ちびっ子2人
「おっきな太陽さんささ〜ん♪
あったかぽかぽかね〜むねむ〜♪」
獣人達と邂逅を果たしてから早いもので7日ほど経過していた。特に変わりもしない日々の中、俺は今日も今日とて毎日のように牢屋へ訪れるコアちゃんの相手をしていた。
ちなみに、現在俺は空腹状態ではない。と言うのも、本当にコアちゃんがお父さんに口添えしてくれたらしく、あの日の夕飯から目に見えて食事の量が増えたのだ。
満腹には程遠いものの、中途半端な食事にはならず、あの空腹感が嘘だったかのように変わった。
冗談抜きで女神様かと思ったね。
さてさて、そんな女神様ことコアちゃんだが、今日は随分とご機嫌な様子で俺に歌を披露してくれていた。鉄格子に背を預け、時折こっちを見てはニコリと笑う。
綺麗な声をしてるなぁ。肝心の歌の内容が独創的なのが少し残念だけど。
「みんなでお昼寝〜♪ ちゃちゃーん♪
おーわりっ。ね、どうだった?」
「キュー」パチパチ
「でしょー! こう見えても声には自信があるんだよね、えっへん!」
うん、そこは自信を持ってもいいと思う。本当に声だけなら冗談抜きで綺麗、声はね。
「これなら歌い手になれる日もそう遠くない! がーんばーるぞー!」
「キュイ?」
「あ、歌い手っていうのはね? 集落のぎょーじ? とか、戦いの前にみんなをこ……こ、ぶ? えーっと、元気付けたりする時とか、あとはお祭りの初めに歌って盛り上げたりする人の事なんだ〜」
ほーん? 行事、鼓舞、お祭りねぇ。前の世界に居た吟遊詩人とかとはまた違う感じか。コアちゃんの言い方から察するに、それなりに重要な役目を担う人っぽいな。
なるほどなるほど、コアちゃんはその歌い手ってのになりたい訳だ。歌の技術がどの程度あればなれるのかは知らんけど、無知な俺でもコアちゃんの場合は要練習って事くらいは分かる。
声はともかく歌詞をさ……。
「今の歌い手はレナイエお姉ちゃん。すっごく美人さんで、すっごく優しくて、すっっっっごく歌が上手なのっ。
歌い手を目指してる娘達みんなの憧れなんだぁ」
お、おう。とにかくそのレナイエさんって人をすっごく尊敬しているのは伝わったよ。すっっっごくね。
「もうすぐお祭りがあるから、その時に君にも聞かせられたらいいのにね」
「キュイ? キュキュイ?」
「毎年恒例の喧嘩祭りってのがあるんだけど……んー、なーんか最近みんなピリピリしててお祭り気分って感じじゃなくてさぁ。
お父さんに聞いてもはぐらかされるし、ヴェロニカ様も教えてくれないし。子供にだけ教えてないみたい。やな感じ」
喧嘩祭りってまた物騒な言葉が飛び出してきたな。俺が思ってたお祭りじゃねぇ。
ピリピリしてんのは、まぁ十中八九あれのせいだよな? 喰らう者。そりゃ別の集落が壊滅させられてる状態なんだから、それをほっぽって祭りなんてしてらんないだろう。
無用な心配をさせてしまうからこそ子供にはとても話せない。大人達の配慮ってやつだ。って、コアちゃんはそれが気に食わないみたいだけど。
「あーあ、今年はトーくんが喧嘩祭りに出るからってちょっと楽しみにしてたのに……んに? あっ! 来たみたい!」
また知らん名前が出てきた。そう思っていると、突然コアちゃんが立ち上がり隠し通路の方へ駆け出した。
見れば何やら隠し通路の出入り口がカタカタと揺れているではないか。それ即ち何者かがそこに居る証。
「あ、言ってなかったね! 前に話したと思うけど、今日は友達も来る予定だったんだ〜。
用事終わらせた後で合流するって話だったから、たぶんそれが終わって来たんだと思うよ」
えっ、なんだよそういうのは早く言ってくれよ。心構え全然出来てないのだが?
食事を持って来てくれる獣人は揃いも揃って俺を怖がってたから、初めて会う場合緊張するんだよ。コアちゃんの友達って事は子供だろうし、ちびっ子にまで怖がられてたらちょっとショックだからさ。
よしっ、極力怖がらせない方向で行こう。如何にも危なくなさそうな雰囲気で「僕は人畜無害なチビドラゴンだよ、テヘッ♪」くらいの感覚で接しよう。
……自分で言ってて気持ち悪ぃな。
俺が人知れず気分を悪くしている間に、コアちゃんが床を引っぺがす。すると、そこから2人の小さな獣人が顔を覗かせた。
茶色い短髪の活発そうな少年と、目元を長い藍色の髪で隠した少女。2人ともコアちゃんに手を引っ張られる形で隠し通路から出てきた。
「よっと。おぉ〜、ホントに牢屋に繋がってるし。よくこんな道知ってんなコア。ってうわ、ホントにドラゴン居る」
「知ってるっていうか、4日かけてボクが掘ったんだよね〜」
「はぁ!?」
なんてこった。あの道って元からあるものじゃなくてコアちゃんが掘って出来たものだったのか……意外な才能だ。獣人は穴掘りまで得意なのか?
「なんつーか、行動力バカだなお前」
「むっ! バカとは何さ!」
「いやだって、普通ここまでしないだろ。だからバカだって言ってんだよ」
「またバカって言ったー!」
「あ、う、けん、喧嘩は、ダメだよ、ね?」
おー、一気に賑やかになった。子供ってのは元気だぁね。眩しいぜチクショー。
「少しは後先考えて行動しろって。これバレたらドヤされるどころじゃないだろ。ホント、バカだわ」
「んにぃぃぃぃっ!」
あーあー、みるみるうちにコアちゃんの顔が真っ赤になってく。目尻には涙も溜まっていた。煽り耐性無いんだなぁ。
トーくんと呼ばれた少年も、からかい半分って感じだが、だからってバカバカ言っていい訳じゃあない。
なので、ちょっとお説教します。
「あっははは! おもしれー顔いっだぁっ!!?」
「ひうっ?!」
ここからだと手では届かない。ので、鉄格子の間から尻尾を潜らせて、かるーく少年の頭をペシンと叩いておいた。
ふふ、尻尾の扱いも上手くなったもんだ。何で動かせてんのか自分でも分からないけどさ。
これで怖がらせてしまってちゃ本末転倒。しかしそれでも、我が女神コアちゃんを泣かせる奴ぁ子供でも許せぬ。
「いぎぎぎぎ……!」
「だ、だいじょぶ……?」
あれ? かなり手加減したつもりなのに随分痛そうにしてるな。んー……あ、そういやレベルアップ前に比べて格段に鱗が硬くなってたの忘れてた。すまん少年。
「ボクの為に怒ってくれたの?」
「(当然)」コク
「にへへ〜、ありがと」
「(わぁ大胆)」
お礼のつもりなのだろう。伸ばした尻尾に抱き着いて満面の笑みを浮かべてくれる。
まったく、こんなに可愛らしい娘に向かってバカとは嘆かわしい。たとえ冗談でも言葉を選びなさい。
「こ、こっ、この野郎! いきなり何すんだ! ドラゴンだからってチョーシに乗るなよ!」
「(おー、ドラゴン相手に吠える吠える。威勢がいいじゃないか少年)」
男の子はこれぐらい小生意気じゃないとな。コアちゃんではなく俺に対してならいくらでも強気になってくれて構わんぞ? ドンと来い。
「俺は将来獣戦士隊長になる男だぞ! お前なんかよりずっと強い! こんな事してただで済むと思うなよ!」
「や、やめなよぉトウレンくん。ドラゴンを怒らせたら、た、食べられちゃうよ」
「ミャーコは黙ってろ! おいコア! お前も引っ付いてないで離れろよ!」
「なんでー? トーくんにはカンケーないじゃん。ねー?」
おお、さっきの仕返しのつもりかコアちゃん。強かだな。
「襲われるかもしれねーだろ! 俺はともかくお前は弱いんだから、ちょっとは考えろよ!」
「襲わないもーん。この子とボクは仲良しさんだもーん。ほら」
抱き着いていたコアちゃんが、今度は尻尾の上に跨る。これ幸いにと尻尾をゆらゆらと揺らしてみた。
「ぐぬぬっ」
「あれあれー? どーしたのかなー? トーくん。これでもまだこの子が襲ってくると思ってるのかなー? にへへ〜」
俺が尻尾を左右に振るもんだから、煽りの威力は更に倍。これぞ合わせ技。
「かーっ! 腹立つぅぅ! つーか、俺はお前を心配して――!」
そこまで言うと、不自然にトウレンくんが言葉を切った。さっきのコアちゃんに負けず劣らずといった具合に、みるみるうちに顔が赤く染まっていく。
「へ? なんて?」
「だか、ら……俺は」
ほほーう? なるほどなるほど? この反応から察するに、つまりはそういう事だな。子供ながらにしっかり意識してんだなー。微笑ましい。
「キュキュイキューイ」
「わっ、かわいい声」
思わず応援したらかわいいと言われてしまった。ありがとうなミャーコちゃん、でも男としてはあんまり嬉しくないんだわ。
「ねー、なんて言おうとしたの?」
「う、ぅ……うっせバーカバーカ!」
「またバカって言ったー!! もう許さないんだから!」
三度目は許さないと言わんばかりに、尻尾から飛び降りたコアちゃんがトウレンくんに飛び掛かった。
そうして始まったちびっ子同士の取っ組み合い。
なんだろうこれ。子供も居ないのに父親してる気分だ。案外悪くないかも。
止めるべきなんだろうけど、まぁ当人同士の問題でもあるし、好きにさせておこう。本当に怪我をしそうになったら止める形で。
「ボクだって1人で狩りできるくらい強いんだからー! んにぃぃぃ!」
「はんっ、それくらい誰でも出来るっつの! ブラックウルフを1人でぶっ倒せるようになって初めて1人前だろ!」
「じゃあトーくんは出来るんだよね!?」
「と、当然だろ! 俺は獣戦士隊長候補なんだぞ!」
「それトーくんが勝手に言ってるだけじゃん! クロエお姉ちゃんの方がずっと隊長に向いてるよ!」
「なんだと!」
「なんだよー!」
はっはっはっ、賑やかなり。
直接的に殴る蹴るはしてないし、あんまり心配はいらなさそうだな。喧嘩するほど仲がいいってか。
「(やれやれ)」
「……」
「(お? 何だ?)」
呆れ半分に2人の取っ組み合いを見ていると、いつの間にかミャーコちゃんがこちらへ寄ってきており、俺の事を見上げていた。
さっき食べられちゃうって言ってて明らかに怖がってる感じだったのに、前髪の間から覗いてる瞳がキラキラ輝いてるのは何故だ。
「キュイ?」
「わぁ、やっぱりかわいい声」
こそばゆいから、あんまり言わないで……。
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