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そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
序章
16/105

それは幻聴か

 「けぷっ」


 「はい、よく出来ました」


 あれから俺は、広場に並べられた料理という料理を食い漁った。肉も魚も野菜も果物も、美味そうなものは手当たり次第に口の中へ押し込み、その度に美味しさに身悶えた。

 やはり調理された物は生とは格が違う。俺の意思とは関係なしに次から次へと料理に手が伸びる。


 我ながらこの小さな体の何処に収まっているのかと不思議に思うな。

 流石に腹いっぱいになってきたところで、エリザさんが俺を胸に抱いて優しく背中をポンポンと叩いてくれた。


 小さくゲップをすると、聖母の如き微笑みで褒めてくれる。随分手馴れてるよな……もしかしてエリザさんはエトちゃんの母親? どことなく面影あるし。


 にしてもこの背中ポンポン、ちょっと癖になる。


 「何をしているんだ? エリザ」


 「これは食べた物の吐き戻し防止です。人の赤ちゃんではないので必要かどうかは分かりませんでしたが、一応やっておこうかと思いまして」


 「ほう、なるほどな。覚えておこう」


 いや覚えないでいいよ母様。あんたがやるとゲップどころか食った物全部ぶちまけそうだもの。

 実際ここに来る前に同じ要領で吐かされたし。何より痛いんだよ母様の背中トントン。ていうかドンドン! だしな。


 「(喉乾いた)」


 たくさん食べたせいで喉の乾きは最高潮。デザート代わりのエトちゃん印のクッキーがいけなかったか。

 何か飲み物はと視線をさまよわせていると、隣のサヤさんが何かを飲んでいる事に気付いた。


 今は何でもいいから喉を潤わせたい。エリザさんの肩に手を置いて落ちないようにしながら、サヤさんの方へ身を乗り出す。


 「あら〜? ダメですよご子息様。これは、お・さ・け♪」


 何だ酒か。まぁ俺個人としては酒でもいいけど、今の俺が飲んで体に悪影響を与えないとも限らないからなー。あまりリスクを犯すのは得策じゃない。


 「ふぅむ、喉が渇いておるのやもしれんな」


 お、ルドルフさん当たり。


 「みるく、あるよ……?」


 ここでエトちゃん登場。木のコップに注がれたミルクを俺の方へ差し出してくれる。


 この子、将来はいい嫁さんになりそうだ。こんなにも小さいのに赤ん(ドラゴン)の世話を甲斐甲斐しくこなそうだなんて、これは成長が楽しみである。


 遠慮なくコップを受け取り、その中身をグビグビと飲み進める。これもまた美味。

 しかし妙だな。色々と食べてる時に気付いたけど、料理には見たことのない食材が多く使われていた。中には知ってる物もあったが、どれも細部が微妙に違っていたし……ここホントに何処なんだ。


 「ほっほー! よい飲みっぷり! ご子息と酒を酌み交わす日が楽しみですな!」


 「ジジイと飲んだって楽しくないでしょうに。ご子息の一番酒は私がもらうわ」


 「カッ、ご子息が酒を飲めるようになる頃には、お主とていい歳したオバサンだろうに」


 「……言ってはならない事を言ったわね。ちょっと(つら)貸しなさい。老い先短い寿命縮めてあげる」


 「ほう? ワシに適うと思うてか小娘」


 「考え方の古いクソジジイほど自分の実力を見誤るものよ」


 「吠えよったなクソガキ」


 何やらバチバチと火花を散らせていらっしゃるサヤさんとルドルフさん。俺が思ってる以上に仲悪いのかな。


 2人共優しげだった表情は一変。

 マジ喧嘩を始めそうな……いや、この様子だとたぶん始めるだろう。こっちに被害が来ませんように。


 「お前達、やるなら遠くでな」


 「はぁい。心得てますよシェラメア様♪」


 「勿論でございます」


 「ジジイ、訓練場まで来なさい」


 「ハッ、よかろう」


 飲んでいた酒の杯を置いて2人が立ち上がり、そのまま街の中へ。


 本当に一戦交える気だ。背中越しに分かるほどお互いが闘気を纏っている。ある意味俺が原因で喧嘩してるみたいになってるし、どうか大きな怪我だけはしませんように。


 「けぷっ」


 なんて思いながらミルクを全て飲み干してゲップをひとつ零した……その時。



 《条件その1 一度に20種類の食材及び料理を食べるを達成しました。条件その2を解放》



 「キュッ!!?」


 「わっ……! ど、どうしたの?」


 いきなり頭の中に響いてきた女性の声。本当に突然の事で、ついコップを落としてしまった。

 心配そうに覗き込んでくるエトちゃんには悪いと思いつつ、今しがた聞こえてきた声の主をキョロキョロと見回して探す。


 当たり前だけど俺はこの人達とは初対面だ。言葉も話せないからコミュニケーション能力も限られる。そんな状態で声の主を探せる筈もない。

 仮にこの中に声の主が居たとして、それを確認する術も無いのだ。


 でも、それでも俺は探してしまった。

 聞こえてきた声があまりにも無感情で無機質な声音だったから。普通の人の声ではないと即座に理解してしまったから。気になって仕方なかったのだ。


 今のは誰だ? 耳から聞き取った声じゃなかった。本当に頭に直接届くような、そんな声だ。皆は聞こえていないのか?


 「……」


 やはりダメだ。どれだけ見渡してみても声の主なんて分かりっこない。

 条件って言ってたか? 何の条件? 料理を食べた事が条件? それを達成したとして何か得る物でもあるのか?


 「(その1を達成……その2とかも言ってたな)」


 て事はよく分からん条件とやらが複数存在してるって事か。


 ……いやいや。いやいやいやいや。だから何だよって話だ。

 そもそも何の為の条件なんだよ。肝心な部分が分からないじゃないか。身勝手に人の頭ん中で話すくらいなら、目的の一つでも吐いてから消えてくれよ。


 このモヤモヤどうしてくれる!


 「何だかそわそわしてますね」


 「初めての経験ばかりだからな。まだ緊張しているのかもしれん」


 「なるほど」


 「あ、そうでしたシェラメア様っ。つい聞きそびれていた事があったのですが、よろしいでしょうか?」


 「ん、なんだトマス。言ってみろ」


 「いつまでもご子息様とお呼びするのもどうかと思います。ですので、是非ともご子息様のお名前を教えていただけないでしょうか」


 俺がうんうんと考えている最中、どうも聞き捨てならない事をトマスさんが母様に聞いた。


 これには思考を一時中断せざるを得ない。思えば俺は、このドラゴンに生まれ変わってまだ一度も名前らしい名前を呼ばれていない。

 地味に気になってたからな、俺の名前。きっと母様の事だから既に考えてはくれている筈だし、これは聞くのが楽しみだ。


 「……」


 「……えっと」


 「……」


 「あの、シェラメア様?」


 「……れ……た」


 「はい?」


 「名前……考えるの、忘れてた」



 おいこの母ちゃんホントに大丈夫かよ。

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