お試しのひと月
騎士団長視点で続きます。
「何か質問、疑問があればお答えしますよ」
「急にそんなこと言われても……」
「では、お試しでひとつき質問、疑問を解明しながらお付き合いするのはどうですか? 極秘で。ひとつき後に正式な回答を出すという条件で」
「強引だな」
「だって、もうここまで言ってしまったのに、元に戻るのは無理ですよね?」
「それは……聞く前には戻れないけれど」
「ひとつきで無理だって回答を出されたら、私もすっぱり諦めます。極秘なの、回りに気まずい思いをする人も居ない。騎士団を辞めなくても済む、かもしれない。まあ、私の心が耐えられればですけどね」
「え?」
「だって、生まれて初めて好きになった人に、ひとつき掛けて気に入って貰えず、袖にされても、そのまま傍にいる事を耐えられるか、どんだけメンタル強いんですか。正直、自信はありません」
「それ、結局自分の職を賭けた脅迫じゃないか。するいよ」
「自分だって仕事に差し障ると、さっき私を拒否したじゃないですか。ずるいのはどっちですか」
「公私混同しない。私が言ったのは正統性がある」
「じゃあ公私混同しないように、辞めてから迫りましょうか?」
「なんで辞める前提になってるんだ」
「妥協点を見出してくれないからです。私に諦めさせたいなら、ひとつきで嫌われるように、仕向ければいいじゃないですか」
「君に嫌われたい訳ないじゃないか」
「振り向いてくれないのに、私に物分りのいい振りして、ずっと好きなままで居ろって、生殺しですか?」
「そんなずるい事言ってない。仕向けなくても、嫌になるさ、君の思ったような僕ではなくて」
「思ったよりもネガティブで、自己肯定が低い事で、既にびっくりですよ」
「もっと幻滅することだらけだよ、きっと」
「幻滅なんかしてませんよ。あと思ったより、私のこと好きなことにも、びっくりです。ダメな場合は、もっとあっさり振られると思ったから」
「振るだなんて、おこがましい」
「いや、さっきから『イエス』って言ってくれないじゃないですか?」
「考え直すべきだ、と説得しているんだ」
「こちらこそ、説得しているんですけど」
「平行線だな」
「私のこと、嫌いじゃないんですよね?」
「それは勿論」
「今日の仕事後の、ご予定は?」
「特には」
「では、取り合えず、食事に行きましょう。この平行線の対話を続けるために。ここで会話していたら、夕食を食べそびれます」
「断る権利はなさそうだな」
「ありません」
それからのひとつき、二人とも居残り仕事の日は無く、毎夜平行線の会話をするために、食事して帰る日々が続いた。僕は相変わらずの調子で「付き合う」とも「付き合わない」とも回答できない。
その日、カレンは容赦なく告げた。「今日で、ひとつきです」そう言えば。早いもんだ。
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