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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 毒蛇と魔女
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凡人故の策

 「じゃあ手筈通りに、俺とヴェロニカさんでバジリスクの気を引くから、クロエさんとアルフさんは隙を見て角を攻撃してくれ。

 さっきも言ったように狙うのは根本だ。2本とも折れたら最高だけど、無理はしないでほしい」


 「……了解。あと、クロエでいいよ?」


 「ふん、従うのは今回だけだ。調子に乗るなよ小僧」


 合流したクロエさん――もといクロエを交えて、改めて作戦の説明を行った。

 と言ってもそう難しいものではなく、俺とヴェロニカさんがバジリスクの前でちょこまかと気を引きつつ、別働隊のクロエとアルフさんが本命の角を狙う。至極単純な作戦だ。


 本当なら俺も攻撃に参加したいところなんだけどな。主にコアちゃんを傷付けられた事への恨み的な意味で。


 この体で出来る事全てを把握しきってる訳でもないので、今回は我慢だ。

 それに聞けば、クロエは国一の怪力らしい。ならば攻撃に回ってもらうのは必然だろう。

 アルフさんも武器の扱いに長けていると聞いた。あのバジリスクの口に突き刺さってる槍は他ならぬアルフさんがやったものだとか。凄ぇわ。


 この2人を本命に据える事にヴェロニカさんも同意してくれたし、やるしかない。


 「ガラルさん、コアちゃんをお願いします」


 「ああ。……イヴニアくん、私からも頼む。奴を討ち取ってほしい」


 「やれるだけの事はする。……行ってくるよ、コアちゃん」


 苦しげなコアちゃんの頬にそっと触れて、力強く自分の両頬を叩いた。


 気合注入! 頑張れ俺! ドラゴンに比べれば蛇なんぞ、恐るるに足らずだ!


 「よし、やろう」


 その辺に転がっていた石の剣を貸してもらい、具合を確かめる為に一振り。


 うん、やっぱり元兵士だから剣が一番しっくり来る。手がちっこいから握りづらさは拭えないが、こればかりは我慢するしかない。


 「貴様、剣を扱えるのか?」


 「人並みには。まぁ、あまり期待しないで」


 どれだけ背伸びしようとも、俺の戦闘経験は一般兵士程度でしかないからな。場数だけは踏んでるってだけだ。


 「んはっ、誰かの下について戦うなど久しく無かった経験だ。期待しておるぞイヴニア」


 「そっちも期待しないでくれ。俺は誰かの上に立った経験が無い。今回は特別なんだよ」


 「ならば今ここで経験を積むとよい。お前には素質がある」


 「お得意の勘?」


 「然りっ!」


 喜んでいいのやら悲しむべきなのやら。母様の子として産まれてきたものの、出来るだけ上の立場にはなりたくないのが本音なんだよなぁ。


 まぁ、素質があったとしても今後俺が上に立つかどうかは他ならぬ俺自身が決める事だ。絶対立たないけど。


 「じゃあ、作戦開始!」


 言い放つと同時に物陰から飛び出した。

 

 ヴェロニカさんはピッタリと俺の横に追従し、クロエとアルフさんはバジリスクに気取られないよう木を登って遥か上へと移動していく。


 俺達の役目は確実な隙を作る事。だから本気の攻撃を加える必要は無い。


 「ほら、こっちだ!」


 地面に落ちていた手頃な石を掴み取ってバジリスクの頭に投げ付ければ、思っていた以上の威力でブチ当たり、見事こちらへ注意を引く事に成功した。


 正直ここから頭に届くと思わなかったんだけどな……この体ホントにどうなってんだ。


 「ガアァァァァァッ!!!」


 「うひぃっ!」


 そこに居たか虫けらめ! と言わんばかりにバジリスクの尻尾が横薙ぎに振るわれる。ギリギリで避けれた。

 跳び上がれば何とか回避は可能でも、これを何度も続けるのは心臓に悪い!


 「ヴェロニカさん! 大丈夫!?」


 「こっちの心配はいらんぞ! んはっ、ノロいな!」


 尻尾の激しさは更に増す。どうやら随分とご立腹のようだ。一見すれば近寄り難い暴風の如き猛攻だが、冷静に攻撃されるよりかは遥かに避けやすい。


 実際、この体での戦闘に慣れていない俺でも避けられてるし、何よりヴェロニカさんの余裕っぷりが凄い。

 一撃受ければ即殺級の振り下ろしすら避けるどころか、いつの間にか装備した手甲で受け流している。あれどっから持って来たんだ。


 まったく、さっきまで麻痺毒に犯されてた人とは思えないな。


 「(って、他人の事ばかり気にかけてると)」


 「シャアァァァァッ!!」


 「そら来たっ……!」


 尻尾での攻撃はヴェロニカさんへ向けられ、俺に対しては毒液の噴射。

 口から放たれた紫色の液体は、どう見ても麻痺毒の類ではない。コアちゃんが受けたものと同じ溶解液だろう。


 どうせ来ると分かっていたから避けるのは簡単だった。倒壊した建物の間を潜り抜け、上手い具合に降りかかる毒液を躱していく。


 飛び散った毒液が数滴ほど体に付着したが、肌に異常は見られない。少量なら特に問題はないのかな。


 でもやっぱりおかしい。バジリスクは麻痺毒しか持たない筈なのにどうして……実はバジリスクじゃないとか? いや、それにしたって見た目はまったく同じだしな。


 「チッ、感覚が鈍い。まだ毒が残っておるな。そらそら! こっちだ化け物めが!」


 ヴェロニカさんが両手を叩いて呼び掛ける。分かりやすい挑発だ。でも効果は抜群らしく直ぐにバジリスクの意識がそちらへ向く。


 「(随分と短気な。こんなにキレやすい性格じゃないだろ)」


 やはり何かしらが原因で凶暴になっている可能性を考えた方がいいかもしれない。


 って今はそれよりも隙を作らなきゃ。下手に攻撃したところで効果は薄いし毒のリスクも高まる。最初の蹴りも完全に不意打ちだったからこそ、あそこまで吹っ飛んだと考えるべきだ。

 今同じ事をしようとしても避けられて終わりか、下手をすれば返り討ちに合う。


 何か、決定的な隙を作るんだ。確実に角を狙える隙……そう、例えばバジリスクを拘束できれば――。


 「(拘束?)」


 ふと見上げて思い付く。遥か頭上、木々の間に垂れ下がっているのは、長いツタだ。


 そういえば、倒壊した建物の所々にも繋ぎとしてあのツタが使われているな。てことは、建物を組み合わせる事が出来る程度には頑丈?


 「(いや、過信はダメだ。太くても所詮はツタだし、バジリスクを拘束するなんてまず無理に決まって――)」


 「……何か考え事?」


 「うひあぁぁぁっ!!?」


 突然耳元で囁かれた声に素っ頓狂な声を上げてしまった。体中をゾワリと気持ちの悪い感覚が駆け巡り、咄嗟に飛び退いて振り返れば、そこにはクロエの姿。


 「い、いきなり何するんだよ……!」


 「……ごめん、そんなに驚くとは思わなかった」


 割と本気目に怒ると、クロエの獣耳と尻尾がシュンと力無く垂れた。どうやら反省はしているらしい。まったく驚かせないでくれよ。


 「ここで何してるの? 上でアルフさんと待機しておく筈だったでしょ」


 「……ごめん、君が危なそうだったから、つい」


 危なそう? あぁ、さっきの毒液の事か。確かに多少かかったけど大事には至ってないし、心配し過ぎだろ。


 「はぁ。来ちゃったもんは仕方ない。それに、ちょうど知りたい事もあったしさ」


 「……! 何でも聞いて」


 マスクをしているから細かな表情は分からない。しかしそれでも、俺の言葉を聞いたクロエの表情がパッと明るくなった気がした。


 復活が早いな。耳も立って、垂れていた尻尾は千切れんばかりにブンブンと行ったり来たりを繰り返してる。

 うーん、元の俺とそんなに歳の差はないだろうに、どことなく子供っぽいよなクロエって。身体的に成長が早いだけで、もしかしたら俺が思うよりずっと年下なのかもしれない。


 「この建物の繋ぎ目に使われてるツタってさ、どれくらい頑丈なの?」


 「……それなり。鋭利な物を使えば簡単に切れるけど、こんな風に引っ張る力には凄く強い」


 言いつつ、建物に使われているツタを力強く引っ張るクロエ。怪力だという彼女の力で引っ張ってもなお不思議とツタが千切れる様子は無かった。


 これは使える。たかがツタだと甘く見ていたけど、これならば――。


 と考えたのは一瞬で、直ぐにダメだと思い直した。理由としては今クロエが言ったように、このツタは鋭利な物の前では無力だからだ。


 バジリスクの鱗はその一枚一枚が刃。ヴェロニカさんが毒を受けた時のように、獲物に傷を付けてそこから毒を注入し、動けなくなった所を捕食する。

 ツタで絡め取った程度では、直ぐに千切れて無駄に終わるのが目に見えている。動けなくなったとしてもほんの一瞬が関の山だろう。


 やはりダメか。


 「ん?」


 何か別の方法は無いかと、身を隠しながらバジリスクの様子を伺う。そうして暫くの間観察していると、ふとある事に気付いた。


 今もなおバジリスクはヴェロニカさんに夢中だ。尻尾での攻撃はもちろん、これでもかと毒を吐きまくっている。

 辺りに撒かれた毒は、当然草木にも飛び散っているが……どういう訳か肝心の草や木はまったく溶けていない。


 コアちゃんの背中を無残にも溶かした溶解液が、草木には何の効果も発揮していなかった。


 「まさか、溶かすのは生物だけ? なら……!」


 我、閃きたり! これならツタを使えるかもしれない!


 「クロエ、作戦変更。今から伝える事をアルフさんにも知らせてくれ」


 「……うん、分かった」


 作戦と聞いてクロエの耳がピンと立つ。聞き逃すまいと思ったからなのか、何故か身を寄せて――と言うよりほぼ抱き着く形になり、先程と同じくベッタリと頬をくっつけてきた。


 近ぇって。あと地味に痛いんだよそのマスク。


 「何してる」


 「……作戦、聞くからだけど」


 「こんなに近付く必要はないだろ。別にひそひそ話するでもなし」


 「……私は出来るだけ近くで聞きたい。君の声と、君の温もりを感じたい」


 絶賛戦闘中に何言ってんだこの人! どさくさに紛れて上半身弄ってるし! 幼子相手に盛ってんじゃねぇ!


 「獣人は本能で恋に落ちるんじゃなかったのか?」


 「……その本能がどうしようもなくアナタを求めてる。アナタが欲しい、アナタと添い遂げたいって」


 「俺別に、クロエの前で強さの証明なんてしてないと思うんだけど? 獣人は強い奴に惹かれるんだろ?」


 「……喰らう者を蹴り飛ばしてた。ずっとアナタの事は気になってたけど、あの瞬間、確信めいたものを感じたの」


 あぁぁ〜、あの時かぁぁぁぁ……!

 あの瞬間にクロエも居たんだな。作戦開始前に「……やっぱりアナタだった」って言ってたし、つまりはそういう事なんだろう。


 「……自分で言うのもなんだけど、なかなかに良い女の自信はある。アナタを満足させる自信もある。だから結婚しよ?」


 何でこんな非常時に愛の告白なんぞ受けなければならないのだろう。満足させるってなんだよ。いくら何でもグイグイ来すぎだろ。


 ほとんど知らない相手の告白に「はいよろしくどうぞ」と頷くほどチョロくはないぞ俺は。


 「その話は後にしてくれ。まずはバジリスクを仕留めるのが先決だ。良い女は取るべき行動の選択くらい簡単に出来ると俺は思うけどな」


 「……分かった」


 やれやれ。このグイグイ感、まるでレティシアを相手にしているようだ。親愛と恋愛の違いはあれど、やってる事がほとんど一緒で困る。くっつかれるのって割と疲れるんだよ。


 ともあれクロエも納得してくれたし、サッサと新しい作戦を伝えねば。

 こうしている今も、ヴェロニカさんは孤軍奮闘しているだろうし、これ以上放ったらかすのは許されない。


 「いいか、よく聞いてくれ」


 さぁ、上手くいくかどうかの大博打だ。気合の入れ所だぞイヴニア。

目指せ書籍化!

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