第13話 子爵家8
夕方になり兵士の皆が帰ってくるまで手入れしていたのだが、胸当てをはまだしも小剣は使えそうにない。8歳児の俺にとって50cm位の小剣は、大きすぎるのである。
現に今も両手で持ってやっとだし、そもそも俺が練習している木刀よりも、20cmも長いし重さは数倍は有るだろう。
使用人や養父の態度に、頭に血が上っていたのかも知れない。
まぁこのなんとなく剣を研ぐということは、俺を冷静にさせるのにはちょうどよかったのかも知れない。
取り敢えずボサに声をかけて、一旦作業をやめて相談に行くとしよう。
「グロス。話は伝わっているだろうか?エルダー伯爵からゴブリンの討伐命令が来た。街道沿いの巣らしいのだが、細かいところがわからないから、教えてもらえるか?」
グロス達から孤児とは言え、子爵家の跡取りになっているのだからと、俺に言葉遣いを改めろと言われて、最近ではこんな感じで話している。
俺はどっちでも良い気もするけど、外で前のような話し方をしていては、俺が舐められるだけでなく、子爵家が侮られてしまうし、回り回って子爵家の兵士まで侮られてしまうから、気をつけなければいけないことだった。
だからこそ屋敷の使用人の態度は、許してはいけないものだったのだが、彼奴等に伝わったのだろうか?まぁ無理だろうな。明日の態度次第では、しつけが必要かもしれない。
俺も子爵家の跡取りになって、ちょっと物騒な感じに考え方が変わったのだろうか?
大抵のこういった異世界物では、結構フレンドリーな感じで話すものだけど、言われてみれば身分が有る中で、フレンドリーに話していては、間違って外で話してしまったり、雰囲気から他人に悟られたりしそうで、怖すぎるのだが?
とは言え、しつけとか考える様になるなんて、染まってきたのだろうか?
そう言えば前世で似たような実験が有ったな。
生徒を看守と受刑者に指名して、擬似的に刑務所を作り出した結果、それに沿った精神構造に変わっていったというものだが、場が人をつくるというか、朱に交わればというか…
一応気をつけて生活していこう。
俺は本当の子爵家の人間じゃないし、いつ捨てられるかわからない立場だ。
そんな事を考えていたら、話はどんどん進んでいた。
わかったことは色々有るのだが、やはり見ると聞くは大違いと言うか、まずゴブリンは確かに棒を持った子供でも倒せる程度だが、集団になるとおそれを知らないように振る舞い、時には街が攻め落されることもあるらしい。
前世でもグンタイアリとか、一体一体はそこまで強くないけど、群れれば蛇でも倒せてたし、それが大きくなったと思えば、かなりやばいのは分かる。
次に街道沿いのゴブリンの巣なのだが、既に数10匹はいるようで、しかもゴブリンは異常に繁殖力が高く、ほうっておくと爆発的に増えるそうだ。
だから討伐は急がなければならないらしいのだが、場所がここから二日ほど離れた所らしい。
明日の朝に屋敷に行って予算と装備を受け取ってから、マーブル先生のところに行って、それから皆で移動すれば明々後日には着けるだろうか?
とにかく予算をもらわないことには、糧食の準備も出来ないかも知れない。
場合によっては子爵家の名前で、ちょっと強引に糧食を買ってから、討伐に行くのだが、今度は人数の問題が出てきた。
流石に全員で向かうことは出来ない。普段行っている街道警備も有るからなんだが、それでも半分の15人程で行くことにはなるだろう。
そうすると問題になるのが、こちらの被害になる。
通常ゴブリンの巣を潰すなら、もっと人数を用意して、確実に潰すそうなのだが、人数が揃えられないのは痛い。
「無いものはどうしようもない。人数も物資も嘆いたら出てくるわけではないし、取り敢えず明日予算の確認をするから、それで判断しよう。うまく予算を貰えたら、そのお金で臨時に雇っても良いだろう」
こうしてすべての準備は明日にすることにした。
人これを先延ばしという。
だって仕方ないだろう。無いものは無いのだから。
ちなみに武器に関してはグロスのお古のナイフが、ちょうどよい感じの大きさだったので、貰うことにした。代わりにさっきまで研いでいた小剣をあげたよ。
胸当ては取り敢えず綺麗になったし、ベルトでサイズ調整も出来たから、取り敢えずは形になったかな?出来れば手袋が欲しいところかな?
しかし子爵家の跡取りの装備が、部下のお古のナイフと、倉庫にあったお古の胸当てだけとか、悲しすぎて涙も出ないよ。