どんな経験だろうと積んでおくものだ
俺が離れ、ヴェロニカさんが即座にバジリスクの敵視を取る為に動いてくれる。デーモンロードなる魔獣の爪から造られたとされる手甲を適度に打ち付け、こっちへ意識を向けさせない。
上手い。絶妙に鬱陶しい攻撃してるわ。あれを放置してこっちに集中できるのは、よっぽど余裕のある奴だけだろう。
少なくともヴェロニカさんはバジリスクに要警戒対象だと認識されているらしい。王様は伊達じゃないってか。
「っと! クロエ! アルフさん! 準備は!?」
木々の陰に隠れている2人の近くまで到達して呼び掛ける。すると、待ってましたと言わんばかりに飛び出してきたクロエが、どんなもんよと手に持つぐるりと巻かれたツタを見せてきた。
「……これでいい?」
「ちょっと見せて」
クロエからツタを受け取り確認する。
長さは申し分ない。あとは強度だけど、いくら引っ張る力に強いからと言ってもバジリスク程の巨大な存在を押さえ込むには少々心許ない。
だから、秘策だ。
「アルフさん、そっちのも貸して」
「どうする気だ?」
「ちょっとした特技を見せる」
なんて大袈裟に言ったが、そんな大したものではない。前世に居た子供達の見様見真似で暇潰しに始めた藁編み。ここで使わずしてどうするって話だ。
このツタの長さだと編み終わるのに最低でも数時間は必要――いや、必要だったと言うべきか。
そう、今の俺はドラゴンではなく人間の姿。つまり自らの手も人間の物なのだ。元の姿のままでもかなり上達した今、使い勝手の良い人の指でなら!
「造作もないなっ」
「む?」
「……おー、凄い」
早速作業に取り掛かり、2本のツタを素早く編み込んでいく。やはり作業効率が段違いだ、人間万歳!
編み込む行程は頭に入ってる。材料が藁かツタかの違いでしかない。流石に藁に比べればツタの方が固く編み込みにくいが、レベルアップした今の俺ならば何の障害にもならないぜ!
「しかし本当にこれで上手くいくのか?」
「それはやってみなきゃ分からないな。俺だって歴戦の将軍や策士って訳じゃないんだ。
単なる思いつきの大博打。失敗した後はどうするべきか、それは考え中」
「おい、一気に不安になってきたぞ貴様」
「……私は信じるよ。旦那様だもん」
もう結婚した事になってる!?
「俺の考えが正しいなら、奴の溶解液は植物には効果を発揮しない。もし効果があってもかなり遅い筈だ」
事実として、バジリスクが撒き散らした毒が木々を溶かしている様子は未だに見受けられない。対生物に特化しているのならば勝機はある!
「これでっ、よしっ」
編み込み始めて僅か数十分。最後の仕上げに、簡単には解けないように端を縛る。
凄い。自分でもこんなに早く編み上げれるとは思っていなかった。急いで雑になった箇所も無いし、隙間なくギッチリと編み込み完了。これなら簡単には千切れない筈。
「ほう、見事なものだな」
「えっ、ちょっと何だよいきなり。あれだけ敵視しておきながら」
「喧しい。俺とて有能な者が居れば褒める事はある。共闘している相手ならば尚更だろうが」
「ふーん」
どうだか。ヴェロニカさんが居なきゃ、今でも敵視しまくってただろうに。まぁいいけどさ。
「それより、少し強度を試してみよう。クロエ、反対側を持ってくれる?」
「……うん。どうするの?」
「このツタを使って俺と引っ張り合いだ。ちゃんと全力でやってくれ。これで千切れるようじゃ、バジリスク相手には通用しないからな」
「……えっ、全力? でも――」
「いくぞっ、せーのっ!」
「……!」
国一番の怪力であるクロエと、身体能力爆上がりした俺との引っ張り合いに耐えられたなら、文句無しの出来だ。
何故だか焦っている様子のクロエを不思議に思うが、それはそれとして全力でツタをを引っ張ってみる。
クロエも同じく踏ん張りを効かせて力強く引っ張ってくれた。
その結果。
「ぐぎぎっ……! よ、よしっ、千切れる、様子無しっ……!」
「……っ! 強い」
「ああっ、そう、だなっ……! これなら、いける! よし、もう力弱めてもいいぞ」
お互いに力を弱めて一息つく。本当に全力で引っ張ってみたのに、編み込んだツタはビクともしなかった。引っ張る力には非常に強いという証明になったな。
「……ホントに、強い」
「ああ確かに、驚いたな。正直ここまで頑丈になるとは思いもしなかったよ」
「そうではないだろう。クロエが言っているのはツタの事ではない」
「え?」
ツタの事じゃないって……何言ってんだこのオッサン。今まさにツタの強度実験をしてただろ。
「はぁ……貴様、事の重大さに気付いていないな。どこからどう見ても人間の幼子である貴様が、リィベレーナ随一の力を持つクロエと力で渡り合った。
しかも一歩も譲らずな。これがどういう事か分かるか?」
「…………あー」
そうじゃん、今俺の姿は小さな子供そのものだって事を忘れてた。そりゃ不審に思われても仕方ないって話だよなぁ。
常識的に考えて、幼子が有してはいけない力を持ってしまってる訳だし。さて、どう言い訳したものか。
「それはー、そのぉ。色々と事情があるというか、そもそも勘違いというか――」
「……どうでもいい。君は君だし、私が好きになった事実は変わらない。それに、私並に強いのは素晴らしい事。これ以上ない理想の相手、結婚してほしい」
盛大に視線を泳がせながら、どう躱そうかと悩んでいると、相変わらず全力告白のクロエが痛いくらいに抱き締めてくる。
最初に比べればかなり優し目になっている所を見るに、手加減は覚えてくれたらしい。
どうでもいいけど耳元で喋らないでくれ、こそばゆい。あとスンスンスンスン匂い嗅ぐな! 鉄マスク越しに嗅いで意味あんの!?
「んあ~! やめれ〜!
というか、こんな小さい相手に恋慕を抱くのはどうかと思うんだけど!」
見た目だけならどう見積っても5歳くらいだからね俺!? 普通にいい年した女性が恋する相手にしちゃ幼過ぎるだろ!
「何もおかしな話ではない。獣人では普通の事だ。族長ですら9つの歳で籍を入れたのだからな」
「知らんし! そもそも俺は獣人じゃないんだから、そっちの考え方に巻き込まないでくれよ!」
「……私じゃ嫌?」
ああもう! 涙目はズルいと思います!
「はぁ……嫌とかじゃなくてだな、この際俺の年齢がどうとかは置いといて、過程をぶっ飛ばし過ぎてるのが問題だって言ってるんだよ。
好きです、はい結婚しましょう? 獣人はそれでいいのかもしれないけど、俺は違うの。だから現状で返事はできない。分かった?」
「……ぅん」
あちゃあ、目に見えて落ち込んでしまった。
涙目に加えて尻尾と耳もしんなりしちゃって、思わず「俺が間違ってた、やっぱり結婚しよう」と言ってしまいそうな罪悪感に襲われる。
いや、俺間違ってないよね?
「クロエを振る、か。集落の男共が聞いたら殺意の嵐だろうな」
「それさ、俺がクロエの求愛を了承しても結果は変わんないよね?」
「変わるだろう。前者は殺意を向けられ、後者ならば行動に移してくる。間違いなくな」
どっち選んでも俺に得の一つも無ぇじゃんかよぉ‼
「クロエってそんなに人気なの?」
「集落内の二大看板娘と言われている。
男共の言い分としては、強い、可愛い、何でもこなす器用貧乏、でもどこか抜けてる所がたまらない、むしろ抜ける、だそうだ」
へ、へぇ〜。ヴェロニカさんも言ってたし、本当にモテてるんだなクロエ。最後のはよく分からんが。
強いってのは分かる、可愛い……かと聞かれれば分からないな、口元見えないし。器用貧乏って所も確かに惹かれる部分ではあるだろう。
でも抜けてる所って――あっ。
「なぁクロエ」
「……なぁに?」
「今日はちゃんと下着穿いてるのか?」
「…………あ」
なるほど、こういう所か。そりゃ男共に人気な訳だ。いやらしい連中めっ。
「……? でもどうして君が、私がたまに穿き忘れるのを知って――」
「はーい無駄話終了! いい加減作戦行動に戻らないと、ヴェロニカさんが食われるぞー!」
露骨ではあるが、慌てて話題を逸らす。
あっぶねぇ。そういえばクロエが穿いてない場面を目撃したのはドラゴンの姿だった時だ。もうこのポロッと口に出しちゃう癖何とかしないと後々痛い目見そうだよ。気を付けねば。
気を取り直して眼下に見えるバジリスクの姿を改めて確認する。
ヴェロニカさんはまだ余裕の表情で動き回ってるな。毒はかなり抜けてきたと考えていいのかもしれない。
「おい貴様。作戦の変更として、俺とクロエが隙を見て喰らう者を押さえ込めばいいのだったな?」
「あ、ごめん。それも変更で」
「なに?」
本来ならそのまま決行してくれても良かったけど、この体が想像以上の怪力を持ち、更に毒への耐性を持っていると分かった以上、もう少し確実性のある方法を取るべきだ。
「ではどうするのだ?」
「ツタはクロエが持っておいてくれ。アルフさんは俺と一緒にヴェロニカさんと合流して囮役を続行。
バジリスクが大口開けて毒を吐こうとしたらクロエの出番だ。俺達で押さえつけてアルフさんが角を折る。場合によっては交代でヴェロニカさんがやっても構わない。分かった?」
「……了解」
「ふん、気に食わんが、勝てると言うのなら文句は無い」
この人はいちいち余計な一言を挟まないと返事すら出来んのか。前世に居た│仲間達に比べれば遥かにマシだけどさ。
「最初に言った通り、折れるなら2本ともいっちゃってくれ」
「もし1本残せばどのような弊害がある?」
「その場合、完全に毒を封殺する事はできない。今みたいにバカスカ吐き出す事は無くなっても、吐かなくなる訳じゃない。だから結局は迂闊に攻め込めないんだよ」
「……今よりマシになる程度?」
「そういうこと。もし1本しか折れなかった場合は……俺が何とかするよ」
とは言ったものの、ダメだった場合の作戦なんて考えちゃいないけどさ。その時になってみないと分からない。
幸い俺に毒は効かない。それはつまり、俺ならゴリ押しが可能って事だ。作戦が失敗した場合は、もうそこに賭ける他無い。少なくとも今はこれが俺の限界だ。
「じゃあクロエ、アルフさん、よろしく」
「ふん」
「……うん、任せて旦那様」
「それ禁止」
「……」ショボン
目指せ書籍化!
多くの人に読んでもらうためにも、皆さんの応援コメント、評価等よろしくお願いします!




