第84話 17歳になった
あれから数ヶ月が過ぎて貴族世界にも異変が起き始めている。
まず貴族派の問題で避けては通れない問題として、3公爵家の処分が決まったのだ。
まずヒューマの公爵家ヒューポッド公爵家は、今回の貴族派の問題全てに関与していた証拠が有り、流石の国王もかばい切れなかったようで全員犯罪奴隷となった。
エスト王国では基本奴隷は禁止されているものの、犯罪者に限っては奴隷として扱うことが出来て、個人の所有は禁止されているものの国で管理されることになっている。
本来なら貴族として国王より寛大な処置がされる所であったが、他貴族の暗殺や挿げ替えに加え、国の専売である塩を不法に取引しただけでなく、その入手先として輸送部隊の襲撃やそれに関する暗殺まで有っては、貴族としての特例も適用されることはなかった。
ちなみにこれでも減刑されているというのだから、国王の甘さや罪や恨みの重さが分かるというもの。
とは言え3公爵の座を空席のままに出来ない為、新たな公爵として第1王女が降嫁せずにその地位についた。
実質次の国王の座を拒否したと言ってもよいだろう。
公爵家に関わる全ての者が犯罪奴隷に落とされている関係上、当然公爵家の領地どころかあらゆる面で人が足りないのだが、そこは今まで王女が開催していたサロンの住民が当てられるそうで、近々レレとハンナも準男爵あたりに昇爵する事になるだろう。
ちなみに俺にもお誘いが来たのだが、礼儀上のお誘いでしか無いと判断して保留にしている。
まぁ色々有るのだ。
次に処罰がされるとは思わなかった残りの2公爵家なのだが、王政派の思惑によりこちらにも処罰が下されることになった。
理由は、国王の許可を得ずに軍を動かした事・エスト王国の名前で勝手に出陣した事・同じ3公爵家から謀反人が出た事だそうだ。
軍事に明るい者ならば事態がどれだけ逼迫していたか分かるのだが、依然王城に籠もる王政派にとっては、子供でも追い返せる程度のゴブリン相手に軍を出す事は、ゴブリン討伐を理由に謀反を起こしたと言っても過言ではないらしく、また同じ3公爵家であるのだからお互いに監視し合うべきと主張したらしい。
無能の王の無能な部下の言うことに周囲は呆れたものの、当事者の2公爵家が王城出仕を暫く控える事で収まったのだとか。
ちなみに最初に言い出した無能は自身の不明を恥じ、何処かの修道院に入って二度と姿を見せなくなったとか?
おそらくは2公爵家も現在の国王にこれ以上関わりたくないから、自発的に王城に出仕しない事で決着としたのであろう。
これで3公爵家への対応が終わったのだが、ここから国王無双が始まったらしい。
まずあれだけの事件を引き起こした挙げ句、罪を償うどころか逃げ出した第2王子は、全ては神光聖声教会の仕業だったとして、特に罪に問われることはなくなったそうだ。
同様に塩の密輸にも関与していた正妃にも、特に処罰は下されること無く終わった。
最後に第1王子だが、国王の許可を得ずに勝手に出陣して上に、一時はゴブリンごときに押された罪を償うため、暫くの間王城への出仕を禁止されたとか。
この発表がされてから王都は騒然となっているし、貴族派を潰したことによって空いた地位の殆どを王政派が締めた事もあり、中立派は一気に第1王子に接近し王政派からも多くの者が第1王子派へと鞍替えし始めた。
下馬評では既に殆どの力を失い貴族を押さえられない国王では、そこまでの決断はできないと噂されていたのだが、結局ゴブリン討伐を勝手に行ったとして処罰した事により、一時的に王政派が多数派になった事で行えたとも言える。
現在このエスト王国で国王を慕っている国民は、限り無く少なくなっているし、王政派の政策の殆どは王城内でしか通用しなくなってきている。
最早王国騎士ですら国王を見限り、近衛騎士も何処までついていくかはわからない。
現在王城の中だけの国王になりつつ有るのだが、第1王子がどう動くかに全ての国民が注視しているような状況だ。
そんな中流石に表を歩きにくいのか、第2王子は罪を許されているにも関わらず、現在第2王子に管理が任されている領地の屋敷に引きこもっているのだとか。
貴族の動きとしてはこんなものかな?
細々としたところでは更に色々有るらしいけど、そっちにいない俺にはあまり関係がないし影響もないだろう。
ちなみに神光聖声教会は邪教と認定されて、各地で教会の捜査や破壊が行われているとか。
さて今俺が居るのはパラセッツの街だ。
ここは王都の北に位置し、北からの物資の通り道になっているため結構重要な街なのだが、ここの街を管理しているのは第2王子であり元貴族派だったりする。
物資の通り道なだけでなく、近くにダンジョンも有るため元々栄えていた街なのだが、第2王子の管理に移行してからかなり寂れてきてしまっている。
どうやら第2王子はここでも知識チートを試したらしく、まず公共浴場を建設し街の健全化を狙ったようだが、特に財源を決めなかった上に燃料の調達も考えなかったため、1年で財政の悪化のために閉鎖している。
ついで行ったのがダンジョン資源の活用なのだが、そんな事は既に総合ギルドが行っていて、需要と供給のバランスを調整していた所に割り込んだため、ただ資源の値上がりを招いただけでなく他の供給場所に切り替える商人が多発して、結果としては儲からないダンジョンにしてしまった。
他にも色々やらかしているらしいが、これだけやらかしてしまうと財政がぼろぼろになって、まともな運用ができなくなってしまっている。
お陰で国が行っているセーフティーネットの殆どは機能しておらず、元貴族派の息のかかった商人だけが儲かる、税金の高い街が完成していたのだった。
俺がここに来た表向きの理由は、錬金術師が逃げ出して薬を買うのも隣の町まで行かなくてはならず、非常に高価な薬しか買えなくなってしまったこの街に、新たな錬金術師として総合ギルドから派遣されているというもの。
裏側はまぁ分かると思うけど、王子の不正を暴き中立派に情報を流すためだ。
俺の新しい仕事はマーブル先生の手元って事だな。
まぁマーブル先生はこうなることを予想していたと言うか、こうするために俺を育てていた節が有るから予定通りなのだろうし、俺としても面倒な貴族生活を捨てある程度自由な生活が出来る上に、マーブル先生に恩返しも出来るのだから文句はないのだ。
それに既にマーブル先生の派閥の者は多数この街にいて、俺だけが頑張る必要は全く無いから気楽なのものだ。
そうそうここに来るために色々準備していたら俺も17歳になった。
まぁ16歳の時なんてゴブリン討伐に行っていたのだから、あんまり実感はないのだけどな。
ちなみに今の俺は流しの錬金術師ティとして来ている。
家名は貴族だけだから単にティだけなのだが、実はこの名前字が1字で済むから意外に多く、平民に紛れるにはちょうどよい名前だったりする。




