全てを曝け出せ
さて、本格的にマズイ状況である。まったく知らない生物が現れた時点で、もう俺の知識はアテにならない。
バジリスク自体はピクリとも動かないのを見るに、やはり死んでいると考えるのが妥当か。それはそれで助かるが……。
謎の生物の戦闘能力が高いのもかなり厄介だ。攻撃手段は今の所、触手による切り裂きか溶解液のみ。それ以外は特に無いとは言え、一撃一撃が即死級。
必死こいて逃げ回るので精一杯だ。
「くっ、忌々しい!」
「無茶をするなアルフ! 触れれば終わりぞ!」
「承知! しかし攻めねば活路は見い出せませぬ!」
「同感っす! アタシ達が犠牲になってでも有効な手立てとか探して――」
「っ! 馬鹿な事を言うな!!! アンタ達の死と引き換えに得る勝利なんて、そんな結果を他の奴等が喜ぶとでも思ってんのか!!? 自惚れんな!」
「ひえっ! な、なんか知らない子供に怒られたっす」
聞き捨てならない事を言ったウルズさんに対して、つい声を荒げてしまった。すまないとは思ってる……でも、後悔はしてない。
弱点が見つかるという保証も無しに未知の敵に特攻? ふざけるな。そんなの前世に居た使い捨ての兵士達と同じじゃないか。
正直アイツらはどうなっても構わない。でもここの獣人達は違う。コアちゃんへの恩義を返す意味でも、無謀な真似をさせて命を捨てさせる訳にはいかないんだ。
「避けろイヴニア!」
横合いからヴェロニカさんの忠告が飛んできた。正面からの触手による一撃は俺も見えていたし反応も出来る。
だが回避が間に合うとは言ってない。
「っ……!」
奴の触手はバジリスクの尻尾と比べても桁外れに速い。見てから避ける戦法が通じていたバジリスクとは違って、こっちは反応できても体が間に合わないのだ。
避け切れず、右肩を強かに打ち据えられた。
尻尾の直撃より遥かに痛い。まるで焼きごてを押し付けられたように肌が熱くなる。
でも、不思議な事に肝心の腕は無事だった。
大木をいとも簡単に切断して見せたくせに、俺の細腕1本すら切り落とせない事実に困惑する。
わざと? いや、そんな事をしてコイツにメリットは無い。切り飛ばせるなら、そうした方がずっと手っ取り早い筈だ。
そもそもこんな化け物にメリットどうこうを考えるだけの知性があるのか知らんけど。
仮にだ。今の一撃がさっきまでの物と同じであったなら、俺の体は奴の切断攻撃を防げるって事になる。……いや、防げるは言い過ぎだな。普通にすげぇ痛いし。
いくら切り飛ばされないからって、受け続けたら体力が無くなって死。
でも切断はされない。
なら、やりようはいくらでもあるよな。
「(とは言え)」
奴の触手はもちろん、胴体の耐久力が異常に高い。ヴェロニカさんの一撃、アルフさんによる槍の一閃、どちらも不発に終わった。怪力のクロエが殴り付けたとしてもおそらくダメージは望めない。
外側への攻撃はまず効かないと考えれば、必然的に狙うべき部位は限られる。
見た限り、奴に目の類は見受けられない。であれば、残る選択肢は一つ。
「(口、だな)」
幸か不幸かバジリスクと違って奴には口の開閉という動きが無い。狙ってくださいと言わんばかりに常に大口を開けっ放しにしている状態だ。
ならばそこを集中的に狙うだけ……なのだが、3つほど問題がある。
1つ、奴が毒液を使える以上、口内を狙う役割は耐性を持つ俺にしか出来ない。ヴェロニカさん達でも出来なくはないだろうけど、あまりにもリスクが高い。
2つ、その口内を狙おうにも高い位置まで移動しなければならない。が、例の触手がクソ邪魔で目的地に行くだけで一苦労。下手に登っても叩き落とされるのが目に見えている。
3つ、以上2つの問題を解決する為にはドラゴンの姿に戻らなければならない。つまり、この場の全員に正体がバレる。
まだ俺には出せる手札がある。だけどそれを切るには、正体を明かすのが大前提だ。
本当なら嫌なんだけどさ。獣人達のドラゴンに対する反応からして、良い感情を持たれないだろう事は分かってるし。
奴を何とかしても次は俺に敵意が向けられる、なんて事もある訳だ。果たしてそんなリスクを犯すべきか否か――。
『にへへ〜、ありがと』
「……!」
不意に頭の中に浮かんだのはコアちゃんの笑顔だった。
あぁ、何を馬鹿な事を考えてるんだ俺は。リスクが何だ、正体がバレるから何だ。そんなくだらない理由に拘って、渋って、結果獣人達が全滅してしまえばそれこそが最悪の結果じゃないか。
何よりそれは、コアちゃんから受けた恩を仇で返す事になる。たとえあの子が助からなくとも、あの子が過ごしたであろうこの場所を守らないでどうする。
それが俺に出来る精一杯の恩返し。そうだろ? イヴニア。
皆に敵対視されたなら、その時はその時だ。最悪を想定するのは一先ずやめよう。後の事は、目の前の脅威を完全に排除してから考えればいい。
「すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁぁ……」
「イヴニア?」
立ち止まり、大きく深呼吸。
敵を前にして呑気な事をしている俺の姿は、ヴェロニカさん達には異様に見えたかもしれない。
でも許してほしい。これくらいはな。
俺の覚悟くらいは、伝えさせてほしいのだ。
「ごめんっ!!!」
深呼吸をし終わって、俺はこの場に居る獣人全員に聞こえるように大声を張り上げた。脈絡も無く突然謝罪の言葉を発する子供の姿に、皆は何を思うのだろう。
案の定ポカンとしている皆に向けて、尚も大声で俺は言い放った。
「先に謝っとく! 騙すつもりは無かった! それだけは分かってほしい!」
「騙す? 貴様、一体何を――」
「戦う理由は皆と違うかもだけど、それでも! この場所を守りたいって気持ちは俺にもある!
だから、文字通り俺の全てを曝け出す! コイツを倒す為に全てを擲つ! 出来る事なら怖がらないでほしい!
何度でも言う! 俺はこの場所を、皆を守りたい! たった1人の女の子へ恩を返させてくれ!」
あの子の為に、俺は戦おう。
そして胸を張って凱旋するんだ。母様達の元へな!
「んはっ! 良かろう! ならば見せてみよイヴニア! 本当のお前を! お前の覚悟を!
獣国が王、ヴェロニカ・オージャが見届けようぞ!」
あぁ、言われずとも! もう覚悟は固まっちまったからなぁ!
意識を集中。イメージして、強く念じる……!
「身体創造――解除!!!」
体の奥底で魔力が脈動し、俺の体を光が包み込む。
数瞬の時を経て、ドラゴンの姿へと変貌した俺は力強く大地を踏み締めた。
ははは、やっぱり皆驚いてるな。
そりゃそうだ、どう見ても人間の子供がいきなりドラゴンの姿に変わっちまったんだから。
獣人の住処に足を踏み入れたるは、聖皇竜シェラメアが長子イヴニア! 今の俺に出来る全身全霊で、やってやるよ化け物野郎! いっちょ喧嘩といこうじゃねぇか!
元兵士舐めんなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
「(頼むからおとなしく発動してくれよ……! ここで不発じゃ格好悪いにも程があるからな!)」
ぶっつけ本番で使った事の無いスキルを使用する。これが発動しなきゃ話にならん。
だからホントに頼む! もう飛翔みたいに不発だけはやめてくれ! 今くらい綺麗に決めさせろ! 頼むぜデーモン様!!!
「(スキル、巨大化発動!!)」
再び、俺の中で魔力が脈動した。
目指せ書籍化!
多くの人に読んでもらうためにも、皆さんの応援コメント、評価等よろしくお願いします!




