答えを下さい
騎士団長視点で続きます。
その日、カレンは容赦なく告げた。「今日で、ひとつきです」そう言えば。早いもんだ。
「はい」
「何も答えをくれないのは、酷いです」
「面目ない」
「仕事ではビシバシ決断できる人なのに、私にはのらりくらりで誠実でないです」
「ほら幻滅したでしょ?」
仕事みたいに、割り切って進めることは難しい。いい訳じみた言葉しか出ない。
ここまで詰め寄られて、困り果てても、どちらの回答も出来ない。イエスの答えで進み、カレンに幻滅されるのは嫌だ。しかし、ノーでカレンが離れていくのも嫌だ。
ただ、日々彼女と夕飯を食べているだけで、幸せなんだ。これを無くすのがもう辛いということに気づいてしまった。けれどこれ以上の一歩を踏み込みたくも踏み込まれたくもない。身勝手だとは重々承知だ。
「このままではダメかな? こう、仲の良い友人の様に、居られないかな」
彼女の頬が紅潮し、きりりとした眉が少し吊り上がった。
「何、ふざけた事言ってるんですか? てか、このひとつき事実婚ならぬ、事実交際じゃないですか?」
ひとつき前に、ネクタイを捕まれた時と同じ位の勢いだ。
「え、いや」
「もう、最初の予定通り、ひとつき後の回答してください」と追い込みをかけられた。
おりしも金曜日、それでも煮え切らない僕に、業を煮やした彼女は、一方的に宣言した。
「今日は回答貰えるまで、付きまといます。帰りまでに回答いただけないなら、お宅にお邪魔します。なんなら、週末ずっと居座ります」
結局、食事後、飲み続け、店じまいの時間まで、僕が粘った挙句、根負けして帰宅。宣言どおり、カレンに家へ乗り込まれた。
しかしながら、この期に及んでも、これだけ煮え切らない僕が、なし崩しになる訳も無く、色めいた展開にも進展しないまま午前0時を過ぎたところ。
目の据わった彼女を目の前に、一歩も動けない。そろそろ寝たい。
「湯を浴びてきていいかな? 先に使う?」
出来る限り、その先に何かを匂わせない様に、言ったつもりでも、自分の言葉が意味深長に聞こえて、気恥ずかしい。
彼女は意味深長を煽りもせず、聞こえなかったかの様に、そして質問にも答えず、全く違う質問を投げかけた。
「この家、お酒ないんですか?」
「ないことも無いけど珍しいね。飲み足りない?」
「酔った勢いとか、責任とるからとか、そういう理由付きでも良いから、恋人になってくださいって言うためです」
「何、馬鹿なこと言ってるんだ」
「馬鹿なこと言わせてるのは、誰ですか」
「僕だって、こんな優柔不断な男は嫌だよ。君は、何をムキになってるんだ。いい加減に、愛想尽かすところだろう」
「その手には乗りません。私と付き合うことを、回避したいなら、絶対に自分から『ノー』を突きつけてください」
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