何事も程々に
「これとこれ。あとは〜、そっちのハムも!」
「はいよっ。しっかしレティシア様、今日はまた随分と入用じゃないですか」
「サヤの分も欲しくてね。お酒のアテに持って行くんだよ」
「あ〜なるほど、納得しましたわ」
訓練場を後にして暫く屋根の上を走っていた私は、下の方から香ってきたいい匂いに釣られて降りてきていた。
人で賑わう路上に開かれた屋台。肉を焼く香ばしい匂いの出処はここだ。
シンプルに焼かれた肉や燻製された肉。タップリの油で揚げられた肉もあれば、生肉だってある。ついつい口の端からよだれが零れ落ちそうになった。
ここは街でも有名なお肉屋さんが出してる屋台。見かけたら絶対に立ち寄るくらいには私も大ハマりしてるんだよねぇ。
店長のグリアーノにはいつもお世話になってて頭が上がらない。
「でしたらこれもどうですか? 上物ですよ?」
「うあぁぁっ! 確かにっ!」
グリアーノが足元の保存箱から取り出したのは、大きな肉の塊。しかも脂が乗りに乗った絶対美味しいやつ! これは私じゃなくても食べたいやつだ!
「い、いくら?」
「お高いですよ? レティシア様価格でオマケしたとしても銀貨15枚ってところですかね」
「値段に容赦がないっ。一番安い肉串100本以上は買える……!」
「ふふふ、これ以上は安くなりませんのでね」
不敵に笑ってみせるグリアーノと肉を交互に見たところで、どう足掻いても手持ちのお小遣いじゃ足りない。月々に母さんから貰えるお金はせいぜいが銀貨1枚。
肉に手が届くまで1年以上かかるし、そもそも貯まったところで肉はとっくに腐ってる……!
「はぁぁぁ……今回は諦めるよ。逆立ちしたって買えないしさ」
「そいつは残念。またの機会をお待ちしておりますよ」
私が買えないと分かってて見せたんだろうなぁ。憎たらしいニヤニヤ顔がいい証拠。
別にこれくらいで怒りはしないし、むしろグリアーノの接し方は好感が持てる。他の皆も凄く良い人達ばかりだけど、ほとんどが堅苦しい感じだから気疲れするんだよね。
そういう人達の中でも、母さんの娘ってだけで私に無償で売り物を渡そうとしてきたりが一番困る。特別扱いなんて真っ平なのに……これってわがままなのかな。
嬉しいは嬉しいよ? でもやっぱり、普通にお金を払って買い物してる他の皆に悪いからさ。そういう意味での特別扱いは本当に嫌なのだ。
だからこそ、グリアーノみたいな存在は貴重なんだよね。
「ま、このまま帰しちゃシェラメア様にも顔向けできませんし、代わりに肉串2本オマケしときますよ。レティシア様とサヤちゃんの分ね」
「ん〜、いつもなら受け取らないところだけど、グリアーノだからお言葉に甘えておこうかな」
「そいつはどうも。今後もご贔屓に頼みますよ」
「それは頼まれなくても通うから安心してほしいかな。はい、代金」
「毎度ありっ」
袋に詰めてもらった肉を両手で抱えて踵を返し、再び屋根伝いで目的地を目指す。
時折私の存在に気付いて下から手を振ってくれる皆に応えながら駆けた。
空はだんだんと茜色に染まり始めている。ルドルフが言っていた通り、もうじき日暮れだ。あんまり遅くならないように、出来るだけ急がなきゃ。
――……。
ひた走ること数分。ようやく目的地であるサヤの家に到着した。
街の中心からは少し離れて、ポツンと建っている一軒家。大小様々な植物と、見た事もない魔導具が外に並べられていたりと、いつ来ても近寄り難い雰囲気を受ける場所だ。
まぁ、私はもう慣れちゃったけど。
「サヤ〜、居る〜?」
扉越しに中へ呼び掛けてみる。しばらく待っても音沙汰は無く、ノックも何度かしてみたけど無反応。
困ったな。出掛けてるのか、実験に夢中になっているのか、はたまた寝ているのか。
可能性として一番高いのは最後。サヤはいつもお酒片手にほろ酔い状態だから、寝ててもおかしくない。それこそ出掛けた先で寝こけているなんてザラだし。
美人さんなのに襲われるかもとか考え……る訳ないよね。ローエンダリアじゃサヤを知らない人はまず居ない。もちろん、その強さについても広く知られてる。
一時の欲情に身を任せて下手にサヤへ手を出そうものなら、それこそ丸焦げにされてしまうに違いない。
だから男性に襲われたりはまずありえないんだよね。
「しょうがない。思考伝達」
家に居ないとなれば直接本人に確かめればいい話。私が今発動した魔法は、事前に繋がりを結んだ相手と遠く離れていても会話が出来る優れもの。
サヤ曰く、魔力操作に長けていないと使えない難しい魔法らしい。あの母さんですら使いこなせてないからなー。
それを難なく使える私。密かな自慢だったりするんだよね、えっへん。
『サヤー。聞こえてるー? どこに居るのー?』
『……』
魔法を通して呼びかけてみるものの反応は無し。これでサヤが寝こけている説が濃厚になった。
起きてたら私の呼びかけには即対応だもん。今回はどこで寝てるのやら。時間も時間だし、このまま起こしてしまおうかな。
『サヤー!!! ぅ起ぉぉきろぉぉぉぉぉぉっ!!!』
「うきゃああっ!!?」
「わあっ?!」
これでもかってくらいの大声を魔法に乗せて送った直後、家の前に聳える木の上から素っ頓狂な声を上げながら誰かが落ちてきた。
「びっくりしたぁ……って、サヤじゃん」
誰かと思えば、落ちてきたのはまさに今魔法で呼びかけていたサヤ本人だった。
寝ているとは思ってた。でもまさか木の上とは予想外。どこか猫っぽいサヤらしいと言えばらしいけど、びっくりするからやめてほしいよね。
「うわーあ、酷い格好」
手には酒瓶。漂ってくる酒気から相当に飲んでいるっぽい。着物と呼ばれる変わった服装は乱れに乱れ、色んなところが丸見え状態だ。
男が見たらそれはもう食い付きが凄いだろうね。生足だったり、その奥に見えるセクシー過ぎる下着だったり、上半身に至ってはおっぱい丸出し……今日は一段と酷いや。
「うぅ〜、痛い〜……あえ〜? レェィシャァ様じゃないれすか〜。ごひへんよぉ〜、うふふふ〜」
「うわ、ほろ酔いどころの騒ぎじゃない。珍しいねサヤ、お酒にはトコトン強いのに。呂律回ってないじゃん」
「わらしらって酔いつふれたいんれふ〜! らからおしゃけ自作して〜……ひっく……しゅんごいのれきちゃいまひた〜!」
新手の暗号か何かかな……本当に酷い状態だ。たぶん過去一。
皆でお酒を飲む機会は数え切れない程あったけど、ここまでサヤが酔い潰れてるのは本当に珍しい。
あのルドルフもなかなか酒豪なのに、サヤはケロッとした様子で飲み比べにも勝っちゃうからなぁ。それがこの有様。
えーっと? つまり、そういう事なのかな?
普通のお酒だと酔い潰れられないから、自分が酔うくらい強いお酒を自作した結果、こんな事になってると。
手に持ってる酒瓶の中身がそうなのかな?
「ゔっ!? 〜〜〜〜っっ!!!!?」
試しに酒瓶の中身の匂いを嗅いでみたら、想像を遥かに超えた匂いに悶絶した。嗅いだだけで意識飛び掛けたよ! 何これ!?
お酒ってよりも毒の類なんじゃ……こんなのを飲まないと酔えないサヤっていったい。
「こりぇ売りらしぃたりゃ〜、おおもうけー! できりゅとぉ思うんれすよねぇ〜」
「うん絶対やめて。サヤ以外が飲んだら死ぬやつだからこれ」
「うええ〜、なぁんでれしゅか〜!」
「何ででも! いいから服装正して家の中入るよ! ほぉら立って立って!」
「あぁん!」
はぁ、酔い覚ましの薬も買ってくるべきだったかも。
読者様方に質問です。現在1話毎の文字数は3000〜6000文字前後で書いているのですが、今のままでも満足でしょうか?
ご意見いただけると幸いです。




