえば母様も瞳の力で俺の跳躍を抑制してたけど、あれもスキルなのかな。

 見るだけで効果が発動するって考えたら、かなり使い勝手は良さそうだ。次に謎空間へ行った時にスキル一覧を確認してみよう。


 「とまぁそういう訳で、これはウチなりのお節介だ。お前に一つ選択肢を与えようと思う」


 「選択肢? いきなりだな」


 「この魔導の御手は、簡単に言えば対象の魔力を強化する魔導具だ。具体的にはウチの魔力をこいつで吸い取って、他者に譲渡できる効果があってな。

 もちろん譲渡された魔力は好きに行使できる優れ物だぞ?」


 「譲渡、ねぇ。それと選択肢になんの関係が?」


 「ズバリ、ウチの魔力を受け取るか否か」


 ふぅむ……そりゃ魔力を貰えて、しかも自由に使えるってんなら願ったり叶ったりだ。燃費の悪い身体創造を行使するのにも一役買ってくれること請け合いだろう。


 しかし、世の中そんな上手い話は無い。魔力を与えてもらう代わりに対価を支払うのか、それとも譲渡された場合何らかのリスクが伴うのか。或いはどちらもか。


 「上手い話には裏があるってね。代償は?」


 「受け取るだけなら特に無い。だが譲渡された魔力が尽きた時、お前の生命力の一部を対価として頂く事になる」


 「……それって、寿命?」


 「まぁそんなとこだな」


 「論外。断る」


 即答であった。


 これで苦痛が伴うとか、しばらく魔力が使えなくなるとかなら、まだ悩みどころではあった。でも寿命が減るってんなら話は別だ。

 前世とは違い、今の俺の命は自分だけの物じゃないんだ。大切な人の為に使うならまだしも、自分の為に寿命を縮めるような真似はできないな。


 「チっ……そこまでバカじゃないか」ボソッ


 「なんだって?」


 「勿体無いなーって言っただけ」


 あ、そう。確かに勿体無くはあるけど代償が代償だ。こればかりは譲れない。


 ヤァムが小さくため息を吐く。すると手に持っていた杖は光の粒となって消えていった。何やら深々と帽子を被り直して、そこから薄っすらと覗く瞳が妙に鋭く見えたのは気のせいだろうか。


 結局その答え合わせは出来ないまま、ヤァムが踵を返して部屋の出口へと歩みを進め始める。


 「どこに行くんだ?」


 「帰る」


 ええ〜、いきなり過ぎない? ひょっとして断られた事が気に入らなかったのか?


 「ま、そのうちまた会いに来てやるよ。じゃあな」


 「あ、ちょっ……!」


 引き止める暇も無く、ヤァムは出て行ってしまった。


 何か、悪い事しちゃったかもな。遠慮してたとはいえ、助けてもらった上に身体創造についてもいろいろ教えてもらったんだから、もっとちゃんとしたお礼がしたかったんだけど……。


 それにヤァムには悪いが、俺ここに長居するつもり無いんだよなぁ。バジリスクを打ち倒して恩を返した以上、早いとこルミリスに帰って母様を安心させてあげたいし。


 「黙って行く……のは流石にダメだよな」


 ここが獣人達の住処だとするなら、ヴェロニカさん達に一言も無く出て行くのは憚られる。そう思う程度には俺は彼女達と深く関わり合ってしまった。


 それに何よりも、元気になっているだろうコアちゃんに一目会っておきたい。今度はドラゴンの姿ではなく、人としての姿で。ちゃんと言葉を交わしたいんだ。


 俺を助けてくれた事、牢屋での日々。全部ひっくるめて、ありがとうを伝えなきゃ。


 「よしっ、行くか」


 身体創造の持続時間も限られてるのだ。ササッと会いに行って、ちゃんとお別れを言って出発しようじゃないか。うん、それがいい。


 思い立ったが何とやら。俺もその場から立ち上がり、ヤァムの後を追うように出口へと向かうのだった。

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