第69話 輸送任務2
毎日それなりに忙しく働いていたのだが、日が経つに連れ問題が増えていった。
主にやってくる厄介事は貴族関連なのだが、段々と巧妙化してきていると言うか、定番化してきていると言うかなんとも言いづらいのだが、最近の流行は偽造された書類を使っての物資の横領だ。
と言っても大した偽造ではなく正規の書類の数字を書き換えたり、なんとか頑張って似せて作られた書類を持ってくる程度のもので、正直そんな物で騙される事がないから、勝手に自滅していっているだけなのだが、彼らがここまで頑張って横領をしようとするには訳がある。
国王が支持を表明していないこのゴブリン討伐に参加している貴族達は、第1王子第1王女の率いる貴族達か、貴族派の中でももう後がない奴らかの2択になっている。
中には俺のように個別で来ている者も居るが、もう後がない貴族派の連中は本当に後がなかったりする。
簡単に言ってしまえば俺と同じ様に、既に王国に貴族籍がなかったりこれから無くなる連中で、ここで武勲を立てて新たな家を建てるか、物資の横流し等で少しでも財産を手にして、今後の生活の足しにしないと生きていけないのだ。
そのために手口はどんどん巧妙化していくし、変な後ろ盾を使って圧力をかけてきたりする。
向こうにとっては今後の生活がかかっているので、そうそう諦めることが出来ないのだが、こちらも今後の生活を考えると失敗するわけにはいかなし、何よりそんなバカ共を手助けする気はないから、絶対に不正を許す気はないのだ。
しかし、こうなってくると向こうの打つ手が限られてくるのだが、そっちに関しては俺がどうにかする事ができないから、今の所ちょっと困っていたりもする。
そうやってどうするか考えていたら面倒な相手が来てしまった。
「ここの輸送部隊には横領の容疑がかかっている!我が調べるから全員離れよ!」
随分偉そうにしているのだが平原人にしか見えないし、特に指示書とかも持っていないから間違いなく偽物だ。
俺達を物資から離してる隙に盗む算段なのだろう。
念の為確認してみるか。
「わかりました念の為先に指示書をお願いします」
「我のやることに口出しするな!お前のようなものなどいつでもクビにできるんだぞ!」
「申し訳ございませんが指示書がない方を近づけるわけには参りません。指示書を」
「ええいうるさい!そんな物後でいくらでも渡してやる!早くそこをどけ!」
「はいもう良いや。全員確保!」
周囲にいるグロス達が俺の話の間に準備していたので、一瞬で全員捕獲することが出来た。
その後は本隊に罪状を貼り付けて送っておくだけだ。
残念ながら最近はこういったバカが本当に増えていて、本隊の色々な訓練に使われることになっている。
だんだん俺の打つ手がなくなっていくのはこういった奴らのせいなのだが、一番困るのがさっきのやつの言っていた、俺が横領をしているって話だ。
俺としては本隊から確認に来てもらえれば、書類を使ってちゃんと報告することが出来るのだが、さっきの奴のようにその話を利用してこられると、なかなか面倒なことになってしまう。
現にこういった対応をする俺に対して事情を知らない一部の兵士からは、真実として受け取られてしまっていて、中には俺が貴族だから優遇されるとか、本隊の担当者と出来ているからだとかあらぬ噂に発展してしまっている。
確かに総合ギルドの担当者の中には男もいるだろうが、山人の担当者は全員女だし森人に至っては両性だ、女の俺にどうやって誘惑しろと言うんだか。
仮に総合ギルドの担当の中にいるかも知れない男と通じていても、他の担当者の目をごまかすことは難しいだろうに。
嘘の噂を流してこちらを揺さぶるにしても、もう少し考えて流してもらいたいものだ。
そうこうしているうちにやたらと立派な装備を着た男が、結構な人数の部下を連れてこちらに向かってくる。
またかと思いつつも相手の人数が多いから、グロスに合図して本隊の方へ応援要請に走らせておく。
今度は一体何だというのか?
面倒なことに全員2足歩行の爬虫類っぽいのに騎乗していて、立派な防具を着込んでいる。
その中の隊長らしき男の横に居た、副官っぽい男が一人でこちらに向かってくる。
お付きの人かな?
「前線の兵士たちの間であらぬ噂が流れている。それによる士気の低下が無視できな程になってきた。我々は前線の兵士を代表して調査を行うためにやってきた。やましいところがなければ調査に協力するように」
今回は堂々とした取り調べのようだが、
「こちらにやましい所はございませんが、指示書がなければ協力することは出来ません。こちらは本隊の指示で行っておりますので、他のどのような指示系統からのものも、指示書がなければ従えません」
そもそも勝手に独自の指示系統なんか作ってたら、これだけの大部隊を運営出来ないからね。
「何を!調査に抵抗するというのか!」
「何度でも言いますが、こちらは本隊からの指示以外で協力することは出来ません。ここを調査したいのでしたら本隊から指示書を貰ってきて下さい。それがあれば協力させていただきます」
「その本隊と協力して罪を働いているとの噂だ!それを調査するのに本隊の指示など待っていられるか!えぇいお前たちこいつらを捕まえろ!抵抗するなら切っても構わん!」
あれまそう来たか。
向こうのその言葉にこちらもすぐに臨戦態勢になる。
俺も腰の短剣を抜いて向こうの出方を伺うが、向こうも向こうで騎乗したまま槍を構え始めた。
不味いな。
向こうのほうが装備も揃っているし練度も高そうだ。
おまけに全員騎乗しているから多少の人数差では、あっと言う間に負けてしまいそうだ。
それでも無法を通すわけにはいかないから、ちょっと頑張ってみようかな?
一応中級魔法もある程度使えるから、ササッと壁でも作って何とかしてみよう。
そう思って魔力をコントロールし始めると、
向こうの隊長が副官の横に進んできて、
「待て!お前ら何を考えている!」
そっちから力ずくで来ようとしているのに、こっちに大人しくなれってか?
それは通らないよ。
そっちがやる気ならこっちは抵抗するだけだ。
「全員武器を納めよ!ここには戦いに来たのではない!」
なんて言いながらも向こうはしっかりと準備している。
こっちも荷馬車を盾にして応戦する構えだ。
その時突然隊長が馬から降りて両手を上げた。
「私はエスト王国第1王子エリック・エストだ。戦いの意思はない。お前たちさっさと武器を納めて馬から降りろ!」
んなっ!
第1王子だと!
王子が部下に声をかけると向こうは渋々と言った感じで、武器を納め馬から降り始めたのだが、明らかに殺気立っているし隙あらば襲ってくる構えのままだ。
とは言え向こうが王子であると言うのなら、
「これは失礼致しました殿下。私はスタン子爵家の長女ティ・スタンと申します。この度はどうなされたのですか?このような物々しい状態で輸送部隊に押しかけるとは」
特に向こうが王子である証明をしたわけではないが、とりあえずの敬意を表して俺だけ武器を下ろす。
グロス達はまだ臨戦態勢のままだが、向こうもそうなんだから文句は言えないだろう。
王子を名乗った男も焦ってはいるものの、引き下がる気は無さそうに見えるので、
「今本隊に応援を要請しております。もしそちらが調査を行うというのであれば、それからということでよろしいでしょうか?」
「わかった。ここは大人しく待つとしよう。いいなお前たち!とりあえずそのまま百歩後ろに下がれ」
「ですがっ!」
「私は下がれと言っている」
その王子の言葉でなんとか副官は下がったのだが、随分血の気の多い副官を使っているな。
まぁとりあえず応援を待とう。
話しはそれからだ。




