辛辣、不穏な気配
「えーっと、まとめると……つまり君は呪術者の類や魔術師でもなく、呪いそのもの?」
『はい』
「で、今まで一方的に話しかけてきていたのも君、と」
『その認識で構いません』
衝撃的な登場からしばらく。あれから俺は目の前の女性が何者であるのかを問い詰めていた。
聞けば何と彼女は俺にかけられた呪いそのものだと言うではないか。
混乱してきた。
百歩譲って彼女の言う通りだとしてもだ。そもそも何で呪いが自我を持って俺の中? に存在し、どう見ても人間な姿で目の前に立ってるの? いくら何でも訳が分からんというか何というか……ああダメだ、理解が追いつかん。
「なるほど――いや、何がなるほどなのか俺にもよく分からないけど、質問いいか?」
『どうぞ』
「どうして急に姿を現そうと? 今までずっと声だけだったじゃないか」
『私は貴方に刻まれた呪いそのもの。つまり貴方とは一心同体であり一蓮托生の身。
先程の貴方の行為は下手をすれば自身の魂を殺す愚かしい行為であり、その結果の果てに魂が壊れれば私も同じく消滅してしまいます。
故に自衛のため、こうして仕方なく姿を現しているのです。お分かりいただけましたでしょうか? 愚か者』
「ア、ハイ」
めちゃくちゃ怒られた。
ま、まぁ、過去のトラウマを振り払う為だからって、自分を傷付ける行為は行き過ぎだもんな……反省しないと。
『ではこちらからも質問を』
「?」
『随分と焦っていたようですが、それは何故ですか?』
「何故ってそりゃ、このままだとスキルを習得できないかもしれないからだよ。
次の最終条件を達成したとして、俺が欲しいスキルを得るのにポイント不足じゃ話にならないだろ?
あ! というか毎回毎回なんだよあの条件! もっとマシなの無かったのか!?」
「条件を設定したのは私ではないので、私に対しての文句は意味を成さないと言っておきます。
それと、何故そんな心配を? まさか、次がスキルポイントを得る最後の機会だなどと考えている訳ではないですよね?」
「えっ、だって最終条件、だろ? つまりそういう事なんじゃ……」
『はぁ……』
うわぁ、目を逸らしながら露骨にため息吐かれた。
え? なに違うの? でもあの声の正体が目の前に居るこの子だとしたら、最終条件って言ったのは他でもない君だろ!?
『はぁ……』
「そんな何回もため息吐かないでくれよ……」
『一度目はコイツ分かってねーという意味を込め、二度目はこんな奴が私と運命共同体という事実に絶望した意味を込めています』
「さいですか。って、こっちだって好きで君と一緒になってる訳じゃないんだ。もう少し言い方ってものをだな――」
『呪いをかけられ今こうして私と共に存在している事を選んだのは他でもない貴方です。ゆめゆめお忘れなきよう』
言っている意味が分からなかった。
俺が選んだだって? 他でもない俺が、呪いをかけられてしまう事を良しとしたと言うのか? ありえない、馬鹿げてる。
そんな事をして俺に何の得があるんだよ。
『話を戻しますが、貴方はレベルについてどこまで理解していますか?』
聞きたい事が増えるばかりの中、唐突に聞かれた問い。
俺としてはさっきの言葉の意味を問いただしたい所だけど、何となくこの子は俺の意思でどうこうできるような存在ではない気がする。
口から飛び出そうとする疑問を飲み込んで、俺は質問に答える事を選んだ。
「レベルって、あれだろ? ステータスとかいう項目に書かれてたやつ。自慢じゃないけどサッパリ分からん」
『チッ』
あれ? 気のせいかな? 今舌打ちしなかった?
『一言で言うならば、レベルとはその者の成長度合いを示しています。あらゆる経験を積む、もしくは体や精神の成長と共に自然と上がるもの。
現在貴方のレベルは1。最弱です、虫以下のゴミクズ程度の存在価値しかありません。可燃ゴミとして焼却処分されても文句は言えませんね』
「おい泣くぞ」
『本来であれば、貴方は既に3レベル程度に上がっていてもおかしくはありません』
こっちが口を挟んでも我関せずな態度を崩しやがらない……何でこんなに嫌われてるんだ。
もういいや。余計な事は言わずに黙って話を聞いておこう。それがきっと精神的にも一番安全だろうし。
『薄々感づいているとは思いますが、貴方が成長しないのは呪いによる影響です。貴方がどれだけ経験を積もうと、どれだけ健康的な暮らしをしていようと関係ありません。
貴方の成長はその全てが条件付き。それを満たさぬ限り、貴方は無力な子犬のままと理解してください』
やっぱり体が小さいままなのは呪いのせいだったか。見事に予想的中だな。
「つまり、だ。これまで幾度となく達成してきた条件と……その最終条件を達成すれば、俺は晴れて成長するって認識でいいのか?」
『存外理解が早くて助かります。無駄は嫌いなので。
最終条件を達成後、各条件はリセットされ元に戻ります。無論同じ条件ではなく、無数に存在する中から無作為に選出され新たに補填されます。
当然これまでと同じように条件を達成すれば新たにスキルポイントを得られます。
ここまで話せばもう理解できたでしょう? 貴方が心配している事は起こり得ません』
最終条件を達成すれば成長し、再び訳の分からない条件が選ばれ、また最終条件に挑み……これの繰り返しって事か。
なるほど、確かにこれならポイントが頭打ちになる事もない。
はぁぁぁぁぁぁ……何だよ焦ってた俺が馬鹿みたいじゃないか。ここ数日の悶々とした日々を返してくれ。
いや条件付きの人生って時点で色々と面倒くさいけどさ。未達成なら結局はこのままなんだろ? はぁ……。
「あ、ちなみに最終条件の内容とか――」
『知るわけがないでしょう』
「えぇー。でも条件達成した時はまるで内容を知ってた風に喋ってたじゃないか」
『私も貴方と同じく、条件を達成した後にその内容を知るのです。私は達成した事実を伝える義務を果たしているに過ぎません』
「何で呪い本人が知らないんだよ……」
『私について全てを知り得ているのは呪いを施した本人のみ。知りたければ探すといいでしょう。無駄ですが。
それで、本日はどうするのですか? 疲れてきたので早めにお願いします』
「呪いに疲れってあんの? まぁいいけど、とりあえず今回も使わずって事で」
『そうですか安心しましたではさようなら。振り分け時間を終了します』
俺が何かを言う暇もないまま、いつもの如く急激な眠気に襲われて意識が落ちていく。これには抗えない。
にしてもこの子、いくら何でも俺の事を嫌い過ぎではないか? 呪いなんだから好意的なのはそれはそれでどうかと思うけど、もう少し柔軟な態度は取れないものかね。
まぁ何はともあれ一番危惧していたポイントの頭打ちは無くなった。
相変わらず条件そのものは分からない。でもいいさ、ゆっくりこなしていけばそれでいい。
母様達に見限られてしまう前までにレベルとやらを上げて万能言語を得られれば、少なくとも最悪の事態にはならない筈。
そうだ、焦らずいこう。
赤ん坊の俺にはまだまだ時間があるのだから。
と、そう思っていた時期が俺にもあった。
――……。
「……誠か?」
「はっ、奴の言に嘘偽りが無いのであれば確かかと」
「そう、か……く、ククク……カハハハっ、ゴホッゲホッ……‼」
「ラヴァル様!」
「はぁ……はぁ……よい、いつもの事だ。それよりも、時は来た。アカネ、出来るだけ多くの冒険者を募れ。質は問わん。
ゴホッ……お、お前達の動きを誤魔化せるだけの人数を、ゲホッ……!」
「委細承知しております。既に手筈は整え、あとはラヴァル様のご命令を待つばかり」
「カハハ……お前は従順よなぁ。
よかろう、ではアカネ・イズマよ」
「ハッ」
「全指揮をお前に委ねよう。奴等をどう扱おうがお前次第。飼い慣らすも良し使い潰すも良し。
必ず成果を上げよ。私に明日を見せてくれ」
「必ずや。我が主ラヴァル・ラ・ベルエンドの名にかけて」




