第4話 新展開
その日恐れていたことが来てしまった。
いつものように朝食を食べ、当番の仕事に向かおうとした所、大人に呼び止められて、別室へ連れて行かれてしまった。
大人に洗浄の魔法をかけられながら、頭の中はもうパニック状態で、ヤバイヤバイヤバイどうしたら…、そんなことしか考えられなくなっていたが、別室で着替えるように言われた服を見て、少し落ち着くことが出来た。
今まで俺が着ていたような服とは違い、ちょっとおしゃれな感じのワンピースに、白い下着までセットで置いてある。
しかもかなり新しい感じだ。
今まで俺が着せられていたのは、茶色っぽい生成りの幼稚園児が着るようなスモックに、外側をひもで縛る短パンのようなもので、下着もなかったのに比べて、明らかに違う物だった。
これはあれか?最後におめかしでも?いやいや、最後にしても、こんな良い服を着させるなんてもったいない事するか?
なんて事を考えてじっとしていると、大人が着方を丁寧に教えてくれた。
言われたとおりに着替えながら、今凄いやばかったのに気付いた。
もし、なにも言われないうちに、さっさと着替えていたら、赤ん坊の頃からここに居る俺が、知るはずのない綺麗な服を着れる事から、転生者であることがバレるところだったのだ。
慌てて大人の方を見ると、呆れているような顔をしていたから、もしかしたら本当に転生者かを見ていたのかも知れない。
内心冷や汗ものだが、なんとか運良く回避できた気がする。
でも事態は好転したわけではない。
相変わらず状況が読めないし、今はただただ言われたとおりに行動するしか無い。
変に先読みした行動をすれば、事態を悪化させかねないから、ここはとにかく言われた事だけをするべきだ。
正直前世が男だった俺からすると、女物の服を着させられるのは、違和感しか無いが、現状の俺は女なのだから、諦めるしか無いのはわかっている。
なんとか言うとおりに着替えたら、更に別室へ連れて行かれた。
そこはここでは見ない、綺麗な応接間の様な部屋だった。
ここで待つように言われた後、大人は部屋を出ていったので、部屋の調度品を見ながら、頭の中を整理することにした。
状況から考えて、まぁ間違いなくお迎えがきたのだろう。
それも、着させられた服から判断して、それなりのお金がある相手のようだ。
だがおかしくないか?
それなりにお金があるやつが、五歳児を引き取りに来る状況とは?
めいいっぱい楽観的に考えて、お金持ちの養子。
普通に考えて、お金持ちの雑用要員?
最悪なら、お金持ちの変態趣味。
正直言ってこの世界がどんなところか、いまいちわからないが、お金持ちが得体の知れない孤児を養子にするのか?五歳児を雑用要員にってのもおかしい。俺を引き取るよりもっと年上を選ぶだろう。って事はだ。
…変態趣味か…
おいおい勘弁してくれよ。女の体になって男を愛せるのか?とか考えてたのが、変態趣味に強制的にやられるのかよ。そんなの無理だ!絶対無理だ!!
百歩譲ってイケメンなら?いや無理だ!
ましてや脂ぎったおっさんになんて、想像するだけで虫酸が走る!
よし!
取り敢えずそいつについて行って、適当な所で逃げ出そう。
もはや五歳児が路上生活出来るのか?とか考えている暇はない!
でも、路上生活でも危険はいっぱいだから、せめて十歳位までは我慢するしか無いのか?
命の危険か、貞操の危機か…
いや待てよ!変態趣味が過激な方だったら、命の危険まで有るぞ!
あーうーだー
なんてやっていたら、ついにその時が来た。
ドアがノックされて施設の大人が先に入ってきた。
続いて、おそらくはこいつが俺を買いに来たやつであろう男。見た目は若く中肉中背だが腹は出ている。顔は赤っぽく目の下がクマで真っ黒。きれいな服装だが、どこか緩んでいると言うかたるんでいると言うか…
酒飲みのクズだ…
いや酒飲みがクズなのではなく、酒に飲まれてクズったやつにしか見えない。
「うん?女じゃないか。跡取りにするんだからと言ったろ。違うのはないのか?」
あーそうきたか。
それから話を聞いているとだいたい把握できた。
つまりこの男は貴族で、何らかの事情で急遽跡取りが必要になり、ここの孤児を引き取りに来た。
条件は、貴族として十分な魔力持ちであることと、普通程度の見た目、それにある程度真面目なやつだったらしい。
孤児院側の主張としては、貴族の当主は別に男でなくてはならない事もないし、俺は現在の孤児院で一番魔力が高いらしく、十分貴族として通用するし、何より男が良いとは言ってないだろうって感じか。
おそらく、孤児院側は魔力とか言ってはいるけど、実際は問題児の俺を高く売りたかった、てのが真相かな?
今気づいたが、男は執事風なやつも連れてきていて、そいつが「旦那様」なんて言いつつ耳元でなにか話して、最後に「一時しのぎですから」なんて言った所で納得したのか、しぶしぶ俺を引き取ることにしたらしい。
まぁ俺に選択権が有るわけではないが、これなら変態趣味よりかは、まだマシな生活ができそうだと考え、自分を納得させていた。
その後馬車に乗せられ、執事風の方から色々と説明を受けていたが、男の方はこちらも見ずにふてくされているようだった。
執事風が言うには、ふてくされているおっさんは、スタン子爵と言うらしい。
これから俺は武門の家系であるスタン子爵の養子として、スタン子爵家に恥じないように教育されるから、真面目に励むように言われた。
部屋はスタン子爵家の兵舎に有るから、普段はそちらで生活する様に言われた。
なんだか色々と気になるけど、今日から俺は子爵家の跡取りになるらしい。
ハードモードな異世界転生から、一気に成り上がるストーリーがこれから始まるのだった。