表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
獣国編 毒蛇と魔女
42/105

囚われの竜 邂逅

 突然現れた少女に戸惑いを隠せない。


 寂れた牢屋にはあまりに不釣り合いな存在を前に、俺は目をぱちくりとさせるばかりだ。


 あの2人組の仲間だろうか? こっちの心配をしてる辺り敵意は無さそうに思うが……それに。


 「(す、すげぇ、獣人だっ……!)」


 何よりも目を引いたのは少女の頭に生えた獣の耳と、お尻付近でフリフリと左右に揺れる尻尾である。


 それは少女が間違いなく獣人である事を示している何よりの証拠であり、俺の心を刺激するには十分過ぎる材料だった。


 何故? 決まってるだろ。世界的に見ても獣人は非常に珍しい存在であり、なおかつ人とはほとんど関わり合いにならない閉鎖的な種族だからだ。

 長い兵士時代、風の噂に聞く程度で、一度だって本物に出会えた事はない。


 その獣人が今まさに目の前に居る! 手を伸ばせば届く距離に!


 「あれ? ちょっと大きくなってる? 昨日はこんなにちっちゃかったのに」


 どうしよう、どう対応するのが正解なんだ? 色々と経験してきたけど、獣人とのコミュニケーションは未経験だ。

 それに、俺が居た世界の獣人とまったく同じと考えるのは浅い考えだろう。この少女の口調や態度から閉鎖的にはとても見えない。


 いや、でも、それにしたって本物の獣人に出会えるなんて! 密かに会ってみたいとは思ってたんだよなぁ。


 ここが牢屋じゃなければ喜び勇んで駆け寄ってるわ。


 「もう怪我はいいの? 痛くない?」


 「……」


 本当に心配してる表情だ。演技には見えない。敵じゃないのか……? いやいや、早計だ。判断するにはまだ材料が足りない。


 「おーい。聞こえてる〜?」


 格子の間に手を突っ込んで、俺に向かって手を振っている。


 無警戒にも程があるだろ。幼いとはいえこっちはドラゴンなんだぞ? 噛みつかれるかもとか考えないのかこの娘。


 「こっちおいで〜、怖くない怖くな〜い」


 手招きされる。ここで考え無しに「わーい」と駆け寄れたらどれだけ幸せだろうか。


 正直、獣人と触れ合ってみたい気持ちは山の如くデカいけど、それ以上に警戒しなければならない状況だから下手に動けない。

 これで馬鹿正直に近寄って「ふはは! 馬鹿め引っかかりよったな!」なんて展開もあり得るのだ。見た目に騙されるな俺。


 そう、常に最悪を想定しろ。


 「んに〜、届か、ない……!」


 「……」


 「ダメかぁ……あ、あれ? んにっ、んにぃぃぃぃ! ど、どうしよう抜けない!」


 バチバチに警戒している俺を余所に、顔まで鉄格子の間に突っ込んだ少女が何やら慌て始めた。

 両手で鉄格子を掴んで必死に退るような動作と、加えて本気で焦ってる顔……さては挟まったな?


 「んにぃ〜いたたたたっ! わぁぁぁん! どーしよぉぉぉぉっ!」


 「……」


 ガン泣きだった。


 警戒してるのが馬鹿らしくなってきたな。何よりちょっとかわいそう。

 力任せに引き抜こうとしてるけど、それで成功したとしても下手すりゃ顔に傷が残るぞ。


 「(はぁ……やれやれ)」


 見てられない。例え罠だったとしてもその時はその時だ。


 それに、エトちゃんよりかは少し年上っぽいとはいえ、子供が泣いてるのに知らんぷりを決め込む程、俺も腐っちゃいないからなぁ。


 「キュキュイ(手どけて)


 「ふえぇぇ、ねぇぇ、どーしよぉぉ」


 「キュイ(だから)キュキュイ(手どけて)


 「ぐす……は、離すの……?」


 「キュイキュイ(そうそう)


 近寄って、ガッシリと鉄格子を掴んでる手をどかせる。これくらいなら意志の疎通も容易い。

 これまでのドラゴン生活も無駄ではなかったって事だ。


 少女の手が退けられたのを確認して、今度は俺が鉄格子を握り締めた。

 ここまで近寄って、今の俺と少女の身長が大差無い事に今更ながら驚きつつ、不安そうにこちらを見つめる少女に頷き返す。


 さて、思わぬ形で筋力を試す時が来てしまった。

 今からやろうとしているのは完全な力技による救出劇。見るからに頑丈そうな鉄格子をこじ開けて少女を助け出そうという、脳筋顔負けのパワープレイ。


 どうにか出来る保証は無い。何せ相手は鉄だ。凡人が曲げようと思って曲げられる代物ではないのだ。


 しかし何もやらないよりはいい。そうだろ?


 「(せめて少しでも隙間が出来れば……せー、のっ!)」


 ほんの少し、僅かな隙間。それが出来れば上出来だと深く考えず、力いっぱい鉄格子を左右に引っ張った。


 その結果。


 「わー! 抜けたー!」


 スポーンと、少女の頭は簡単に抜けた。

 それはいい。よかったねと素直に喜ぼう。どうやら傷も残っていないようだし、安心もした。


 がしかし。


 「(いや曲がり過ぎぃぃっ‼)」


 問題は鉄格子。ほんの少しどころか、余裕で俺が通り抜けられるくらいの大隙間が開いてしまった。


 いやいやいや! 確かに力いっぱい引っ張ったけどさ! にしたってどうなのこれ!? 本当に鉄か!? 柔らか過ぎん!?


 「(こ、これが異常な能力上昇の恩恵……? ぶっ壊れ過ぎだろデーモン様)」


 「はーよかったぁ」


 「(ハッ!)」


 安堵の息を吐いて自分の頭をすりすり撫でている少女を見て、俺は慌てて曲がり過ぎた鉄格子を元に戻した。

 多少歪になったけど、まぁ良しとしよう。あのままにしてるよりはマシだ。


 この少女が敵か味方かも分からない現状で、俺がその気になれば脱獄も容易いなんて情報は漏らしたくない。

 ここ以上に頑丈な牢屋にぶち込まれでもしたら面倒だ。


 大丈夫だよな? 見られてないよな?


 「ありがとっ。君って力強いんだね〜。赤ちゃんなのにすごーい! ……あれ? でも今はおっきくなってるから赤ちゃんじゃない? じゃあ何なんだろ?」


 いや、分類的には赤ちゃんでいいと思う。レティシア達がそうだったからな。まぁ俺に関しては当てはまらないけど。何せ元兵士ですから。


 「ん〜、まぁいっか。

 あ、ボクはコア! よろしくねっ」


 コロコロとよく変わる表情だ。忙しそう。

 

 自らをコアと名乗った少女が、またもや無警戒に鉄格子の中へ手を伸ばしてきた。流石に今回は頭を引っ込めてる。これで同じ事してたらただのアホの子だ。


 「あ、もしかして握手わかんない?」


 そんな訳ないだろ、と言えたらどれだけ楽だろう。


 言えないなら行動で示す他無く、俺もコアちゃんと同じように手を伸ばし、差し出された手を握った。


 「おーっ、ちゃんと伝わってる! 君って賢いんだ!」


 「(ずっと年下の女の子に賢いと言われる中身24歳兵士。泣けてくる)」


 「ねっ、ねっ、君の名前は?」


 「キュキュイキュー(話せないんだよ)


 「きゅきゅいきゅー? 変な名前だね」


 「キュイっ(違うわっ)!」


 「わぁっ、え、もしかして違うの?」


 「(うんうん)」コクコク


 危ねぇ。一歩間違えれば俺の名前が不名誉過ぎる物になるとこだった。ああ、不便。早く喋りたい。


 ここで身体創造発動! でもいい気がしないでもないけど、さっきも言った通り出来るだけ情報の漏洩は抑えたいからな。


 「喋れないのかな? ん〜、困ったなぁ。なんて呼べばいいんだろ? 名前は、あるんだよね?」


 「……」コク


 「じゃあ勝手に名前は付けれないかぁ。

 んー……まっ、とりあえず(きみ)って呼ぶね!」


 好きにしてくれ。伝わればそれでいい。


 しかしこのコアという少女、やはり敵側とは思えない。囚われの身である俺と和やかに談笑などおかしな話である。

 こうして話してみた印象としては、普通の女の子。敵意も悪意も感じられず、何なら信頼に似たものさえ感じる。


 どうなってる? ここはあの2人組の拠点って訳じゃないのか? 仮にそうだとして、じゃあ何で俺は捕まってる? やはりドラゴンだからか?


 ダメだ分からん。元の世界ならドラゴンを前にした場合、逃げるか、無謀にも戦いを挑むかの二択になる。

 だがこっちの世界はどうなんだ? なまじルミリスでの経験しかないから、他国がドラゴンに対してどのような対応をしているのか分からない。


 この仕打ちが本来あるべきものだとするなら、やはりエリザさん達の俺や母様への対応こそがおかしい……? でも俺を捕らえてる側のコアちゃんの対応は明らかに敵対者のそれじゃないし……。


 だー! 訳分からん! 襲撃者とかスキルとかこの状況とか! 色々と起こり過ぎてこんがらがってきた!


 「あっ、そうだ忘れてた!」


 「……?」


 頭から煙が出てきそうな程に考えまくっていると、不意にコアちゃんの声が響く。


 踵を返して壁際へ駆け寄り、そこに置かれていた大きな麻袋を抱え上げる。少女が運ぶにしては大き過ぎるそれを、俺の方へせっせと運び始めた。


 危なっかしい。フラついてるじゃないか。


 「んしょ、んしょ、んにぃ〜流石に持ってき過ぎたかなぁ……ぉ? わあぁっ!?」


 「っ!」


 と、そんな俺の心配は見事的中し、もう少しのところで足をもつれさせたコアちゃんが前のめりに転けた。


 麻袋は床に落ちてしまったが、コアちゃん自身は倒れきる前に俺が鉄格子の間から手を伸ばして抱き止めた。


 もう少し離れていたら届かなかっただろうな、危ない危ない。


 「キュイキュー(気を付けろよ)


 「あはは……ありがと。君って優しいんだね。何でみんなドラゴンは危ないって言うんだろ、ますます分かんなくなっちゃった」


 皆? ふむ、コアちゃんの家族、ないしは部族的な存在だろうか? それとも――。


 「(ん?)」


 ふと、足先に何かがコツンと当たる。


 コアちゃんを優しくおろして、足元に転がるそれを爪先で摘み上げ、松明の灯りにかざしてまじまじと観察してみる。どうやら何かの果実らしいが、見た事のない種類だ。


 小ぶりながらも強烈に発する甘い香り。血のように真っ赤な実は、俺の意識を釘付けにした。

応援コメント、評価等よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ