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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
序章
19/105

帰還は叶うも異変あり

 「……」


 途切れた意識は直ぐに戻り、瞼が開かれる。頭がボーッとしている事から、やはり俺は寝ていたのだと確信した。

 さっきまで見ていたのは夢……ではない。あれが夢なら記憶はハッキリとせず、断片的に覚えているのが普通だろう。


 なのに、俺はちゃんと覚えている。最初から最後まで何一つ欠けることなく記憶に刻まれている。あの謎空間で起こった出来事全てを事細かにだ。


 夢ならありえない。


 「キュウ(はぁ)……」


 上体を起こして小さくため息。視線を下げれば、もうすっかり慣れてしまったドラゴンの体。

 一時とは言え元の姿を見れたのはホッとしたな。今じゃ不思議とこっちの方がしっくりとくるのだからおかしな話だ。


 結局あの空間は何だったんだろうか。謎の声もそうだし、レベルやらスキルやらと訳の分からない事ばかりだ。

 あの声が言っていた事も気になる。セレクトタイムってのはもちろん、意識が途切れる寸前に聞こえたデモンズカースという言葉。


 聞き覚え無い訳がない。カースは分からないがデモンズの部分は忘れたくても忘れられない言葉だ。

 俺が殺したデモンズドラゴン。そして今回のデモンズカース……これは偶然か?


 「(うぅむ……お? そういえば母様は何処に?)」


 考えても考えても答えは出ず、そうしてうんうんと唸っている所でふと母様の姿が見えない事に気が付いた。

 いつもなら俺が起きるまで傍で待機している筈なのに珍しい事もあるもんだ。……って、まだ生後数日なのに珍しいも何もあったもんじゃないけど。


 天井の穴から射し込んでいる光の加減から察するに、恐らく現在時刻は正午前といったところか。我ながらよく寝たもんだ。

 こんな時間だし、例のごとく母様は食料調達にでも行ったのかな。頼むからもう死骸はやめてくれと願うばかりである。


 「(昨日の一件で俺が食べる物を理解してくれてますように……よしっ、お祈り完了。やる事もないしカゴの中でスヤスヤと眠っている弟妹達の様子でも――)」


 思い立ち、足に力を入れて駆け出そうとした瞬間だった。


 「…………キュ()?」


 一瞬の出来事。何故か俺の体は空中へと投げ出されていた。

 前触れなんて何も無かった。サヤさんとルドルフさんの小競り合いによる余波で吹っ飛んだ時ともまるで違う。

 気付いたら俺は空中に居て、眼下には寝床が広がっていたのだ。


 もしや無意識のうちに翼で飛んだのか? いや、そんなはずはない。素人目にも分かる程、俺の背中に生えている翼は未成熟だ。とてもではないがこんな高さまで飛べるとは思えない。


 じゃあ何が?


 そうやって呑気に考えている場合でもなく、空中に居るということはそれ即ち重力により落下するということ。

 現に俺の体は直ぐに浮遊感を失い、真下の寝床へ真っ逆さまに落ちていく。


 ……って! いやいや! この高さからの落下は流石にマズイっ! いくら藁が敷き詰められてるからって下手すれば死ぬ!


 「キュウゥゥゥゥゥッ(上がれぇぇぇぇぇっ)キュキュイキュイ(いや無理無理)……」


 死ぬ気でやれば何とかなる精神! 奇跡よ起きろ! と分からないなりに翼を動かそうとしたけど直ぐに諦めた。

 そもそも翼ってどうやって動かすの? まずそこからだよなー、うんうん……じゃなくて!


 何でもいいから状況を打破しないと本格的にマズイ!!


 「(こうなったら受け身で……!)」


 落下の衝撃に合わせて体を転がすしか方法はない。

 少しでもダメージを減らそうと意識を集中。腕から体へ、最後に足へと流れるように受け身を取れれば……!


 「キュイっ(えぇっ)!!!? キュイーーっ(なんでーーっ)!!!?」


 理解不能! いざ受け身と思った次の瞬間、再び浮遊感に襲われた!

 落下していた体は弾かれるように急上昇して、ついには寝床の外……つまりは水溜まりの方へと放り出された。


 訳が分からない状況に頭は混乱しっぱなしだ。それでも、下が水ということは落下死は免れたと思っていいだろう。

 高さによっては死ぬけど、この程度ならば多少の腹打ちで済むはずだ。死にはしない。


 とは言え。


 「ギュッイ(いっだ)!!」


 水面に勢いよくダイブ。死ななくても痛いもんは痛い。


 「(な、何とか助かった……って、このままじゃ結局溺れ死んで終わりか。早いとこ寝床へ戻らないと――)」


 ジンジンと痛む腹については後回しにして、泳げる体力があるうちに戻ろうと足に力を込めて……そうして訪れたのは三度目となる謎の飛び上がりである。

 水面が大きく弾けて、俺の体はまたしても宙を舞った。


 「キュキュイー(何がどう)キュゥゥゥゥゥゥッなってんだぁぁぁぁぁっ!!?」


 叫ぶ事に必死で着地やら何やらと後の事を考える余裕も無い。

 幸いにも最初の飛び上がりに比べれば遥かに低いものだったので、俺はそのまま寝床の中へと転がり落ちる事となった。


 「……キュイ(なにこれ)


 仰向けの状態に落ち着いて口から溢れ出た本音。天井を見上げたまま混乱する頭を何とか整理しようと試みてみる。


 また謎現象が起きる前に状況を分析だ。

 何故、飛び上がったのか? 正直に言えば心当たりが無い事もない。飛ぶ、それはつまり跳ぶとも取れるって事だ。


 思い起こされるのは謎の声が言っていた跳躍という言葉。奴はそれを習得したと言っていた。

 言葉をそのまま受け止めるとしたら、俺は跳躍を……つまり跳ぶという行動を習得したって事か?


 それが正解だと仮定すれば、スキルってのはもしかして、個人が得る技術とか技を指した物、なのかもしれない。むしろそうでなくては急激に跳躍力が増した説明が付かない。


 「(しかしそうなると不便だな)」


 とりあえず、高く跳ぶスキルと納得はしておく。次に問題なのは発動条件だ。

 さっき俺は特に跳ぼうともしていなかったのにいきなり宙を舞った。何か見落としている筈。


 俺の意思とは関係なしに突発的に発動するスキルなんて迷惑以外の何者でもない。

 きっと何かある筈だ。思い出せ、跳んでしまう前に俺は何をしていた?


 「(初めは……そう、眠りから覚めて弟妹達に駆け寄ろうとした時。

 その次は空中で受身を取ろうとイメージして、最後は水の中を泳いでいる時……ん?)」


 ふと気付いた。今までの行動を起こす前に、俺は無意識的に足を動かす事に集中している。

 初めは走る為に足を。その次は受身を取る為に足を。最後は泳ぐ為に足を。どれもこれも足に意識を集中させているじゃないか。


 これは偶然だろうか? ただ意識するだけで、あの馬鹿げた跳躍が発生する?


 「(そんな馬鹿な……いや、試してみるか)」


 否定から入るのは簡単だけど、物は試しとほんの少しだけ足に意識を集中させてみる。イメージはちょ〜っとだけ跳ぶくらいの感覚だ。


 そして、俺は直ぐに後悔した。


 「ギュイィィィッ(どわぁぁぁぁっ)!!!?」


 後ろへぶっ飛んだ。それはもう盛大に。


 いやまぁ、何となくこうなるんじゃないかなぁって嫌な予感はしてたよ? にしたって跳び過ぎだけども。

 背後に壁があったら後頭部強打で死んでたなこれ。


 「(歩かない歩かない歩かない。歩かないから跳ばないで……!)」


 もうこうなっては歩く事すら恐ろしい。ほんのちょっとだぞ? なのにあれ!?

 ふざけるなよ何が跳躍を習得しましただ! 患ってるの間違いだろこれ! マトモに移動することすら出来なくなったじゃねーか!


 「(返却! 返却を所望する! おい聞いてんのか!? こんなスキルいらねーよ!)」


 ダメ元であの謎の声に呼び掛けてみても、当然反応など返ってくるはずもなく……。


 え? ホントに俺、このまま生きていかないといけないの?




 生後5日。新たな生を受けた俺のドラゴン生活は、早くも絶望いっぱいのものとなったのだった。

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