これが本当の初対話
怒りをぶつけたいが為に攻撃をした結果、俺の予想を遥かに越えた勢いでバジリスクは吹っ飛んだ。
木々を薙ぎ倒しながら頭は森の奥へと消えていき、やがてズシンと地に落ちる音が響き渡る。
蹴りをかましたまではいい。ただこの高さからの落下は普通に死ぬ。受け身を取れる確証も無い。
スキル飛翔を使ってみようとしたが、やはり初めての時は何かしらコツでもいるのか、素直に発動してはくれなかった。
身体創造の時はまぐれか。あの時は落ち着いて集中できたのも理由としては大きいだろう。
「っ!」
仕方なしに覚悟を決め、迫る地面に落下する形で降り立つ。……すると、驚く事に呆気なく着地に成功してしまった。
痛みはもちろん、足が痺れる感覚もない。これもまた身体能力による恩恵だろうか。
であれば、それを存分に活かさずして何とするってね。
バジリスクが起き上がって来る前に足早にガラルさんの元へ駆け出す。俺の接近に気付き、あの夜の話し合いの場に居た厳つい獣人が、警戒心を顕に構えを取った。
まぁそりゃそうだよな。でも説明をしている時間が惜しい。ちょっと手荒く行かせてもらうぞ!
「止まれぃっ!」
「ごめん、通るよっ」
「なっ!?」
通せんぼしてくる獣人の横を普通に通り過ぎる。やたら驚いた表情をするんだな……って、そんな事は置いといて。
「コアちゃんっ」
ガラルさんの元に辿り着き、グッタリして生気を感じさせないコアちゃんの肩に触れた。
その際、何やらベットリとした液体が手に付着する。ここに来るまでに見た、溶かされた獣人に付着していた液体と同じものか。
コアちゃんの背中は焼き爛れたように酷い状態だ。もしかしなくても毒? でも俺の知ってるバジリスクは麻痺毒くらいしか持っていなかった筈――。
「脈が弱まってる……クソッ」
「君は、いったい?」
「説明は後でします。ガラルさん、ちょっと我慢してくださいね」
「え、何故私の名を――」
聞き終わる前にコアちゃんごとガラルさんを抱え上げる。出来るという確信はあったものの、獣人2人を抱えてもなお余力があるとは……恐ろしいなこの体。
直ぐに駆け出してバジリスクから距離を開ける。先程の獣人が後ろをピッタリと着いてくるのを確認しながら、大木の物陰まで走った。
たどり着いた先で2人を降ろし、改めてコアちゃんの顔を覗き込む。
「……」
当たり前だがツラそうだ。あの時無理にでも引き止めていればという後悔の念ばかりが湧いてくる。
「ガラルさん、気休めかもしれませんが出来るだけ綺麗な水でコアちゃんに付着した毒を洗い流してください。
それと回復魔法を使える誰かが居れば呼んできてくれると助かります」
「えっ、あぁ、水は何とかなる。しかし私達獣人は魔力を持たない故、魔法の類は使えないんだ」
あー、そっか、確かに元の世界でも獣人は魔力無しと呼ばれていた覚えが。こっちでもそれは同じなのか。
「ならポーションでも薬草でも構いません。とにかく少しでもコアちゃんの助けになる物を直ぐに用意してください」
「っ、分かった、任せてもらおう。
気が動転して優先すべき事まで失念してしまうとは、情けない限りだ。それに、こんなにも幼い少女に助けられるとは」
違うわい! 女の子だとしたら上半身素っ裸はおかしいだろ!?
「いや男です」
「え?……えっ!?」
「とにかく急いでください。バジリスクは俺が何とかします。出来ればですけど」
「バジ……?」
「それについても後で話します。
……すみません、そういう訳なので手を貸してもらえますか?」
一先ずコアちゃんの事はガラルさんに任せて、背後に立っている初老の獣人へと向き直る。
やはり警戒の色が強い。ガラルさんと話している間に取り押さえられなかったのが奇跡だ。
「直ぐに戻る」
不穏な空気を察しながらも、ガラルさんはコアちゃんの為にとこの場から駆けだしていった。
残されたのは倒れているコアちゃんと俺、そして目の前の獣人。
「貴様は何者だ」
「俺が何者か、それを今ここで言ったとしても信じてはくれないでしょう。少なくとも貴方達の敵ではありません」
「それを信じろと言うのは、些か無理があるとは思わんか? 小僧」
んー、そうだよなぁ。逆の立場なら俺も疑ってるだろうし。さてどう説明すべきか。ちんたらしてたらバジリスクが起き上がって来てしまう。
さっきの蹴りで既に仕留めてたり――は、しないよなぁ。そんな簡単な相手じゃない。
そんな事を言ってたら地響きが聞こえ出したし。マズイ、もう復活してきやがったか。
「何故人間の子供がここに居る」
「説明している暇はありません。それは貴方もよく分かっていると思いますが?」
「敵かも分からぬ相手と共闘などと、この状況でそのようなリスクを犯せるとでも?」
だーもう! 頭の固いオッチャンだな! いやジジィか、よしジジィでいい! バジリスクに蹴り食らわせて、コアちゃん達を避難させて、これ以上何をしろってんだ!? どうすりゃ信じんの!? あぁん!?
「では俺を殺しますか? その選択をされる場合、俺も相応の抵抗をさせてもらいますけど、それは共闘する以上にリスクにならないと?」
「子供の抵抗などたかが知れているだろう」
その子供がついさっきバジリスクを蹴り飛ばす瞬間を見てなかったんかこのジジィ……。
いや、待てよ? もしかしてこの人、実は相当に腕が立つのでは? あの程度は脅威にすらならないって事なら……どうしよう、ジジィとか思ってたのバレてないよね?
「……」
うおおお、眼力強ぇぇっ。本当に助けようとしてるだけなのに、何でこんなに疑われなきゃいけないんだクソッタレ。
「よ、さんか……アルフ。争っておる……場合、ではあるまい」
「族長!?」
どうしたもんかと頭を悩ませていると、ジジ――アルフさんの後ろからフラフラと危なっかしい足取りで現れたのは、誰あろうヴェロニカさんだった。
良い所で来てくれた。でも何でそんなフラフラに……よく見たら体のそこかしこに切り傷があるし、バジリスクに手酷くやられたのだろうか。
「もう大丈夫なのですか? 顔色が優れぬようですが」
「んは、は……大丈夫なものか。だが、元々、毒物には多少の耐性があった故な。かなり、マシにはなってきておる。
とは言え、見ての通り満足に歩く事も――っとと」
「やはり毒を受けていたのですね。あまりご無理をなされるな」
一歩踏み出そうとしたヴェロニカさんの体が揺らぐ。それを抱き止めるアルフさんに、ヴェロニカさんは力無く微笑みかけた。
「すまんな。まったく、忌々しい……しかし解せん。オレは毒など食らった覚えは無いというのに、何故だ?」
「先程喰らう者が噴射した靄が風に流され、族長が吸い込んでしまったとは考えられませぬかな?」
「んは、それは無い。オレの嗅覚を舐めるな。異常があれば直ぐに気づく。
んんっ、だいぶ声も出るようになってきおったな」
ヴェロニカさん、麻痺毒にやられてたのか。
霧……あぁ、確かにバジリスクは霧状にした麻痺毒を噴き付けてくる。これで何百何千という兵士が死んでいった事やら。思い出すのも恐ろしい。
でも、ヴェロニカさんはその毒を吸い込んではいない。じゃあどうして――待て、そうか、切り傷だ。
「ヴェロニカさん、もしかしてバジリスクの鱗に長時間触れていたり、もしくは攻撃を受けましたか?」
「ほう? オレの名を知っておるか」
あ、しまったついポロッと呼んじゃった。
「あー、それはーその……」
「フッ、まぁよい。そのバジリスクとやらは、喰らう者の事で相違ないか?」
「……はい」
「ふむ。確かにオレは奴の動きを封じるため、しばらくの間奴の体に触れておった。見ての通り鱗で切れて傷だらけよ」
「やっぱり。その時ですよ、ヴェロニカさんが毒を受けたのは」
「何だと?」
「バジリスクは主に口から麻痺毒を吐く。でも、場合によっては鱗の間から霧状に噴射したり、鱗の一枚一枚から麻痺毒を分泌させる事も出来るんです。
短時間でも量によっては致死量。ヴェロニカさんがどれだけの時間くっついていたのかは知りませんが、毒への耐性に救われましたね」
「何ということだ。それが本当なら下手に攻撃できないではないか」
「いや、そうとも限るまい。事実、奴の体に多少なりとも触れた筈のアルフとクロエはピンピンしておる」
え、クロエさん居たの? それにしては姿が見えないけど、隠れてるのか?
「ヴェロニカさんの言う通りです。基本的に鱗から麻痺毒を分泌させるのは攻撃する時のみ。
こちらから瞬間的に攻撃を加えるだけなら、奴の毒は間に合いません。もちろん、すでに毒がある場所への攻撃はその限りではありませんが」
「なるほどな、納得がいった。ウルズが麻痺毒を受けたのも、あの霧ではなく一撃を受けた時だろう。
察するに奴の麻痺毒は遅効性のものと見て間違いないか?」
「個体差はありますが、その認識で構いません。症状は悪化する時も治まる時も、急激に変化するのが特徴です」
「ふむ、オレの耐性だけが理由ではないか。いきなり体が動くようになったのも、その特徴とやらのせいだろう」
「族長、この子供の言葉を全て信じるのは如何なものかと」
むっ、まだ言うかこの野郎!
「いや、信じてもよかろう」
「……一応、理由をお聞きしても?」
「勘だ」
あ、うん、そんな気はしてた。
でもそれじゃ、この頭でっかちなアルフさんは納得しないだろ。まさに頑固親父そのも――。
「であれば信じましょう」
何でだよっ!!!?
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