第78話 王都帰還
結局王都に帰るまでに2ヶ月かかってしまった。
本隊や他の部隊が体制を整え先に負傷兵を送り出し、戦後処理を終わらせるまでに1ヶ月かかり、その後他の部隊が先行していく中ゆっくりと後を追って、俺達が王都に入るまでにさらに1ヶ月って感じだ。
王都に着くと早速本隊であったアントライア公爵家に呼ばれ、今回の働きに対するご褒美が貰えることになった。
屋敷について名前を言うと直ぐに奥の応接間に通されて、しばらくお茶をして待っていると、アントライア公爵令嬢とスネールズ公爵令嬢それに第一王子が入ってきた。
慌てて最敬礼のカーテシーをとり敬意を表すと
「本来なら王宮の謁見の間で国王陛下から表彰されるべきなのだが、残念ながら色々とあってこちらでの表彰となった。その点大変申し訳なく思う」
「いえ。私のような者は謁見の間に入るような立場でも有りませんし、それ程の功績を上げた
訳でも有りません。このような場を用意して頂いただけでももったいないと思っております」
「ふむ。そなたは奥ゆかしいのだな。だが謙遜も過ぎれば嫌味にもなる。そなたはそれだけの功績を挙げたのだ。顔を上げてそこに座ってくれ」
応接室のソファーを示されたので、そこに座り言葉を待つ。
「まずは最後の局面で私の指揮の至らなさから、輸送部隊であるはずのそなたらまで前線に送ってしまったことを詫びよう。そちらに関しては」
まずは輸送部隊への報奨から始まった。
通常業務であった物資の運搬・管理での功績に加え、ゴブリンの襲撃に対応していたこと、それに最後のレアサングルの丘での奮闘も合わせて報奨が渡され、亡くなった者への追悼金まで貰えた。
もちろんこれ以外にも総合ギルドからの報奨も別に貰えるし、別途手当のたぐいも貰える事になっている。
まぁナメクジ達の分も貰えたから、このお金で子供達を育てることにしよう。
そしてそこからは俺の功績についてだった。
こういった場合平民に対しては全てお金で払われる場合が多く、有能な者の場合従騎士等の爵位が渡され、どこかの貴族の寄り子になる場合もある。
そして貴族の場合お金も渡されるが功績次第では昇爵される事も有る。
今回の場合俺の功績と認められたのは、通常の物資の輸送管理から始まり、ゴブリンの出現位置の特定と第2王子の捕縛の手伝い、それに最後のレアサングルの丘の戦いになるのだ。
俺としてはあまり嬉しくはないがこれだけ認められると、通常昇爵が行われるだろうと思う。
だが俺の場合立場が微妙すぎてなんとも言いにくい状態にっている。
まずスタン子爵家はバルサーが死んだ時点で、当主の座が空席になっているものの、あとを継ぐべき人間が存在しないため、空位のままになっているはず。
おまけに塩の密売の罪に問われて取り潰しが正式に決まっているため、現在スタン子爵家は存在していない。
俺は存在しないスタン子爵家を、学院の卒業までは名乗る事が出来る事になっているので、今の所俺は子爵家の人間と言える。
だけど功績に対して昇爵しようとすると、存在しないスタン子爵家を昇爵することになり、ちょっと意味がわからなくなってしまうのだが…
「これらの功績に対して連名での昇爵を申請したのだが、残念ながら国王陛下には認められなかった。なので第1王子殿下・第1王女殿下それにアントライア公爵家・スネールズ公爵家の4者の連名により、ここに新たな男爵家を起こしこれを与えるものとする」
なるほど。
スタン子爵家はあくまでもお取り潰しになっているから、貴族家の次男とか跡継ぎではない者が功績を挙げたのと同じ様に、新たに家を起こすことになったのか。
それにしてもいきなり男爵とは思い切ったものだ。
通常こういった場合准騎士から始めるし、よほどの功績を上げても準男爵までが普通だ。
結局寄り親等については語られず、学院卒業後に改めて派閥に入ることになったようだ。
この辺は自由意志が認められているようで、連盟の4者のどこかに入るようには言われなかったし、どこかの貴族へとも言われなかったからな。
とは言え何処の派閥にでも入れるわけではない。
例えば元の派閥のエルダー伯爵の所に入るには、最低でも学院を卒業するか中退してから、騎士学院に入り直す必要があるし、そこからさらにある程度の兵士数を揃えてから行かなくてはならない。
他にも魔法系の派閥にも同じ理由で入れないし、代官関係の派閥にはそもそもコネもないのだし、選べるようでいて選べないのが本当のところかな?
他にもある程度のお金とかも貰ったし、まぁまぁ良かったような気もする。
だがそんな俺の甘い将来設計は第1王子の言葉で打ち砕かれてしまった。
屋敷を出てグロス達が貸し切っている酒場に向かう途中、あまりの事に呆然としてしまって、なんだか考えがまとまらなかった。
まさかそんなことになるとは。
グロス達は先に総合ギルドからの報奨金を受け取りに行ってもらっていて、俺の分も貰ってきて欲しいと言っておいたから、今回俺が公爵家で貰ったのも合わせて、一旦分配の話をしようとか考えていたのも、全てが飛んでしまっていた。
「お嬢どうしたんですか?顔色が悪いですよ?」
酒場に着くとグロス達は心配してくれたが、取り敢えず公爵家であったことや報奨金の事を伝え、ちょっと調子が悪いから明日また来ると、最初の乾杯だけにして近くに取っておいた宿に向かった。
グロス達は心配そうにしていたのだが、俺の気持ちをわかってもらうのは難しいし、その説明をするわけにも行かないので、疲れただけだと言っておいた。
宿の部屋に入り一人になるとさっき王子に言われた言葉を思い出してしまう。
「家名についてだが建国期に現王家を支えていたものの、戦いの中で断絶してしまった家の名を付けることにした」
そう。家名は自分で選ぶものではなく、ふさわしいと思われる過去に断絶した家名が付けられる事が多く、今回も恐らくその中から見つけられた名前だと思う。
「ティ。スタン家から家名を改め、今日からはレックス家を名乗るように。おめでとうティ・レックス男爵」
よりにもよってレックスは無いだろ…
ティ・レックスだってよ…
その日全俺が泣いた。




