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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 毒蛇と魔女
65/105

集いし者達

 「ごめんお待たせっ‼」


 「族長! ご無事で!」


 作戦変更に伴って必須となったツタの準備が出来た今、俺達は1人でバジリスクの相手をしていたヴェロニカさんと合流した。


 余裕そうに見えたが、ヴェロニカさんの表情には若干疲れの色が見えている。無理もないか。


 「おお、待ち侘びたぞ。ん? 何故アルフがここに居る?」


 「コロコロ変えちゃって申し訳ないけど、また作戦変更。って言ってもやる事はそんなに変わらない」


 「毒を吐かせる云々は継続か?」


 「もちろんっ」


 「んはっ、ならば問題ないな!」


 今度は3対1。鬱陶しさも先程までの比ではないと考えれば、バジリスクもたまらず毒を吐いてくるに違いない。


 というか吐いてくれ頼むから。アホ面晒して大口開けてくれればそれでいい。それ以上は望まない。


 「アルフさん、とにかく攻撃を食らわないように回避に専念。ヴェロニカさんみたいに隙あらば攻撃を加えても構わない。けど、毒を受ける可能性を考えて絶対に素手では触れないように。

 傷を付ける事は考えず、その槍で突っつく程度に(とど)めてくれ」


 「分かっている。っ!?」


 「おっと……!?」


 まぁ、目の前でのんびり話し合いなんてさせてはくれない。直ぐにバジリスクの尻尾が頭上より振り下ろされ、俺達は分断された。


 いや、これでいい。固まっているよりもバラバラで動いた方が奴の神経を逆撫でする。

 そうしてイライラを蓄積させて、たまらずどデカい毒を吐こうとした瞬間に全てを賭けるんだ。


 俺は知っているぞバジリスク。お前の最大にして最強の攻撃をな。それをしようとした瞬間を俺は見逃さない! 元兵士だからってなぁ、伊達にお前を相手取って生き残った訳じゃねーんだよ‼


 「シャアァァァァァァッ!!!」


 「今か!?」


 「違うっ!! それは避けろ!!」


 アルフさんに向けて毒が噴射される。危うく作戦通りに動こうとしたアルフさんに警告を飛ばせば、直ぐにその場から飛び退いて事無きを得た。


 あんな小出しの毒は眼中に無い。狙うは奴が天を仰いだ瞬間!


 「(頼むから早く出してくれ! このままじゃ……!)」


 人知れず焦りながら、チラリと頭上に浮かぶ数値を見る。


 残り魔力1000ちょっと。悠長に話してた俺も悪いっちゃ悪いけど、使える魔力も限られてる。

 薄々勘付いてはいた。身体創造を使用中に激しい運動をすると、それに見合った分の魔力が消費されると。


 スキル詳細に書かれていた内容とは少しだけ違う仕様。必ずしも消費される魔力は一定じゃないって事だ。あぁくそったれ。


 500になる前には終わらせたい。でなきゃ最悪クロエ達にも正体がバレる。


 「そちらばかり見ておる場合か化け物め!」


 横合いからバジリスクの胴体にヴェロニカさんの一撃が加えられる。ダメージは無い、でもいい感じにイラつかせてる。


 「むんっ!!」


 今度は反対側からアルフさんの槍による刺突。こちらもダメージは望めないものの、右へ左へ意識をバラつかせ、一方への集中を許さない。これはバジリスクじゃなくても鬱陶しいだろうな。


 「ヴゥゥゥゥゥゥッ……!」


 「(……! この唸り声!)」


 そして反撃の瞬間は突如として訪れた。


 絶え間なく動き回る俺達に、ようやく我慢の限界を迎えたらしいバジリスクの喉奥から、特徴的な唸り声が響いてくる。


 何とか俺達を迎撃せんと躍起になっていたバジリスクが唐突に後ろへと退き、その巨体で辺りを薙ぎ払いながらとぐろを巻く。


 俺の記憶に刻まれたバジリスクの予備動作と寸分の狂いも無い。ああ、間違いない、これは――!


 「(ブレスの予兆!)」


 「シィィィィィィィィッ……!」


 空気を取り込む音。赤い斑点が尻尾の先から頭部へと順番に明滅を始め、やがてバジリスクが大きく口を開けて天を仰ぐ。


 正直、こっちの準備が整う前にブレスを撃たれるかどうかは賭けだったけど、俺達はその賭けに勝った!


 来た……来た来た来た!!! ここだっ!!


 「今だクロエっ!!!」


 腹の底から声を張り上げる。それに応えるように、木の上で待機していたクロエがその身を投げ出し落下を始めた。


 手に持っているのは編み込んだツタ。


 失敗すれば、こちらに甚大な被害が出る事は間違いない。押さえ込めなければ、奴の口から吐かれる麻痺毒のブレスでここ一帯が死地となる!


 ただの麻痺毒と侮るなかれ。あのブレスは麻痺に加えて破壊力もある。周りの木々程度なら一瞬で薙ぎ倒される程のな。


 やる気満々なところ悪いけど、吐かせねーよ蛇野郎!!


 「跳躍!」


 即座に跳躍を発動させて宙を舞い、木の肌に爪を立ててバジリスクの左側に陣取るクロエとは反対側に到着した。


 俺とクロエの間には、アホ面で大口を開けたバジリスク。――間に合った。


 「クロエ!!」


 「……っ!」


 俺が呼び掛けると、持っていたツタの片端をクロエが投げ渡してくる。万が一にも掴み損ねないように目いっぱい手を伸ばしてそれを掴み取れば、俺達の間に出来上がるツタの橋。


 このツタは切る力には弱く、刃の鱗を持つバジリスクには効果的ではないだろう。分かってるさ。

 ならばどうする? 簡単な事だ。要は鱗に触れないまま押さえ込めばいいだけの話。そしてコイツの体で鱗が無く、且つツタを使って押さえ込める場所と言えば!


 「一つしか無いよなぁ。行くぞクロエ! 全力だっ!!」


 「……任せて、旦那様っ」


 「だからそれ禁止だって、言っただろぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 「ギィィィィィィィッ!!!?」


 おあつらえ向きにバジリスクの背後に(そび)える大木に向かって、俺とクロエが同時に跳ぶ。必然的に口の間に架けられたツタはバジリスクの上顎に食い込み、その巨体を大木へと引き寄せる。


 クロエと2人、太い木の枝に着地して全力で踏ん張りを効かせた。仕上げにこれでもかと両腕に力を込めて、大木ごとへし折る勢いで引っ張る!!!


 これでバジリスクの頭部が大木に縫い付けられた。思惑通りツタが鱗で切れる様子も無い。仮にこの状態で溶解液を出されたところで、植物であるツタに効果は無い。


 故に、千切れない‼


 これぞ! 巨大猿ぐつわ大作戦である!! ふははははははっ!!!



 ……なんて笑ってる場合じゃなくてさ。



 「あぁぁぁぁぁぁっ!! クッソっ、この馬鹿力がぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 「……っっ!! 押さえ、切れないっ……!」


 分かっちゃいたけど、バジリスクの力が桁違いだ。俺とクロエの全力でも、少し気を抜けば一気に持っていかれる!


 ふざっけんなよ蛇野郎! 怪力にも程があるだろうがっ!! っておぉぉい!? ゴリゴリ魔力が削れていってるんですけどぉ!?


 アルフさん! ヴェロニカさんでもいい! 早く角を折ってくれぇぇっ!!


 「イヴニアよ! 聞こえておるか!?」


 ふと、下から聞こえてきたのはヴェロニカさんの声。


 何かあったのかと確認したくても、今そんな余力は無い! 誇張でも何でもなくほんの少し気が緩んだ瞬間に終わる!


 「聞こえ、てるっ! いいから、早く……折れってぇぇぇぇぇ!!!」


 「そうしたいのは山々なのだがな! 喰らう者が暴れ狂っておるせいで迂闊に登れんのだ!」


 「はぁっ!? 何言ってんだよ! 動けないようにこうして抑えつけてっ――あっ」


 不意に視界を横切った存在に冷や汗が流れた。


 今のって、もしかしなくてもバジリスクの尻尾……。


 「そうじゃん! 下半身は自由のままだったぁぁぁぁぁっ!!!」


 何てこった! アホなのか俺は! 頭押さえつけても下半身は自由の身! しかも蛇だからウネウネウネウネ暴れ放題! そりゃ迂闊に近付けなくなるよねー! あははクソがぁぁぁぁぁぁっ!!!


 「うひぃっ!?」


 スレスレの位置を尻尾が通過していった。

 このままじゃ、いずれ俺とクロエどっちかが叩き落とされて作戦は失敗だ。


 「……アル、フ! 何とか、登って来れない、のっ!?」


 「無茶を言うな! 例え離れた位置から登ったところで、このまま角を狙うのは自殺行為だ!」


 クッソ……! ここまで来ておいて、自分が嫌になる! 穴だらけの作戦を考えたのもそうだし、その作戦にヴェロニカさん達まで付き合わせてしまった自分がっ!


 いや、自己嫌悪は後でいくらでも出来る! 今はとにかく打開策を、何か良い案を……考えろ、考えろ考えろ! 頭を働かせろイヴニア!

 お前はドラゴンだろ! 元兵士だとか関係ない! 災厄級のドラゴンが、こんな蛇一匹に負けてんじゃねぇ!


 「……っ!」


 「っ!? クロエ!」


 考えている間にクロエが苦悶の表情を浮かべる。よく見れば、ツタを持つ手のひらの皮がずる剥けて血が滴り落ちていた。


 そうだ、クロエは俺とは違う。身体能力上昇に伴って防御力が上がっている俺とは根本から違うんだ。

 

 苦しいのは俺だけじゃない。むしろクロエの方がツライ筈だ。このまま押さえ続けていたら腕が使い物にならなくなるかもしれない。そこに尻尾の追撃まで受ければ、最悪の場合――。


 「……私が死ぬかもって、考えてるでしょ?」


 「えっ」


 思わぬ一言。見透かされた。苦しげな表情のままクロエが俺を横目で見つめる。マスクのせいで見えないけど、心なしかクロエが微笑んでいるようにも見えた。


 「……大丈夫。このツタは離さない。意地でも生き残るから」


 「……」


 ああ、情けない。弱気になったって現状は変わらないのに、この娘はどこまでも強かだ。


 思えばあの時も似た感じだったな。コンとアカネ(2人組)に攫われる時も、諦めようとしていた俺に対して、レティシア達は自分達が傷付く事も構わずに俺を助けようとしてくれていた。


 最後まで諦めず。それは母様だって……。


 【条件その1 一定量の魔力を消費するを達成。条件その2を解放】


 ハッ、こんな時まで平常運転ありがとよデーモン様。

 でも、おかげで少しだけ落ち着きを取り戻せた。


 何か、この現状を変える手段。手持ちのスキルもこの場面じゃ活躍を見込めない。

 ヴェロニカさんに尻尾を押さえ込んでもらえば――いやダメだ、それだとまたヴェロニカさんが麻痺毒にやられる。

 次も無事でいられるとは限らない以上、そんな手段は取れない。


 ヴェロニカさんと交代すれば、毒の効かない俺が尻尾へ行けるけど、この暴れようじゃ交代の為に登ってくるのも難しい。


 完全に采配ミス……!


 「どうすれば、考えろ、何かある筈、絶対、何か――あ、れ?」


 グルグルと考えを巡らせていると、突然、手に持つツタの抵抗が軽くなった。

 

 一気に寒気が襲い掛かる。抵抗が少なくなったって事はつまり、ツタが切れかけている、もしくは既に!


 あってはならない事態に思わず肩越しに後ろを向いた。その瞬間、俺の思考は数瞬の間だけ停止した。


 「えっ?」


 ツタは、切れていない。切れる様子も無い。


 そう、ツタ自体に変化は無かった。


 俺の視線の先に居たのは、別の木の枝を足場に俺と同じくツタを引っ張っている見知らぬ獣人が1人。


 1人? 違う。次々と何処からともなく獣人達が姿を現し始め、揃ってツタに殺到。どんどん抵抗が少なくなっていく。

 気付けばクロエの方にも多くの獣人が集まっていた。


 「……みんな、どうして!」


 「非戦闘員の避難は完了したので、こうして加勢に駆け付けました!」


 「まさか邪魔だとは言わないよなクロエちゃん!」


 「うおぉぉぉぉっ! クロエちゃんは俺が守る!! この戦いが終わったら結婚するんだぁぁぁっ!!」


 「あっ、テメェどさくさに紛れて何言ってやがる!」


 「そうだぞ! クロエちゃんは皆のもんだ!」


 「いやそうじゃねぇだろ……」


 「……ふふ、みんな頼もしいね」


 「っ!? クロエちゃんが、俺を褒めてくれた!?」


 「みんなっつったろうが馬鹿!」


 一気に騒がしくなった。クロエの親衛隊か何かか? まぁ何でもいい。ここに来ての増援はありがた過ぎるっ!


 「おいお前っ、大丈夫か?」


 いつの間にか俺の横に立ってツタを引っ張っていた男性獣人に話し掛けられた。


 いきなりの事に上手く言葉が出てこず「え、あ」と繰り返す事しか出来なかったが、それでも優しげな笑みを浮かべて片手で俺の頭を撫でてくれる。


 「人間の子供が何故こんな所にという疑問はあるが、よく頑張ったな。微力ながら俺達も加勢しよう」


 「そうそう! 子供に戦わせて大人が高みの見物じゃダッサイもんなー!」


 「っ……ありがとう」


 いかん、ちょっと泣きそうになった。

 予想外過ぎて色々と感情が追い付かない。焦りだとか嬉しさだとか、ごちゃまぜになってどうしようもない。


 今俺はどんな顔をしているのだろう。


 「ふっかぁぁぁぁぁぁつっす!!!」


 さらにダメ押しと言わんばかりに、横合いから飛び出してきたのはウルズさん!


 「……ウルズ、遅い」


 「ごめんっすよークロエ。で、これどういう状況っすか? これ引っ張ればいいんすか? 何か楽しそうっすね!」


 「遊びじゃないんだぞウルズ!」


 「そうだそうだ! 真面目にやれこの馬鹿!」


 「ひん剥いて吊るすぞコラァッ!!」


 「そ、そんなに言わないでもいいじゃないっすかー!」


 は、ははは、皆からもそういう扱いなんだ、ウルズさん。何かホントにかわいそうだな……俺だけでも優しくしてあげなきゃいけない気がしてきた。


 って、それはそれとしてだ!

 これだけの人数が居れば、俺が離れても問題ない! いいぞ、勝利の道筋が見えてきた!


 「クロエ! 俺はバジリスクの尻尾を押さえ込みに行く! もう少しだけ皆と耐えてくれ!」


 「……うん、分かった。気を付けてね旦那様(・・・)


 ばっ!? どう見てもクロエ好き好き勢が居るここでそんな事言ったら――!!


 「旦那?」


 「様?」


 「あ?」


 「え? なに? あの子供殺していいの?」


 ほらもう言わんこっちゃない!

 あれだけ味方の雰囲気出してた皆が一斉に殺気立ったじゃん! 俺の方に居る獣人達はそんな感じじゃないけど、頼むから俺を巻き込まないでくれ!


 「旦那様か。お前、これが終わったら少し話がある。逃げないように」


 「えっ、あの、話って?」


 「その時になったら話す」


 俺の隣に立ってる獣人も何か意味深な事言ってるし……凄く気まずい。心なしか睨まれてる気もする、訳が分からん。


 とにかく、ここに居ても仕方ない。

 って事で俺はツタから手を離して、そそくさと下へ飛び降りるのだった。







 「あのガキ後で締め上げないとな」


 「あはは〜、賛成〜」


 「俺のクロエちゃんに好かれるたぁいい度胸してやがる」


 「俺()な」


 「……あのさ」


 「えっ、なになに!? クロエちゃん!」


 「……助けに来てくれた事には感謝するけど、もしあの子に手を出したら全員上半身引き千切るからね」


 「「「「ごめんなさい!!!」」」」

目指せ書籍化!

多くの人に読んでもらうためにも、皆さんの応援コメント、評価等よろしくお願いします!

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