第45話 襲来1
翌日は普通に寮を出て、教室に入ったのだが、「本当に来たよ」「大丈夫か?」なんて声が聞こえる。
まぁクラスの他の奴らからしたら、現在俺は疫病神みたいなもので、おそらくはまた王子が俺を探しに来るだろうから、なるべく関わりたくないのだろう。
一応一晩王子対策を考えてきたのだが、今の所は必要なさそうだ。
朝から来るように言ってきた割には、こちらに何もしてこないのはなんだろう?
先生方が動いてくれたのだろうか?
でも、それなら俺になにか、言ってきても良さそうものなのだが?
お昼になっても王子は現れず、普通に学食でレレとハンナと食事をしていたのだが、
「王子が今日来ないんだけど、あんたなんか知らない?てか何であんたは来てんのよ」
いきなり変なピンク頭が話しかけてきた。
噂に聞いたのだがこのピンク頭は、貴族派の男爵家の出なのだが、これは一体どういうことなのだろう?
俺は仮にも子爵家の令嬢なんだが?何でこいつは俺に話しかけてきた?
取り敢えず、貴族の対応をしておく。
「ちょっと、聞いてんでしょ。なんとか言いなさいよ。あんたねそんな態度だと、どうなるかわかってんの」
逆に聞きたくなるよ、俺が誰だか知ってんのかと、しかし、何だこれ?もしかして学院のルールを知らないのか?そもそも貴族の教育を受けているのか?
これはあれだ、前世のこういった話に良く有った、ダメな転生者ってやつなのだろうか?
しかも前世で言う、不良とか呼ばれていた人種にも見えるぞ。
ちらっと見てみたが、相変わらずリボンで改造した制服を着ているが、先生達は注意しないのだろうか?
それに髪もまとめていないから、クセ毛が爆発していて、この世界基準で見ると、ただのだらしないやつに見える。
こんなのでもヒロインになりたいのか?
俺なら王子の婚約者になんか、絶対になりたくないのだが、もしかして俺が元男だからそう感じるのだろうか?
そうして色々考えている間に、レレとハンナも食事を終えたので、さっさとこの場を後にすることにした。
「ちょっと待ちなさいよ!あたしが聞いてんでしょ!」
何か大声を上げながら、俺の前に立って手で押してこようとしたから、軽くかわして足をかけたら、椅子に突っ込んでしまった。
通りすがりにスカートがめくれていたから、靴の先で直してあげた。
手で直さなかったのは、学食のトレイを持っていたからだ。
俺って優しいな。
どこか打って痛いのか、うーとか唸って動かないけど、そのままにしておくことにしよう。
「あれなんだったんだろうね?」
「変な子だね」
レレとハンナも、不思議なものを見たような反応で、周りも笑い出すでも無く、ただ呆然と眺めているだけだった。
しかし、王子来てないのか。
どうしたんだろう?
「ティ、殿下来てなかったみたいだね。先生がなにかしてくれたのかな?」
「どうなんだろうね?先生方がなにか手を打ったなら、私達になにか言ってくると思うのだけど、それがないってことは、別の理由かな?もしかしたら、二人のおかげだったのかも知れないね」
なんて話しながら、教室に帰った。
結局今日は王子が来ることもなく、先生方からも、先輩方からも何も言われなかった。
変だな?いくらなんでも動きがなさすぎる。
最低でも王子が来ると思ったんだけど、これが前世で言う、嵐の前の静けさなのか?
何か自分の知らない所で、恐ろしい企みが進行していたりするのだろうか?
なんとも言えない不気味な感じに、俺も流石に嫌な感じがしていたのだが、
「おい貴様!なんで朝来なかった!王子である俺様は、さっきまで寮で待っていたんだぞ!」
夜になり、部屋で柔軟をしながら、魔力コントロールをしていると、部屋の外が騒がしくなって、すごい勢いでドアが叩かれたので出てみたら、そこに王子が居た。
えと?ここは女子寮で、男子禁制なのだが?
「おい!なんとか言え!俺を待たせたんだ、まともな理由がなかったら、どうなるかわかっているんだろうな!」
これは予想外だ。
まさか部屋まで来るとは思はないのはもちろん、さっきまで寮で待っていたとか…
ヤバイ笑ってしまいそうだ。
こんな時はなんだっけ、あれだ、整数を数えるんだ!
1・2・3・4・5・6・7・8・9って、ちがーう!
それじゃただ数字数えているだけじゃないか!
俺は内心吹き出しそうになるのをこらえ、顔を伏せていたのだが、
「あら?これは殿下、一体こんな所で何をしているのですか?」
この声は、ホルドラン公爵令嬢!
思わぬ助けが来てくれたようだ、ここはホルドラン公爵令嬢に任せて、俺は貝になっているとしよう。
「こいつが護衛の仕事をサボって、俺の所に来なかったから、問いただしに来た!お前には関係ないことだ、引っ込んでいろ!」
「そうはいきませんわ殿下、お忘れのようなので言わせていただきますが、ここは女子寮ですよ、どうやって入ったのかは知りませんが、殿下が入って良いところでは有りませんよ」
「俺は王族だぞ!どこに行こうとも勝手だ!誰に咎められる事でもない!」
「いいえ。王族だからこそ守らねばならないことがあります。王子が女子寮に侵入したなどと、世間の噂にでもなってご覧なさい、どうなるかは言わなくても分かるでしょうに」
「っく、だがこいつはどうする!王子である俺の命令に従わなかったのだぞ!」
「わかりました、では私が話を聞いておきましょう。ティさん、明日迎えを出しますから、私のところに来て、事情を話して頂けますか?」
「何でお前が!俺の」
「おだまり下さいますか、殿下。婚約者でもない女性の部屋に、夜分男子禁制を破ってまで来ているのですよ、この上、この者を呼び付けて話すなど、周りがどう見るかわかっていらっしゃいますか?」
「くっそ、あーわかったよ。では明後日にでも俺に報告に来るんだろうな。必ずだぞ」
「ええ。承知いたしましたわ殿下、では明後日に」
取り敢えずなんとかなったのか、王子はあの変な歩き方で帰っていった。
「ホルドラン公爵令嬢様、この度はご迷惑をおかけいたしまして」
「良いのよ別に、こちらにも色々と事情があるので、今回のことは丁度良かったもの。それに事情は聞いているわ、その辺の事も明日話しましょ。今日はもう遅いから」
「わかりました。ありがとうございました」
こうしてなんとかなったのだが、ホルドラン公爵令嬢には、随分迷惑をかけてしまったし、なにかお詫びが出来ればよいのだが。
明日その辺の話も聞けるのかな?