第61話 波乱3
「え?全滅したのですか?」
あれから数日たって貴族派のゴブリン討伐部隊は、準備していた兵士も物資も集まらなかったため、集合場所から動けなくなっていると言うところまでは聞いていたのだが、それがいきなり全滅したという話になっていて、その変化についていけなくなっていた。
ちなみに今いるのはホルドラン侯爵令嬢のお茶会で、何故か当然のようにボーダー伯爵令嬢が俺の隣りにいる。
少しだけ変化があって、椅子の人が普通にメイドさんになっているし、腕にしがみついても来なくなっている。
まさかとは思うのだが、押しすぎたから一旦引いてみているのか?
俺は攻略対象ではないぞ?
「ええ。なんでも色々と集まりが悪かったけど、当初の予定通りに行動したらしく、お目付け役として一緒にいた貴族の静止を振り切って突撃したそうよ」
しかも突撃したのか?一体何でそんなことになる?
数の上で負けている相手に対して突撃なんかしたら、周囲からよってたかってこられて、あっという間に袋叩きになる。
そうならない為には突破力や他の部分を抑える役目が必要になるのだが、そんな基本的なことさえもわからないまま、ゴブリン討伐とか言っていたのか?
物語の英雄譚みたいなのなら、突撃してそこから一気に形勢逆転みたいなのも有るけど、それはあくまで物語であって、そんなの100回やって1回成功するかどうかの賭けのようなもの。
まして相手はゴブリンだ。
突破されたから戦意が下がってとか恐怖してとかは一切ない。
もし指揮個体をそれで倒せたとしても、その下の指揮個体が率いられるだけのゴブリンを統率して、そこからさらに動きが変わるから、最悪の悪手でしか無い。
「幸いにも近くに駐屯していた王国騎士団5千が、周囲を包囲してゴブリンを殲滅したそうよ」
うぁーうぁーうぁー
これってあれだな。
捨て駒として突撃させられたんじゃないかな。
突撃した貴族派にゴブリンが集中しているすきに、気づかれないように周囲を包囲して、一気に殲滅って作戦みたいに思える。
ゴブリンの殲滅のついでに生き残った貴族派も…
しかしここからなんだと思う。
おそらく貴族派の処罰の前にあらかじめ、武力になりそうな奴らを集めて、まとめて片付けてしまったのだろう…
「ティさんもこれから大変かもしれないけど、私達で力になれることが有ったら、遠慮せずに言ってくださいね」
そうだ起きてしまった事を考えていても意味はない。
これから俺の身の振り方を間違えないようにしなくては。
「ありがとうございますホルドラン侯爵令嬢様。少し考えたいことがありますので今日はこれで失礼させていただきます」
「そう。また近いうちにお茶会をするから、その時にまた話を聞かせてちょうだい」
挨拶もそこそこに俺は寮へ戻った。
まずマーブル先生の所で今後の確認をしないといけないし、グロス達にもこの事を知らせておかなくてはいけない。
それにこのまま寮にいたら、面倒なことに巻き込まれる未来しか見えないから。
そう思って急いで寮に帰ってくると、
「ティさん貴方にお客様ですよ」
と寮監さんが声をかけてきた。
くっそもう来たのか。
「申し訳ございません家の事で急用ができましたので、急ぎ家の方に戻らねばならなくなりました。お客様には寮監さんの方で断っていただく訳にはいかないでしょうか?」
「そうなの?大変ね。わかりました、お客様にはこちらでお話しておきますね」
部屋に戻るとあらかじめ用意していたカバンだけを持ってすぐに寮を出る。
「あティさんちょっとお待ちになって。お客様はどうしても渡したいものが有ると。それさえ渡せれば今日は帰るとおっしゃっているの」
おっと渡したいものと?寮監さんにあまり迷惑をかけれないから、とりあえず受け取るだけ受け取って終わらせよう。
寮監さんについていき応接室に入ると、そこにいたのは白いローブに金色のタスキのような物をかけた、司祭のような格好をした男だった。
「高貴な方よりの下賜の品である。本来ならこのような場で渡されるような物ではないが今は時間がないのでな。ありがたく頂戴するように」
変な言い回しをしながら下品な装飾の箱を渡してきた。
ここで揉めても時間がもったいないので、軽くひざまずくような姿勢で受け取った。
それで用が済んだのか特に言葉もなく去っていったのだが、何だったんだ今のは?全く訳がわからない。
寮監さんには念の為部屋にいてもらったので、今起きたことの説明を求めるように見ると、
「ごめんなさいね私にもわからないの。ただ今の方は神光聖声教会の司祭の方で、無下にする訳にも行かなかったの。とりあえず荷物の中身だけは確認しておいたらどうかしら?今色々あるから念の為にね。私も証人にはなれると思うから」
神光聖声教会の司祭?それが一体何で?
まぁ禁制品とか入れられていて後で問題になると困るから、寮監さんと一緒に箱を開けることにした。
やけに厳重に封をされていて面倒ではあったが、なんとか箱を開けてみるとそこにあったのは、
「ひも?と手紙ですね?」
「ええひもね?」
何かやたらと豪華に装飾されたひも?と、手紙が入っているだけだった。
訝しみながらも手紙を開けてみると、酷く貴族的な言い回しと装飾で、ゴテゴテとしたと言うか最早元の意味を読み取るのが難しい文章で、意訳すると、
ティ・スタン子爵へ
そなたはこの度選出された勇者様の家来に任命されました。
よってここに伝説の装備を入れておきましたから
吉日に行われる出征パレードには
その装備を付けて勇者様の横に並び
勇者様と共に悪を滅する旅に出て下さい
追伸:装備は素肌に付けること
はぁ?勇者?装備?
寮監さんと何度も手紙を確認したのだが、読み解いた内容に間違いはないものの、意味が全く理解できないものだった。




