第18話 ゴブリン討伐3
朝焼けが平原に生える草を、真っ赤に燃えているかのように見せている中、俺たちはゆっくりと近づいていく。
おそらく今頃反対側で総合ギルドの連中も、近づいているはずだ。
ここに来るまで既に3匹の見張りのゴブリンが、兵士たちに弓矢で殺されている。
通り過ぎる時に確認したが、緑色の肌で小さな角の生えた、不気味な怪物がゴブリンだった。
ここに来るまでに何度も聞いた話、こいつらは背も低く力も弱く、それに臆病ですぐ逃げる。その反面、集団になると死を恐れず向かってきて、乱戦になると手がつけられない相手だそうだが。
…
いや、俺よりでかくないか?
考えてみたらわかるのだが、背が低いってのは、大人から見たらであって、8歳児の俺から見たら、同じかそれ以上になってしまう。
乱戦どころか、正面から当たったら、力負けしてしまうかも知れない。
「若。そろそろです。私達から離れず、なるべく無茶な行動は控えてくださいね」
俺の周りにはボサと、魔法が使える奴らが集まっていて、ボサは俺の護衛をするために居る。
さて始めるとしよう。初級魔法火の玉は、初級魔法の中では簡単な部類に入る。
だからこそこんな大事な場面で失敗はできない。
大丈夫。何度も練習した。俺は結構得意なんだ。
一つ深呼吸をして。目を閉じる。
まずイメージだ。
大きな火を頭の中で作り出し。
それを圧縮して玉にする。
それを右手に移していき。
右手に魔力を込める。
右手が暖かくなってきた。
目を開けて周りを見ると、他の兵士も準備ができているようだ。
お互いに頷きあい、一斉にそれを投げる。
ヒュ~ボボボボン
窪地のそこらに花火のように火が広がり、ゴブリン達が慌てているのが見える。
反対側からも火の玉が投げられ始め、俺たちも次々に投げていく。
ギャーギャー騒ぐゴブリン。
窪地の中は雨よけに作ったのだろうか、草の屋根がたくさん見えるが、俺たちが投げている火の玉が引火したのか、次々と燃えていく。
凄まじい光景だ。ボーボーと音を立てて燃える火が、時折渦を巻いて天に昇る。
混乱したゴブリン達は、うずくまる者・走り回る者・辺り構わず棒を振り回す者と、こちらに気付いてすらいないようだった。
なんとか逃げ延びようと、窪地を登ってくる者も何匹かいたが、兵士やギルド員達が横に広がって、矢・槍・剣で倒していく。
そんな中一匹のゴブリンと目があった。
そいつはなにか叫ぶと、周りの数匹と共に、俺めがけて突進してきた。
殺意!俺を、俺だけを殺しにこいつは向かってくる。
ボサが俺の前に出て、かばってくれているが、そいつは仲間をボサに向かって蹴飛ばし、そのすきに俺に向かってきた。
大丈夫。これも何度も練習した。
素手のゴブリンが俺めがけて跳躍。
一歩だけ下がって間合いを外し、腰のナイフを抜いて突き出す。
届かなかった跳躍から、更に踏み込もうとしたゴブリンの頭が、ちょうど突き出した先に来た。
ガッという手応えを感じるが、すぐさま引き抜く。
抜いた動きの反動で後ろにのけぞりながら、蹴りを放ちつつ下がる。
ほんの数秒の事だったろう。気付いたらゴブリンは動かなくなっていた。
これが時間がゆっくりになったという感覚なのだろうか?
今俺はゴブリンの動きをしっかりと見ていた。
それに合わせて、しっかりと動けたと思う。
「若!大丈夫ですか!まだ戦闘中ですしっかりして下さい!!」
ボサが目の前のゴブリンを片付け、こちらを一瞬だけ見た後、また前を警戒し始めた。
そうだ。まだ戦闘中なんだ。考えるのは後でも出来る。今は目の前の事に集中だ。
その後も数匹こっちに向かってきたが、ボサがブロックして、俺が横から倒す感じで対処した。火が落ち着いた頃には、ゴブリンは全滅していた。
初めての実戦、初めての殺し。
この世界では当たり前の事だが、前世の記憶が有るからか、なんか気分が優れない…
なんてことはなかった。
あの後、荷馬車に来てもらって昼食を食べたり、ゴブリンを窪地の中央に集めて、もう一度火を放って焼いたり、燃え残った中から豪華そうな箱を見つけたり、ナメクジがゴブリンをゴリゴリと食べたりと、なんだか色々なことがあったが、流石に8歳児には負担が大きかったらしく、夕方には眠ってしまった。
眠る前に、
「一応勝利した時用に酒も持ってきているから、軽く祝杯でも上げてくれ」
なんて言えた辺り、俺はこの世界に染まってきているのだろうか?