表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/93

第3話 孤児院2

5歳になった。


勉強により少しはこの世界のことを知ることが出来たが、相変わらず外の世界の状況がわからない。このままここに居るのは不味い気もするが、4〜5歳児の俺が、外の世界でやっていけるとも思えないから、最低でも12歳位まではここにいたいところだ。


だいたいそのくらいになると、お迎えがきてしまうようなので、なにか良い方法がないか考えている。


一応手段の一つとして、魔力のコントロールは頑張っているし、最近になって教わった、身体強化もかなり使えるようになってきた。とは言え元が5歳児だ。どんなに強化した所で、大人にはかなう訳無いし、何より大人も身体強化するのだから、アドバンテージとは言えない。

それにこの身体強化なのだが、魔力も結構使う上に、無理な強化をしてしまうと、体が壊れてしまうようで、他の子が死にかけていたから、多用するのは難しい。

ちなみに魔力切れの症状もわかった。前に魔力がなくなれば死ぬことは言ったと思うが、半分くらい使った時点で気分が悪くなり、それ以上使うと冷や汗・悪寒・目眩・吐き気といった症状が出始める。身体強化を教わった時に、調子に乗って使っていたらそうなったから、間違いない。

恐ろしいのが、魔力の半分を使った時点というのが、こういった症状が出た時ということだ。デジタル的に数字化されているものでもないし、現在の残量がどのくらい有るのかもわからないから、本当に何度もそうなって、感覚で覚えるしか無いのが辛いところだ。



生活に変化があった。


と言っても好転したわけではない。逆だ。


前から気づいてはいたが、俺が被害に遭うことがなかったため、関わらないことで難を逃れていたが、ついに俺の番になったらしい。


こういった場所特有なのだろう。ご飯の強奪事件だ。


ここに居る子供たちは殆どがうつろな目をしているが、中にはずる賢いと言うか、周囲を睨みつけるようにして見ている子供が何人か居る。そういった奴は大人のすきを見て、弱い子供からご飯を強奪する。

いつもならそういった奴が近づかないように、周囲に気を配っていたのだが、身体強化の使いすぎでちょっとボーッとしていたのだろう。気付いたら俺のご飯がなくなっていた。


そもそも配られるご飯は少ない。


いつも同じメニューで、木皿に入った塩味しかしないし具も少ないスープと、パンと呼ばれているくせにふんわり要素の一切ない、元の世界の栄養補助食品から、味を抜いた感じの物体、としか言えないものがこぶし一個分有るだけだ。


奪われたのは、そのパンと呼んで良いのかわからない物体で、急いで周りを見ると、後ろの背の高い子供が二つ持っていた。


こういった事は一回やられてしまうと、他のやつも同じ様に奪っていく。


だから俺は行動しなければならない。


周囲に俺に手を出してはいけないと思わせるためにも、徹底的な報復をする必要がある。


おれは取り敢えず木皿のスープを飲み干し、舐めてきれいにした後、木皿を持って立ち上がる。


基本食事時は、勝手に移動してはいけないことになっているが、そんな事は今は関係ない。


ゆったりと静かに、なにもないように振る舞いながら、盗人の後ろに近づいて、身体強化を使った上で椅子を引き抜く。


かなり強引に引き抜いたためすごい音がしたが、気にしている暇はない。


転んでまだ動きが取れないうちに、木皿を両手で持って頭に狙いをつけ、打つべし!打つべし!!打つべし!!!


使い方は間違っているが、とにかく打ちまくる。


途中で握り方が悪かったのか、木皿が飛んでいってしまったので、先程引き抜きそこらに置いておいた椅子を持ち上げ、上から下に向かって打つべし!!!!


もう一振りと思ったが、大人に椅子を奪われてしまった。


残念ながら俺の復讐はこれまでのようだが、十分に俺の恐ろしさが伝わったのだろう。


これからは二度と俺の食事が奪われる事はないだろう。


引き換えに、大人からすごく怒られてしまったが、それくらいたいしたことではない。


そう思っていたのだが、夜になり部屋に入れられた時に他の子供から、


「凄いね。私にはあんな事できないよ」


なんてことを口々に言われたので、


「黙って奪われてたら、次も奪われるだけだ」


と返したのだが、これがまずかった。


どう納得したのか、その日から、今まで奪われるだけだった子供が、反撃に出るようになり、奪う方も奪うだけでなく、暴力に出るようになった。


更にそれはエスカレートしていき、奪われる子供が集団で報復に出たり、見かねた他の子供までもが参加したりして、食事時は殴り合いの場になってしまった。

すぐに大人が間に入るのだが、奪うほうがやめないから、毎回血を見る騒ぎだ。


そんな状態がいつまでも続くかと思われたが、大人たちも自体の収集に乗り出し、奪う側の子供が隔離されることで終わりを告げた。

正直そいつらがどうなったのかはわからないが、二度と姿を見ることはなくなったし、食事時も静かになったので良かったと思う反面、大人たちは俺が騒動の原因だと見ているようで、常に見張られているような視線を感じる様になった。


まさかこんな事態になるなんて思っていなかったし、出来れば目立たず平穏に暮らしたかったのだが、こうも見張られていては緊張するし、うっかり下手な行動も出来ないから、疲れてしまう。


最悪どこかのタイミングで、逃げることも考えていただけに、これはかなり厳しい。


しかも、俺の側に事態を改善するような手段が、全くと言ってよいほどない。


とにかく、問題を起こさず、静かにしているしか無いのが、辛いところだ。


下手をすると、お迎えが来てしまうかも知れない。


俺は平静をよそおいつつ、お迎え先はどうなっているのだろうとか、お迎え先への移動中に逃げられないだろうかとか、この歳で路上生活は無理ではないかとか、色々考えつつその日を待つしか無かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ