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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 毒蛇と魔女
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感覚で生きる人も居るものだ

 「綺麗でしょ? レッドベリーっていう果物なんだよ」


 レッドベリー。聞いたこと無いな。別に果物博士って訳でもないから、名前を聞いてもピンと来ないのは当たり前だけどさ。


 「君を見つけて6日くらい経ってるからさ、起きた時にお腹空いてるんじゃないかな〜ってこっそり摘んできちゃった。にへへ」


 6日!? そんなに経ってたのか……そりゃ腹も減るわな。負傷した状態で飲まず食わず、普通の赤ん坊なら間違いなく死んでる。ドラゴンの生命力に感謝だ。


 それにしても、わざわざ俺の為にこっそり食べ物まで持って来てくれるとは。やっぱり敵と考えるのは間違いか。今の所コアちゃんの印象はすんごく良い子だ。


 「あーでも、ドラゴンって果物食べるのかな? お肉じゃないとダメとかだと狩りに行かなきゃ……ん〜、でも1人で行ったらお父さん怒るんだよなぁ」


 まぁ確かに、さっきも肉! と叫んでいたくらいだから、正直今食べたいのは肉類で間違いない。

 でも囚われの身で贅沢を言ってはいられん。果物でも寝床の藁を食うよりは遥かにマシだろう。


 「……」パク


 「あっ」


 摘み上げたレッドベリーを口に含んでちょっと後悔。毒の可能性を考えてなかった。


 しかしそれも杞憂に終わり、プチリと口の中で弾けたレッドベリーの果汁が口内いっぱいに広がり、甘い香りが鼻を抜けていく。


 見た目からは想像もできない程の水分量。そして何より甘い。いつか食べたエトちゃんのクッキーを遥かに越えた甘さだ。

 だからといって胸焼けを起こすようなクドい甘さではなく、スッと体に馴染む優しい甘み。


 これは、美味い。


 「ど、どう? 美味しい? 食べれる?」


 「キュイ(美味い)


 コクリとコアちゃんに頷いてあげると、パーッと目に見えて表情が明るくなる。


 やっぱり子供は元気な表情が一番だな……疑うのが馬鹿らしくなってきた。


 「いっぱいあるからねっ。ボクも食べちゃおーっと」


 鉄格子を背に座り込んだコアちゃんが麻袋の中からレッドベリーを摘み、パクパクと口の中へ運んでいく。


 「ん〜! おいひぃ〜! お父さんに秘密で採ってきた甲斐があったってもんだよっ」


 秘密、ねぇ。何か苦労してそうだなコアちゃんのお父さん。何となくだけど。

 というか、もしかしてこの量を1人で集めてきたのだろうか? さっきみたいに麻袋を抱えながらってのは考えにくいし、だとすれば少しずつ集めたって事か……。


 俺の為に?


 「んむ? 君も遠慮しないで食べなよ〜。

 あ、でも見張りの人がじゅん……じゅん、かい? そう巡回! で戻って来る事があるから、その時は隠してねっ」


 「……」


 「わわっ、くすぐったいよぉ〜!」


 いかん、良い子過ぎて思わず頭を撫でてしまった。演技なら素晴らしい才能だ。


 願わくばこれがコアちゃん本来の姿でありますように。


 「……ぁ……ね」


 そして噂をすれば何とやら。左側に見える階段の上から、微かに話し声が聞こえてきた。足音の数からして、おそらく2人。


 俺が気付くくらいだ、聴覚に優れた獣人であるコアちゃんも直ぐに気が付き、素早く立ち上がる。


 「誰か来た……! それじゃ、ボク行くねっ。また来るから。あ、それ隠しておくんだよ?」


 「(はいよ)」


 鉄格子の間をギリギリ通れる程度の麻袋を中に引き込み、尻尾の影にしまいこむ。


 というか、コアちゃんはどこから出るつもりなのだろう? どう見てもここに出入りする手段は階段くらいしかないが……。


 「んしょっ。にへへ〜、秘密〜、ね?」


 「(あぁ、なるほど)」


 俺の疑問に答えるように、コアちゃんが床板の一部を引っぺがした。現れたのは人一人がやっと通れる程度の穴。所謂隠し通路ってやつだな。


 行きもその穴を通ってきたのだろう。


 穴に入る前に俺へヒラヒラと手を振り、手慣れた様子で中へと消えていった。こりゃ常習犯だな。


 「……」


 さて、気合を入れなければ。コアちゃんの反応から察する通り、今から訪れるであろう人物達は、まず間違いなく俺をここにぶち込んだ事と関係している者達。


 あの2人組か、はたまたまったく知らない奴か。何れにせよ、場合によっては力ずくで脱獄せねばならない。


 コンとアカネ、奴等の目的は俺の命。みすみすくれてやる程、俺はお人好しじゃないんだ。俺には帰るべき場所があるのだから。



 やがて、微かに聞こえていた話し声がハッキリと聞き取れるようになってきた。


 「それで娘が言うのだ、自分はもう一端の戦士だ、獣戦士隊に入れろ! とな。

 まったく誰に似たのやら。将来が楽しみで仕方ないぞ。んははははっ」


 「は、はぁ」


 「お前の娘はどうなのだ? ガラルよ。ルイズの血を引くあの子なら、獣戦士の素質もあるのではないか?」


 「いえ、あの子は歌い手になりたがっておりまして……」


 「ほう、歌い手か。レナイエの後釜を狙っておるとは、それはそれで見所があるではないか」


 「は、はは、そこまで深くは考えてないと思いますが、えぇ」


 「む、えぇい! いつまでそのような態度を取っておるか! 既に今回の一件は手打ちになったであろう! 堂々とせい!」


 「そ、そう言われましても、集落に不安の種を持ち込んだのは事実ですから、流石に堂々とは……」


 「今まで愚直に集落に貢献してきたからこその特別処置だ。多少のわがままを聞いてやらんで何が族長かっ」


 「あれを多少のわがままと言うのは些か疑問なのですが」


 「なぁにドラゴンの1匹や2匹、大した事ではないわっ、んははははは!」


 男女の声。必然的に例の2人組かと思ったのだが、明らかに奴等とは声音が違う。少なくとも女の方(アカネ)はこんなにも豪快な話し方はしていなかったし、男の方(コン)も特徴的な話し方をしていた。


 奴等ではない事にホッと安堵する。しかしまだ油断は出来ない。気を引き締めねば。


 「さぁて今日の様子はと――おおっ! 目覚めておるではないか!」


 「えっ!?」


 階段を下りてきた栗毛の女性――女性? あぁうん、女性か。とにかく女性と目が合った。

 背後には赤毛の男性がおり、何やら嬉しそうな表情を浮かべる女性とは対照的にこちらは酷く驚いた様子で俺を見ている。


 どちらも同じく獣の耳を持つ獣人だった。


 「(うぅわ、すんごい体)」


 女性を見て思わず浮かんだ言葉。

 そこに変な意味はない。動きやすさを重視したと思われる装束の下から覗く、鍛え抜かれた肉体に驚いたのだ。


 確かに獣人は他種族に比べて身体能力に優れていると聞く。しかしそれにしたって、およそ女性とは思えない体つきだ。


 盛り上がった上腕二頭筋。バキバキに割れている腹筋。

 赤毛の男性より高い身長も合わさって、逞しいという言葉がこれほど似合う女性もそうは居ないだろう。


 顔つきからして俺よりも年上……20代後半か、或いは30代前半かな? 綺麗な顔をしているのに下は筋骨隆々。男として自信を無くしそう。


 「信じられん、あのポーションだけで完治したというのか?」


 「げに恐ろしきはドラゴンの生命力か。

 ――してガラルよ。オレの視力が落ちた訳ではないのなら、こやつ大きくなっておらんか?」


 「なって、いますね。先日までは膝ほどの大きさだった筈です。今はどう見ても娘と同等の大きさ……やはりドラゴンの生態は未知数と言わざるを得ません」


 あー、いやその辺ドラゴンの生態云々は関係ないかなー。この急成長はレベルアップによるものだし。

 なんて、言葉で説明できたとしても理解はされないのだろうな。


 「んはは、面白いではないか」


 カラカラと笑いながら、女性が無遠慮に近付いてくる。


 「ヴェロニカ様! 不用意に近づいては!」


 「構わん。襲われたならその時は捻り殺すまでよ」


 怖っ。見た目通りに過激な方なの? このヴェロニカって獣人。


 人知れず戦々恐々としている俺の気も知らないで、ヴェロニカさんが鉄格子に寄り掛かってこちらを見つめてくる。

 眼光が鋭いから睨みつけてるようにも見えるけど、気のせいであると思いたい。


 「さて、誇り高き竜の子よ。言葉は分かるか?」


 唐突な質問。誤魔化しは効かんぞと言わんばかりにスッと目元を細める姿は、まさしく獲物を前にした獣のようだった。


 下手に嘘を吐いてバレた時が怖いな。話し合いで済むならそれに越した事はない。ここは正直に答えるべきだ。


 「……」コク


 「んはっ、正直者は好きだぞ。話せるのか? ん?」


 「……」フルフル


 「話す事はできない、か。嘘を吐いているようにも見えんな。信じよう」


 正確には身体創造を使えば喋れるかも状態。ドラゴンのままでは喋れないのだから嘘は言ってない。


 それにしてもよかった。この人、それなりに話の通じる相手っぽい。であれば身体創造を試して話し合うのも……いやいや、まだ早い。

 せめて敵かどうかだけでもハッキリさせておかないとリスクが高過ぎる。


 「しかし話せないのでは聞きたい事も聞けんな。……ガラル」


 「何でしょう?」


 「改めて確認しよう。このドラゴンを見つけた時の状況は、お前の説明した通りで相違ないのだな?」


 「間違いありません。あの場に居たのは私とコア、そしてこのドラゴンだけです」


 ん? 今コアって言ったか?


 さっきの女の子、だよな。このガラルって人の言葉通りに受け取るなら、俺を見つけたのはガラルさんとコアちゃんの2人……じゃあ、あの2人組はその場に居なかった?


 「ふぅむ、やはり解せん。どうして竜の子1匹だけで……なぁ、お前は何処から来たのだ?」


 問われたところで返しようがない。

 話せるなら、竜王国ルミリスって答えるが。


 「……聞くだけ無駄か。まぁよい。

 それより竜の子よ、ガラルとコアに感謝しておけ。2人がお前を見つけて治療しておらねば、今頃お前は虫の餌となっていたかもしれないのだからな」


 「治療と呼べるほどのものではありませんけどね。それに、コアが居なければ私は助けなかったでしょう」


 さっきポーションって言ってたし、たぶんそれの事かな。ガラルさんは苦笑いしているけれど、十分過ぎる。現にそのポーションで俺は生き永らえる事ができたし、レベルアップだって果たしたのだ。


 感謝してもし切れない。ガラルさんはもちろん、次にコアちゃんが来てくれた時にはお礼を言わないとな。


 「それでヴェロニカ様。連れてきた私が聞くのもあれなのですが、今後このドラゴンの処遇はどうなさるつもりで?」


 「っ!」


 ガラルさんから無視できない言葉が飛び出し、思わず背筋を伸ばして硬直した。


 これは重要だぞ。ヴェロニカさんの返答次第によっては今後の俺の行動が大きく変わる。仮に命を脅かされるのであれば、やはり脱獄は前向きに検討しなければならない。


 さぁ返答や如何に!


 「んはっ、敵意もまるで無いのだから出してしまってもよいだろう」


 「(軽ーーっ!!?)」


 「おお、見事な転けっぷりだなドラゴンよ。んはははは!」


 心中でツッコむと同時に転ければ、ヴェロニカさんは心底楽しそうに笑い声を上げるばかりだった。


 この人の考えがまるで分からない。俺ドラゴンよ? 幼いとはいえさ、ドラゴンよ? そんな気軽に「出しちゃえ」的なノリでいいの!? 逆の立場なら絶対そんな選択しないよ!?


 「ヴェロニカ様が牢にぶち込んでおけと言ったんじゃないですか……」


 「馬鹿者め。あの時はまだこやつが無害かどうか毛ほども分からない状態だった故、致し方なく牢に入れたのだ。

 そもそもお前が連れてきたのであろうが。グチグチ言うでないわ」


 「う、そう言われると……ちなみに、そのドラゴンが無害であるという確証は――」


 「無いっ! オレの勘だ! んっはははははははは!!」


 あ、ダメだこの人。感覚で生きてるタイプだ。


目指せ書籍化!

多くの人に読んでもらうためにも、皆さんの応援コメント、評価等よろしくお願いします!

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