拮抗 更なる手札
喰らう者の襲撃。多くを失い、その代わりに得た勝利に酔いしれたならどれだけ楽だったろう。
実際は、倒したと思った奴は生きており、あまつさえ姿を変えて復活とは何の悪夢だ。情報と違って、角を折り砕いても尚続く毒の猛攻。
オレの攻撃も効かず、触れれば即切断される触手の一撃。これを絶望と呼ばずして何と呼ぶのだ。
やっとの思いで得た結果がこれか。ふざけるのも大概にしろ。
イヴニアすらも奴の情報は知らんと言う。ならばもう打つ手は無い。早々に撤退を開始して、少しでも多くの同胞を生き残らせるべきだ。
「ごめんっ!!!」
人知れず、そんな考えを巡らせるオレの耳に届いたのは、件のイヴニアによる一言だった。
そこから紡がれ始めたのは、イヴニアの本音。戦う為の覚悟。そして、己の正体を明かしてでもこの場所を守りたいという強い意志。
その言葉は、諦めかけていたオレの闘志に再び火を灯した。
まったく情けない。王であるオレが早々に諦めて何とする。族長の座に居ながら不甲斐ない事極まりないな。
イヴニアは覚悟を示した。ならばそれに応えるのが王としてのオレの務め。そうであろう? アルフよ。
「んはっ! 良かろう! ならば見せてみよイヴニア! 本当のお前を! お前の覚悟を!
獣国が王、ヴェロニカ・オージャが見届けようぞ!」
久しく忘れていた、心が震えるこの感覚。
よもや幼い竜の子に突き動かされようとは思いもしなかった。
イヴニアに惹かれたコアとクロエの気持ちも分からんでもない。オレが色も知らぬ小娘であったなら、惚れていたかもしれんなぁ。
お前は自身を過小評価しておるきらいがあるが、他者を惹き付ける何かを持っておる。でなければ、こうも信頼できるものか。
オレの勘だけではない。お前が持つ何かが、オレの信頼を勝ち取っておるのだ。
「んはははははっ! これはまた、何とも驚かされた! お前という存在は本当に面白いなぁ!」
「ええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!? あの子供がドラゴン!? というか何かデッカくなってないっすかー!!? 成長期ってやつっすかー!!?」
「人間ではなかったのか……むぅ」
「……牢屋に居たドラゴン。そっか、だから君はあそこに駆け込んでたんだね。納得した」
ドラゴンの姿となったイヴニアを見て、各々が様々な反応を見せてくれる。事前に知っておったオレでも驚いたのだから、皆の衝撃は凄まじいだろう。
何せ、牢屋に居た時とは比べ物にならん程に大きくなっておるのだからな。
ウルズの言う通り成長期か? いや、おそらくこれはスキルの類と見てよい。
「うっそだろ、あの子どもがドラゴン……?」
「喰らう者が変な怪物になって、しかも今度は人間のガキがドラゴンになって……あれ? これ夢?」
「おいどうしよう、俺さっき殺していい? とか言っちゃったんだけど」
「あっ……」
「お前死んだな」
「骨は拾ってやるよ」
「バカ、どうせ骨ごと食われるんだから拾いようがないだろ」
「それもそうか」
「「「「はははははは!!」」」」
「笑い事じゃねーよ! お前だって後で締め上げるとか言ってただろ! 密告してやるから覚悟しろコラァっ!! 全員道連れじゃあ!」
「てんめ! それは卑怯だろ!」
「密告する前にお前を消してやるよ! やっちまえ!」
「ぬわーっ!!?」
……やれやれ、衝撃的なのは分かるが緊張感が無さすぎる。あの馬鹿者達め、後で手痛い拳骨でも食らわせてやらねばな。
さて、それよりもだ。イヴニアがこのような行動を取ったのは間違いなく考えあっての事だろう。でなければわざわざ正体を明かす意味が無い。
打開策を見出したか、或いは単なる思い付き、博打か。まぁ何れにせよこの現状を変えられるならば何でも構わん。
問題は、オレ達はどう動くべきか。
共に戦うのならば是非もなし。オレも死力を尽くして立ち向かってやろう。生き残る前提でな。
「ん?」
「……」フルフル
「……んはっ、なるほど。手出しは無用か」
喰らう者と対峙する最中、イヴニアがオレの方を見て首を小さく左右に振った。それ即ち、オレ達の手助けは必要ないという事だろう。
無謀と言うべきか、自惚れと言うべきか。
いいや違う。イヴニアは喰らう者と戦う前に言っていた。「俺1人で勝てると自惚れてはいません」とな。
だからこそ、オレ達の参戦を良しとしない考えがイヴニアにはあるのだ。ならば信じて待つのみ。
託すぞ、白き竜の子よ。
――……。
やった、成功した。
あれだけ啖呵切っておいて巨大化も不発、なんて最悪の事態は免れ一安心。
軽く自分の体を見下ろして、このスキルの仕様を何となく確認してみる。
なるほどな、巨大化とは言っても成長した姿になるって訳じゃないらしい。てっきり母様っぽい見た目になるのかと思いきや、幼竜の姿そのままに、ただ体が大きくなっただけだ。
と言っても、あの化け物の大きさにはまったく届いていない。甘く見積っても大きさは母様の半分くらいか。
まぁ、それでもかなりの大きさだ。さっきの姿で戦い続けるよりよほどマシだろう。
スキル詳細の情報を信じるならば、大きくなったとは言えステータスは変わらない筈。だから過信は禁物だ。
「……」フルフル
チラリとヴェロニカさんを見下ろしてみると、今にも飛び出そうとしていたので首を振って制止させておいた。
そりゃ援護があるのはありがたいけど、巻き込まずに戦える自信なんて無い。だから下手に手を出されると逆に戦いづらいんだ。
加勢するなら本当にマズイ状況の時にお願いします。主に俺がぶっ殺されそうになってる時とか。いやホントに助けてね。
「ギギギ」
「(さぁて、こっからが本番だ)」
残り魔力は600と少し。スキルの無駄撃ちは厳禁だ。特に500を切ってしまった場合、俺が無い頭捻って思い付いた作戦が全て台無しになる。
身体創造を解除した事により、継続的に大きく魔力が消費される心配も無くなった。ダメージを受けた場合は自然治癒が働いてしまうが、微々たるものだろう。少なくとも身体創造より燃費は良い筈。
残り魔力500を切らず、俺が習得しているスキルを駆使して何としても奴の口まで到達する。
俺が辿り着くのが先か、魔力切れを起こすのが先か。ハッ、単なる博打だなこりゃ。
「キュイィィィッ!!」
「ギギィィィィィィッ!!!」
よじ登るのは手間がかかり過ぎる。だから、跳躍を発動させて奴の胴体へ突進!
体勢を崩させれば頭の方を引きずり下ろす事も難しくないからなぁ! 力技でいかせてもらう!
「ギュイィィッギュゥゥゥゥッ!!!」
正面から突っ込む俺に対して、赤い触手が束になって襲いかかる。避ける事は考えずそのまま突っ込めば、胸部に走る激痛。その痛みはまるで鱗ごと肉を抉られているが如く。
しかし、痛みはあれど切断はされていない。流石だなドラゴンの鱗! いや、この場合はステータス上昇? まぁどっちでも構わん!
四肢を持ってかれる心配がないならゴリ押しの一択だ! おぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
「ギィィィッ!?」
化け物の胴体をガッチリと捕まえるようにして突進。力に物を言わせて軽く持ち上げ、即座に跳躍を発動。
そのまま奴の背後に聳える大木に叩き付けて、間髪入れずに引き落としに掛かる。……が。
「(あぁもう! 鬱陶しいなこの触手!)」
体中に触手が纏わりついてきて全力で抵抗してやがる。おとなしく倒れろよクソッタレぇ!
「ギィィアァァァァァァァッ!!!」
「ヴゥゥゥゥゥゥッ……!!」
触手だけでは飽き足らず、長い胴体を使って俺を締め上げてくる。首をガッチリと捕まえた状態で引き剥がそうとしてくるものだから非常に息苦しい。
チッ、細っこい体してるのに何て馬鹿力だ……! 気を抜いたら一気に引き剥がされる!
「(ここまで近付いといて今更離れてやるかよ! 味わえ化け物野郎!)」
腕力だけでは持っていかれる。そう悟った俺は奴の胴体に噛み付いた。その状態のまま、内臓から何から引きずり出す勢いで思いっきり引っ張る。
しかし流石の硬さ。どれだけ力強く噛み付こうとも、歯の先が体に食い込む手応えすらない。これでは効果が薄いか……なら!
「(おら! おらっ! おらぁぁぁぁぁっ!!!)」
触手に絡めとられている中、比較的自由の効く右手を引いて、下から胴体を突き上げるように何度も拳を振るった。
まるで分厚い岩盤を殴り付けているみたいで、砕くどころかこっちの骨が折れてしまいそうだ。
だけど止まらない。めげない。諦めない。
少しでも奴の力を削げるなら、何だってやる!
「ギ……ギ……!」
「(っ……! 効いてる!)」
気のせいなんかじゃない。拳を振るう度、俺を捕まえている奴の体が僅かに緩んでいくのを感じた。
なるほど、衝撃までは完全に防げないって訳だ。ならば!
「(このまま殴り痛ァァァァッ!!!?)」
勝機を見出したかと思った途端、全身に走る鋭い激痛。その痛みの正体は直ぐに分かった。
さっきから俺に絡まっている触手が、ついに俺の鱗を突き破ってきやがったのだ。
鱗は割れ、剥き出しになった肉の部分に触手が食い込み、全身から鮮血が噴き出す。痛みで頭がおかしくなりそうだった。
「……っ!!!」
「クロエ!? 何をする気だ!」
背後から聞こえてきたアルフさんの声に振り向きそうになる。
察するに俺の危機にクロエが飛び出したくさいが、今来たら触手にやられるだけだ! 来るなって伝えないと――あぁぁぁ! そうだよドラゴン状態じゃ話せないじゃん! ほんっとに不便だな!
「(せめてクロエに注意が向かないように……! うおおおおお!! 根性ぉぉぉぉぉぉっ!!!)」
「ギギギッ……!?」
拳による殴打に加えて膝蹴り! 更に跳躍を発動させて大木に押し付ける! 衝撃を殺せないならかなり堪えるだろ! オラオラぁッ!!
「オ゛ォォォォォォォッ!!!」
幾度となく殴り付け、蹴り付け、押し付けて。そんな事を繰り返していると、頭上から咆哮と共に大量の毒液が降り注いできた。
体中に付着するけど問題は無い。俺に毒は効かないからな。……でもさ。
お前この野郎! 殴り付けてるタイミングで毒吐いたらゲロみたいじゃねーか! 何か汚ぇだろ! いやそもそも毒自体綺麗なもんじゃないけど、何か嫌だろ!
「マズい! 溶かされるぞ!」
「心配はいらん。イヴニアに毒は効かんらしいからな」
精神的には凄く効いてます! おえっぷ、貰いゲロしそう……。
早いとこ頭を下げさせないと、色々な意味で参ってしまいそうだ。飛翔のスキルが使えたら話は簡単なのになぁチクショウ。
言ってる間にも触手による締め付けは酷くなる一方だし、血の出し過ぎで頭もふらついてきた。
チラリと見えた残り体力も相当に減っている。少しずつ残り魔力が減っているのを見るに、自然治癒は発動しているようだが、肝心の回復が間に合っていない。
「(どうする、硬質化を使うか? いやダメだ。状況を打開できる確証も無い状態で、間もなく500を切る魔力を無駄にはできない。
クソッ! 他に何か手札は、手段、スキルは、スキル――……あっ)」
不意に思い出した。
そうだ、切り札のスキルにばかり気を取られててすっかり忘れてたけど、それだけじゃ燃費が悪過ぎるからって主な攻撃手段として習得したスキルがあるじゃん。
わー、俺って最高にマヌケ。
ヴェロニカさん、やっぱり俺には上に立つ才能なんかアリンコ程も無いよ、うん。
忘れててごめんな! 拗ねないで発動してくれると助かるよ! いや発動してくださいお願いします!
「キュイィッ! キュキューイキューッ‼」
目指せ書籍化!
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