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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
序章
20/105

恐る恐る盛大に?

 「……」


 「……」


 あれからしばらく経った後、出掛けていた母様がたくさんの料理を抱えて戻ってきた。いや、抱えてというのは少し語弊があるな。

正確に言えば料理が母様の周りにフワフワと浮いていると言った方が正しい。あれも魔法の類だろうか?


 まぁとにかく、どうやら昨日の交流会? で俺が食べる物についての理解はしてくれたらしい。その点についてはホッと一息。

 ところが、母様が降り立って料理を並べ終わった頃に問題は発生した。


 料理は俺から少し離れた位置に置かれている。母様からしてみれば、俺が喜び勇んで駆け寄ってきてくれると思ってそこに配置したのだろう。


 うん、寝起きで腹も減ってるし、叶うことなら直ぐにでも朝食にありつきたい気持ちでいっぱいさ。

 しかし、余計なスキルのせいで現在俺はマトモに歩み寄る事さえ出来ない状況なのだよ。


 無邪気に「わーご飯だー!」なんて駆け出そうものなら、せっかくの料理を蹴散らすやんちゃ坊主の図が完成だ。お説教待ったなし!


 「……」オロオロ


 ああ、母様がオロオロし始めた。そりゃそうだよ、母様から見れば料理に無反応な感じだもの。

 くそう! あんにゃろうホントに余計な物を! いや最終的に選んだのは俺っぽいけど、何の説明もしなかった奴にだって落ち度はあるね! 絶対あるね!


 はぁ、しかしどう伝えたものか。足を使おうとしたらぶっ飛んじゃうの! なんて身振り手振りで伝えるなんて無理だし……言葉さえ話せれば一発で解決するのになぁ。


 「(んー……伝えられないなら、いっそ見せてみるか?)」


 どの道このまま動かないでいたら母様が泣きそうだし。もう可哀想になるくらいオロオロして首を左右に行ったり来たりで見てられない。


 うん、見せよう。さっきと違って母様が居るのだから、あらぬ方向へ跳んでも受け止めてくれるだろう。そう願う。


 「(いざ……!)」


 間違っても料理や弟妹達の方へ跳んでしまわないように、最新の注意を払いながら立ち上がる。

 たったこれだけの動作でも、いつスキルが暴発するか分からないのだから恐ろしい。慎重に慎重を重ねて、母様の左斜め後ろへ跳ぶように調節。狙いすまして……今!


 「っ!!?」


 思った通りだ。足に意識を集中させて跳ぼうとした瞬間、再び俺の体は撃ち出されるように宙を舞った。

 狙い違わず母様の左斜め後ろへ体は投げ出され、母様もまたギョッと驚きつつ驚異的な反応速度で俺を両手で捕まえてみせた。


 さすが母様。ちょっと爪が食い込んでるけどそこは大目に見よう。


 「(さぁ伝われこの思い!)」


 見つめてくる母様の瞳を俺も負けじと見つめ返す。

 ドキドキの結果発表を待つ気分だ。母様の深紅の瞳が蒼く変化して…………え?


 「……! ……!」


 「(え? え? えー? なに?)」


 母様の瞳が蒼くなったかと思えば、何故か俺は感極まった様子の母様にめちゃくちゃ抱き締められた。

 グリグリと胸に押し当てられ、仕舞いにはベロンベロン舐められる始末。やめてーベトベトになる〜。


 ってか何で母様はいきなりこんな奇行に走ったの?


 「……」


 「(ん? お次はなんだ?)」


 ひとしきりグリグリベロベロされた後、再び俺の瞳を覗き込んできた母様の瞳が、今度は翡翠色に変化する。

 綺麗だなーなんて思っていると、不意に自分の体が一瞬だけ光に包まれた。特に体に変化が起きたようには見えないけど、どうやら母様が何かしたらしい。


 その何かが分からないまま、俺は料理から離れた場所に下ろされる。母様は反対側、つまり料理側に座ってる訳なのだが……何で離れた位置に下ろしたし。


 これは伝わってないな。いいさ、伝わるまで何度だって跳んでやる。


 あのクソ親のご機嫌取りの日々に比べればどうってことはない。足腰立たなくなるまで跳んで跳んで跳びまくってでも――。


 「(……あ、れ?)」


 再び足に力を込めて歩き出そうとして、俺は突然訪れた奇跡に困惑した。いや、これを奇跡と呼ぶにはあまりに当たり前過ぎるけど、それでも。


 歩けた。ただ一歩を踏み出すことが出来た。


 いや落ち着け。たかが一歩だ。どうせ油断している二歩目でビュンッ! だろう? 俺をバカにし過ぎだ。

 どれだけ理不尽な人生を送ってきたと思ってる? 楽観的な考えは捨て去るべきだろう。常に最悪を想定しろ。それが生き残る為の術。


 仮に二歩目が成功したところで、歩くという行為はこの先気が遠くなる程繰り返す事になる動作だ。

 その膨大な数の中で、この一歩の奇跡が起こり続ける? ありえないね。そう、だからどうせこの二歩目だって――。


 「……」


 い、いや、三歩目――。


 「……」


 よ、四歩目――。


 「???」


 ……えー、ご報告。二歩目三歩目どころか四歩目すら問題なく歩みを進めることが出来ました。


 何故っ!!? 喜ばしいけど何故!? 唐突過ぎるだろ!

 もしかして今までの方が異常だったのか? いや、それはそれで運が悪過ぎると言えるが。


 その後も恐る恐る歩き続けてみる。やはり謎の跳躍現象は起きない。起きる気配すら……何がどうなってる?


 「っ……!」


 思い切って走り出してみても、やはり跳躍は発動しない。あの突然の浮遊感すらなく母様の前まで辿り着いてしまった。

 ポカンとしたままに母様を見上げる。すると、昨日見た時と同じように母様の体が光り始め、その姿は人間のものへ。


 呆然と見上げる俺の元へ歩み寄り、そっと抱き上げて額に優しい口付けをしてくれた。


 「流石は私の子だ。本当に驚いたぞ」


 「……?」


 何に? いきなり跳んだ事に対してだろうか?


 「こんなに短期間でスキルを覚えてしまうとは。しかも覚えたてとは思えないほど強力に発揮していた。これは凄い事なんだぞ?」


 「(あの跳躍が凄い? 迷惑でしかなかったのだが)」


 「ただまぁ、制御が出来ていなかった。そうだろう? 強力なスキルを扱い切れない事はよくある話だ。イヴニアには少し早かったと思うべきだな。

 なに安心しろ。今は私の瞳の力でスキルを抑制している状態だ。私が解除しない限り、もう突然跳び上がる事はない」


 なんと! じゃあさっきの翡翠色の瞳と光は俺のスキルを抑制、ないしは弱体化させたって事か!

 瞳で見つめただけでそんな事まで出来てしまうなんて……やはり恐ろしい存在だな、ドラゴン。


 「さぁ、ご飯にしよう。

 イヴニアがちゃんと食べてくれるようにとエリザが作ってくれたんだ。好きなだけ食べなさい」


 エリザさんありがとう、超ありがとう。でも抱っこされたままで食べなさいと言われても困る。

 母様の手をペチペチと叩いて離して欲しいなー的な視線を送り続けると、ようやく母様が気付いてくれた。


 「ああ、すまない。これでは食べられないな」


 「(うんうん)」


 「では食べさせてやろう」


 「(伝わってねー!)」


 とりあえずスキルの暴発はこれで防げた。

 しかしやはり、今後の大きな課題は意思の疎通だな。

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