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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 毒蛇と魔女
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黒い訪問者

 翌日。


 結局、不測の事態によって食料調達大作戦は失敗に終わった。収穫は例の建物の横に吊るされていた干し肉のみ。


 腹の足しにもならない上に、下手に食べれば空腹地獄。それでも我慢出来ずに、持って帰ってきた干し肉を食べてしまった。


 美味かったさ、ああ美味かったさ。何なら昨夜出された食事の肉より美味かったさ。空腹は最高のスパイスって事を嫌でも痛感したさ。


 でもそれは一時凌ぎにしかならず、食べて数分後には「もっとよこせ!」と腹の虫が大合唱。最悪である。


 耐え切れず残しておいたレッドベリーすら平らげて尚足らない。今なら母様自慢の生肉の死骸風味フルコースでも食えそう……いや、やっぱ無理だな。


 眠る事すらままならず、少しでも空腹感を誤魔化そうと横になってボケ〜っと時間を潰すこと数時間。

 きっと外は既に太陽が昇っている頃だろう。


 「(スキルで傷は癒せても、こればっかりはどうにもならない。空腹を抑えるスキルとかないのかなぁ……腹減った〜)」


 松明の火も消えて、薄暗い中で横になって孤独に空腹と戦う幼い竜。かわいそうだよね、誰か助けて。


 信頼関係を築くとか言う前に餓死してちゃ意味が無い。こんな事なら、最初から脱獄して自分で狩りでも何でもして料理した方が早かったんじゃ――。



 『また来るから』



 逃げてしまおうか。そんな事を思ってしまう中、ふと思い出したのはコアちゃんの言葉。


 ……忍び込んでまで俺にレッドベリーを持ってきてくれた。まだお礼すら出来てないのに、このまま逃げてさようならはあまりに不義理、だよな。


 「(また来るから、か。次も何か食べられる物とか持ってきてくれないかなぁ)」


 淡い期待だと思いつつも願わずにはいられない。腹を満たすのはもちろんなのだが、このままだと魔力が回復しないのだ。


 おそらくこちらも元の世界同様で、食べる、寝る、もしくはポーション類を用いて初めて魔力が回復する。

 しかし現状俺は、食べれない、寝れない、ポーション? 贅沢言ってんじゃねぇ状態な訳で、回復したくてもできない状況だ。


 昨夜ここに帰ってきて直ぐに身体創造を解除できなかったのも痛い。発動は出来ても元に戻る方法が分からなかった。

 あれこれ試しているうちにようやく見つけた方法が、頭の中で強く解除・・と念じる事だった。


 そうして元に戻った頃には、1900を越えていた魔力も今や残り200ちょい。干し肉とレッドベリーのおかげでほんの少し回復してはいるが、全快には程遠かった。


 あの消費量を考えても、一日中人間の姿のままってのは難しいな。


 「(スキルって、面倒くさいなぁ)」


 文句を垂れながら、自然と視線は床の隠し通路へ注がれる。今にもコアちゃんがひょっこり顔を覗かせてくれるんじゃないかと期待して。


 「(子供に頼るしかないとは、なんて格好悪いんだろうか。……ん?)」


 自分の不甲斐なさに押し潰されそうになっていると、不意に階段の方から足音が聞こえてきた。


 朝食か!? と期待したのは一瞬。直ぐに違和感に気付いた。


 足音がおかしい。自分でも何言ってんだって感じだけど、昨夜食事を持ってきてくれた獣人然り、ヴェロニカさん達然り、粗末ながらも皆ちゃんと靴を履いていた筈。

 にも関わらず、聞こえてくる足音はひたひたとまるで裸足で歩いているような音だ。それに加えて何かを引きずる音も聞こえる。


 「(ひぇっ!?)」


 ジッと階段の方を見つめていると、階段上から突然、動物の足だけが転がり落ちてきた。死んだばかりか、切断面からは赤い血が……って怖い怖い怖いっ! やめろぉ! 誰だコラァっ!


 「……」


 「(ぎゃーっ!!? …………あ?)」


 ぬっと奥から顔を覗かせる誰か。一瞬それが人外の化け物に見えて叫び声を上げそうになるも、直ぐにそれが獣人であると気が付いた。


 頭の上には獣耳。間違いなく獣人だろう。

 ただ、口元を大きな鉄製のマスクで覆い、首には同じく鉄で出来た鎖付きの首輪らしき物という異様な出で立ちだ。

 こちらに向けられる眠たげな視線と、俺の人間形態に負けず劣らずな少し癖っ気のある長い黒髪。動きやすさを重視したと思われる服装も黒一色。


 おそらく前世の俺よりも年下の、まるで見た目デーモン様みたいな獣人がそこに居た。


 「……」キョロキョロ


 上半身だけを覗かせた状態でしばらく辺りを見渡し、やがて俺と目が合うと首を傾げた。


 それは俺の反応なんだけど……誰だ? 女性だよな、胸あるし。


 「……」


 「(うわ……)」


 やっと角から出てきたかと思えば、その獣人が片手で引きずっていたのは間違いなく動物の死骸。何処かで見た光景に懐かしい気持ちになった。


 まさか、俺に持ってきたとは言うまいな? 腹減りの俺を見かねての差し入れ? そうだったとしても生は勘弁してくれ。あの日の悪夢を思い出す。


 「……」


 下手に動かず獣人の動きを観察していると、引きずっていた死骸を投げ捨てて、何やら部屋中を物色し始めた。

 申し訳程度に置かれていた机の下やら、器用に壁を登って部屋全体を見渡してみたり、最終的には俺の居る牢屋の中を覗き込んで、何故かガックリと肩を落とした。


 探し物だろうか。でも牢屋で探し物ってのもおかしな話だし……。


 「……!」ピク


 「(お?)」


 肩を落としていた獣人が、耳をピクリと反応させて振り返る。視線の先には床……あっ――。


 「……」


 ほんの少しの迷いすらなく獣人は真っ直ぐに進み、そのまま床に片手を突き立てて一気にめくり上げた。


 そこはコアちゃんが使っていた隠し通路だ。


 「わひゃあぁぁぁぁぁっ!!?」


 可愛らしい悲鳴が響き渡る。この声はコアちゃんで間違いない……なるほど、隠し通路に気付いたってよりはコアちゃんが隠れてるのに気付いたって感じか。


 「んにぃぃ、忍び込んでごめんなさぃぃぃ……!

 ……って、あれ? クロエお姉ちゃん?」


 「……ん」


 お、知り合い?


 「ここで何してるの?」


 「……こっちの台詞」


 「あ〜、えっと〜、に、にへへ〜」


 コアちゃん、確かに言いづらいだろうけど笑えば誤魔化せるってもんじゃないぞ。


 「……」


 「わっ、え、どしたの?」


 クロエと呼ばれた獣人が徐に隠し通路の中に頭を突っ込んだ。


 探し物の続きといったところか。

 しかしなぁ、クロエとやら、何がとは言わないけど見えてるんだよ。というか何故下着を穿いていないんだこの娘、丸見えだぞ。


 元人間なのは置いといて、今の俺がドラゴンで良かったな。まったくハレンチな。


 「……他に誰か居ない?」


 「え、ボクだけだよ?」


 「……そっか」


 「???」


 またガックリと肩を落として、クロエさんはとぼとぼと壁際に移動。そのまま壁を背に膝を抱えて座り込む。今にもズーンと聞こえてきそうだった。


 何しに来たんだこの娘。


 「どしたんだろクロエお姉ちゃん。

 あっ、やっほ〜、今日も来たよ〜」


 「(やっほー。こんな状況でもマイペースだなコアちゃん)」


 隠し通路から出てきたコアちゃんに手を振り返す。パッと見、食料らしきものは持って来てないらしい……残念。


 「おはよっ、よく眠れた?」


 「(ぜーんぜん)」フルフル


 「そっかぁ。そりゃこんな所じゃ気持ち良く眠れないよね」


 あー、場所は関係ないんだよ。腹減りが酷いってだけでさ。

 今だって起き上がることすら億劫な状態だもの。何て体たらく、でもどうしようもない。


 コアちゃんが心配そうに俺を見つめてくれる中、まるで見計らったかのように唸り声にも似た音が鳴り響いた。言わずもがな超絶不機嫌中な我が腹の虫である。


 「おー、すっごい音。もしかしてお腹空いてる?」


 「キュ」コクリ


 「でもヴェロニカ様がご飯は持って行くようにってみんなに言ってたし、レッドベリーだって……あー! 一晩で食べちゃったの!?」


 しまった、麻袋の残骸を隠すのを忘れていた。


 仕方ないだろー。この空腹状態で目の前に食料があれば誰だって食い付くってば。しかも俺はドラゴンなんだから、人より食べる量も多い。足りないんだよ圧倒的に。


 「ん〜、困ったなぁ。ボクの朝ごはん持って来てあげればよかったかも」


 いやいや、流石にそれは悪い。子供のご飯を掻っ攫ってまで腹を満たそうとは思わんよ。……干し肉盗んだ奴のセリフとは思えないなー。


 「ご飯、ご飯……あっ」


 「(まぁ、そこに注目するよな)」


 うんうんと悩んでいたコアちゃんが、ふと視線を向けたのはクロエさん――ではなく、その隣に放り投げられた動物の死骸。


 チラチラと俺と死骸を交互に見て、遠慮気味に死骸へ指を差す。


 「えーっと……食べる?」


 「キュイッ(いらん)!」プイッ


 十分な下処理をした上で焼いた状態なら食うけどな! 生のままは俺にトドメを刺すと同義と知れい!


 「えー、お腹空いてるのに何でだろ……あ、そっか。ねークロエお姉ちゃん。これ持って来たのクロエお姉ちゃんでしょ?」


 「……ん」


 「あの子用にちょっと分けてくれないかな? たぶん焼けば食い付いてくれると思うんだよね」


 なっ!!!? こ、コアちゃんっ、貴女が女神か!

 俺の意思なんて伝わってないだろうに、今一番求めている物を理解してくれている……! なんて良い子! お兄さん泣きそう!


 「……ダメ」


 しかし返ってきたのは無慈悲な一言だった。


 うおぉぉぉぉいっ!!! せっかくコアちゃんが焼いた肉を提供してくれそうだってのに、何故そこで断るんだクロエさんっ!! いやまぁ、ちょっと図々しいかなぁとは思うけどさ? でもさぁ!


 「ほんのちょっとでも、ね?」


 「……ダメ。これはあの子(・・・)にあげるの」


 「へ? あの子って?」


 「……昨日、木の上で見廻りしてたら、かわい――んんっ、子供を見つけた。集落から食べ物を盗んで逃げて、ここに入って行くのを見たの。

 きっとお腹を空かせてる。だから、これはあの子に渡す。いくらコアでもあげない」


 「うえぇっ!? それって泥棒じゃないの!?」


 「……仕方なく盗んだんだと思う。たぶん人間の子」


 「しかも人間!?」


 ワーオ、ナンテコッタ。


 無我夢中で逃げてしまってたから注意力散漫になっていたんだろう。まさか見られていたとは……!

 いや、まだ焦るな。クロエさんが見たのは人間形態の俺であってドラゴンじゃない。いくらでも誤魔化しは効く!


 しかしなるほど、だからクロエさんは動物を狩って来たのか。他ならぬ俺の為に……あれ? ひょっとして良い人?


 「……こんなに小さかった。コアよりもずっと年下なのに、盗まないと食べていけないなんて。それにほとんど裸状態だったし、並々ならぬ事情がある筈」


 いえ、その……はい。事情はあるっちゃあるけど、はい。単純に腹減り過ぎて盗んだだけですごめんなさい。

 とりあえず尻尾で下着と化した麻袋を隠しておこう。


 「人間の子供かぁ。ねぇ君、ここに子供が来なかった? ボクより小さい子」


 「っ!」ビクゥッ


 急に話を振られたので全力で頭を横に振っておいた。

 騒ぎになっても困る。俺が人間の姿になれる事実はギリギリまで隠し通すぞ……!

目指せ書籍化!

多くの人に読んでもらうためにも、皆さんの応援コメント、評価等よろしくお願いします!

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