子供ってのは騒がしいものだ
ほんの数日の時は流れ――。
「お、おぉ〜。見ろエリザ、俺に甘えている」
「ふふ、そうね。でも鼻血が出てるわよトマス?」
「ハッ!」
「わぁ……! わぁー! おかあさんみて! ぺろぺろしてくれてるの!」
「あら、ご子息様達はエトの事を気に入ったみたいね」
「なんともはや愛らしいものですなぁ。ん? これ小娘! イヴニア様達を窒息死させる気か!」
「いやぁぁぁん! やっぱりかわいいぃぃ〜!!」
「聞けい! その駄肉を削いでやろうか!」
「あ? 何が駄肉よクソジジイ。年々シワが増えていってるミイラもどきの分際で」
「き、気にしておる事を! よかろう、その喧嘩買った!」
「また黒焦げにされたいのかしら? 学ばない奴……あらごめんなさい、ボケているだけだったわね」
「誰がボケ老人じゃ! そこに直るがいい! 叩き斬って――」
「おいお前達。先の件でイヴニアに怪我をさせたのをもう忘れたのか?
次は無い、そう言ったつもりだったのだがな。私の記憶違いか? ん?」
「「すみませんっ!!!」」
どうも、イヴニアです。俺は今、大変心地よい感触に包まれながら目の前の光景をぼんやりと眺めています。
女性の体というのはどうしてこうも柔らかいのか。惜しむらくは人の身でこれを味わえなかった事……て、なんか前にも言った気がする。
数日前、新たな家族が増えた事は記憶に新しい。
甘えん坊で俺からまったく離れようとしない銀ドラゴン。そして、この子が産まれてきて間もなく新たな命が産まれた。
ほぼ同時に産まれてきた我が弟妹達。これには母様だけでなく俺までもオロオロしてしまった程である。
とは言えいつまでも狼狽えている場合ではなく、何とか持ち直した俺が母様をキュイっと一喝。その後手分けして面倒を見始めたんだけど……まぁ〜ヤンチャヤンチャ。
最初の子が如何に大人しかったかが分かるくらいのヤンチャっぷり。ちょっとでも目を離そうものなら、初日の俺みたいに水場へ近付こうとするわ、赤ちゃん同士でぶつかってワンワン泣くわ。
生前共に独身の身でありながら、子育てってめちゃくちゃ大変なんだな〜と実感。夜泣きが多くておちおち寝れもしないからねホント。
まぁヤンチャなのは仕方ないのかもしれない。後から産まれてきた3頭は元気な男の子だったからな。
ちなみに最初に産まれてきた子は女の子だ。この辺の性別については、ついさっき判明した。
というのも、全員無事に産まれてきたお祝い(たぶん)として、こうして再び街へと連れてこられた際に人間形態の母様自らが言っていたのだ。
ちなみに今回は広場ではなく街に建てられた酒場が宴会場である。
さて、それじゃあそんな弟妹達を順番に紹介していこう。
まずはトマスさんの膝の上でゴロゴロと甘えている子。
翡翠色の瞳に銀色の体色。男の子の中でも1番の甘えん坊で、寝床では俺はもちろん母様にも常に引っ付いている子だ。
甘え加減で言えば最初に産まれてきた子に勝るとも劣らない。違う点と言えば甘える対象が俺限定ではないところか。
次にエトちゃんに夢中の男の子達。
片や金色の瞳。片や紫色の瞳。体色は他と変わらず銀色だ。とにかくこの子達が元気満点でトラブルの元になる事が多い。
今でこそエトちゃんに構ってもらっているから大人しいが、寝床では常に暴れ回っているやんちゃ坊主達である。
そして最後に、1番初めの女の子。
こうして街に下りてきても相変わらず俺にベッタリで離れようとしない。サヤさんが抱き上げようとしても嫌がるもんだから、仕方なくまとめて俺も抱き上げられている状態だ。
……うーん。改めて考えてみると、やっぱり疑問だな。
ずっとおかしいなーとは思ってたんだけど、何で俺だけが母様と同じ純白の鱗持ちで、他の子達は瞳色は違えど全員銀色の鱗なんだろう。
やっぱり遺伝か? だとすれば俺は母様の血を最も濃く受け継いでいるから白い?
それが正しいと仮定して、なら他の子達はやはり父親の遺伝だろうか。
……そういえば、その父親は何処に居るんだろう? 産まれてきてからこれまで、その影すらも見ていない。
こうして俺達が産まれてきている訳だから、確実に存在はしている筈。なのに姿を見せないのは――。
大事な用事か何かで留守にしているのか、俺達が産まれてくる前に母様とはお別れしているのか。
もしくは、もう居ないのか。
この子達の今後を考えると最後の可能性だけは無いと願いたいな。
子供達は親の愛情があってこそ成長していくんだ。今は母様が居るけど、かつての俺のような思いは絶対にさせてはならない。
「んんっ、さてお前達。我が子との触れ合いもそこまでとして本題に入ろう」
ふとそんな事を言い出して皆の注目を集める母様。
「本題? 今日はご生誕のお祝いでは?」
うんうん。俺もサヤさんと同じ考えだった。
これだけご馳走が並べられていたらそう思ってもおかしくないけど、もしかして違うのか?
「それはもちろんある。しかし本命は、この子達の名前を決めようと思ってな」
「まさかシェラメア様、また忘れていた……とは言いませんよね?」
うわ、ありえる。エリザさんと一緒になって母様を責めるようにジト目で睨むと、母様は鼻を大きく鳴らした。
「失礼な。今回は考えあって、敢えて名付けをしなかったまでだ」
「考え?」
「ああ。この子達の名は、ここに居る皆で決めたいと思っている。イヴニアは私の後継者故特別だが、この子達に関しては皆を名付け親としたい。どうだ?」
「それは、とても光栄ですけれど」
「うぅむ……些か恐れ多いとも言えますな」
「はぁい、私は賛成です」
名付けが嫌という訳ではないらしく、どちらかと言えば皆遠慮している風に目を泳がせていた。
そんな中でも無遠慮に手を挙げて真っ先に賛同したのはサヤさんだ。
「俺も賛成ですね」
「ちょっとトマス」
「いいじゃないかエリザ。こんな機会一生に一度あるかどうかだ。それに、シェラメア様の提案を蹴ってしまう方もどうかと思うぞ?」
「そ、その言い方はズルいわ」
母様の意思。そこを全面に出されては断る事も出来ないようで、難色を示していた数名も首を縦に振った。
名付けかぁ。出来ることなら俺も参加したいけど、喋れないんじゃなぁ……。せめて一緒にサヤさんに抱かれてるこの子の名前だけでも付けれたら、なんてのは我儘かな。
「よし決まりだ。まずはトマスの膝上で寛いでいるその子の名を付けよう。
各々自分で考えたものを挙げてくれ。その中から全員の話し合いで決めようじゃないか。もちろん外の皆もな」
「えっ、もしかしてここに居る全員分ですか!?」
「当然だ」
エリザさんが驚くのも当たり前だ。俺も耳を疑った。正気か? この母様は。
酒場内に居る人数だけでも相当な人数なのに、入り切らなかった人達の意見までも集めようと言うのか。
いや、うん……終わらんぞ? 確実に1日じゃ終わらんぞ? 今回俺だけの名付けじゃないんだよ?
一部やる気満々の人達も居れば、引きつった笑みを浮かべる人も居る。もちろん俺は引きつってる側である。
「では始めようか」
満面の笑みを浮かべる母様のそんな一言によって、第1回名前決め大会が開かれるのであった。




