第6話 子爵家2
子爵家に来て3ヶ月が過ぎた。
最近なんとか体も慣れてきて、走り込みと身体強化の訓練をしても、倒れるほどではなくなってきた。
よく考えてみたら、生まれてからずっといたあの施設では、殆ど運動というものをしてこなかった。
本当は徐々に慣らして貰いたかったが、当主の指示と言われては、仕方なかったのだろう。
少しずつグロス以外の兵士とも話すようになり、色々なことを知ることが出来たのだが、また暗い話ばかりが聞こえてきた。
まずこの子爵家は、エルダー伯爵家の傘下にあって、街道の警備を仕事としている。
基本的にこの国の貴族は、いわゆる官僚の役目をしていて、子爵以下は中間管理職みたいなものらしい。
なので街道警備の仕事自体は、エルダー伯爵が国王様から指示を受けていて、エルダー伯爵がいくつかの貴族に分担させて、街道警備をさせているようだ。
言い換えるならば元の世界の、元請けと下請けみたいな感じだろうか?
んで、俺が引き取られたスタン子爵家だが、本来100人ほどの兵士を抱えていたのだが、今この兵舎に居るのは30人ほどしかいない。
ここまで減ったのは去年のことらしい。
街道に出る大規模な盗賊退治のために、当時の当主、俺から見て祖父と、次期当主とされていた現当主の兄が、50人ほど従えて向かったのだが、どうなっているのか全滅した。
その御蔭で、急遽現当主が相続したのだが、元々遊び歩くだけで、ろくに訓練もしていない現当主には、街道警備の指揮を執ることが出来ず、盗賊たちは警備兵を襲い、30人まで減ってしまった。
警備の失敗と兵士の減少、それに、現当主がエルダー伯爵の敵対派閥と仲が良かったため、急いで跡継ぎを育てないと、爵位も仕事も取り上げられることになったそうだ。
まぁ要するに、仕事ができないやつに、身分を与えていても仕方ないから、跡継ぎを作ら無いと首だよって言われて、慌てて遠縁の親戚から俺を迎えた事にしたと。
それで、孤児院でもちらっと言っていたけど、子供が出来たら俺は用済みになるから、廃嫡するつもりらしい。
本当の遠縁の親戚を連れてきたら、乗っ取られかねないし、用済みになったから廃嫡ってわけにも行かないから、孤児院から良さそうのを買ってきたそうだ。
まぁ没落間際の貴族に興味もないし、街道警備なんて仕事で、命を失うなんてゴメンだから、廃嫡されるのはかまわないけど、なんかちょっとむかつく話だな。
せいぜい利用させてもらって、一人でも生きていけるようになったら、早めに縁を切ったほうがいいかも知れない。出来ればそれまで子供が出来ないことを、祈るしか無いのかな?
いや、俺に出来るのは、とにかく力を付けることだ。
他人の不幸を祈ったっ所で、どうしようもない。
そう考え直し、ひたすら走り込みと身体強化の訓練を頑張っていく。
そうしていく中で段々と、自分が強くなっていくことが実感できたし、他の兵士からも認められたのか、結構親しく話せるようになってきた。
そんな時、現当主バルサー・スタン子爵が様子見に来た。
「おいそこの。少しは使えるようになったんだろうな?わがスタン家には、弱いやつはいらないぞ」
朝っぱらから酒でも飲んでいたのだろうか?赤ら顔で足元もフラフラのまま、訓練場に木刀を持ってやってきた。
「バルサー様。その木刀でどうしようというのです?」
「ああん。こいつが真面目にやっているか、確かめに来たに決まってるだろう?さっさと木刀を持て。俺が直々に見てやろう」
グロスや他の兵士は、俺をかばおうとしているが、酔っぱらいに言った所で意味がない。
「グロスさん。大丈夫です。俺はやりますよ」
「ふん。生意気な奴め。俺から一本でも取れたら認めてやる」
俺用の木刀はまだ無いから、普段他の兵士が鍛錬の時に使っている、長い木刀を借りて、当主の前に進んだ。正直、どんなに頑張った所で、5歳児が大人に勝てるわけもなく、おまけに俺の身長くらい有る木刀を使うのだ。
結果はやる前からわかっていたが、なるべく怪我をしないように、頑張るだけだ。
訓練場の中央で向かい合って、グロスが合図を出すのを待つ。
俺は木刀を短めに持っても、支えているだけでも精一杯なのだから、合図とともにダッシュしてとかは出来ない。だから待つだけだ。
「はじめ」
グロスの合図と共に、フラフラの足取りでゆっくりとこっちに来る。
ニヤニヤしながら、振りかぶって叩きつけるような打ち下ろし。
反射的に木刀を横にして受けたが、ガツンといった感じの音と共に俺の意識は飛んだ。
あとから聞いたのだが、やはり受け止めきれずに、そのまま殴られたようだ。