第25話 剣術大会3
帰る途中リサさんに、褒められた。
名乗らずに話しかけてくる者への対応は、やはりあれで良いらしい。しかも相手は男爵家なので、本来なら話しかけてくるほうがおかしく、そういった者に下手に対応すると、他の貴族家には敬遠されてしまうらしい。
それでも、誹謗中傷に対して何もしないままで居ると、それはそれで侮られてしまうため、あそこはしっかりと対応する必要があったが、変に感情的に対応してしまうと、それはそれで問題になってしまうそうだ。
今回の場合は、部下への誹謗中傷に対して、しっかりと対応できたため、他の貴族家からの目は、かなり良くなったらしい。
リサさんにはお礼を言って、全てはリサさんのおかげですと言ったら、
「いけませんよ。あまり自分を落とすのも、貴族社会では好まれません。それに借りているとは言えメイドの私にそこまで言うのは、色々と問題になります」
なんて、ちょっと叱られてしまったりもしたが。
宿に帰ってから聞いたのだが、あのバーカー男爵家というのは、貴族派の中でもよくいる、仕事を貰っていない貴族らしい。
本当は周りの貴族からは敬遠されていて、こういった場に出てこれる家ではないのだそうだ。
今回居るのはなぜかはわからないが、もしかしたら第2王子関係で押し込まれたのかも?とのこと。
よくわからないが第2王子は貴族派に近く、結構無茶苦茶しているって話だが、細かいことは今は置いて、その第2王子が貴族派を押し上げるために、最近社交の場に貴族派を押し込んでいるらしい。
そもそも王族なのに貴族派と親しいって、本当に意味がわからないのだが…
まぁそこはあんまり考えても仕方ないし、男爵ならもし大会で当たっても、倒して良い相手だから、向こうから更に絡んでこなければ、特に問題はないかな?
それよりも気になるのが、俺の実力についてだ。
結構頑張って訓練だとか、討伐の遠征に行ったりしているが、同年代ではどのくらいなのだろう?いつも兵士と訓練していて、なかなか勝つことはないので、よくわからない。
今日気づいたのは、俺は年齢に対して身長が低めだってことだ。
前からマーブル先生からも言われていたが、おそらくは孤児院時代が原因で、発育が遅れているのではないかと思う。
まぁ身長の高さが、強さに直結するわけでもないし、別に気にしてないけどね。
気にしてないけどね。
翌日
今日は朝から闘技場に向かう。
通常時この闘技場はセリニャン市民のみならず、王都や周辺から観戦客がやってくる人気の闘技場で、言ってしまえば公営ギャンブル場として運営されている。
だけどここ数日は、貴族以外の立ち入りが禁止され、貴族の子供の剣術大会に使用されている。
さてと、いつものように闘技場の受付に向かうと、受付の方が
「既に対戦順が決まっていますので、待合室の対戦表を御覧ください」
なんて言ってきた。
くじ引きとかで決めないのは、色々な面に配慮した結果だが、案内されて対戦表を見てみると、配慮された結果がよく分かる。
俺の出番は第1回戦最初になっていて、対戦相手はバーカ男爵令息になっていた。
「これは見事だね。さっさと白黒つけなさいって事かな?」
「そうですね。バーカー男爵令息には、あまり長居してほしくないのかも知れません」
なんてリサさんと話していると、
「この俺様が下賤なやつと戦うだと!剣が穢れしまうではないか!もっとマシな奴と戦わせろ!」
なんて声が聞こえる。
まぁ関わってもろくな事がないので、早々に準備に移るのだが、念の為対戦表を目で追っていくと、3回勝ったらストラディ侯爵令息と当たることがわかった。
控室に移動しながら、
「3回勝ったら、今回は終わりそうだね」
「そうですね。途中で当たる子も、噂で聞くほどの子は居ませんし、ティ様ならそこまで行くかと思います」
「うーんわざと負けるってどうやれば良いんだろう?まぁその時に考えれば良いかな?もしかしたら途中で負けちゃうかも知れないしね」
なんて、リサさんと相談していたら、
「若より強いのはいないから、途中では負けない」
「ありがとうボサ。負けようとは思わないけど、ボサも応援してくれているし、頑張るよ」
ボサは普段はあまり話さないけど、こういったときには話してくれる。
今もウンウンとうなずいているし、応援してくれているから、この期待には答えないとね。
控室で準備を整えたら、闘技場の中央ステージに向かう。
準備と言っても、胸当てや篭手とかを付けて、木刀を持つだけだけど、ちょっと気持ちが切り替わる気がする。
ちなみに今俺が使っている木刀は、だいたい40cm程の長さで、身長に比べてもかなり短いサイズを使っている。
これは俺の戦闘スタイルが関わっていて、俺は基本的に魔法を使って戦うので、右手に短剣を持ち左手で魔法と分けているから、短めのサイズを使っている。ちなみにグロスから貰った?ナイフは、サブウェポンと他の色々なことに使う。
さてそうこうしているうちに、司会役の人が進行してベスター伯爵が開会を宣言した。
「では行ってきます」
ボサとリサさんに挨拶してから、ステージに向かうと、
「ふん、逃げずに来たようだな!今なら謝れば許してやらん事もないぞ!」
なんて、馬鹿が言っているが無視だ。
審判役の人に禁止事項の説明を受けながらその時を待つ。
「それでは第1回戦第1試合を行います。両者構えて、初め!」
合図と同時に馬鹿がダッシュして向かってくる。
そのダッシュは大して速くもなく、そして、切れもないただ走っているだけだ。
なにか「おおおおお」とか言っているが、疲れないのだろうか?
まぁでも、向こうから来てくれるなら、俺はただ待っていれば良い。
馬鹿の動きを見ていると、確かにボサの言っていたように、これでは負けようが無いのかも知れない。
おそらくはこいつは、子供達の中でも最弱なのだろう。
さっさと勝って終わらせよう。
なんて考えていたら、やっと目の前に来た。
「死ねー!」
いやいや、審判さんが禁止事項で言ってただろ。
致命的な怪我を負わせてはいけませんって、それに、貴族としての振る舞いを心がけるようにって言ってたよ、その発言はいかがなものだろう?
せっかく走ってきたのに、目の前で止まって木刀を振り上げてきた。
これが振り下ろされるのを待つのも面倒なので、相手の利き手の外側を抜けつつ、防具の上から胴体を打つ。
スパーン
いい音がなった。
「ぐぇ」
遅れて何か声がしたと思ったら、倒れてピクピクしている。
あれ?俺なんかやっちゃいました?
なんて心のなかでとぼけつつ、向き直って木刀を構える。
「勝負有り!勝者スタン子爵家令息、ティ・スタン!」
おおーという声に答えて手を上げて、ボサとリサさんに手をふる。
さてとまずは1勝だ、念の為控室に戻らないで、観客席で他の子供の試合を見ていくことにしよう。