第14話 子爵家9
俺はニッコリと微笑みながら執事に近づく。
執事は俺を見下ろしてニヤニヤしているだけだから、俺がこれからなにをするか気付いては居ないのだろう。
俺の中でだいたいこの辺かなって所で、執事の手前辺りに全力で右足を踏み込み、その反動を右腕に乗せて一気に突き上げる。
ゴスッ
鈍い音がした後、局部に一撃を入れられた執事が、すごい顔をして顔を下げてきたので、両耳を掴んで軽く引き込み、足にためた力を一気に解放して、ジャンプする。
バキッ
白い目をして仰向けに倒れた執事に、ストンピングを決めつつ、朝からさっきまでのことを思い出してみる。
朝起きて日課の後食事をしたら、すぐに屋敷に向かった。
うまくすればクズに会えるかもしれなかったからだが、そもそも帰ってきていないらしく、会うことは出来なかった。
代わりに出てきた執事が、ボロい革手袋を俺の前に投げてきて。
「当主様はお戻りになられていないし、予算は一切出さない。それでも持ってさっさと行って来い」
ボサが手袋を拾ってくれたのだが、これはこのままにはしておけない。
前世の世界にもあったが、手袋を相手に投げつける行為は、勝負を挑むか決別を表している。
尚武の国のエスト王国で、平民が貴族に喧嘩を売るってことは、それだけで罪なのだが、貴族側は特別な理由がなければ、必ず受けないといけない。いわゆる貴族のプライドってやつだ。
なので、実力行使に出ることにした。
それで最初に戻るのだが、執事を踏みつけつつ考える。
予算をなんとか捻出しないと、エルダー伯爵の命令に逆らうことになってしまうし、ゴブリンをほうっておくことも出来ないから、なんとかしないといけないのだが…
そんな目の前の状況と全く関係ないことを考えていたら、ボサが軽く肩に手をおいてきた。
振り向くとボサが顔を左右に振っている。
?なんだろうと思い前を向くと、明らかに意識のない執事が転がっていた。
「てへ」
ちょっと可愛く言ってみたのだが、ボサはなにも言ってこない。
更に周囲を見渡すも、二人のメイドが地面にしゃがみこんで、こっちを見ているだけだった。
まぁ仕方ないので屋敷のお金を持ち出すとしよう。
「さてと、執事の部屋まで案内してもらえるかな?ボサそれ持ってきてくれる?」
にっこり笑ってメイドに近づいたが、ずりずり後ろに下がるから、スカートを踏みつけつつ、ボサにはそこで白目をむいているゴミをさす。
ボサはちょっと嫌そうな顔をした後、袖を持って引きずることにしたらしい。
「君はこの辺掃除して。お客様に見られたら、子爵家の恥を晒すことになるからしっかりね」
自分で汚したのに、メイドにやらせる。
もしかして俺って暴君?なんて考えつつ、執事の執務室に入ると、目を疑った。
屋敷にはあまり物が置いてないのに、執事の執務室は結構豪華に飾られていたのだ。
「何だこれ?ボサそこのゴミ起こしてもらえる?」
執務室の机に座り、机の上にある書類をざっと見てみたのだが、何故か数字の違う帳簿が二つ有る。
嘘だろ。まさかこれって。と頭を抱えつつ見比べていると、顔をボサに張られていたゴミが、目を覚ましたようで、
「それに触るな!孤児のお前が見ていいものじゃないんだぞ!」
なんて言っている。
ヤバイ。これとか本当に調べていたら、今日が終わってしまうのは間違いないだろう。
取り敢えずはお金だけ出させて、後は帰ってからにするとしよう。
「おいゴミ。金庫はどこだ?それと鍵をよこせ」
「孤児が馬鹿なことを言うな!お前にくれてやる金など、有るわけ無いだろ!」
まだ立場がわかっていないらしい、ボサと一声かけると、意味を理解したのか顔を張り出した。
「や やめ や」なんて声が出ているが、合間にパンという音が入っている。
「わからないやつだな。お前は既に死刑が確定している。不正の証拠がここにあるんだから。痛い思いをしたくないなら、さっさと言えよ」
身分差の有るこの国で、貴族に対して不正行為をすれば、当人だけでなく一家揃って、縛り首だよ。そんな事も知らないのとか言いつつ、精神と肉体に圧力をかけていく。実際そうだしね。
途中色々有ったけど、なんとかお屋敷に有ったお金を手に入れる事ができた。
まだお金の価値とか、どのくらい使うかとかわからないし、後でまた取りに来るとか面倒だから、有るだけ持ってきた。金貨みたいなのが沢山あり、袋に適当に詰めてみたが、すごく重い重すぎる。
流石に無理な気がしたので、ボサに持ってもらい、俺はロープでぐるぐる巻きにした、ゴミを歩かせることにした。
俺は帳簿と関連しそうな書類をまとめて、適当な袋に詰めてから、念の為ボサと一緒に金庫と部屋の鍵を確かめて、屋敷を出ながら掃除をしていたメイドに
「執事は連れて行く。部屋も鍵はしたが絶対に誰も入れないように。誰か入った形跡があったら、屋敷の全ての使用人を処罰するから、そのつもりで居てくれ」
全く。ゴブリン退治に行こうとしたら、罪人の処理から始めなくてはいけないなんて。
8歳児になんて事させる気だ、この世界は。