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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
序章
3/105

思いは過去へ

 ひとしきり泣いた後、俺は母ドラゴンの手の中で未だ零れ落ちようとする涙を乱暴に拭った。


 というか勝手に母親だと思ってしまった訳だけど、合ってるよな? いやまぁ別に父でも親は親だけどさ。

 しっかし、とうに枯れてしまったと思っていた涙がこうも大量に出てくるなんて思いもしなかった。たぶん赤ん坊の頃以来だよこんなに泣いたの。って、今も赤ん坊か。


 「キュ()キュキュウ(あれって)……」


 母ドラゴンの手の上から下を覗くと、そこにはさっき俺が必死こいて駆けていた藁の地面。正確にはドラゴンの巣かな。

 その巣の中には5つほど卵らしき物があり、うち1つは割れて空洞になっていた。


 状況から見て俺が出てきた卵で間違いないだろうな。卵の中だったのなら、やたらとぬるぬるしていたのにも納得だ。

 それより気になるのは残りの卵。ここにあるのだから、まず間違いなくこの母ドラゴンの物という事は想像に難くない。


 まだどれも産まれてない。俺が1番最初に出てきた……ではなく、出してもらったのか。

 マジかよ俺お兄ちゃんじゃん。弟とか妹が居た経験もないのに、産まれてきたらどう接すればいいですか? しかも相手はドラゴンよ? コミュニケーション方法なんて分からんわ!人間式なんてクソの役にも立ちゃしない!


 そもそもだ! 言葉が分からん! ドラゴン語なんて知らんのだよ!

 たぶん俺が今話せないのは、産まれたばかりで発声器官そのものが発達しきっていないせいだと当たりをつけているが、仮に話せるようになったとして俺が分かるのは人間の言葉のみ! コミュニケーション以前の問題です! 詰みですね! お疲れ様です!


 「キュウゥ(つれぇ)……」





――……。





 我ながら順応力高いな〜なんて思ったり。

あれだけパニックになって騒いでいたのに、今じゃすっかり落ち着いて巣の中をトコトコと散歩中である。


 まぁ、なってしまったものをいつまでも嘆いていたって始まらないし、人間諦めが肝心って言うじゃない。もうドラゴンだけど、中身人間だからセーフよね。


 ……ところで。


 「(さっきから頭の上にあるこれって、何?)」


 本当はずっとツッコミたかった。それこそ母ドラゴンから逃げてる時にでも。命の危機だと思ってたから触れなかったけど、気になってしょうがなかったんだよな。


 赤色の線と、その上下に書かれた意味深な数字。

 線の上には1、下には0。何かを表してるのかなーって漠然と想像はできるけど、それが何なのかは皆目見当もつかない。


 そして、これと同じような物が母ドラゴンにもあった。似てるけど、こっちは俺のと違い数字の部分が全て"???"だ。

 一体何を表しているものなんだろう……というか空中に浮かんではいるのに、こっちからは触れないんだな、これ。


 もう1つ気になる事と言えば、数字部分の更に上にある物か。たぶんこれは種族名か何かだと思う。

 母ドラゴンの上には聖皇竜 シェラメア。俺の上には聖皇竜の幼体、とそれぞれ書かれていた。


 母ドラゴンの後半はたぶん個体名か何かだと思うな。人間で言うところの名前に該当するんじゃないかと予想。その認識で正しいなら母ドラゴンの名はシェラメアって事になる。


 うーん……でも違和感が凄い。ドラゴンの個体名だとするならシェラメアドラゴン(・・・・)と付いているのが普通だと思うんだが。これじゃ人間の名前みたいじゃないか。


 それに聖皇竜ってのも気になる。聞いた事のない種類のドラゴンだ。全身純白の鱗を持つドラゴンなんて存在してたか? もしや新種?

 いや、未発見の竜種だとするならそもそも聖皇竜って種族名とか、個体名が付いている事自体おかしいよな。


 そもそも何でこんな物が見えるのか。少なくとも前までの俺にこんな情報は見えなかった。

 聖皇竜の特殊能力、とか? 母ドラゴンも見えてるのかな? これ。


 「キュキュゥ(わっかんねぇ)……」


 考えれば考えるほど頭がこんがらがってくる。

 俺の知ってる常識との食い違い、そしてこの状況下だ。考えるだけ無駄な気がしてきたな。


 という訳で、気分転換代わりに母シェラメアの観察でもしてみよう。


 率直な感想としては非常に美しい。いや、元人間の俺が敵対しているドラゴンに対して美しいとか馬鹿みたいだけど、そう表現するしかないのだから仕方ない。


 全身純白の鱗とは言ったが、よく見れば所々が紅い。主に翼の先端、手の先、尻尾の先端、あとは胸辺りが薄らと深紅色だ。

こっちを見つめる瞳はまるで宝石のよう。


 ってか凄い見られてる。

 そりゃそうだよ、産まれたばかりでいきなり溺れそうになった困ったちゃんなんだから。そりゃ目を離すわけにもいくまい。

 俺が親だったとしても心配で放ってなどおけないだろう。それが親ってもんだ。


 「……」


 そう、普通の親なら当たり前の事なんだ。

我が子を愛し、何よりも大切な存在として慈しむ。それは人も、他種族もきっと変わらない。


 じゃあ、その当たり前を経験していない俺って何なんだろう。愛を注がない親の元に産まれた俺は何なんだろう。


 「……」


 ボーッと前だけ見つめ、いつしか俺は過去の出来事を思い出していた。

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