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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
序章
31/105

竜に挑む者達 開戦

 太陽は沈み、夜の帳は下りた。


 ローエンダリア外、カドキア方面に広がる草原地帯に戦力を集中。

 地上の最前線は私、トマスの使い魔部隊、ルドルフの兵士隊が固め、後衛には魔術に特化したサヤの部隊。周辺の森林及び草むらには、万が一に備えて奇襲を仕掛ける為の隠密部隊。


 上空にはトマス本人と使い魔達。その背に乗せた騎乗兵多数。

 突破された場合に備え、ローエンダリア内には切り札であるエリザ。


 敵の奇襲に備えて、カドキア方面以外にも伏兵を配置。何かあれば直ぐに知らせるように指示をしてある。


 ローエンダリアの勢力だけでザッと5千。


 たかだか500人相手に過剰か? いいや、妥当だ。どんなに等級が低くとも、冒険者は個々の力が一般兵士よりも上である事が多い。

 中には化け物級も居る。そういう存在を警戒してのこの兵力だ。


 準備は整った。


 交渉で全てが済むならそれが一番だ。

 だが相手は何の罪も無い民を平気て殺す外道。楽観的な考えは捨てて平和的解決は絶望的と捉えていた方がいいだろう。


 戦闘を前提に考え、私もまた自身の魔力によって創り出した戦装束に身を包んでいた。

 場合によっては本来の姿で蹴散らす事も念頭に置いておかなければな。


 「任務完了。戻ったよ?」


 眼前に広がる草原の奥から来るであろう敵を今か今かと待ち構える中、ふと背後から聞こえてきたのは少女の声。


 眠そうな半目と短く切り揃えられた黒髪。

 どこかサヤに似た雰囲気の彼女の名はカザネ・シロキ。奴等(冒険者)の動向を監視していた張本人であり、ディーヴァの名付け親でもある。


 「苦労をかけてしまったな、カザネ」


 「んーん、気にしてない。それより報告、いい?」


 「ああ、頼む」


 「丘の向こう、すぐそこまで来てる。遠目から確認した限り、最低でも最上金級(ハイゴールド)の冒険者が4人。

 他は銅級(ブロンズ)から金級(ゴールド)。バラバラの寄せ集め」


 ふむ、後者は烏合の衆と考えて良し。問題は前者の最上金級(ハイゴールド)だな。ルドルフ達が遅れを取る事はまず無いとしても、一般兵士達が相手をするには骨の折れる相手だ。

 

 4人……私がまとめて相手取るのも一興か。


 「使役魔獣の詳細は?」


 「ワイルドウルフ3体。サラマンダー1体。ブラッドベアー2体。

 たぶん、同じ奴の使い魔だと思う。ちなみにそいつが最上金級(ハイゴールド)の1人」


 「ほう? ブラッドベアーと来たか。危険種に片足を突っ込んでいる魔獣を手懐けるとは冒険者にしてはなかなか――って、感心してどうするんだ」


 これから殺し合うかもしれない相手に余計な感情は邪魔だ。怒りに身を任せるでもなく、只管に感情を殺して戦わねば。


 それにブラッドベアーが何だ。トマスは危険種どころか禁忌種3体を手懐けている生粋のテイマーだ。今この場に集まった使い魔達の総数すら優に100を越えている。


 ……今思えば、あの暴れん坊(エリザ)を娶れたのもトマスの実力故なのかもしれないな。


 「それで、肝心の奴等の目的は分かったか?」


 「それは、わかんない。察知されないギリギリの距離から耳を澄ませてたけど……その……」


 「どうした?」


 何か言いにくい事でもあるのか、カザネの表情が沈んでいく。


 「あいつ等、ここに来るまで一言も話さなかった。異常だよ。仲間同士で雑談とか、指示とか、そういうの一切無くて、意思を持ってない人形みたいな感じで……気持ち悪くて」


 「会話を、していない……?」


 確かに妙だ。優秀な指揮官率いる統率の取れた兵士団ならばまだしも、それぞれが独立したパーティを組む冒険者達が集まって一言も会話が無いのはおかしい。


 偶然? いや待て、カザネは人形みたいと言っていた。その言葉通りであったならどうだ?

 

 他人を操るスキルや魔法もあるにはある。だが500人に迫る数を同時になど……やはり考え過ぎ、か。


 「ルミリス民の一家を殺した時はどうだ?」


 「同じ。交渉の余地無く殺した。……ごめんなさい」


 「……? 何故カザネが謝る」


 「目の前で殺されるのを、私は黙って見てた。誰か助けてって、叫んでたのに、見殺しに、した」


 「……カザネは間違ってはいない。助けに躍り出たところで、たった1人で何が出来た?

 生き残る事を選び、確実に私達へ情報を届ける選択をしたお前は正しいよ」


 「それでも、ごめんなさい」


 「気にするなとは言わない。しかしいつまでも落ち込んでいる場合でもないぞ。

 精神状態が不安定な時は十全に力も出せないだろう。街の中で待機しているエリザの元へ行って、少し休むのも手だ」


 そう言ってやると、少し迷うような表情を浮かべて俯いた。何を思いどんな選択をしようと、私はカザネの意思を尊重しよう。

 

 しばらくの間。

 やがてカザネが顔を上げると、そこに先程まであった筈の不安気な色は無く、ただ只管に覚悟を決めたカザネが居た。


 「んーん、大丈夫。サヤ姉と一緒に居る」


 「ふ、そうか」


 「シェラメア様!」


 頭上からの声、見上げれば飛行型の使い魔に騎乗したトマスが降下してきているのが見えた。


 「火急の報告の為このままで失礼します!」


 「構わない」


 「敵勢、間もなく戦闘区域内に入ります!」


 「ああ、カザネから聞いたよ……ほら、ご登場だ」


 呟き、私は徐に手のひらへと魔力を集中させた。魔力は一つの白い球体を形作り、眩いばかりの光を放つ。


 それを空高く放り投げれば、上空で球体は膨張、破裂。激しい閃光を解き放った。


 闇に包まれた一帯は昼間のごとく変貌。やがて光に照らされた大地の奥から現れたのは、約500人の冒険者達。


 「(遠見ノ魔眼(サーチアイ))」


 視力を底上げするスキルを発動させて丘の上に現れた冒険者達を観察する。


 なるほど、カザネの言っていた通りだ。どいつもこいつも目が死んでいる。人も、亜人も、ドワーフも、果ては使役魔獣すら。

 全員が生命(いのち)ある者とは思えない程に濁りきった目をしていた。


 操られている線が濃厚になってきたな。しかし、だとするなら誰が? 何の目的で?

 私と敵対するとは即ち、全ドラゴンを敵に回すようなもの。そんなリスクを犯してまで、何をしようとしている?


 聞き出さねばな。


 大きく息を吸い、ここからでも届くように腹の底から声を張り上げる。


 「竜王国ルミリスが王! 聖皇竜シェラメアである!

 貴公等は不法に我が領土を犯し、あまつさえ罪無き国民をその手にかけた!! 本来であれば警告無しの攻撃という大義名分がこちらにはある!!

 だが! それを承知で我らは話し合いの場を設けようと思っている! 平和的解決を我らは望む! 武器を捨て代表者は名乗り出よ! 従わない場合は――」


 「っ!!!」


 私の言葉が最後まで紡がれる事はなかった。

 側に控えていたカザネが私の眼前に躍り出ると、腰に携えていたダガーナイフを抜刀、一閃。


 ギィンッ! と何かを弾く音が鳴り響き、光の粒が霧散していく。


 何が起きたのか? 答えは単純にして明快。

 こちらからの要望を完全無視の上、奴等は不意打ちの一撃を私めがけて放ってきたのだ。


 対処する事は十分可能だったものの、それより速くカザネが切り払ってくれた事で私の出る幕は無くなった。


 撃ってきたのは魔術師。おそらく聖浄の鋭槍(ホーリーランス)と呼ばれる遠距離用の攻撃魔法だろう。


 「あいつら、許さない……!」


 怒り心頭で今にも飛び出そうとするカザネの肩に手を置いて待ったをかける。


 なに、止める気は無い。その前にまずやる事があるからな。


 「話し合いの意思は無しと受け取るが、それで構わないか!」


 念の為の確認をした途端、敵勢は声を張り上げるでもなく、ただ静かに駆け出した。

 その手に武器を掲げ、私達へと向かってくる。殺意も、感情すら感じさせない瞳で……本当に気味が悪い連中だ。


 「手早く片付けさせてもらうぞ。私を待っている子供達が居るからな。全部隊!! 抜剣!!!」


 私の言葉を合図に皆が武器を抜き放つ。それに続いて私もまた魔力によって一振りの槍を生み出し、切っ先を天高く突き上げた。


 目を閉じて深呼吸。

 久しぶりの戦場だ……落ち着いて、勝とうじゃないか。


 「蹂躙せよっ!!!」


 こうして戦の幕は切って落とされた。

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