表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして竜呪は輪廻する  作者: アメイロニシキ
序章
15/105

どんな生物も空腹には勝てない

 マトモな料理が並んでいる。

 肉と野菜のシンプルな炒め物。いろんな種類のパンに、この香りはシチューか。馴染みのあるものから見たことのない料理まで、どれもこれも美味そうだ。


 腹の音は大きくなるばかり。無意識に口内の中に分泌される唾液。ゴクリと喉が鳴った。


 「あら、すごいお腹の音」


 「……ハッ!? また目的を忘れていた!」


 「そうでしたな。ご子息があまりに可愛らしい故、すっかり失念しておりましたぞ。お主ら! 料理をいくつか持ってきてくれ!」


 ルドルフさんが周りに呼びかけると、何やら多くの人達が慌ただしく動き始めた。あっという間に俺の近くへ料理が並べられ、俺を抱えたままサヤさんが座り込む。


 「サヤおねーちゃん、わたしもだっこしたい」


 「ん、いいわよ。でも気を付けてね? まだ赤ちゃんだから」


 「う、うん」


 料理を前に今にも涎が流れ出しそうな状態で、再び俺の体が持ち上げられる。サヤさんの手を離れ、次に俺の体が納まったのは先程の少女の手の中だった。

 後ろから弱々しい力でギュッと抱きしめられる感覚……こそばゆい。


 「わぁ」


 「キャーっ! トマス見て! エトの可愛さにご子息の愛らしさが合わさって最強だわ!」


 「君は何を言ってるんだエリザ……まぁ可愛いのは確かだが」


 「んしょ……はい、たべる?」


 エトと呼ばれた少女が徐に何かを取りだし、俺の前へ差し出してくる。それは丸くてほんのり薄い茶色の何か。

 ひとまず匂いを嗅いでみれば、鼻を優しく刺激する甘い香りを感じた。


 「(兵士時代によく口にしていた携帯食料によく似ているな。でも匂いは別物だ。これはひょっとして焼き菓子の一種だろうか?)」


 うぅむ、今は菓子よりも飯を食べたい。しかし俺はこれでも子供好き。下手に断わって落ち込まれては俺の良心が痛む。


 まぁ腹いっぱいに菓子を食べる訳でもなし。1つ2つくらいならばいいだろう。


 「あ」


 「食べましたね」


 「いや、前も同じく少しの間は咀嚼してその後に吐き出していた。今回も吐いてしまう可能性はある」


 おお……おおおお! サクサクとした食感にほんのりとミルクの香り。そして何より甘い! 美味い! 間違いなくマトモな食べ物!


 エトちゃん! もう1枚!


 「おいしい?」


キュ(ああ)キュキュイ(もう1枚)!」


 「まだほしいのかな? あーん」


 こんなに小さな子に食べさせてもらうなんて、とんでもなく複雑な気持ちだ。食欲が勝っていなければ断固として拒否していたに違いない。

 それにしても美味い菓子だ。王都でも普通に通用するんじゃないか?


 「全然吐き出しませんね」


 「アレー?」


 「あの、シェラメア様? 本当に食べられる物を与えられていたのですか?」


 「今の言葉で私への信頼が崩れる音がしたぞ。

 しかし納得がいかん。何故私が持ってくる食料は口にしてくれないんだ……或いは今なら?」


 生だからだよ。どんな高級肉でも俺は生で食うなんてお断りなんだ。加えて母様の持ってくる物は全部くっさいんだもの。

 むしろ母様はよく食えるな。見てるだけで吐き気がしてくるってのに。これが人とドラゴンの違いか……悲しいね。


 最悪、焼きはしなくてもあの臭いさえどうにかなればなー。あぁ、そうそう、ちょうどこんな感じの臭い――。


 「キュッ(くさっ)!!?」


 「ほら、あーん」


 ギャーーーッ!!? こ、この親いきなり目の前に死骸を!? しかも動物の生首! ひょっとしてアンタ実は俺の事嫌いだな!?


 「キュイー(やめーい)!」


 「う……シェラメアさま……それ、くしゃい」


 「えっ」ガーン


 臭いに耐えきれず、逃げるようにエトちゃんに抱き着いて生首から逃れた。

 そして俺の嗅覚がおかしい訳ではないと証明された瞬間だ。あと動物のとはいえ小さい子の前に生首なんて晒すな!


 「シェラメア様、それは如何なものかと」


 「如何にドラゴンと言えど、産まれたばかりのご子息に生首というのは……」


 「私がおかしいのか!? しかし私はこうやって育ったし、これだって言うほど臭くはないだろう!?」


 「いえ臭いです」


 「ええ、エリザの言う通りかと」


 「ハッキリ申しまして臭いですな」


 「ジジイに同感で」


 「くしゃい」


 「キュイキュイ(そうだそうだ)!」


 「ば、馬鹿な……」


 自分が大丈夫だったから子も同じとは限らないんだぞ母様よ。

 そして今回の事で確かになった事がひとつ。やはり俺の嗅覚はドラゴン寄りではなく人間寄りであるらしい。もしくは母様の鼻がぶっ壊れてるかだ。


 「クッキーも問題なく食べられるようだし、これなら他の料理もいけるんじゃない?」


 「そうね。刺激の強いものは避けて、まずはシチュー辺りから」


 落ち込む母様を尻目に、エリザさんが鍋から皿へシチューをよそってくれる。見るからに熱々なそれを木製のスプーンですくい上げ、冷ますためにフーフーと息を吹きかけた。


 俺が火傷しないようにという配慮が何よりも嬉しい。


 「エト、支えてて」


 「うん」


 食べやすいようにエトちゃんが俺の体を抱えなおしてくれる。再び正面に向けられた俺に差し出されるのは、しっかり冷まされたシチュー。


 我慢など出来よう筈もなく、スプーンを噛み砕く勢いで食らいついた。ホントに砕きはしないけど。


 「……」


 お、おぉ……おおおおおおおお!!!?

 美味い! 凄まじく美味い! なんてことは無い味付けのシチューなのに、体が芯から震えている!

 食べ物を求めて止まなかった体が歓喜している! 瞬く間にシチューが血肉へと変わっていくのを感じた!


 次から次へと湧き上がる空腹感。チマチマと食べていては押し潰されてしまいそうだ。


 「きゃっ」


 「キューキュイキュイ(その皿を貸してくれ)!」


 咥えていたスプーンを奪い取り、皿を寄越せと両手をばたつかせる。

 しばらくは怪訝に思うような仕草をしていたものの、直ぐに俺の意図を汲み取ったエリザさんが皿ごとシチューを渡してくれた。


 もはや俺を止める者無しっ!!!


 「はぐはぐはぐはぐ!!」


 「あらあら、よっぽどお腹がすいてたのね」


 「そのようだな。しかし先程の編み技術といい、ご子息は本当に天才かもしれませんなシェラメア様。

 見事にスプーンを使いこなしている上に、これだけがっついていながらシチューを一滴も零しておらん。

 わははは! やはり将来が楽しみですなぁ!」


 バカヤロー! 本音を言えば零すのも気にせず皿に顔を突っ込みたいくらいだよ!

 でもそんな事したらエトちゃんの服が汚れるだろ! 火傷する可能性だってあるんだから配慮すんのは当たり前!


 「(ぶはぁっ)」


 シチューをかっ込む勢いは衰えず、気付けば皿の中のシチューは無くなっていた。


 「(美味かった! でも足りない! 圧倒的に!)」


 「わわ……!」


 ジタバタともがいてエトちゃんの腕から素早く脱出。集められた料理の前へ駆け寄り、近くにあったフォークを手に取って存在感ありまくりのジューシーなステーキ肉へ突き刺した。


 間髪入れずにかぶりつく。獣臭さ、生臭さ、鉄臭さ、そんなものなど一切無い、俺が思い描いていた通りの肉の味! 溢れる肉汁に全細胞が暴れ狂う!


 美 味 す ぎ る !!!


 「キュイーーっ(うまーい)!!!!!」


 新たな生を受けてから、おそらく最大級であろ雄叫びを俺は上げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ