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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
序章
32/105

窮地の咆哮

 眠れない。眠たいのに眠れない。

 いつもなら既におねむの時間にも関わらず、俺の目はパッチリと冴え渡……ってはいないが、遠くを見つめていた。


 遠くと言っても寝床の壁だが、そこは重要じゃない。


 眠れない原因は分かってる。さっきも言った通り体が睡眠を求めているのは間違いない。俺だって既に何度もウトウトしてたさ。


 でもその度に起こされる。物理的に。


 「キュ〜!」


 「(頼むレティシア……寝かせてくれ)」


 我が愛しの妹ちゃんことレティシアが、俺が夢の中へ旅立とうとする度に涙目で抱き締めて起こしてくるのだ。


 俺と同じくこの時間はレティシアもおねむの筈。ディーヴァ達はとっくに寝こけているってのに、レティシアだけは元気いっぱいで俺を振り回しまくっている。


 原因はまぁ、寝て起きたばかりだからだろう。

 人間の姿となり、魔力切れを起こして眠ってしまったのが数時間前。俺達がそろそろ寝ようという所で目覚めた故に、今のレティシアは眠気とは無縁の存在。


 いつもべったりなレティシアが寝ようとする俺をほっとく筈もなく、寝ては起こされ寝ては起こされの繰り返し。

 自分達は関係ないからとサッサと寝てしまった弟達をジト目で見てしまうのも仕方ない事だと思うんだよ。


 レティシアちゃん、頼むよ。君達は順調に育ってるんだろうけど、こっちは呪いのせいで赤ちゃんのままなの。寝させてくれ〜、このままだと体調崩しそう〜。


 俺まで寝てしまったら1人で過ごさないといけないから気持ちは分かるよ? 分かるけどさ? お兄ちゃんの体調と自分の都合を天秤にかけてみな? どっちが重要かな?


 などと言えたところで伝わる訳もない。


 「(軽い拷問だぞこれ……ってか)」


 こんな時に肝心の母様はどこをほっつき歩いとんじゃい‼ 呼ばれて出てってからこんな時間まで何の連絡も無しとか子育て舐めてんのか⁉ あぁん⁉

 長いこと帰ってこない事も度々あるし、その辺ちょっと話し合おうか⁉ グレるぞチクショウ!


 「(帰ってきたら怒りの言葉をぶつけてやろう。全身で怒りを表せばちょっとくらい伝わるだろ。……おん?)」


 ぐったり状態で人知れず沸々と怒りを滾らせていると、何やら遠くから音が聞こえた。

 寝床の中、じゃない。音の大きさからして外からだ。何の音だ? ドンドンって、爆発音みたいな。


 「(あれ? 空が赤い……?)」


 眠気眼で天井の穴を見上げると、そこから覗く夜空はまるで夕日のような茜色。


 ランプ? いや照明の光にしてはおかしい。

 この世界特有の現象か何かだろうか?


 「キュイ(レティシア)キュキュ……イ(上見て……へ)?」


 異変は空だけではなかった。唐突に俺達の前に光を放つ魔法陣が現れる。


 次から次へと何が起きてるのやら。

 母様は帰ってこないし、夜なのに空は赤いし、挙げ句の果てには謎の魔法陣発生である。


 寝床全体を照らし出すくらいには強い光。これにはすっかり寝入っていたディーヴァ達ものそのそと起き出してしまった。


 やがて光が小さくなると、そこに残ったのはローブを着た2人組……ど、どちら様?


 「おぇっ、これホンマに酔うなぁ。

 うぅわ暗っ。ちょおアカネちゃん早よ照らしてや」


 聞こえてきたのは男の声だ。

 ってか暗い? こんなにハッキリくっきり見えるくらいには明るいじゃないか。んー、特に気にしてなかったけど、もしかしてドラゴンの視力がおかしいだけなのかな?


 「私に命令をするな。何様のつもりだ、コン」


 凛とした声。少し低めではあるものの、もう1人は女性か。


 「おー怖っ。我らが総指揮官様は随分とご立腹やなぁ。そないプンスカしとったら、お嫁さんに行かれへんで?」


 「私は死ぬまで騎士だ。そんなものに興味はない」


 「大将のケツ追っかけてばっかの女がよく言うでホンマ」


 「コン、戦死という形で貴様を処理しても構わんのだが?」


 「ちょっ! もう嫌やなぁアカネちゃん冗談やんかぁ。

 ほんならこの通り! な? 頼んますよ総指揮官様! 任務の為にもいっちょ魔法でパーッと!」


 「任務でなければこんな奴と……」


 総指揮官? 任務? この人達は何を言っているのだろうか。


 そんな俺の疑問が伝わる訳もなく、女性の方が徐に片手を掲げた。途端、手のひらに集まっていくのは白い光。

 ふわりと空中に浮き上がり、天井より少し下の位置で破裂した。


 昼間よりもずっと明るく照らし出される寝床。

 暗闇の中で彷徨うばかりだった2人の視線がこちらへと向けられた。


 「おー! 情報通りやん! 胡散臭ぉても信じてみるもんやなぁアカネちゃん! それに想像よりもデッカいで!」


 「喧しい。もう少し声量を落とせ。(ふもと)の聖皇竜に気付かれたらどうする」


 「いやいや、ありえへんて。結構な距離あるんやろ?」


 「馬鹿者。ドラゴンの聴力を侮るんじゃない。巣から見知らぬ声が聞こえたとなれば、奴は即座に飛んでくるぞ」


 「まっさか〜。脅かさんといてや〜……え、本気で言うてるん?」


 「私は嘘が嫌いだ」


 「うひ〜っ、そらサッサと用事済ませて帰るが吉や。

 さぁて、ひぃふぅみぃ……5匹。どないしよ? 5匹とも連れ帰るん?」


 「馬鹿を言うな。この魔導具の不安定さは説明されただろう?

 ただでさえ発動に大量の魔力と緻密な座標設定が必要だというのに、5匹も抱えて移動などしてみろ。どこに飛ばされるか分かったものじゃないぞ」


 「あー、そないな事言うてた気ぃもするなぁ」


 「はぁ……」


 ん……? え、ちょっと待て。話の流れ的にそういう事?

 これは俺の勘違いである事を切に願ったままでの想像だけど、母様に気付かれるとか連れ帰るとか、やたら不穏な事を言ってるって事はさ、もしかしなくてもこの人達、人――もとい竜攫い?


 ほえ〜、なんつー度胸。討伐ならまだしも竜を攫いに来たとは。元居た世界じゃ考えられない事だ。


 「(って、のんきなこと考えてる場合じゃない)」


 攫いに来たって事は、この人達は敵意ある者達。

 言動を聞く限りじゃ、母様が居ないこのタイミングを見計らって乗り込んできたんだろう。つまり、母様が戻ってこないのはこの人達が何か仕掛けた可能性が高い。


 脅威となる母様は遠ざけ、確実に俺達を攫う為。


 考え無しに乗り込んできたアホじゃないって訳だ。

 それにさっきの魔法……魔法でいいよな? 魔法陣出てたし。あれも見た事が無いものだ。移動って言ってたし、人を移動させる魔法? そんな魔法があるなんて聞いた事ないぞ。


 「じゃあどないしよ?」


 「この中から1匹だけ選定する。

 これだけ話していて襲いかかりもして来ないのを見るに、情報通り人慣れして温厚なんだろう。ゆっくり見定めるにはちょうどいい」


 よし、問答無用で攫うつもりは無いようだ。それに攫うのは1匹だけ。これを利用しない手はない。

 とにかく時間を稼いで、何とかしてこの状況を打開する策を考えないと。


 母様が戻ってきてくれるのが一番手っ取り早いけど、それを望めないなら元人間の俺が知恵を絞らねば!

 最悪の場合は俺が身代わりになる事も視野に入れて作戦を――。


 「キュ〜」


 「お? 何や何や、デッカいのにホンマ人懐っこいなぁ〜」


 無い知恵絞って必死に考えている俺を尻目に、気が付けばディーヴァがゴロゴロ甘えていた。


 いやいやいやいや!!! ディーヴァくぅぅぅぅぅぅん!!!!? なに無遠慮に近付いて甘えてるのかなー!!?

 その人達は敵よ! 街の人じゃないぞー!? 戻りなさいお馬鹿ぁ!!


 「ドラゴンてもっととんでもない存在やと思っててんけどな〜」


 「その大きさでも産まれてまだ数ヶ月だ。精神的には貴様が思っているよりも幼い甘えたがりの時期だろう」


 「ほえ〜。よーしよしよしよし!」


 「キュ〜♪」


 「はははっ……なぁ〜アカネちゃん」


 「何だ?」


 「大将はこの子らをどうするつもりでおるん?」


 「は? 来る前に言っただろう」


 「ん〜、いや、再確認っちゅーか。もっかいアカネちゃんの口から直接聞いときたくてな〜」


 「……? 相変わらず変な奴だな貴様は。

 知っての通りあの方はもう長くない。それを何とかする為に私達は派遣されて来たんだろう」


 「あ〜ちゃうちゃう。分かるやろ? その何とかする為にこの子らをどうする気ぃやって聞いてんねん」


 「っ!」


 突然の事に身体が硬直した。

 未だに甘えているディーヴァに手足をバタつかせて戻れと念じていたその時、男性からとてつもない威圧感が発せられた。


 どちらかと言えば柔らかな雰囲気を纏っていた男性の様子は一変し、今は触れれば切れてしまいそうな刃の如き殺気。


 不思議なのは、間近に居る筈のディーヴァがそれを感じていない事。まさか今から攫おうという相手に配慮している? そんな馬鹿な。


 「……幼竜の生き血は万病の薬。特に聖皇竜ともなれば傷や病を癒すどころか、寿命すら克服すると言われている。

 心苦しいが、命を貰う事になるだろう」




 …………は?




 「心苦しい? どの口が言うてんねん。大将が望むなら喜々として殺戮を繰り返す女が吠えよるで」


 「黙れ。貴様は与えられた役目を果せばいい」


 「……こんなに気分悪い任務は初めてや。大将も落ちるとこまで落ちたなぁ」


 「コンっ!!!」


 「撤回はせぇへんよ。ボクはもうたくさんや。この任務を果たしたら引退させてもらいますんで、大将によろしゅう伝えてやアカネちゃん」


 「何を勝手に――!」


 「アンタかて本当は分かってるんやない? おかしいと思わへんの? ボク等が今まで見てきた背中は、こんな事さす外道やったか?

 アカネちゃんが心底惚れた男は、誰かを捨て駒にするような男やったか? 自分の都合で何の罪も無い幼子を殺すような男やったか? 見てみぃや、この純粋な目。

 大将はこの子らを殺す言うてんねん。おかしいやろ」


 「……貴様が今回の任務に志願したのは、そんな戯れ言を私に言う為か?」


 「そやな。これで思いとどまってくれたらえぇな〜とは思っとったよ。ちっとは揺らいだ?」 


 「くだらん、耳障りだ。

 もうそいつで構わない。幸いにも貴様に懐いているようだから、暴れはしないだろう。連れて行け」


 「……言うたで? これが最後や」




 この人達は――いや、コイツ等は何を勝手に話を進めているんだ?


 大将がどんな奴とか、そんな事はどうでもいい。


 連れ帰る? 殺す? 誰を?



 俺の家族を、弟を殺すだと?



 「キュー?」


 「ごめんなぁ。ボク等と一緒に来て――」


 「ギュアァァァァァッふざけんなぁぁぁぁぁっ!!!!」


 「コンっ!!」


 レティシアの腕から逃れ、駆け出す。自分でも驚くほど低い咆哮が腹の底から弾け、気付けば俺は宙を待っていた。


 もうすっかり忘れていたスキル、跳躍の発動。


 母様に弱体化されて以来、暴発する事も、自ら使おうとすらしなかったそれが、俺の怒りに呼応するように俺の体を撃ち出した。


 顎と歯を剥き出しに、ディーヴァの側に立つ男に喰らいつこうとしたが、その前に女が割って入って止められた。


 俺の歯に堅い何かが当たる。噛み砕けない。これは剣か。


 「な、何や?」


 「分からん。だが、どうやら身内の危機を察したようだ。流石は幼子とはいえ聖皇竜、賢いじゃないか……!」


 「フーッ! フーッ! ヴゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」


 ダメだ、どんなに力を入れても砕けない!

 こっちも剣で……あぁもう! そんなもんねぇよ! 生まれ変わるなら剣ごと持ってこいよクソ野郎!!


 それとディーヴァ! お前はお前で何をキョトンとしてるんだ! 俺がここまでしても分からないってのか!?

 そりゃ大きくなっても赤ちゃんだもんな! そうだ無茶な事を言ってる自覚はある! でも伝われよ! 今くらいさぁ!!!


 「っ! コイツの体色……コン! 予定変更だ! この白い方を連れ帰る!」


 「はぁっ? 何や急に」


 「ルミリスの王であるシェラメアの体色は白紅(しらべに)! コイツを見ろ! 全く同じだ!

 奴の血を色濃く受け継いでいる証拠! コイツの血があればあの方は!」


 噛み砕けないなら、別の方法!


 幼い体に鞭打って足を持ち上げ、フードに隠れる女の顔へ蹴りを叩き込む。それもただの蹴りじゃない、跳躍を発動させて強化された重いやつ!


 「ぐっ⁉」


 「ギュイィッ(ディーヴァ)!!! |ギュギュアイィッ《サッサと戻れこのバカっ》!!!」


 「……! キ、キュ〜ッ」


 全力での呼び掛け。きっと全て伝わってはいないのだろうが、俺の迫力にアテられてディーヴァが逃げるようにヒューリィとダリウスの元へ駆けて行った。


 よしそれでいい! 良い子だ!


 「ち、ぃっ! 手間を取らせるな!」


 「ギッ!!?」


 離れていくディーヴァを見て安心したのも束の間、腹部に激痛が走った。

 女が俺の頭を掴み、そこから膝蹴りを腹に叩き込まれたのだ。


 母様の鱗と違い、俺の鱗はお世辞にも硬いとは言えない。真正面からモロに受けた衝撃は予想以上で、我慢できずに込み上げて来るものを口からぶち撒けた。


 それは今日の夕飯でも胃液でもなく、真っ赤な俺の血液。


 「〜〜っっ!!! ウゥゥゥゥゥゥッ!!」


 痛い……どうしようもなく痛い。

 外側だけじゃなくて内側も、焼けるように痛い。膝蹴りだけでどうしてこんなにも……いや違う、それは人間だった頃の考えだ。


 今の俺は赤ん坊。体も成熟しきっていない状態で、手加減無しの一撃を食らった。


 この痛み、この出血……マズイ、これ、確実に内蔵をやられてる。今の衝撃で破裂したんだ。


 「ばっ……! アンタ何してんねん!!」


 「攻撃を受けたから反撃したまでだ。それにドラゴンはこれくらいでは死なん」


 「相手は赤ん坊やろうが!!! どこまで腐っとんねんアホンダラ!!」


 「む、私は貴様を守って――」


 「過剰防衛や言うてんねん!!

 お、おい大丈夫か? しっかりせぇ!」


 うる、さい……耳元で叫ぶな。

 息がし辛い。喉の奥で血が詰まってる。あ、れ? 手足の感覚が……ちょっと、待て。これ、本格的にマズ――。


 「縛り上げる手間が省けたと前向きに捉えればいい。コン、魔導具の起動を頼む」


 「アカネちゃん……アンタに心は無いんか?」


 「……私は、あの方の為に生きているだけだ」


 視界も霞んできた。痛みも引いてきた。

 痛くない。なら、立てる。


 そう思っても、体が言うことを聞いてくれない。上体を起こそうと踏んばってみても、すぐに崩れ落ちた。


 まるで他人の体みたいだ。


 男が何かを言ってる。女も何かを言ってる。聞こえにくい。聞き取れない。


 どうせろくでもない内容だと切り捨てる。


 聞くだけ無駄だと割り切ろうとして、ふと、そんな中で声が聞こえた。男の声でも女の声でもない……これは――。



 「キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!」


 「うひぃっ!?」


 「っ! 耳が……! ただの鳴き声じゃない、これはスキル!? 大響声(ハウリングボイス)か! ありえない!」


 


 この声、母様じゃない……レティシア?

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