行き過ぎた求愛
あれこれ話しているうちにバジリスクは起き上がってしまった。俺達を見失っている事に変わりはないのだが、巨体に物を言わせて暴れ放題である。
さっきから木々や建物を薙ぎ倒しながら俺達を探しては咆哮を上げていた。
ここがバレるのも時間の問題だな。
「ガラル、コアの様子はどうだ?」
あの後、直ぐに水を持ってきたガラルさんによってコアちゃんの応急処置が始まった。
毒自体は洗い流せたものの、やはり酷い状態だ。血液中にも毒が入り込んでいるだろうし、たとえ運良く命拾いしたとしても、この傷は一生残る。
女の子にとって、これだけの傷が残ってしまうのは死活問題だと言えるだろう。……そう、運良く生き永らえれたらの話だが。
「呼吸が弱くなってきています。意識も無い……あぁ、頼むコア、お父さんを1人にしないでくれ」
「……!」
やっぱりガラルさんはコアちゃんの父親だったか。なら、バジリスクの前で動けなくなっていたのにも納得できる。
きっとコアちゃんが傷付けられた事で大きくショックを受けていたんだ。
「傷の深さを見るに絶望的、か。……ところでお前、名は何と言う?」
「イヴニアです」
「んはっ、白き神とは大それた名ではないか」
ギクゥッ! な、何故ヴェロニカさんがそれを知ってるんだ!?
「白き神?」
「イヴニア。古い竜の言葉だ」
「竜、ですと?」
「そう、竜だ。どうやらオレ達は何かと縁があるらしい。なぁ? イヴニアよ」
「は、ははは」
な、何でそんな意味深な視線を俺に送ってくるんだ! まさかバレてる? いやそんな馬鹿な。竜の言葉で名付けられてるからって、この姿を見て正体がドラゴンと見破るには無理があるだろ。……あるよね?
いや、でもミャーコちゃんはアッサリ看破してみせたし、同じ事をヴェロニカさんが出来ない道理は無いと考えるのが普通、か? クソぅ。
「お前はバジリスクについてオレ達よりも詳しそうだ。何か手助けとなる情報があれば教えてはもらえんか?」
「当然です。俺1人で勝てると自惚れてはいませんし、共闘を望むなら情報の共有は必要不可欠でしょう」
「んはっ、つくづく子供とは思えん言動よな」
そう言われて気付いた。確かに、せっかく話せるようになったとは言え普通に喋り過ぎてる。見た目は完全に幼子なのだから、もっと子供らしくした方が懸命だろうか。
僕イヴニア! よろしくね! えへっ☆
……オェッ、やめとこ。どっちみちもう手遅れだわ。
「それとその喋り方はやめよ。オレ達に対して畏まる必要は無い。アルフもそれでよいな?」
「族長が決められた事ならば、異を唱えるつもりはありませぬ」
俺があれだけ言っても曲がらなかったくせに、ヴェロニカさんの一言でこのアッサリ具合だ。
基本的にアルフさんはヴェロニカさんに絶対服従って感じ? いや、そんなガチガチではないか。
何だろう、母様とルドルフさんを見てる気分だ。名前もちょっと似てるし。
「じゃあ、お言葉に甘えて。
手助けどころか、これ以上ない情報を教えるよ」
「ほう、聞かせよ」
「バジリスクの鱗は生半可な攻撃じゃ貫けない。それこそ、勇者の一撃でもない限りはまず不可能と言っていい」
「(勇者と来たか。古の知識まで持ち合わせておるとは……んははっ、面白い)」
「であろうな。事実、族長の一撃を受けて奴は涼しい顔をしていた」
「うむ、正直自信を無くしてしまいそうだ。渾身の一撃だった故に余計な」
「鱗の突破は現実的じゃない。なら狙うは口だったり目といった剥き出しの部分。普通ならそう考える。
でもそれは間違いだ。俺達が狙うべきはバジリスクの角、その一点のみ」
そう、角だ。何も知らないでバジリスクに挑めば、多くの者が外皮への攻撃は無意味だと切り捨てる。そうして攻撃目標の大半が口内に集中し、真っ先に突っ込んでいった奴から麻痺毒にまんまとやられる。
俺も事前に知っていなければ、クソ親に殺される前にとっくにお陀仏だった。
「バジリスクは蓄積した魔力によって毒を生み出してる。生成した毒を体中に行き渡らせる循環の役目を担うのが角なんだ。
あそこさえ折り砕けば、奴は毒を使えなくなる。その状態で毒を生成したとしても使えないんじゃ意味が無い。それに、溜め続ければ奴にとっても猛毒だ」
「つまり、角さえ折れば奴はデカイ蛇でしかないと?」
「その通り。まぁ、それだけでも十分恐ろしいけど、毒が有ると無いとじゃ雲泥の差だ。狙わない手は無いだろ?」
「確かに有利に戦う事はできるだろう。しかし角だぞ? 下手をすれば鱗よりも強固なのではないか?」
「それがそうでもなくてさ。先端部分は鱗並みの強度でも、根本は皆が思ってる以上に脆い。それこそ、上手くやれば石で出来た武器で斬り落とす事だって可能だ」
俺も初めて知った時は信じられなかった。だけど、実際に目の前で一般兵士の一人が酷く刃こぼれした剣で叩き折った瞬間を、俺はこの目で見てる。
無名の兵士かつ、次の戦場で呆気なく命を落とした彼ですらバジリスクの角を折れたのだ。
俺達でやってやれない事はない。
「内部を狙うのはその後。まずは角からだ」
「その情報は信じるに値するか?」
鋭い眼光と共に横槍を入れてきたのは、案の定アルフさんだった。
またこのジジィはホントにもう〜。今は信じるとか信じられないとか言ってる場合じゃないだろ!
もしこれより良い代案があるってんなら言ってみろよ! あぁん!?
「よせと言ったぞアルフ。オレは信じる。その情報を元に攻めてやろうではないか。やれるだけの事はするべきだ」
「承知」
いちいちヴェロニカさんにお伺いを立てないと頭を縦に振れんのかこの人は。
「ヴェロニカさん、体の具合は?」
「まだ本調子には程遠い。四肢は動かせても感覚が無くてな。だが、戦える」
「流石。アルフさんも頭の傷は大丈夫そう?」
「いらん世話だ」
「はぁ、あっそ。戦力は俺を含めて3人と考えてもいいのかな?」
「いや、あと2人程居る。クロエはワンコを避難させておる筈だが……ん? ところでアルフよ、ウルズはどうした?」
「茂みの中に放り投げた以降は知りませんな」
だからウルズさんの扱いよ。もうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃないかな。
クロエさんは……あの人も戦力として数えてるって事は、それなりに腕が立つのだろうか。
あとワンコって誰?
「オレが動けておるのだから、頑丈なウルズもそろそろ痺れが取れてきた頃なのではないか?」
あ、ウルズさんも麻痺毒食らってたんだ。
「そのウルズさんって毒への耐性は?」
「無い筈だ。とは言え、アイツは腐肉を食っても腹を壊さん鋼の肉体を持っておる故な、直ぐに回復するとオレは踏んでおる」
よりにもよって腐った肉を食っても平気だと? どういう胃袋をしてるんだ。俺なんて獣の生肉すら食えないのに。
「その復活を待ってる時間は無い、か。
じゃあクロエさんって人は? 直ぐに戻って来れるかな?」
「クロエの足ならば避難所までそうかかるまい。そろそろ戻ってきてもおかしくは――おっと、噂をすれば何とやらだ」
不意にヴェロニカさんが見上げる。言葉通りに受け取るなら、クロエさんがワンコって人を避難させて戻ってきたのだろう。
俺も習って上を見上げてみれば、なるほど確かに大木の枝に立っている黒い獣人が居た。
あの時に見た鉄マスクと鎖付きの首輪はそのままに、そして何故か酷く驚いた様子で俺を見ている。……ん? 俺を見てる?
しばらく固まっていたクロエさんが、徐に枝から飛び降りて真っ直ぐに落ちてくる。その間も、視線は俺を捉えて離さない。
あ、そういえばクロエさんって――。
「……やっぱり君だった」
「え、なに、ぐえぇっ!?」
直ぐそばに降り立ったクロエさんからの熱い抱擁……とは名ばかりの締め上げ。耐久力は増してる筈なのに、体の節々から聞こえてはならない音が響き渡る。
「痛い痛い痛いっ! なにっ!? 何なの!?」
締め上げだけならともかく、鉄マスクを付けた顔面で全力頬擦り! 肌が! 皮膚が削れる! 何なのこの人!?
「おーおー、あのクロエがこれ以上無い愛情表現をしておるぞ。これは驚いた」
これ愛情表現なの!? 殺しに来てない!?
「貴様ら知り合いだったのか?」
「……私が一方的に知ってるだけ」
「それにしては随分と距離が近いではないか。感動の再会と言わんばかりの抱擁だ」
「……ある意味、そうかも? ずっと探してたし」
えっ、まさかあれからずっと探してたのか? 何でそこまでして俺を探してたんだ。あの時クロエさんが言ってたように、俺を不憫に思ったから?
でもそれにしたってこの激しさは納得できねぇ。
「あの、そろそろ離してもらえると」
「……離したら結婚してくれる?」
「何でそうなるの!!?」
「これイヴニア、あまり大声を出しては奴に気付かれるぞ」
そんな事は分かってるさ! でも無理ないよね!? いきなり結婚がどうのとか言い出してんだぞこの人!?
「どうしたのだクロエ、貴様ともあろう者が。人間にうつつを抜かすなどらしくもない」
「……アルフは人間が気に食わないんだろうけど、私にとって種族は関係ない。一目見て好意を抱いた、それだけ」
「ほーう? 一種の一目惚れか。んははっ、集落の男共が嫉妬してしまうなぁ。イヴニアよ、こう見えてクロエはなかなかに引く手数多な女だ。良かったではないか」
「何がだよっ! いきなり結婚がどうのとか言われても困るだけだし、今はそれどころじゃないだろ!?」
「……確かに。いきなり過ぎた」
お、おぉ! 分かってくれたか!
そうだよクロエさん。一目惚れしたにしてもさ、まず順序ってものがある。その過程をすっ飛ばすのはおかしな話だ。
まずはお友達から始めようじゃ――。
「……じゃあアイツ何とかしたら、子作りしよ」
何 に も 分 か っ て ね ぇ !!!!
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