第17話 ゴブリン討伐2
野営地に一泊して朝になった。
念の為、ギルドとスタン家の両方から人を出して、偵察に出てもらう。
途中でなにも問題がなければ、今日の夕方には近くの野営地に付く予定だが、ゴブリン達次第では予定を変えなければいけない。どういう生態をしているのかは知らないが、話によると拠点を移動することが有るらしく、行ってみたらゴブリンは引っ越していました。なんてことがないように偵察を出したが、一番の最悪は移動していたうえに見つからない場合だ。
結構な時間と人とお金を使って、なんの成果も得られませんでした、なんてことになったら、スタン家は仕事を失って家格を維持できず、爵位没収からの路上生活、下手したらどっかに売られてしまうかも知れない。
嫌だ嫌すぎる。頼むからゴブリン達そのままいてくれよ。
そんでサクッと全滅されて下さい。お願いします。
そんな願いが届いたのか、事態は動いていたのだった。
「ゴブリンが移動した?それで移動先はわかっているのか?」
「はい。それが街道のそばなんです」
「街道のそば?何でそんな場所に…」
夕方になり野営地で偵察の話を聞いてみた所。
ゴブリン達が最初にいたはずの場所は、今は居なくなっていて、足跡をたどって見たら、街道の直ぐ側の窪地に集合していたらしい。
皆で相談した結果、おそらくゴブリン達は街道で人を襲うことに味をしめ、群れごと移動してきたのだろうと言うことになった。
まぁ実際問題移動した理由は、それほど重要では無かったりする。
街道横の窪地に群れが移動しているため、見失う危険はかなり下がったが、逆にこちらが見つかる可能性が増えてしまった。
作戦をちょっと修正することになり、明日は夜明け前に行動を始める。
ゴブリンは夜と昼によく活動するものの、朝方や夕方にはあまり動かないと、言われているからだ。
朝焼けの中慎重に接近して、挟み撃ちすることに決まったが、窪地と聞いて作戦を少し変えた。
まず全員で接近して窪地の縁付近から、初級魔法が使える者が、窪地に向かって火の玉を連射する。
うまく行けばそれだけで、かなりのゴブリンが焼け死んでくれるだろう。
それでこちらの襲撃に気付いたゴブリンを、窪地の縁で迎え撃つ作戦だ。
元々ゴブリン達が居た森の中では使えなかったが、街道そばの窪地の辺りには、燃え広がるような物が無いそうなので、これが採用された。
現在初級魔法の火の玉が使えるのは、俺を含めて6人居る。俺以外はスタン家から3人と総合ギルドから2人だ。
34人の参加者の中で、6人初級魔法を使えるものが居るというのは、この世界基準で言えば多いほうだそうだ。
総合ギルドもスタン家の兵士も、戦闘が想定されている為、戦力である魔法を使えるものが、ある程度優遇されていても、その程度しか居ない。
全体で見たらもっと少なくなるのだろうけど、これが貴族のみになると、使えないほうが少なくなるらしい。
そもそも貴族のほうが魔力が高いものが生まれやすく、教育にお金をかけることが出来る為だそうだ。
そう言えば俺がスタン家に買われた理由も、魔力が高かったからだが、魔力は魂から出るエネルギーなら、貴族に偏る理由がないと思うが、何か他の理由があるのだろうか?
まぁ今はそんな事を考えていても仕方ない。
早く寝て明日に備えなければいけないな。
ちなみに俺はまだ8歳だから、夜の見張りのローテーションには参加していないので、朝までぐっすりだよ。
朝だ。
とは言え真っ暗なんだけどな。
この世界には時計も有るらしいのだが、とんでもなく高い上に、携帯できるような物ではないらしい、それでも星の動きとか日の動きで、大体の時間を知ることが出来ている。
そんなわけで真っ暗な中でも準備は進んでいく。
食事は夜番が作っていてくれているし、さっさと食べて行動開始だ。
大丈夫。俺は緊張してないよ。ホントだよ。
あーちょっと震えてきたよ。いやこれは武者震いってやつだ。
いやそんな事はいい。
俺は今から、始めて意思を持って生き物を殺す。
前世での倫理観とかそういった物も有るけど、それ以上に生き物を殺すってことはだ、俺も殺される覚悟をしなくちゃいけないってことだ。
前世でも、固茹で卵な人が言っていた。
この世界に生まれて8年。
思い残すことはいっぱいあるし、死にたいとも思わないが、生きるためにここで殺さなければならない。
………
よし行くとしよう。